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プロから盗む仕事術 〜教えて!里崎智也センパイ〜

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プロフェッショナルーー特に「トッププロ」とは仕事というものをどのように捉えているのだろうか。例えば、プロ野球の世界では? 日本代表の正捕手の経験を持つ里崎智也氏は、現役引退後、常識や過去にとらわれない新しいプロ野球解説者へとキャリアを進めた。


1976年生まれの41歳。ロッテ一筋16年間のプロ生活で二度の日本一を経験し、06年のWBCでは正捕手として日本代表を世界一へと導き、大会ベストナインにも選出された。満塁アーチを放った試合後に球場前の特設ステージでライブを開き歌ったこともある。華々しい実績を持ちながらも、仕事観はどこかユニークだ。その証左のように、自著には現役引退直後に「“便利屋”になると誓い、仕事を選ばず、依頼が来たらなんでも引き受けよう」というスタンスで独立したと書き記している。独特な仕事観を携え、売れっ子解説者となった里崎智也の仕事術とは? 今回は多くの投手をリードした名捕手として、そしてひとりの社会人として、じっくり話を聞くことにした。


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上司に期待し過ぎなんです、みんな


── 里崎さんの順位予想などを拝見していても、遠慮せずにガチですよね。古巣には甘い点数をつける評論家も多い中、里崎さんはそれをしない。言いたいことはズバリと言う。現役時代からそのスタイルだったんですか? 例えば、先輩選手に対しても。


里崎智也さん(以下、里崎):遠慮する意味が分からないです(即答)。遠慮、いります?


── そういえば、里崎さんと以前イベントでご一緒した際に、人見知りは甘えだという発言がありましたね。


里崎:「人見知りなんですけどどうしたらいいですか?」「言い訳するな」「斬新!」って言われます(笑)。


── 確かに人見知りの人って、「私、人見知りなんですけど」という前提から入る。自分も若い頃、そういうところがあったので自戒の念を込めて言うと、あれ一種のエクスキューズですからね。


里崎:人見知りだからって何かができなくても許されるのかって。「だから?」と言って終わりです。


── 例えばWBCのチームメイトのイチローさんとかに対して、ビビっちゃう人もいると思うのですが、里崎さんはそこは人見知りなんかせず自分から飛び込んでいく?


里崎:だって話したいのに行かないの? じゃあもし好きな女の子がいても、声掛けへんのかっていうことですよ(笑)。それが別に、男だろうが女だろうが、年上だろうが年下だろうが、別に一緒じゃないのって。そこになんか違いあるの? っていう。しかも、嫌って言わないから、男は。


── 先輩からすると、「あ、こいつかわいいな」と思って連れていってくれる感じで。


里崎:そう自分に置き換えてみてくださいよ。もし部下とか後輩から、「里崎さん、ごはん連れていってくださいよ」「嫌じゃボケコラ」って言う人います?


── いないですね(笑)。里崎さんの本の中で「上司は部下を選んじゃ駄目だけど、部下は上司を選んでいい」と書いてありました。コーチの人で、「あ、この人ちょっと違うんじゃないか」というときに、どう接していたんですか?


里崎:別に必要以上に接する必要ないです。


── もうそこは普通に話すけど、何かを求めたりはしない?


里崎:無駄な期待はしないんです。上司に期待し過ぎなんです、みんな。僕、期待してないですもん。


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「責任を取る」と言う人を信用しない


── プロ野球界でも、上司に当たる監督やコーチの入れ替わりが激しいですね。


里崎:まあ新しい首脳陣にはとりあえず話を聞きますけどね。どういう立ち居振る舞いをするのかとか、どういうことを言っているのかとか、人間性も含め全部見て、信用できるかどうかを判断します。


── 例えば里崎さんが活躍したバレンタイン監督時代は、すごくハッキリ指示を出してくれたと。


里崎:具体的で分かりやすかったですよね。


── ベンチからの指示というのは、曖昧だと選手もやりにくくなってしまう感じなんですか?


里崎:曖昧な首脳陣って結果論でしか言わないから。要は、責任を取りたくないから、曖昧なことしか言わないんです。「なんかあったら俺が責任取ればいいんやから」と言う人はいっぱいいますけど、そういうのに限って曖昧なことしか言わないですよね。


── 「責任を俺が取る」と言う上司は信用するなと。


里崎:絶対取らないです(笑)。見たことない。責任を取るということは、プロ野球選手で言えば、給料の補填とクビにならない安全なんです。でも、結局は選手は言うことを聞いて、成績下がったらクビにもなるし、年俸も下がるんです。どこで責任取ってくれてんのやという話になりますよね。


── 監督にもそんな権限はないぞと。


里崎:そうそう。人の責任を取れるやつはいないです。だって、自らが辞めて、あなたの立場を保証しますってことですよ。あります? 社会にそんなルール。


── まあ、無理ですよね。もし仮に里崎さんがコーチになったとき、選手たちに声を掛けるシチュエーションがあったとしたらどう声を掛けますか?


里崎:なったとしたら……「俺は最後まで諦めないで一緒に戦うから、一緒にこの苦難を乗り越えていこう。どういう策があるか考えようぜ」って。「俺はこれがお前に合っていると思うけど、どれがやりやすいかは自分でやってみて、一番自分がこれが合うなというやつをお前が選べ。最後の責任はお前や。でも、俺は引き出しを永遠に与え続けてやる」って言いますね。


── おおっ、それは具体的で嬉しいですね。


里崎:諦めないことですよ。「責任を俺が取る」と言うやつほどすぐ諦める。


── 「責任を取る」という言葉自体が一種の思考停止とも言えますね。


里崎:「責任を取る」と言う人は、「責任」という言葉が大好きなんです。だから、必ず人の責任になるようにするし、自分が責任取らないように動く。間違いないです(笑)。自分の部下を従わせる能力がないから、「責任」という言葉を使って従わせようとしているだけなんです。


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仕事において、過程は評価されない


── 里崎さんの場合、2006年春のWBCでの活躍というのが名刺代わりになったと思うのですが、あのとき、なぜあそこまで自然体で活躍できたのでしょう?


里崎:時期も良かったですよね。僕はイケイケドンドンの時代だったんで。


── 第1回WBCは29歳でしたよね


里崎:そうそう。前年にロッテが日本一になって、僕は2003年くらいから一軍に出始めて。だからもう怖いもの知らずなんです。なんでもイケる! みたいな。


── ちょうど自分のピークと大会の時期が重なった?


里崎:ピークというか、出だしたときのいい感じ。これがまた30過ぎのピークだったら恐さも知っているじゃないですか。


── あぁ、経験した分、怖さも知っちゃう。


里崎:そうそう。だから、全てが良かったです。自分にも自信のある、勢いも乗ってる、怖いもの知らず。イケイケ! みたいな感じですから。


── 2006年シーズンは、さらにペナントで自身初のベストナインとかゴールデングラブ賞も取っていますが、WBCをきっかけに何かを掴んだというより、本当に上がり調子で。


里崎:そうそう。勢いに乗った、上昇気流に乗った感じですよ。


── 当時、野球評論家が里崎さんのリードは怖いみたいによく書いていましたね。


里崎:解説でも言っていましたけど、まあ結果出てますよと。


── 世界一になったという超説得力のある結果が(笑)。


里崎:そうですよ。結局打たれていないんで。外から見たら怖いリードでも、それが結果を出していたら批判できないんです。逆に言うと、どんなやり方をしても、結果が出なかったら批判されます。


── そこはもうどんな仕事でも一緒ですね。


里崎:だから僕は言ってるんです、過程は評価しないって。過程は結果からの逆算で評価されることだって。結果を出して、初めて過程は評価される。答えは簡単ですよ。どんな状態でも結果を出せば周りも信用してくれます。


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人間関係は合う合わないじゃない。合わせるんです


── 結果を出したら、たとえ文句を言っても聞いてもらえるけど、二流選手が文句を言ったところで……。


里崎:聞いてくれないです。全ては結果ですよ。どんなやり方をしたって、結果が出なかったらあしらわれるだけですから。


── 確かに一般企業でも若手の新入社員がどうこう言っても基本スルーですからね。


里崎:「は?」って感じでしょう(笑)。だから、結果を出すだけですよ。人間関係どうこう以前に。


── 忖度する前にまずは結果を出せと。


里崎:そうそう。その代わり、相手がこうやってほしいんやろうなとか、自分にこういうふうに動いてほしいんだろうなというのは考えて動くと、チャンスも増えるし、アイツはできるなと思われますよね。言われる前に動く。そういう忖度はしないといけないですよ。ただ僕は、自分の理に反する忖度は一切しないです。


── 例えばキャッチャーで、普通ならバッティングは二の次だと言われる中、里崎さんはあえて打撃を特訓してチャンスをつかんだ。じゃあ「俺は打撃だ」と自分で気付いて動いたんですか?


里崎:自分の得意なもので勝負しない選手の気が知れないです。しかも、野球で言えば打つ方が誰しもが分かる明確な数字の物差しがあるんです。そうしたら評価されやすいじゃないですか。守備なんて目に見えない評価だから、結局は投手の力量にも左右されるし、自分で上げ下げ難しいんで、そんなことを特化したところで、弱いチームで評価されないですから。


── とにかく打つと。


里崎:名捕手といわれる条件は、めちゃくちゃ打つか、強いチームにいるか、どっちかしかないんです。いいキャッチャー誰ですかと言ったら、順位表の1位にいるキャッチャーを言う以外ないんです。


── 古田(敦也)さん、城島(健司)さん、阿部(慎之助)さん。みんな打って、チームも優勝してる。


里崎:谷繁(元信)さん、ノム(野村克也)さん、森(祇晶)さん。


── みんな目に見える結果がある。


里崎:どんな仕事もそうじゃないですか。その道のプロが見たら、あいつけっこういい仕事するのに、世間じゃまったく認知されないよなって人はいる。結局、賞を取りましたとか、分かりやすい肩書があるかないか。だから、名捕手と言われるのは、めちゃくちゃ打つか、強いチームに行くかです。だって、打たないで弱いチームにいたら、玄人目線で上手いなと思っても世間から評価されることないんですもん。


── 捕手の打撃の話が出たので、投手ごとの専属キャッチャーについての考えも伺いたいのですが、もしバッテリー間で呼吸が合う合わないって出てきた時はどうしますか?


里崎:合う合わないじゃないんです。合わせるんです。


── 両方が?


里崎:合わせろよお前、は成り立たない。


── それは仕事のクライアントとの付き合い方と同じですよね。


里崎:一緒ですよ。合わせるんですよ(笑)。合わせる中で最大のポテンシャルを発揮するんです。それが高いレベルですよね。合わせてもらわなきゃ自分の能力が発揮できないのなんて二流です。環境が変わったら結果出ないんじゃ本当の実力じゃないですよ。


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頑張ってるのが評価されるのは学生の時まで


── 普通の会社って、来た上司によってパッとフロアの環境や雰囲気が変わるんですが、プロ野球も監督によってチームの雰囲気って一気に変わりますか?


里崎:もちろん変わりますよね。そのなかで自分を生かせるように考えることが先決です。


── プロ野球選手って、エースとか4番打者とか一部の天才を除いて能力的には紙一重だと思うんです。里崎さんがモノになった人と駄目になっちゃった人を見てきて、こんな特徴があったよとか、こんなやり方をしていた人が多いよ、とかありました?


里崎:それはないですよね。結果論ですよね、それも。何が正しいか分からないですもん。結果を出したやつが正しいので。


── 首脳陣に対する頑張ってるアピールより、やっぱり結果。


里崎:別に頑張らなくてもいいから、結果出してくれたらいいんです。頑張りとか別に、人間が呼吸するのと同じくらい当たり前だから、頑張ることを強調する意味が僕にはちょっと理解できないです。「僕生きるために呼吸してます!」「で、でしょうね」みたいな(笑)。


── 頑張るを売りにしないというのは、社会人というか、全ての職業で共通のことですね。


里崎:頑張ってるからといって何かの言い訳になることや許されることは一つもない。大げさに言うと、何かあったときに、「いや、サト、あいつも頑張ってんねんから」ってなぐさめる人いるんですけど、まったく僕には響かないですよね。頑張ってるとか頑張ってないとかじゃないんで。じゃあもう思い切って言ったら、頑張らなくてもいいからやることやってくれと(笑)。


── それこそ「頑張って営業行ってきました。でも結果が残せません」よりも……。


里崎:もうね、「ちゃっちゃと営業行ってきました。1億円の取引取ってきましたよ」の方がいいですよね、大げさに言ったら。「あいつまったく会社に来うへんな、何やってんだよ」で、1カ月に2、3回フラッと来て、パッと見たら、営業成績飛び抜けて1位とかだったら、「ちょっと周りの目もあるから、そのままでいいんだけど、もうちょっと会社に来てね」って言うくらいですよね。頑張ってるのが評価されるのは学生の時までですよ。


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理想は幻想です


── 今回伺っている話は、多くの社会人にも応用できると思うんですけど、この春から新社会人としてスタートを切った人も多い中、彼らに、仕事をする上でこれだけは気を付けてやった方がいいよとか、何かアドバイスはありますか?


里崎:理想は幻想(笑)。


── それ入社式で言われたらショックですよ(笑)。


里崎:そんななんでもかんでも最初から思い通りにならないよって。頑張って頑張って努力して、やりたくないこともやって、初めて自分のやりたいことの理想像が現実になるだけだから、それが何もしないで目先の利益としてすぐ手に入ると思ったら大間違いだよという。


── それこそ新人選手がドラフトで入ってきた時のような。


里崎:だから僕が言うのは、「10年後の自分をイメージして今頑張れ」って。10年後どうなっていたいのか、そのために今何をやらなきゃいけないのか? 目先の利益に飛びつくやつは、10年後も目先の利益を追いかけているので、長期的成長がないんです。大きな目標を持ってトライして、それを掴んでいないから、自信にもつながらない。だから、“三百六十五歩のマーチ”じゃないですけど、3歩進んで2歩下がるがないんです。常に一歩ずつでも目先の利益で前進じゃなく、ここで我慢して、今できることのスキルをめっちゃ磨いて、出るときには一気に出ていこうという戦略を持った方がいい。


── じゃあ本当に希望に燃えて会社に入った新社会人も、まずは与えられた場所で結果を出すと。


里崎:今、目の前にある仕事のプロになれって。それがお茶くみであろうと。そうでないと、逆にお前が上司になったときに、必ずそれを頼むんです。「こんな仕事やりたくないよ」って言っているお前が上司になったら、「お茶を入れてくれ」って言うんです。


── 回ってきますからね、自分にまた。


里崎:どの世界にも早く活躍して尻すぼみのやついるじゃないですか。若いから、自分のことで精いっぱいで、周りも見えていないし、周りもそいつに習おうという姿勢はないんです。それが10年目にトップにいると会社のためにもなっているし、これからの若手のためにもなるし、チームのためにもなっているという、だから、全てにおいて大事やと、10年後トップに立つことが、会社にとっても、本人にとっても。


── 就職した頃の自分に聞かせたいですよ(笑)。すごく理想に燃えて入ったら絶望が多いですからね、新社会人って。


里崎:理想は幻想っすよ(笑)。


── それを先に言われると楽になる面もありますよね。


里崎:10年後ですよ、勝負は。




取材・文:中溝康隆(プロ野球死亡遊戯) 編集:はてな編集部


取材協力:里崎智也

 

里崎智也

98年のドラフト2位で千葉ロッテマリーンズに入団。2005年、10年には日本一を2度経験。2006年のWBCでは正捕手として日本を世界一に導き、ベストナインにも選出された。2014年に現役引退し、同年9月より、ビックリマン終身名誉PR大使に就任。2015年1月より、千葉ロッテマリーンズのスペシャルアドバイザーに就任し現在に至る。

 

Twitter:@satozakitomoya