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【イベント報告】ものづくりの祭典「Maker Faire Tokyo 2018」でパソナキャリアがメイカー向けのイベントを開催!

  • お知らせ
2018.09.03

 

2018年8月4、5日にものづくり好きのためのイベント「Maker Faire Tokyo 2018」が東京ビッグサイトで開催されました。パソナキャリアは本イベント内で「MakerからはじまるInnovation」についての講演を実施。
ゲストに慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任教授および合同会社JudgePlusの代表社員を務める広瀬毅さん、エレファンテック株式会社の清水信哉さん、株式会社マクニカの米内慶太さんの3名をお迎えして、メイカーに必要なイノベーティブ思考や、技術開発にまつわるさまざまなお話を伺いました。

メイカーたちに欠かせないイノベーションを起こすための2つの思考とは

第一部では、広瀬毅さんからイノベーティブとイノベーションの違いと、イノベーションを起こすために大切な思考について語られました。

大学では、「すでに何らかの専門性を持った人たちにさらなる教育を施して、より深い専門性を持ってもらうこと」をミッションに、問題解決能力や新しい価値の創造ができる人を育てているという広瀬さんですが、その一方で、3年ほど前からヘルスケアのデバイス開発にも携わっているそうです。

「日常生活とフィットネスは離れた所に位置するもの。その距離を埋めるために開発したのが『ちょこちょこフィットネス』という商品です」と広瀬さん。

「『ちょこちょこフィットネス』は、日常生活の中でミニマムに運動を取り入れるためにはどうすればいいのだろうかというテーマから作られました。この商品は、工芸からハイテク機器まであらゆる技術が展示されるミラノサローネ展へ、毎年少しずつ改良を加えながら出展しています」

そんな広瀬さんは、イノベーションとは「ゼロイチからの新しい創出と、それが誰にでも利用できる状態となっていること」だと定義します。

「携帯電話やスマートフォンの普及により、人々はそれがないとすでに生活ができなくなっています。これが『誰にでも利用できる状態』です。何か新しいものが発明されたという段階は、イノベーションではなく、イノベーティブな状態にあるといえます。今回の会場にもイノベーションを起こしつつあるものや、まだイノベーティブなアイデアだけどこの先イノベーションを起こしそうなものがたくさんあります。メイカー達は基本的にアイデアが豊富なんですよね」

しかし、どんな人間でもアイデアが枯渇することもあります。そこで覚えておきたいことは、「アイデアは既存の要素の組み合わせであるということ」だと広瀬さんは言います。

「ポイントは既存の要素をうまく組み合わせることができるかどうか。なるべく遠くにいる分野同士のものを組み合わせると面白さが発揮されます」

ここでひとつの事例として、アメリカで販売されている絆創膏が挙げられました。

「アメリカでは、綿棒と封筒が同封された絆創膏が販売されています。絆創膏を利用する前に傷口についた血を綿棒で拭い、それを封筒に入れてポストへ投函するんです。すると、絆創膏を利用した人の骨髄ドナーバンクへの登録が完了するというシステムです」

これにより、骨髄ドナーバンクへの登録者が3倍に増え、絆創膏の売上も1900%ほど伸びたそう。

「絆創膏と郵便という既存のアイテムから、骨髄ドナー登録を増やすというシステム。そこには新しいアイデアがまったく含まれていません。ほぼ既存のアイデアで構築されているんです。これは、既存のアイデアを組み合わせてうまくイノベーションを起こせた実例といえます」

また、「日本でもこうした既存のアイデアの掛け合わせで生まれた商品もある」と言います。

「大手企業が販売しているスピーカー搭載のLEDシーリングライト。これも、シーリングライトとBluetoothスピーカーという既存の商品を組み合わせたものです。組み合わせ次第でアイデアは無限。コツは、要素をうまく抜いてアダプトさせ、まったく違うものにくっつけること。例えば、ウォークマンが販売される前は、音楽は室内でしか聞けないものと思われていました。ウォークマンという商品におけるイノベーティブな部分は、外へ持ち出したことにあります。この『外へ持ち出す』という要素を、他のものに利用できないか考えて、身の回りのあらゆる既存の商品にくっつけてみるんです」

この発想のもと、最近では超音波で洗うポータブル洗濯機が生まれたそうです。

この他にもさまざまな事例を挙げながら、「テクノロジーは面白さのあとについてくるものだ」と広瀬さんは言います。

「現在の日本では、ものづくり側であるメイカーたちから次々とイノベーションが起こっています。つまり、テクノロジーを持っているほうが強い。アイデアがあってそれを形にしようとしたら、そこには必ずテクノロジーが必要になりますから」

最後に広瀬さんは、このようなイノベーションを起こすために欠かせない「ふたつの思考」について教えてくださいました。

システム思考とデザイン思考のバランスが重要です。世の中のあらゆる物事をシステムとして捉える考え方がシステム思考。図式ができて構造化ができれば、どこに介入すると一番レバレッジがきくのかがよく分かります。そして、介入する時に必要となるのがデザイン思考。デザイナーが真っ白い紙に1~2本の線を引いて、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながらデザイン性を追求していくようなもので、さまざまなアイデアをジェネレートしていきます。このふたつの思考を常に持って、日常生活や仕事の中で習慣化してしまいましょう。すると、イノベーティブな発想がどんどん生まれるようになります」

ベンチャー企業が製造業でイノベーティブを起こすためには

第二部は清水さんと米内さんのお2人によるディスカッションです。実際にイノベーティブを起こした実例として、支援者と企業側というそれぞれの立場からお話を伺いました。

米内さんが勤める株式会社マクニカは、スマートフォンやカメラに使われる半導体などの電子部品関連総合商社。米内さんは現在、「Mpression」というオリジナル技術ブランドを社内で立ち上げ、顧客へより高度な技術サポートの提供や、自社ブランドの取りまとめを行っているそうです。
そして、清水さんが代表を務めるエレファンテック株式会社は、印刷技術による基板製造技術を世界で初めて実用化した会社。ベンチャーでありながら、都内に自社工場を構えるほどに成長を遂げています。

まずは、米内さんから「なぜスタートアップ支援をしているのか」という理由について語られました。

新しい変化の中で、『前よりいいね』と言ってもらえることがうれしいんです。日本は産業の国。私のできる範囲で何かに貢献したいという気持ちがありました。また、私自身もベンチャー企業で働いていた経験があるため、ビジネスで大変な部分がたくさんあることを知っています。そんな私だからこそ、できることがあるんじゃないかと思いました」

しかし、「どんなスタートアップでも支援するわけではない」と言います。

「頼るばかりではなく、自らの努力を怠らないスタートアップとオープンイノベーションを加速していきたい。そうすることで、従来の顧客にも新しいイノベーションを紹介することができ、結果、顧客層の拡大へ繋がります。産業の国と呼ばれる日本ですが、過去は意外にもメイカー達が少なかった。この部分を支援して、オープンイノベーションでつないでいくこと。これが、今後の日本をよりよくしていくために重要なことだと思っています」

一方、ベンチャー企業を立ち上げた清水さんは、なぜスタートアップを始めたのでしょうか。

「私はもともとベンチャー企業を立ち上げるようなタイプの人間ではありませんでした。しかし、アメリカへ留学した時に、エンジニアの置かれた環境が日本とまったく違うことを知ったんです。技術レベルは変わらないのに、アメリアではどんどんベンチャーが出てきて活躍している。この差は、新しいことを始めようとする人たちの数の違いにあると気づきました。日本では研究機関から面白い技術が出てきたとしても、それをベンチャーにしようという気軽さがないんです。それなら私がその道を切り開いていこうと思ったのがきっかけでした。この道さえできれば、日本のエンジニアはもっと頑張れると思うんです」

日本と海外では、企業に対する考え方も文化も違います。この差に目をつけて起業した清水さんですが、それでは米内さんはどうして製造業への支援を考えたのでしょうか。
それは、「製造業には商品を世に出す過程の中で、空白地帯があることに気づいたから」だと言います。

「製造業はアイデアからテストマーケティングの過程がスムーズだったとしても、その後のものづくりに移行できないベンチャーが多かったんです。それは、マーケティング以降の量産設計や量産、販売の分野に携わるベンチャーがおらず、大企業に頼るしかなかったからでした。そのため、最後は既存のモデルを使わなければならなかった。この分野の『空白地帯』を埋めることができれば、ベンチャーでももっと充実したものづくりが確立されるのではと思ったんです。そのひとつがエレファンテック株式会社でした。また、清水さんの扱う電子以外の分野でも、3Dプリンタの台頭により変化が起きている分野がたくさんあります。これからは、たくさんの企業が製造業を面白くしていくのではないでしょうか」

また、「社長である清水さんは、テクノロジー(技術)とビジネス(経営)の両方の視点を持っていたことも魅力的だった」そうです。
そんな清水さんが製造業へ参入したのは、「日本だけではなく世界で勝てる仕事がしたかったから」だと言います。

「私の本来の研究分野は、AIなどマシンの領域でした。『それならソフトウェアで起業したほうが楽なんじゃない?』とよく聞かれますが、どうせ起業するなら世界で勝てる仕事がしたかった。しかし、AIの分野では日本が勝つことはもはや難しいのではないかと感じてしまって。そこで、日本が海外に勝てるものは何かと考えた時に、製造技術なら可能性があるのではと思いついたんです。日本には、十分に商品として販売できるような技術レベルのものがたくさん揃っていて、製造系技術のレベルが非常に高い。実際に、日本のたった1つの企業でしか作れないものもあって、それは世界中から売ってくれと声がかかっているんです」

米内さんと清水さんの会社は、実にいいパートナーシップを築いているように見えます。しかし、スタートアップを支援するためには、「大変なことや難しいことも多い」と米内さん。

「まずは社内への説得ですね。同じような工数であれば、すでに成果をあげている既存のほうへ寄ってしまうことにジレンマを感じます。そのたびに意義や重要性を説明しなければならない。一方で、イノベーターへの説得もなかなか大変です。企業として継続するためには、研究開発とビジネスの両方が必要ですが、どちらか一方に偏ってしまうことがとても多いんです。ものづくりを支援しますよというコンサルティング会社だけではなく、これからはビジネス面での支援も充実してくることで、この先の日本はもっと面白くなるんじゃないでしょうか。そして、最後に声を大にして言いたいことがあります。それは、お客様の意識の改善です。商品を購入したい、体験してみたいというのではなく、ノウハウを得て自社で複製化しようとするケースがある。複製するなら購入してほしいです。それも商品だけではなく、会社ごとです」

製造業におけるベンチャーがもっと活性化するためには、支援だけではなく、購入する側の考え方にも改める点があるようです。
最後に、お2人からは、参加者へ向けてメッセージをいただきました。

どこにいてもイノベーションは可能です。出会いや縁を楽しみながら続けることが大切。現在の仕事に添わせてみるのもいいですね」と米内さん。
清水さんは、「ベンチャーでも億単位の資金調達ができるなんて、10年前には考えられなかったこと。今はとてもいい時代になったと感じています。この波に乗って、新しい気持ちで取り組む人が増えてくるといいなと思います」とのことでした。

パソナキャリアでは、製造業で働く人々がこれからも生き生きと働け、環境や働き方を主体的に選んでいくことができる社会の実現を目指すために、「Makers' Future Program(メーカーズフューチャープログラム)」を立ち上げました。今後も生涯エンジニアとしてより良く生きていくための講演会やキャリア相談会などの機会を提供していきます。

ご登壇いただいた広瀬様、米内様、清水様、そして本イベントにご参加いただいた皆様、ありがとうございました。