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イベント学研究の第一人者・岡星竜美教授に聞く、イベントプロデューサーの資質

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数十万人を動員する花火大会や夏フェスから近所の町内会のお祭りまで、日本では大小さまざまなイベントが日々開かれている。大規模なイベントともなれば、音響や照明、警備、会計、当日のボランティアスタッフなど大人数が携わり、その特別な時間や空間をつくることになるだろう。そんな大所帯を取り仕切るのがイベントプロデューサーだ。

 

統率力を必要とするポジションなのは容易に想像できるが、実際にはどんな仕事なのだろうか。イベント業界に入るなら、どんなスキルや心構えが必要になのか。これまで官公庁のイベントや2002年の国際的サッカーイベントのパブリックビューイングなど、幅広いジャンルで大規模イベントを手掛けてきた岡星竜美さんに話を聞いてみた。

 

スタンバイの「スタンバイ」を用意して、失敗を回避

 

――岡星さんは現在、日本初のイベントの学科、東京富士大学イベントプロデュース学科で教鞭を取られています。これまでの経歴を教えてください。

 

キャリアのスタートは編集プロダクションです。雑誌やポスター制作に携わり、取材から編集、撮影、デザインまで、さまざまな業務を行ってきました。

 

――そのキャリアから、どうしてイベントプロデューサーの道を選ばれたのでしょう?

 

編集プロダクションで仕事をしていると、イベントの取材に行くことがよくありました。その取材をしているうちに、リアルな現場がおもしろいと思うようになり、紙というフレームを超えた仕事をしたくなって。そこから、電通映画社(現・電通テック)のイベント部署に転職しました。

 

――そこで、一気にイベントの世界に飛び込まれたわけですね。

 

はい、実は入社3日目にいきなり東京都のイベントの仕事を任されてしまって……。本当に何にもわかっていないままでしたけどね(苦笑)。前職では20人くらいのイベント運営をした経験はありましたが、急に規模が大きくなってマニュアルづくりも何にも知らない状態だったので本当に大変でした。ただ、そのときの経験があったからこそ、学生にイベント業界の厳しさや難しさを教える際に役立っています。

 

――イベントプロデューサーというとなんとなくイメージはできるのですが、具体的にはどんなお仕事をされるのでしょうか。

 

学生にも言っているのですが、業界に入っても急にプロデューサーになることはありません。会社と同じで、まずは営業として頑張り、そこから出世して執行役員、社長を目指すのと同じなんです。イベントプロデューサーになるには、まずスタッフとして現場で働き、そこからサブディレクター、ディレクターになることが多いですね。なかには例外もありますが、小さなイベントから経験を積んで、場数を踏むことが必要です。

 

――なるほど。イベントプロデューサーになるために、特に必要な能力はありますか?

 

イベントの全体を見られる人がプロデューサーに向いています。どんなイベントにしたいのか、集客に問題はないのか、スタッフを集められるのか、スポンサーの出資額を考えてちゃんと黒字にできるのかなど、経営面まで考えられる人が適任でしょう。

 

また、何より大切なのはお金を引っ張ってくる力です。「あの会社に企画書を持っていったら実現できるかもしれない」とか、誰よりも先んじて利権の許諾をとったりとか。仕事を生み出す力ですね。

 

――こんな人がイベント業界に向いているという傾向はありますか?

 

どんな仕事に対しても「つまらない仕事だなー」「こんなことやらせやがって」と愚痴ったり、手を抜いてさぼったりしている人はダメですね。自分でイベントをつくり出したいなら、現場にいるときもボーっとするのではなく、「自分が指揮をとるならこういうイベントになるのに」といった思考を張り巡らせるなど、意識を高く持つことが大切です。どんな状況も学びにできる心構えは持ってほしいですね。失敗もいい経験になりますから。

 

――岡星さんもイベントで失敗したことがあったんですか?

 

それはもう、いまだにそれを思い出して夜中に目覚めますよ(笑)。イベントはとにかく失敗が起こりやすいんですよ。講義で「失敗学」を教えているくらいですから。特に記憶に残っているのは、ある県の式典で花束を贈呈する5分前に、花がないと気づいた瞬間。生花なので本番直前に来るはずだったのに、そのときはさすがに顔が青ざめましたよね。その辺に花が生えていないか、真剣に探しました(笑)。

 

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――それはかなりの狼狽っぷりですね(笑)。結局どう解決されたんですか?

 

いま考えると笑っちゃいますよね。そこからすぐに台本を書き直して、別のモノを用意したので事なきを得ました。

 

――イベントだと撮りなおしやリテイクがないので、その場で失敗したらリカバリーが難しいんじゃないかと思うのですが……。

 

そうですね。そのため、イベントプロデューサーは常に意識を未来に向ける必要があります。次はどういう手順か、どういうモノが必要か。そのため、絶対に外してはいけないことに対して、「スタンバイのさらにスタンバイ」を用意します。スタッフを配置するなど、そのひと手間をかけるかどうかがイベント成否の鍵を握ります。アカデミー賞の式典もそうでしたが、イベントは生ものなので取り返しがつかないことをすると担当者はクビになってしまう恐れがある。もちろん、その「本番5分前」という緊張感がイベント仕事の醍醐味でもあるのですけどね。

 

手掛けたい仕事につながりのある人脈をつくる

 

――赤裸々にお話しいただき、イベントの仕事に親近感がわいてきました。失敗の経験がある一方、これまで印象に残っているお仕事はなんでしょうか。

 

やはり、2002年の国際的サッカーイベントですね。日本で初開催となるパブリックビューイングの全体演出を任されました。仕事には絶妙なタイミングが必要で、僕はこの時すでに前職から独立して自分の会社を立ち上げた直後だったんです。これは、電通とのつながりがなければ私には声がかからなかったと思います。

 

そもそもこのサッカーイベントが日本で開催されていなければ、仕事にすることはできませんし、僕が社会に出て1年目だったら選ばれませんから。ちょうど30代後半で、ビッグイベントもこなしてきたからこそ、大きな仕事の話が来たんですよね。実行委員長はそれまで一緒に仕事をしてきた知り合いでした。そう考えると、自分のライフステージとスキル、人間関係、そして運がうまくかみ合ったんだと思います。

 

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パブリックビューイングの準備をする岡星さん。この数時間後、5万人を熱狂させた

 

――イベントを手掛けるには人脈も必要なんですね。岡星さんはどんな人脈が大切だと思いますか?

 

人数だけを増やしても意味がないと思います。僕も若いころはパーティーに出たり、異業種交流会に参加したりしましたが、仕事でつながりのある人って本当にごく一部。知り合いの数が多いことも一つのメリットではありますが、「名刺こんなに持っているんですよ~!」って言っても、ただのゴミになるケースもありますから(苦笑)。そう思ったら、大切なのは量ではなく質ですよね。

 

――「人脈の質」はどのように考えればいいでしょうか?

 

質を見極める方法はただひとつ。自分のやりたい仕事とマッチングしているのがベストな人脈です。たとえば、サッカーの仕事をしたいと思っていたら、電通のスポーツ局の人に会えるのがいいですよね。

 

そのためには、やたらに人脈を増やす前に、自分の夢やミッション、今後取り組みたいプロジェクトを明確に持つ必要があります。そうすると一生付き合える、ビッグイベントができるチャンスがつくれますから。多くの人と会うのは否定しないけど、どんな人と会いたいのかを考えておくのがおすすめです。

 

あとは、人と会うときには対等とは言わないけれど、与えられることがないと続かないですよね。一方的に「仕事ください!」と言われても、そればっかりの相手には会う気がしないですから(笑)。「自分はこれまでこういう仕事をしてきて、こんな人脈があるので困っていることがあったら手伝いますよ」と、こちらから提供できるものがあればどっちも助かりますし、利益が生まれますよね。出会う人数がたとえ少なくても、きっといい仕事に巡り合えます。

 

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――「こういうことがしたい」という目標がなければ、やみくもに人脈を広げてもしょうがない、と。

 

どの山に登るのか分かれば、その目標に対して必要な人やスキルなどが見えてきます。そうすれば、自分にとって質の高い人脈がわかると思います。

 

――岡星さんは編集プロダクションから転職して、イベントに携わる仕事に就かれました。イベント業界では異業種からの転職はよくあるのですか?

 

僕は仕事には「片付け屋」と「散らかし屋」がいると思っています。片付け屋は、弁護士とか銀行員とか消防士とか、問題が起こったときにそれを整える仕事ですね。一方、散らかし屋はカルチャーやエンタメ業界などが当てはまると思います。そういった散らかし屋の業種からは、イベント業界に転職してくる人はいますね。そう考えると、イベント業界はすそ野が広いと思いますよ。さまざまな業界でイベントは自然と行われていますから。

 

――最後に、岡星さんがいま興味を持っていることを教えてください。

 

2020年のスポーツイベントや博覧会に向けて、イベントで「レガシー(資産)」という言葉が使われ始めました。たとえば、ボランティアチームはそのときだけではなく、その後も継続して観光ガイドとしてその活動を継続しようという取り組みです。持続性に注目が集まっているんですね。

 

今後の研究テーマとしては、イベントの「機会財」を提唱していきたいと考えています。簡単に説明すると、展示会って出るときに出展料がかかりますよね。出展にメリットがあったかどうか、まだきちんとすべてを見える化できていないと思うんです。たとえば、出展してすぐに仕事にはつながっていなくても、半年や1年後にビジネスチャンスが生まれていることもあります。イベントの効果測定は、その後どれくらい機会(チャンス)を生みだしたのか、目に見える形でわかるシステムが作れれば……と考えています。イベントに隠されたとてつもないパワーを発掘していきたいですね。

 

(文・取材:松尾奈々絵/ノオト)

 

 

取材協力:岡星竜美さん

 

東京富士大学経営学部イベントプロデュース学科教授。JEPCイベント総合研究所所長。

イベント企画・プロデュース・イノベーション・成功評価講座を考案し楽しくわかりやすく使えるイベント型セミナーとして人気を博している。2002年国際的サッカーイベントのパブリックビューイング(国立競技場)は日本中の話題となり、カンヌ国際広告祭メディア部門<金賞>を受賞した。

 

 

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