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  • 仕事が楽しくなれば、人生が豊かになる。

「会社が始まる前であれば、どこからも、誰からも自由でいられる」 エクストリーム出社協会代表天谷窓大さん

インタビュー エクストリーム出社

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「出社」という言葉にいいイメージを持つビジネスパーソンは、そうはいないだろう。寝不足、満員電車、面倒な朝礼、そして今日もいつもと同じような日常が始まる……。そんな繰り返しではモチベーションも停滞しがちになり、人生を退屈に感じてしまうかもしれない。

 

そんな社会に反旗を翻すような取り組みをしている人々がいる。『エクストリーム出社』は、その定義によれば、“早朝から観光、海水浴、登山などのアクティビティをこなしたのち、定刻までに出社するエクストリームスポーツ”だ。

 

参考:エクストリーム出社 競技概要

 

エクストリーム出社は2013年、早朝に鎌倉観光と海水浴をする企画がネットで話題になり、マスメディアにも取り上げられたことで大ブームになった。現在もハリウッド映画『X-ミッション』のプロモーションに“エクストリーム試写会”として取り入れられるなど、一般的な知名度もかなり上がっているように思われる。

 

参考:出社までにどれだけ遊べるか?エクストリーム出社(鎌倉・観光・海水浴編)

参考:映画『X-ミッション』とコラボレーション!朝6:30スタートのエクストリーム試写会を開催しました!

 

その発案者の一人であり、エクストリーム出社関連イベントやツアーを主催しているのが、株式会社タノシナルの天谷窓大さんだ。天谷さんはかつて上司のパワハラによるストレスから出社拒否になりかけ、それがエクストリーム出社を考案するきっかけになったという。

 

エクストリーム出社に取り組むことで、何がどう変わったのだろうか? 社会の生きにくさを解消するために必要なことは何か? 目の前にある問題をアイデアとユーモアによって見事に回避してみせた天谷さんに、インタビューを試みた。

 

 

「満員電車の中で、ホタテを抱きしめて運んでいる自分」がおもしろい

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――これまでさまざまなエクストリーム出社に取り組まれてきたかと思いますが、一番のお気に入りのエクストリーム出社って、何ですか?

 

えーっとですね……(しばらく考えて)、朝バーベキューをしてから出社したんですけど。

 

――朝バーベキュー……ちょっと脳が追い着かないです(笑)。

 

仕事がかなり大変な時期だったんですが、どうしてもバーベキューに行きたくなって。しかもその日は、たしか10時から取引先との打ち合わせがあったんです。

 

――現実逃避をしたい気持ちはわかるのですが、遊ぶ余裕はありませんよね。

 

そう、でもどうしてもバーベキューをしたくなってしまって。忙しいけどバーベキューがしたいな、1時間くらいしか余裕はないけどバーベキューがしたいな……。じゃあ1時間でBBQしちゃえ、と。

 

――なるほど(笑)。いや、でもこの発想、普通はしないですよね。一見順当なんだけど、考えつかない。どうしてでしょうか。

 

これは何にでも言えますが、みんなが「何かをしない」っていう選択をするのは、失敗したくないからだと思うんです。だから、無理そうなことはそもそも考えつかない。

 

――意図せずブレーキをかけていることって、日頃からいろいろありそうです。

 

僕は何をするにしても、頭に「コント!」ってつければ全部コントになると思っているんです。「コント、1時間でBBQ!」って言えば、みんなでワーワー言いながら準備していることも、全部コントとして楽しめるじゃないですか。こうすれば失敗を恐れずに、どんなことにもチャレンジできるんです。

 

――これはいいライフハックです(笑)。お話を聞いて、非常に再現性があるというか、誰にでもできるというか、エクストリーム出社が流行る理由がわかった気がします。

 

エクストリーム出社って、変なことをしてただ見せびらかすものではなくて、料理のレシピみたいなものなんです。みんながエクストリーム出社をする度に、エクストリーム出社のレシピが集まって、その中から、「じゃあ自分はこのプランでやってみよう」と選ぶような、いい循環になったのではないでしょうか。

 

――ちなみに、バーベキューはどんなプランでしたか?

 

まず、始発で築地に行きまして。

 

――続けてください。

 

出社前にホタテを買いました。

 

――もうすでにおかしいです(笑)。BBQはどこでしたんですか。

 

荒川の土手ですね。築地から東京、上野と移動して、そこから赤羽に。通勤ラッシュの満員電車の中でホタテを抱きしめて運んでいるんですけど、それがもうおもしろくて。みんなまじめに働きに行くのに、おれはホタテを持って乗ってるんだぜ、と興奮していました(笑)。

 

――社会への小さな反抗ですよね。

 

はい(笑)。赤羽には都のバーベキュー場があって、そこにかまどが置いてあるんです。着いた順で早朝から利用できるというか、まあ、本当にただ単に置いてあるだけなんですけど、自由にバーベキューができる。
僕が食材を調達して、みんなは朝7時に荒川に集合して。火を付けるところから撤収まで1時間しかないので、なんだか軍隊の演習みたいでした。「焼きそば部隊はどうした!」とか言って。

 

――林間学校を思い出しました(笑)。他にお気に入りのプランはありますか?

 

隅田川にボートを浮かべて、ボートで通勤というのもやりました。

 

――濡れませんか。

 

そんなには。みんなスーツの上からライフジャケットを着て。

 

――避難訓練みたいだ。そんなこと可能なものなんでしょうか。

 

増水かな、って感じですよね。隅田川でクルージングツアーを行っていた団体に協力してもらい、安全に注意を払ってやりました。

 

――そのあたりは、抜かりなく。

 

はい。エクストリーム出社だからといって、誰かが被害に遭ったり周囲に迷惑をかけたりするのはナシにしよう、というルールがあります。
あとは、温泉から出社というのもよかったです。箱根湯本に前泊して、朝は24時間営業のスパに入浴して、小田原駅で駅弁を購入して、グリーン車で出社。

 

――わー、いいですね、それ!

 

「これ、ぜんぜん日曜日じゃん」と思って。

 

――エクストリーム出社には、「日曜日」感がありますよね。日曜日というのは、活動をされる上でのキーワードでしょうか。

 

どうだろう。平日と対比した休日としての「日曜日」というイメージです。平日の朝って、会社に行くことくらいしか考えていないじゃないですか。そこに突然休日の時間を出現させてしまう。誰にも気づかれずに休暇を取っている感じです。

 

 

エクストリーム出社の動機は「いかに遠回りして会社に行くか」

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――ひとつ質問したいのですが。

 

はい、何でしょう。

 

――眠くなりませんか。

 

なりますよ(笑)。

 

――それはそうですよね、よかった。

 

エクストリーム出社があちこちで取り上げてもらえるようになった時期に、朝活の1カテゴリーみたいな位置付けで真面目に取材してもらったこともありますが、「それで仕事にどんな効果がありますか」とか聞かれるんですよ。
せっかく取材してもらっているからその場では「ないです」とも言えなかったのですが、エクストリーム出社というのはさっき言ったようにコントなので、コントに効果を求められても困るんですよね(笑)。

 

――エクストリーム出社は、意識高い系の行為ではないイメージがあります。

 

朝活って意識が高いというか、意識が高いことがアイデンティティになってしまいがちな気がして、モヤモヤするんです。意識が高いことが好きなんじゃなくて、意識が高いことをしている自分を好きになってしまいそう、というか。
エクストリーム出社は、一見朝活と同じようなことをしているんだけど、むしろ周りの人にはバカなことをしていると思われていて、自分だけがそこに没頭しているのが特徴です。目的も別に成長とかじゃなくて、いつも通りの場所にコッソリ戻るだけですから。

 

――「エクストリーム出社」という言葉もすっかり定着した印象です。

 

フェスやライブなどで遠征して、翌日出社するビジネスパーソンが「エクストリーム出社」「エクストリーム出社勢」なんて言われているのを見かけると、「ああ、普及したんだな」と思います。
あとは、たまたまコンビニのマンガコーナーで手に取った『ふたりエッチ』に「エクストリーム出社」が取り上げられていて、そのときはビックリしましたね。こんなことあるんだ、と。

 

――(笑)。現在は、天谷さんが所属している会社で、エクストリーム出社の事業部を立ち上げたということになるのでしょうか。

 

そういうことになります。

 

――まさに趣味を仕事に、ですね。よく事業化できましたね。

 

それはもう、運がいいというか、社長の懐が深いというか。もともとテレビの番組を制作したり、イベントを企画・運営したりしている会社なので、エクストリーム出社と相性がよかったのはあります。

 

――今の会社には企画職として入社されたんですか?

 

いえ、もともとは社内のシステムエンジニアとして、2013年に入社しました。2013年の夏頃にエクストリーム出社がブームになって、それからですね、個人でやっていただけの活動が仕事になったのは。
ずっと会社に黙っていたんですが、『AERA』に取り上げていただいたときに、うちの社長の目に止まって「これはキミじゃないか」と言われて。そこでおもしろがられて、事業につながっていったという順番です。

 

――これまでのキャリアについて聞かせてください。ずっとエンジニアをされていたのですか?

 

はい、現職は二社目で、新卒のときは当時に人気があったソーシャルネットワークサービス(SNS)を制作する会社に入社して。でも、そこがしんどかったんですよね。
直属の上司が言葉をあんまり選べない人で、とにかく穴を見つけて叩くようなタイプだったんです。いま思えばその上司も若くて、厳しくすることの意味がわかっていなかったのでしょうね。出社したらまずダメ出しが始まって、「こんなクソみたいなコードよく書けますね」って平気で言われる環境でした。

 

――想像しただけでしんどいです。エクストリーム出社をはじめたのは、その影響というか、反動からなのでしょうか。

 

それはあります。「怒られている自分」っていうのを切り離したかったんですよね。SNSで別のアカウントを作るみたいに、そこの中でだけは怒られない、怒られている自分とは関係ない自分を生きたかった。
だからそもそも、エクストリーム出社はいかに遠回りして会社に行くかっていうのが動機です。会社が始まっちゃえば会社の人になってしまうけど、会社が始まる前であればどこからも自由でいられる。自由でいられる時間や体感をもう少しだけ長く持っていたい。そんな気持ちです。

 

――そこがスタートだったんですね。

 

エクストリーム出社を思いつくまでは、正攻法で問題を解決しようとしていました。例えば、ウェブサービスを開発すれば自分も一国一城の主になれて、自分らしくいられるんじゃないか、とか。でも、実際にやってみると技術が追いつかなくて形にできなくて、結局は諦めてしまいました。
「どうにかして脱出したい」「今までと違う自分になりたい」と、ずっともがいていて。上司だけじゃなくて自分まで自分を否定しそうになったときに、このままでは自分を保てないぞ、と。それでエクストリーム出社を始めたんです。

 

――防衛本能みたいな?

 

ここの部分は誰にも触らせたくないっていう部分を、どこかに取り出しておきたかったのだと思います。

 

 

順番や組み合わせを変えるだけで、日常はコンテンツになる

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――エクストリーム出社のプランは、どうすれば思いつくのでしょうか。突拍子もないプランを連発する天谷さんの頭の中が知りたいです。

 

僕は子どものころ友だちが少なくて、家でひとりでテレビばっかり観ていたんです。どうしたら自分もおもしろがってもらえるのかと悩んでいた当時、テレビのバラエティ全盛の時期で、芸人さんのロケ企画がよく放送されていました。
その頃よくあったギャグで、「スキーのゲレンデに温泉のセットを用意して、入浴したら風呂の底が抜けるようになっていて、何も知らずに入った芸人さんが素っ裸でそのままゲレンデに放り出される」っていうのがあって。温泉もゲレンデもすでにあるものなのに、置く場所を変えるだけでおもしろい仕掛けになる。これがとても新鮮でした。

 

――大人がするような、企画の基本じゃないですか、それ。子どもの頃に気づいたというか、原体験になっているのですね。

 

順番や組み合わせを変えるだけでおもしろいというのは発見でしたね。当時、コンテンツという言葉は知らなかったのですが、コンテンツになるというか。普段何気なく過ごしている場所で普段と違うことをしたり、普段と違う場所でいつもと同じことをしたりするとギャグになる。この感覚を自然につかみました。

 

――企画の勉強になります。とはいえ、最初はなかなか難しいと思うので、初心者向けのエクストリーム出社プランがあれば、ぜひ教えてください。

 

どこがいいかな、やっぱり市場がおもしろいかな。

 

――築地でしょうか。

 

築地もいいですが、築地以外にもいい市場があるんですよ。例えば、平和島に大田市場っていう築地よりもっと大きな市場があります。築地だと一般人が立ち入りできる範囲に制限がありますが、大田市場は全部オープンで、セリも事前予約なしですぐ見学できる。しかも1日に4回くらいセリをしているんです。

 

――詳し過ぎます(笑)。

 

「東京 朝から」みたいな検索ワードでいつもググってますから(笑)。あとは、首都圏向けになっちゃうんですけど、空港ですね。この前は、出発ゲートまで行って、空弁を買って、出発ロビーに佇んで、NHKニュースを見ていました。そうすると、自分が出張に行くようないい気分になって。
買った空弁は展望台で、飛び立つ飛行機を眺めながら食べるんです。空港のレストランで、スーツケースを持ったビジネスマンに混じって、スクランブルエッグを食べるのもいいですね。このバターいっぱいのスクランブルエッグって、自分では作れないんだよなーって思う。それから出社です(笑)。

 

――このあたりは取り入れやすそうです。

 

朝ピクニックもおもしろかったですよ。

 

――代々木公園?

 

はい。代々木公園の朝7時なんて、誰もいないんですよ。

 

――あ、なんとなくそこからは予想がつくような……(笑)。

 

はい(笑)。そこにでっかいファミリーサイズのブルーシートを広げて、ノンアルコールのビールと、自分で用意したお惣菜とか食べたいもの全部持って行って、ひとりで酒盛りみたいにして。シートの右から左をゴロゴロ転げ回って、もう「うわー!」って声も出して(笑)。

 

――それ、出社前ですよね。強烈にうらやましいです。

 

これはいいエクストリーム出社ですよ。おすすめです。
仕事で嫌な思いをしたとしても、こういうちょっとした工夫で出社が楽しくなればいいなと思います。日常をちょっと変えてみるだけで、もっと生きやすくなるということを、知ってほしいですね。

 

(朽木誠一郎/ノオト)

 

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天谷窓大さん

1983年生まれ。テレビ番組の制作会社・株式会社タノシナルに勤務する傍ら、日本エクストリーム出社協会代表を務める。過去に勤めていた会社で、ストレスから出社拒否のような状態になり、会社と逆方向の電車に乗るなどしてエクストリーム出社の原型を生み出す。「エクストリーム出社」のネーミングを考案。著書に『サラリーマンは早朝旅行をしよう! 平日朝からとことん遊ぶ「エクストリーム出社」』(SB新書)がある。