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バッタを倒しにアフリカへ! バッタ博士が教えてくれた「好きなもので生きていく」ヒント

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「好きなことで生きていく」――近年ではそんな働き方に憧れる人も多くいるだろう。しかし、それを実現するためには、乗り越えなければいけないハードルがあるのも現実だ。

 

著書『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)が発売から3カ月経たずして9万部となり、その破天荒なバッタ研究で注目を集める前野ウルド浩太郎さん。フィールドワークで向かったのは、西アフリカのモーリタニア・イスラム共和国である。宗教や言語、文化の壁、そして無収入の苦境を乗り越え、砂漠で研究を続けてきた。

 

ファーブル昆虫記を夢中になって読んだ少年時代の思いを大切に育て、昆虫学者の道へ進んだというバッタ博士の話から、好きなもので生きていくヒントを探った。

 

好きな研究を続けるために必要なのは「広報」の視点

 

 “バッタの群れは海岸沿いを飛翔し続けていた。夕方、日の光に赤みが増した頃、風向きが変わり、大群が進路を変え、低空飛行で真正面から我々に向かって飛んできた。大群の渦の中に車もろとも巻き込まれる。翅音は悲鳴のように重苦しく大気を振るわせ、耳元を不気味な轟音がかすめていく。

 

このときを待っていた。

 

群れの暴走を食い止めるため、今こそ秘密兵器を繰り出すときだ。さっそうと作業着を脱ぎ捨て、緑色の全身タイツに着替え、大群の前に躍り出る。

「さぁ、むさぼり喰うがよい」”(『バッタを倒しにアフリカへ』p.345)

 

 

――「バッタに食べられるのが夢だ」というのが伝わってくる、バッタへの狂信的な愛にあふれた本でした。アフリカであやうく地雷の埋まった場所に足を踏み入れそうになったり、夜中に砂漠の真ん中で迷子になったりと、実際かなり危険な生活だったと思いますが……。

 

好きなお酒も自由に飲めないイスラム圏で、片言のフランス語を駆使して研究を進めるのは普通に大変ですよ。フィールドワークは砂漠で野宿ですし。だけど、野生のバッタがいるフィールドで研究者としてのパフォーマンスを発揮できるのは、苦労を上回る喜びです。バッタの研究をしながら飯が食える。そんなわがままを許してもらえるなら、多少の不便は当然だと思っています。

 

――前野さんのように好きなもので食べていくには、どんなことが必要になると思いますか?

 

私のやり方は極端なのでさておき、現代の研究者には「広報」の視点と発想が求められると考えています。研究者に限らず、好きなことを仕事にしようと思ったら、その環境を与えてくれる機関や大学、企業など何かしらのスポンサーが不可欠ですよね。私も、京都大学の若手研究者育成制度「白眉プロジェクト」に合格することで、研究者の道に進むことができたので。

 

アフリカ滞在中、日本学術振興会海外特別研究員制度の任期の2年が過ぎ、無収入になったこともありました。サバクトビバッタが大発生して農作物に甚大な被害をもたらしていても、それはアフリカでの話。日本人にとってはあまりに遠すぎる話です。バッタ研究者を必要とする空気が日本で生まれなければ、いつまで経っても私のような研究者は必要とされないわけです。だったら、研究者自身が知名度を上げて、それからバッタの話題を知ってもらい、その上で、バッタ研究者の重要性を理解してもらえばいいじゃないかと考えました。このように、自分が好きなもの、研究したいことを続けるには、研究成果に加えて取り組んでいる研究課題の重要性を広く伝える技術が肝になってくると考えています。

 

――その考えが今回の本の出版や、モーリタニアの民族衣装で登場して話題になったニコニコ動画のトークショーなど、メディアへの露出につながっているのですね。バッタ博士「前野ウルド浩太郎」としてブレイクして、「昆虫学者になる夢は叶った」と言っていいでしょうか。

 

いえいえ。今の肩書は国際農林水産業研究センターの「任期付研究員」です。ここで5年の間に成果を挙げなければ、また路頭に迷ってしまいます(笑)。論文を発表し続け、サバクトビバッタの防除に結びつく成果が認められたら、任期なしのパーマネントな雇用になります。私としては、そうなって初めて昆虫学者を名乗れると考えています。

 

――博士号の取得=昆虫学者ではないんですね。

 

大学院の修士・博士課程での研究成果をまとめた論文が受理され、博士号は取得できています。ただ、それだけでは食っていけないわけです。博士号を取得した研究者は、就職が決まるまではいわゆる「ポスドク(博士研究員)」として食いつなぎます。その間に新発見を論文として発表できなければ、職業・昆虫学者にはなれません。

 

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実験室からフィールドに向かえば新たな発見はある

 

――前野さんはサバクトビバッタに絞って研究を続けられていますよね。昆虫の研究方法は人それぞれアプローチがかなり違うのでしょうか?

 

私のように一つの虫に絞ったり、あるいはいろいろな虫を取り上げて幅広く研究をしたりと、いろんな方法がありますね。大学の研究職であれば、学生にいろいろなテーマを与えなければいけないので、色んな虫を研究している人のほうが有利な場合もあります。私の場合は、大学院の研究室で出会ったサバクトビバッタに絞って研究してきましたが、行動や形態など様々なテーマを扱って研究してきました。

 

――サバクトビバッタが本格的に研究され始めてから1世紀近くが経ち、論文も1万本以上が発表されていると聞きました。後発の若手研究者には、もう研究の余地が残されていないのでは?

 

確かに論文は多いのですが、そのほとんどは実験室で行われているものです。私がモーリタニアでフィールドワークに出たその日の夜、これまで誰も論文で報告していなかった行動をバッタがしているのに気づきました。その後も調査を重ね、「野外には、新発見ができる余地は十分にあるんだ」と、野外の観察を始めて確かな手応えを得ることができましたね。

 

ハイテク機器を使わず、100年以上前に生きていたファーブルと同じような実験手法を使っても、いくらでも新しい発見ができます。「こんな原始的な手法で生態が解明できるのか!!」と、世界の研究者たちを唖然とさせるのは痛快じゃないですか。それが人類の発展にも役立つのなら、これほどうれしいことはありません。

 

――前野さんの今後の目標を教えてください。

 

本の執筆などで注目を集めることができましたが、やはり研究者の本分は論文発表です。年に3~5カ月ほどはモーリタニアでフィールドワークを続けながら、論文として成果をアウトプットしていきます。

 

しかし、論文を発表するだけで終わってはもったいない。得られた成果をどう還元するか。つまり、バッタをいかにして効率よく退治するかを現場に普及させなければいけません。やはり、私は現場に重きを置きたいです。研究テーマは、あと30年以上続けられるほどたっぷり見つかっています。研究成果を確実にバッタの防除に結びつける。モーリタニアから西アフリカ、そしてアフリカ全域に普及させる……遠大な目標ですが、その一歩は確実に踏み出せています。

 

――最後に、前野さんご自身のこれまでの体験を踏まえて、好きなもので仕事をしていくか迷っているビジネスパーソンにアドバイスをいただけますか?

 

私に昆虫学者としての資質、実力があるのかは、まだ目指している途上なのでまったく分かりません。しかし、これまでの経験から志を持って一つのジャンルに絞っていけば、活路が見えやすくなる。そんな確信があります。私は入学試験では京都大学に入れないと思っていましたが、サバクトビバッタという珍しい研究テーマを評価されることで、京都大学の助教として採用されました。好きなもので食べていきたいなら、一つの方法がダメでもあきらめる必要はありません。どんな道を通ってもいい。私はそう思っています。

 

 

取材協力:前野ウルド浩太郎

 

1980年秋田県生まれ。昆虫学者(通称:バッタ博士)。国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター研究員。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(農学)。京都大学白眉センター特定助教を経て現職。アフリカで大発生し、農作物に被害を与えるサバクトビバッタの防除技術の開発に従事。モーリタニア国立サバクトビバッタ研究所での研究活動の成果が認められ、所長に現地のミドルネーム「ウルド(~の子孫の意)」を授かった。著書に『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)など。

 

 

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