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羽田空港が“世界一清潔な空港”であり続ける理由 ベテラン清掃員・新津春子さん「モノと人へのやさしさと、ちょっとの工夫で仕事は楽しくなる」

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イギリスの「SKYTRAX社」が毎年発表しているランキングによると、羽田空港は世界にある550以上の空港のなかで、“最も清潔な空港”だそう。しかも、2013年・2014年・2016年・2017年と、たった5年間で4回もの頂点を経験している。

 

年間8000万人以上が利用する羽田空港が、世界一清潔であり続けるのはなぜか? その理由を探ると、ある一人の女性の活躍にたどり着く。羽田空港清掃員の新津春子(にいつ・はるこ)さんだ。社内に在籍する約700人の清掃員を束ねるリーダーを務めながら、書籍の出版や講演・メディアの出演など、清掃を軸に幅広く活動している。

 

中国残留日本人孤児2世として17歳で来日し、清掃のアルバイトに出会ったという新津さん。はじめは「生きるため」に働いていたものの、27歳で出場した全国ビルクリーニング技能競技会での優勝をきっかけに、清掃の仕事にやりがいと楽しさを見出したという。そして、今もなお熱意は冷めることなく日々楽しみながら働いているのだそうだ。

 

決してラクではない清掃の仕事を、なぜ新津さんは47歳となった今でも楽しく続けられているのだろうか。仕事を楽しむための秘訣はいったい何なのか、詳しくお話を伺ってみた。

 

興味のきっかけは小さなところにある

 

――清掃のお仕事に携わり始めて30年とお伺いしました。今はどんな仕事をされていますか?

 

メディアに出始めてから、現場で清掃することはほとんどなくなりましたね。今は後輩の指導にあたっています。そのときに、一緒に現場に出ることもありますよ。また社外向けには講演会に登壇するため、国内と海外を回っています。昨年は台湾に行ってきました。月曜日から水曜日までは指導日、木曜日から週末は移動と講演会などに当てています。あとは、合間を見て、本の出版に関する業務をしています。

 

――とてもハードですね。毎日、大変ではありませんか?

 

いえいえ、全然大変じゃないです! 好きでしている仕事ですし、楽しんでいるので。

 

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――仕事が楽しいと感じたのは、本や講演会でも説明されているように、全国ビルクリーニング技能競技会がきっかけなんですよね。

 

そうです。最初は生きていくためのお金がほしくて大会に出場したのですが、当時の上司に、当時の自分には「やさしさ」が不足していたことを教えてもらいました。当時、私は仕事をする上で、自分のタスクさえ終わらせていけば、それで問題がないと思っていたんです。でも、仕事はどうしても誰かと一緒に行動する必要があるんですよね。一人で全てを完璧にこなすのは難しい上に、人って頭のレベルも体力もそれぞれで違うから、お互いに苦手な部分を補って協力しなければいけません。

 

そのように、自分自身のことだけでなく、周りが見えるようになってから、仕事の楽しさというのを実感するようになりましたね。

 

――現在、講演会や本を出版されているのも、清掃のお仕事と同じように楽しみながら取り組んでいるんですね。

 

最近はテレビや雑誌の方と一緒に、メディアを通して清掃の工夫やおもしろさを発信しています。仕事で培った清掃の工夫を、より多くの方に伝えていくため、本もどんどん出版しています。

 

――なるほど。いろいろな方にご自身の考えを伝えていくためのひとつの手段として、出版が位置づけられているのですね。しかし、清掃って決してラクなものではないと思うんです。新津さんがその楽しさを伝えようとするとき、工夫していることはありますか?

 

マニュアル化しすぎないよう気をつけています。「みなさん、こうすればいいんですよ」と、画一化しすぎると、家庭の規模や大きさ・汚れによっては活用できなくなってしまうので。できる限り、それぞれの事情に合った清掃を教えられるよう意識しています。

 

また、清掃が大好きな方であれば、細かく清掃の方法を説明したほうが楽しく読めますよね。だけど、清掃嫌いな方にまで同様の説明をしてしまったら、読むのが嫌になってしまうはず。だから、嫌いな方には「まずはここからやってみましょう」と、興味が出てくるような説明を意識しています。これは後輩への指導と同じですね。

 

――最初から全部を網羅するのではなく、小さな興味があるところから始めていくのですね。

 

そう。仕事でもなんでも、取り組むうちに徐々に好きになっていくものではないでしょうか。小さいことから少しずつ経験を積んで、そのうちにやっと「ああ、この仕事は、もしかしたら私に向いているんじゃないかな。もうちょっと深くやってみよう」と思って、いつの間にかハマっちゃう関係がベストですね。

 

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モノと人……すべてに“やさしさ”を持つこと

 

――著作では、上司から「“やさしさ”を大切にするよう教えていただいた」と説明されていました。この言葉は、新津さんにどのような変化をもたらしたのでしょうか。

 

たとえば、同僚や後輩が苦労していると思ったら「もうちょっとこうしてやればラクになるよ」、逆に私が苦労していたら「新津さん、こんな風にしたらいいですよ」と教え合うこと。これってお互いがラクになりますよね。生きていく上で、人に対するやさしさや思いやりは欠かせないと思っています。

 

――気遣いが「人のため」だけではなく、自分の仕事のためにもなる、と。

 

そうですね。社内の人だけではなくお客様、さらに言えば、思いやりは人だけではなく、モノに対しても必要です。

 

たとえきれいにしても、使う人が誰もいなかったら、清掃をする意味がないですよね。だから、まずは使う“人”のことを考えます。いつもみんながどこに触っているのかによって、清掃の手順を変えていく。背の低い方や子どもならきっと脚の低い部分を触るのだろうし、年配の方ならテーブルに体重をかけて座るかもしれない。ものがある場所の環境や使う人によって汚れも変わるからこそ、どう清掃をするのかが大事です。

 

(目の前にあったテーブルを指差して)このテーブルを清掃するとなったら、どういう素材で、汚れがどのように付いていて、どの洗剤を使うべきで、水拭きは何回すればいいのか、そういったたくさんのことを考えます。これはモノを考えてのことですね。

 

観察し、想定し、それをもとに限られた時間の中で実行に移す。これこそが優しさなんだと思っています。

 

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――素材への優しさはもちろん、使う人たちの行動やシチュエーションまで考えられているのですね。

 

特に、清掃は量が多いのにかけられる時間が短い仕事なので、いかに工夫して作業するかが大切です。清掃って、「きれい」か「汚い」か、結果が白黒はっきりつくじゃないですか。これはあらゆる仕事にも当てはまるのかもしれませんね。

 

相談と創意工夫で、仕事はきっと楽しくなる

 

――仕事に対して、どのようにモチベーションを保っていますか?

 

仕事を楽しく続けるコツは、どちらかといえば環境ではなく、自分の心の問題だと思います。仕事が好きか嫌いかなんて、入社するときは考えないじゃないですか。生きていくのにお金が必要だったり、なんとなく求人情報を見て「ちょっと応募してみようかな」くらいの気持ちだったり。興味があるから第一歩を踏み出しているので、この気持ちを忘れないことが一番大事ではないでしょうか。

 

あとは、会社に入ってすぐ「この仕事は合わない」と言って辞めない方がいいですよ。だって、入社して数日では何が合わないのか、大体みんな答えられないですから(笑)。

 

――何が合わないのかをわかっていない、そもそも合う・合わないかの判断ができていない場合もありますよね。

 

「この人がいるから辞めます」「毎日こんな量の仕事をするのは辛いので辞めます」「トイレの仕事ばかりだから、外での仕事もしたい」みたいな理由が多いですね。さらに言えば、その辞める理由って、辞める時になって初めて言う人が多いんですよ。

 

もちろん、人それぞれ事情はあるけれど、多くの場合は他人に相談できれば、変えられることもあると思うんです。現状はその人とソリが合わないかもしれないけれど、上司と合わないなら「なんで直接相手と話したり、周りに相談したりしないの?」と私は思いますね。伝えることで変わることって、絶対にあるはずです。どうしたらいいのか方法を教えてもらったり、どうにもならないなら上司がなんとかしてくれることもあったりするはずです。「あの人が悪い」じゃなくて、同じくらい「自分も悪い」ケースもあるはずです。楽しくないなら、そうやって自分から行動に移すべきではないでしょうか。

 

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――自分自身で結論を出すのではなく、必ず誰かに相談することが大切なのですね。

 

それに、「大変だから辞めます」って、それはまだ仕事を覚えていないからですよね。本人は気がついてないけれど、慣れていないうちは仕事中に余分な力が入るもの。人間って、誰かと会うのは結構緊張するじゃないですか。身体がたとえ疲れていなくても、心が疲れちゃうんです。

 

だけど、初日、2日目、3日目……と振り返ってみると、絶対に成長しているはずなんです。「ここでもう一歩頑張ろう」って思えば、いずれ慣れて工夫ができるようになる。そうすれば、今よりずっとラクになります。それなのに、あと一歩でみんな諦めてしまうから……もったいない!

 

最初に応募したときの「なんとなくやってみよう」という気持ちを、大事にしてほしいですね。その求人に、何か引かれるものを感じてみんな応募するわけですから。

 

――新しいことにチャレンジする場合は、諦めずに粘ってみることも大切だ、と。最後に、新津さんご自身が抱いているこれから先の夢やチャレンジしたいことを教えてください。

 

みんなで工夫しながら楽しく掃除をしていくことが、私の夢なんです。日本人は他国と比べて、こまめな人が多いですね。素敵なことなので、日本人の精神を世界に伝えていきたいと思っているし、それが私のやるべき仕事だとも思っています。

 

 

(文・取材:鈴木しの 編集:ノオト 撮影:藤原葉子)

 

 

取材協力:新津春子さん

 

1970年、中国・瀋陽生まれ。17歳で来日、高校に通いながら清掃の仕事に従事する。日本空港テクノ株式会社に入社後、全国ビルクリーニング技能競技会で最年少優勝。羽田空港の清掃を中心に手がけ、同空港が2013年、2014年、2016年、2017年と世界一清潔な空港」に選出された功労者のひとりとして活躍。2015年4月からは「環境マイスター」として、技術指導や知識伝達を中心とし、後輩の育成にあたる。

 

 

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