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【伊藤羊一】「X歳転職限界説」にNO。ハイキャリア層こそ夢を持て

Naraoka Shuko
NewsPicks / Brand Design 編集者

近年のビジネス環境はますます複雑性を増している。そういったときに求められているのが、ビジネス課題を解決したり、マネジメント能力のあるハイキャリア人材だ。

同時にハイキャリアのビジネスパーソンにおけるキャリア選択も難しさを増しているのではないだろうか。

そんな状況下でも伊藤羊一氏「年齢で限界を決めるのはあり得ない。ハイキャリア層こそ、夢を語ってチャレンジをしてほしい」と語る。

伊藤氏は自身のキャリアをどのように切り開いたのだろうか。そして、ハイキャリア人材が目指すべきキャリア戦略と、その極意を聞いた。

「X歳限界説」はヒエラルキー型社会の遺物

伊藤キャリアの言説に「X歳転職限界説」があります。ですが、私は自身の経験も踏まえて「そんなことはない!」と声高に言いたい。その説を唱える人を一人一人説教したいくらいです(笑)。

ただ、これまでのヒエラルキーがあり正確にタスクをこなさなければいけない会社では、ある一定の年齢になると転職が限界となるのかもしれません。

時代はもはやフラットになっています。イマジネーションやつなげる力は30代より40代、40代よりも50代の方が強い。私は今55歳ですが、自信を持って言えます。50代になってからますます「成長が加速している」と。

ですから、年齢を重ねても挑戦し続ける人はキャリアも開けていきます。

伊藤洋一氏のプロフィール

いわゆる、グロースマインドセットとフィックストマインドセットという考え方があります。

フィックストマインドセットは「自分の力やスキルには限界がある」という考え方で、自分のことをどれだけよく見せるかに終始してしまいます。

ともすれば、「自分のスキルはここまで」と天井を定めてしまうものですが、人間の成長には限界がありません。

今振り返れば、10年前の自分は今の100分の1も仕事ができていなかったと思います。頭を使って、脳を鍛え続けてきたからこそ、“今”が最もパフォーマンスが発揮できているという自信があります。

この考え方こそがグロースマインドセット。もちろん、常に考え続けていなければいけませんが……。

きちんとキャリアを積んで成果を出しているハイキャリアの方にこそ、「もっと夢を大きく持とう」と言いたいですね。

グロースマインドセットとフィックストマインドセットとは

日本人は「無理だよ」と人の夢を笑う、無邪気に夢を語れる社会を

なぜ「夢を持とう」と私が青くさいことを言うのか。キャリアを考えたとき、日本の社会には「夢を笑う」という問題点があると思います。これは学生から社会人までみんなそう。夢を語っても「どうせ無理だよ……」と言われてしまう。

でも、自分がやりたいと思うことや、こうあってほしいと思う社会の姿を堂々と無邪気に語って、一歩踏み出す。踏み出したら、振り返って、気がついて、失敗したらまた変えてチャレンジしてみる。こんな社会になれば日本はもっと良くなる。

私の場合は「日本の学校教育を根本から変えたい!」と思っています。これも、ちゃんと宣言しないとできないことですね。

これからも社会はより進化して、インターネット・オブ・エブリシングス (Internet of Everything)になります。

すべての機器がネットにつながり、計測ができてAIによって最適化がなされていく。その前提に立っておかないといけません。そして、モノは十分に行き渡っていますから、「正解がない」社会が到来します。

分かりやすく言えば、自動車会社は自動車メーカーだけがライバルでしたが、今は電気自動車も出てきて、まったく違う会社がライバルになる。

モノが行き渡っていなかった高度経済成長の時代には「モノを作る」という点で、正解がありました。そのなかで、日本のモノづくり企業はジャパン・アズ・ナンバーワンと言われたように世界一でした。

でも、もはや過去は関係ありません。フラットに夢を語れる環境ができたら日本はもっと良くなると思っています。

キャリアに一貫性は必要か

私のキャリアを振り返ると、日本興業銀行で法人営業を行い、文房具やオフィス家具を扱うプラスで物流やマーケティング、新規事業や事業再編も行いました。そして、ヤフーに移り、リーダー教育に従事し……。

現在は、Zホールディングスでも働きながら武蔵野大学のアントレプレナーシップ学部の学部長をしています。一見すれば私のキャリアに一貫性や連続性はありません。

でも、自分の中では筋は通っています。「もっと日本の社会を良くするには……?」を常に考えていました。プラスへの転職は「インターネットが普及したら、どこでも働けるようになる。

ただ、オフィス環境が整っていないと無意味。その支援ができる会社に……」と思ったからでした。今でこそ、テレワークやワーケーションという言葉が一般的になりましたね。

またプラスではあえて、物流やマーケティングなど自分にとって新しい職種を担当させてもらいましたし、販売店さん向けに営業やプレゼンの教育も行いました。

「人が力をつけて活躍するフィールドを創るのが楽しい」と思えたからこそ、ヤフーアカデミアの仕事につながり、現在では武蔵野大学の教育に至ります。

私のキャリアは結果的に「お客様の笑顔」をいかに生むかを考えて行動していった結果です。

武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の1年次は全員が学生寮に入り、共に寮生活をしながら学ぶ。伊藤氏も自らメンター役として同居しているが、学生とも家族のようなアットホームさだ

専門領域を定めて進むのももちろん一つの道ですが、幅を広げてさまざまなチャレンジをするのも大事だと思います。

私の場合は足元にある課題を解決しようとしたら、幅を広げざるを得なかったというのが正直なところですが。キャリアは偶然性がつきものです。

伊藤洋一さんの職歴と得られたスキル

幅を広げた結果、ビジネスの実感を得られた

さまざまな職種を経験して良かったと思うことは多々あります。例えば、2011年に東日本大震災に被災したとき。オフィス用品を届けるビジネスは注文した翌日に届くのが当たり前です。

ただ、あれだけの震災が起これば当然現場は大混乱し、数か月は止まってしまいかねません。まず、避難と状況確認、どこから復活させるかを考えて、スムーズに復旧ができました。

それは、私がリーダーとして物流も営業もシステムも全部経験していたからです。

2004年の新潟県中越地震のときも物流の仕事をしていましたが、当時は全然対応ができず、なすがまま、右往左往していました。そこでの悔しかった経験があったからこそ、東日本大震災ではスムーズに動くことができたと思っています。

また、プラス時代に事業を統合したのもそれまでの仕事が生きました。複数箇所に持っていた物流センターをまとめ、物流センターにある在庫のデータベースを突き合わせて、棚のアイテムの順番まで全部メンバーと話して決めていきました。

これもいろいろな職種を経験していたからこそ、できたことだったと思っています。

もちろん現在の武蔵野大学のアントレプレナーシップ学部でもこれまでの経験が役立っています。

学生たちが最終的に経営者になるならば、マーケティングや経営、ファイナンスといった知識も必要で、その時々で身につけておいたほうがいい知識やケーススタディーも変わってくる。カリキュラム一つとっても、イチから考えています。

ハイリスクを恐れるな、キャリアを自分ごと化して考える

ビジネス課題を解決したり新規事業を創出しているような、いわゆるハイキャリア層から相談を受けることも多いのですが、「仕事の成果が出ない」や「転職したらいいのか、このまま仕事を続ければいいのか、分からない」という内容がほとんど。

優秀なハイキャリア人材でも日々の仕事に耐えながら、レールに沿って仕事をしてきたら現在の役職についたという方も多いように思います。

それ故に、ロボットように淡々とタスクをこなすだけになり「自分では何を基準に考えたらいいのか分からない……」という方も多いように見えます。

そうした悩みに対する私のアドバイスは「自分で決めなさい」とだけ。結局は何を選んでも自分が納得していればそれが正解です。

例えば、ハイリスク・ハイリターンな選択肢とローリスク・ローリターンな選択肢とで迷っているとしたら「ハイリスクだから怖いと思うかもしれないけど、ハイリターンなんだから」と言ったりもします。

「自分が何のために働いているか」を分かっていれば、おのずと答えは見えてくる。その際、過去のキャリアを振り返って「自分の人生をどうしたいのか?」を考えるのはとても有効です。

加えて、「どんな未来を創りたいか?」を考えることです。 “志”をいかに磨くかによって、身につくスキルも変わってくるでしょう。

仮にハイリスク・ハイリターンな選択肢だったとしても、「失敗する」のも良い経験です。踏み出してたくさん失敗することで、キャリアは見えてくる。

キャリアの語源はラテン語の「carrus(車輪の付いた乗り物)」であるといわれています。つまり、車輪の通った跡である轍(わだち)のこと。だから、歩いてきた軌跡がそのままキャリアになるのです。

「どこに歩いていくのか」を考えるのが、キャリアプランを考えることにつながりますからね。

自分の強みは分からない、だから振り返って内省と対話を

一方で「自分の強みが分からない」というビジネスパーソンは多いと思います。まず、考えていく上で大事なのは、どんな形で社会に貢献できるかを考えること。自分は何ができて何ができないのか考える。

考えるなかでは内省と対話が重要で、この2つが自己成長を促してくれます。とはいえ、単純に内省するだけでは駄目。言葉にならず頭の中でグルグル回るだけですが、1on1で言葉にして対話をすると、気づきやすくなると思います。

内容はまず自分の家族や所属するコミュニティーをいかに良くするかからスタートするとよいですね。必ず、その先は社会とつながっているはずです。

好奇心を持ってさまざまな方と話をするなど、いろいろな世界と交わって行動していくと道は広がっていきます。

振り返りが日々の生活を支える

そして、具体的に実行してみて振り返って気づきを得て、また実行していく。このサイクルが回っていると、もう無敵です。自分のキャリアは自分で作れることでしょう。

対話をする相手ですが、自分にとって話しやすいメンターであれば良いですね。私もZホールディングスでさまざまな方と1on1を行っていますが、私と1on1をすると皆さん背中を押されるのかどんどん転職されていきます(笑)。

普通、転職の相談を上司にしたら引き留めに遭うと思いますが……。許容できるマネージャーはまれですが、対話をするなかで見えてきます。

加えて、利害関係のない方と話をすると違った視点を得られるでしょう。もちろん、私自身も年齢や性別関係なくさまざまなメンターがいます。

アドバイスを求める、というよりも、自分の考えていることをその時々で話しやすい方に話してみています。まずは、自身の内省と対話から始めてみてはどうでしょうか。

ハイキャリア層のキャリアの限界を決めるのは年齢ではない。メンターのような第三者との対話によって自分の市場価値や強みを見出せば、新たなチャレンジのエネルギーが湧いてくる。対話の相手が「社外かつキャリアのプロの視点」であれば、なおさらだ。

次回は、個々の強みや専門領域から新たな市場価値を見つけ出し、ステージに合った企業との出会いを多数のハイキャリア層にもたらしてきたパソナの精鋭CA(キャリアアドバイザー)に話を聞く。※6月13日公開予定

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制作:NewsPicks Brand Design
執筆:上野智
撮影:竹井俊晴
デザイン:seisakujo
編集:奈良岡崇子