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ごく普通のサラリーマンが宇宙開発! “趣味”と“誰にでもできる仕組み”で超小型人工衛星の打ち上げを目指す「リーマンサット・プロジェクト」

ごく普通のサラリーマンが宇宙開発! “趣味”と“誰にでもできる仕組み”で超小型人工衛星の打ち上げを目指す「リーマンサット・プロジェクト」

画像出典:Product | rymansat

ごく普通のサラリーマンが、趣味として宇宙開発にチャレンジする──専門知識を持たないメンバーで超小型人工衛星の開発・打ち上げを目指す「リーマンサット・プロジェクト」(以下、リーマンサット)という団体があります。「宇宙開発といえば巨額の資金や最先端の技術が投入される国家的プロジェクト」というイメージを変えようと、リーマンサットは2014年に5人でスタート。2017年11月には、メンバーが180人にまで増えました。「身近なものを宇宙につなげる」リーマンサットの活動とはどんなものなのでしょうか。

宇宙開発に興味を持つきっかけは「何でもいい」

2017年11月19日(日)昼、定例ミーティングが行われるコワーキングスペースに人々が集まってきました。新しくリーマンサットに参加を表明した人向けの資料にまず大きく表示されたのは、「一般のサラリーマンや学生による民間の宇宙開発団体」という文字。専門知識を持たない人でも、身近な課題に仲間とともに取り組むことで、宇宙開発につなげていけるという話が展開されました。

リーマンサット・プロジェクト定例ミーティングで解説する立ち上げメンバーのひとり、大谷和敬さん
リーマンサット・プロジェクト定例ミーティングで解説する立ち上げメンバーのひとり、大谷和敬さん

立ち上げメンバーである大谷和敬さんはこう語りました。

「ここに集まった皆さんは宇宙開発にいろいろなイメージをお持ちだと思います。技術的な興味・関心、『宇宙っていいな』という憧れ、なんだかおもしろそうという思いなど。そこはどんなきっかけでもいいと思っていますし、やりたいという気持ちを大事にしていただきたいと思います。リーマンサットで経験できること、達成できることが存在するのは保証します。参加と活動を通して『自分はこれをやるためにここに来た』と感じてもらえればと思っています」

リーマンサットが取り組んでいるのは「多機能超小型人工衛星の開発」です。もともとは東京大学と東京工業大学が開発した「キューブサット」と呼ばれる人工衛星で、リーマンサットでは「零号機RSP-00」と名付けています。サイズは超小型衛星のなかでも一番小さい1U(10cm×10cm×11.35cm)で、重さは1.33kg。RSP-00のミッションは、以下の3つです。

  • 宇宙ポスト(全国で募集している「願いごと」をデータ化して宇宙に届ける。人工衛星の周回中にはメッセージを音声で地球に配信。制御落下時に流れ星となる)
  • 地球撮り(衛星搭載のカメラで地球を撮影し、画像データを送信)
  • バス機能(新型無線機)実証

ミッション期間は100日~250日程度を想定しており、2018年後半に国際宇宙ステーション「きぼう」からの放出を予定しています。

人工衛星の開発内容は大変多岐にわたります。ミッションである宇宙ポストのデータ処理については、Raspberry Piを使用して音声メッセージを読み上げるプログラムをPythonで作成。衛星の運用に関する命令もPythonで処理します。また、姿勢制御や電源など衛星の運用に関わる情報をまとめ、地上局との送受信ができるデータにするためのプログラムをC言語で作成。その他にも、磁力によって衛星の姿勢を制御するためのシミュレーションや太陽電池で電源を確保するための回路設計、打ち上げの加速や振動、過酷な気温差に耐えながら熱を処理する筐体の作成など、行わなければいけないことはさまざまです。

リーマンサット・プロジェクト定例ミーティング

零号機RSP-00に搭載されているのは、一部を除いてごく一般的な部品ばかりです。マイコン用のカメラ、Arduino、Raspberry Pi、PIC、SDカード、市販のリチウムイオン電池などを、宇宙での使用に耐えうるかどうかきちんと選定したうえで使っています。

これらの開発に携わっているのは、直接宇宙に関連する仕事をしていない人々です。それぞれが本業や趣味の知識や特技を生かしながらプロジェクトを進めています。

大谷さん

定例ミーティングで新規参加者に向けて説明をした大谷和敬さんに、「趣味は宇宙開発」とうたうプロジェクトを始めたきっかけについて伺いました。

「もともと宇宙が好きな3人で、誰にでもできて楽しめるような何かをやりたいと思っていました。宇宙が好きなメンバーだけが集まるとどうしても内輪で固まるようになってしまう。そこで、別の視点も入れたいと思い、特に宇宙が好きというわけではない知り合い2人にも声をかけました」

しかし、最初から人工衛星の開発をやるとは決めていなかったそうです。

「何をしようか、5人でいろいろ話したんですが、そのなかのひとりが『今は秋葉原で部品を買い集めれば小型衛星が作れる。サラリーマンでも知識や経験を生かして開発ができるんじゃないか?』という感じになって(笑)。とはいえ5人では心許ないので、ちょうどその年の11月に開催された「Maker Faire Tokyo 2014」に出展してとりあえず仲間を集めようと。10人くらい集まれば何とかなるだろうと思っていたら、約30人が集まってしまって驚きました」

「誰にでもできる仕組み」を作り、少ない開発リソースを有効活用するプロジェクトマネジメント

リーマンサットのメンバーは、2017年11月現在で約180人とのこと。定例ミーティングには毎回50~60人ほどが参加しており、組織全体の運営を行う「運営部門」、実際に人工衛星の開発を進めていく「技術部」、リーマンサットの活動や理念を広めるためにイベント運営やメディア対応を行う「広報部」に分かれて活動しています。

リーマンサット・プロジェクト定例ミーティング

リーマンサットの目的は人工衛星の開発だけではありません。「身近なものの先にある宇宙開発を実現する」「一般の人に宇宙開発を身近に感じて興味を持ってもらう」ことも大きな目的です。また、世代や属性などを飛び越えた横断型のコミュニティやコミュニケーションを構築することも目指しています。

ミーティングは都内のコワーキングスペースなどを利用し、開発は江戸川区の町工場を活用させてもらう形で進めています。各種イベントへの出展やJAXAとの調整をすることも。もちろん「趣味」の活動なので、参加するかしないかはメンバーの自由です。

リーマンサット・プロジェクト定例ミーティング

しかし、あくまで「趣味」で取り組んでいる以上、メンバーが割けるリソースはどうしても限られてきます。

「誰でもできる宇宙開発を実現させようとすると、逆に『誰にでもできる仕組み』を作らないと機能しなくなります。どうしても1日当たりで割けるリソースが少ないため、各人が担当する範囲を明確にして、1人当たりの少ない余剰リソースを有効活用する必要があります。また、メンバーの出入りが多い分、メンバーの特性を生かした開発体制作りをしなければなりません。そこで、システムアーキテクチャを1カ所に集約し、開発情報をトップダウンで管理してリソースの把握・追加を行うことで、開発情報の喪失を極力防いでいきます」(プロジェクトマネージャー)

「趣味なので人件費が掛からない」という社会人サークルの特性を生かし、1人当たりの作業量・作業時間は少ないながらも、開発リソースの調整でカバー可能という強みを仕組み化しようとしています。

さらに、リーマンサットには「サードプレイスの構築」という側面もあります。

「生活の軸である職場と家庭以外にも、自分たちの抱えている課題や悩みをざっくばらんに話せる場所は必要です。リーマンサットを通じて、そのような『サードプレイス』が自分たちにとって欠かせないものだと分かってきました。日常の生活にある課題を抱えながらも、新しい挑戦を続けていける場所をみんなの力で創り続けていきたいと思っています」(大谷さん)

 

宇宙開発に携わるエンジニア、そのきっかけは?

リーマンサットに参画するエンジニアの鈴木さん、石川さんと、立ち上げメンバーの1人である庄子さんにお話を聞くことができました。多岐にわたる開発内容に、エンジニアはどのように関わっているのでしょうか。

庄子さん(左)、鈴木さん(中)、石川さん(右)
庄子さん(左)、鈴木さん(中)、石川さん(右)

──どのようなきっかけでリーマンサットと出会ったのか教えていただけますか。

石川さん(以下、石川) 私はメーカーに勤務しているんですが、参加当時の業務がひとりでずっと製品に向き合うというものだったので、みんなでわいわいするような開発がしたいと考えていました。「みんなでものづくりをする場」を探すためにMaker Faireに行ってみたところ、そもそもメンバーを募集していたのがリーマンサットしかなかったんです(笑)。

──考えていた通りのものづくりができていますか?

石川 好きなようにさせてくれますね。実は「宇宙」というテーマでなくてもよかったんです。他の宇宙関連の団体はだいたい学術的な方向性なのですが、うちの団体はあまり学術的なところには向かっていないんですね。他では取り組んでいないことをやりたかったので、ここでなら先頭を走れるんじゃないかと思いました。

──鈴木さんはいかがでしょうか。

鈴木さん(以下、鈴木) 学生時代に天文学を専攻していて、もともと宇宙に興味を持っていました。本業とは分野も技術も重なる部分がないのですが、エンジニアの勉強会でリーマンサットに既に参加していた人とたまたま同じテーブルになって、そこで誘ってもらったことが参加のきっかけです。

──庄子さんは立ち上げメンバーのうちのおひとりですが、どのように関わられたのでしょう。

庄子さん(以下、庄子) 実は私、宇宙にまったく興味はないんです。なぜ参加しているかというと単純に「おもしろそうだから」というだけですね。宇宙に関わることについて、世間一般ではとてもハードルが高いと思われているようなんですが、実際は秋葉原にパーツを買いに行ったらできる。そのギャップというか、常識を覆せるというところがなんだか楽しいなって。

──興味はないけど乗った!という感じなんですね。

庄子 新しい場を作ることに興味があります。私にとっては、宇宙開発に参加しているというより、宇宙というおもしろい素材を料理している感覚です。

広報部の分科会の様子
広報部の分科会の様子

──宇宙に直接興味はない方でも活動を楽しんでいらっしゃるのでしょうか。

庄子 Maker Faireなどでの展示で「僕も宇宙やりたいです!」と参加してくれる方もいますが、メンバーが知人に声をかけて「よく分からないけど楽しそうだから行く」と参加する場合も最近は増えています。

──仕事などの都合で人手が足りないときもあるかと思いますが、その際はどうされていますか?

石川 チームのリーダー自らががんばるしかないですかね(笑)。慢性的に人員が足りていないので、リーダー間だけではなく、みんなで協力し合っています。基本的に上下関係がない組織ですので。

庄子 リーマンサットの大前提は「趣味の団体である」ことなんです。「来月は仕事が忙しくなる」「子供の調子が悪い」などの個別の事情は、ある意味必然だと思っています。去る者追わず、来る者拒まずです。仕事が落ち着いたからまた参加したいという場合は「どうぞどうぞ」って。

──維持していくのは大変なんですね。

庄子 正直に言うと維持を意識しているつもりはなくて、最初から今まで「楽しいことをやっていたら勝手に人が集まってきた」で成り立っていると思います。始めた当初はこんな規模になるなんて予測していませんでしたが、「どうすれば楽しいことを続けられるのか」についてはずっと考えています。

 

エンジニアが宇宙開発で使う技術、エンジニアにとってのサードプレイス

──リーマンサットでエンジニアの方が果たす役割について教えてください。

石川 僕はカメラで写真を撮る部分、音声合成をしてそれを配信する部分を担当しています。Raspberry Piと、テキストデータを入力すると音声データを返してくれるソフトウェア「Open JTalk」を使い、Pythonで開発を進めています。仕事ではC言語を使っていますが、少しPythonを触ったことがあったのでハードルは高くありませんでした。その他には通信のフォーマットやプロトコルをどうするのか、その選定のために勉強をするところから始めるとか。

ミッション系で使っているRaspberry Pi
ミッション系で使っているRaspberry Pi

鈴木 僕は人工衛星の運用が開始された後に地上局と通信する際の、地上局側のシステムを担当しています。宇宙ポストのデータやさまざまなセンサーのハウスキーピングデータなどを人工衛星から受け取って、どのようにサーバー上にアップロードするのかなどですね。地上局だけでも技術的な幅が広くて、サーバー周り、インフラ、Webアプリの開発もやっているし、それとは別にWordPressを使って技術情報を公開するサイトを作ったり……。

鈴木さんと石川さん

──相当幅広く担当されているんですね。

鈴木 仕事でもそういう役回りになることが多かったので、その知識や経験を流用できています。今はチームとしては実働ひとり……かな?

──ひとり! 「こんな人にぜひ参加してほしい」という人はどんな人ですか?

鈴木 技術面ではソフトウェア関係の人にぜひ入っていただきたいです。組み込み系でもWeb系でも誰でもウェルカムです。論理的な思考力には慣れていると思いますし、使う道具が変わるだけです。

──本業とは違う「サードプレイス」を持つことの意義についてお聞かせください。

石川 僕の場合は周りにほぼ同じような仕事をしている人しかいなくて、あまり人が辞めることもないし、部署の異動もそんなにないんです。でも、リーマンサットには多種多様な人がいるんですね。営業もいれば、事務やマーケティング、芸能マネージャー、看護師……。しかも、半分くらいは転職経験がある人で。極論で言えば「会社が倒産してもなんとかなる」という安心感ができました。

──鈴木さんの場合はいかがでしょうか。

鈴木 エンジニアには技術そのものが好きな人が多いんですが、「その技術を使って何を作ろう?」ということが思いつかない人も多い。自分自身もそうでした。リーマンサットのなかには「こういうものを作る」という土台が散らばっています。そのなかから自分がやりたいものに取り組む。それが本業との気分転換にもなっています。本業では好き勝手に新しい技術を取り入れまくることはできませんが、リーマンサットなら新しい技術を試そうとすると「どうぞどうぞ」と言われます。

──「宇宙に興味のない」庄子さんはどのようにお考えですか?

庄子さん

庄子 自分の場合は仕事内容とリーマンサットはまったく関係ないですが、相互作用がとても大きいですね。「会社で起こる問題がリーマンサットで起こったらどうすればいいだろう」ということについてメンバーと話し合って、それを会社にも持ち帰る、というふうに。本業とは地続きのようなもので、いい循環が作れていると思っています。また、これまでは会社での人間関係が壊れたら終わりだなんて思っていたんですが、「好き勝手なことを言っても受け入れてくれる人がいるんだ」と感じられる場所が他にあるのはとても心強いことです。

──これからリーマンサットへの参加を考える人に向けて伝えたいことを教えてください。

庄子 参加メンバーの目的や価値観は千差万別ですが、「チームで何かをやりたい」「他の人を尊重しながらものを作りたい」という人が定着しやすい。例えば、個人で何かをしようとして残念ながらうまくいかなかった人には向いていると思います! ひとりでどうにもならないと感じた時でも、いろいろな人からの手助けがあります。「こんなことやったことなかったのにできた、だったらもっとできるかもしれない」という方が増えてくれたらいいなと思っています。

 それから「無理をしないこと」「やりたいときにやる」がとってもとっても大事です。リーマンサットの活動は「趣味」なので!

定例ミーティングのラスト、懇親会の様子
定例ミーティングのラスト、懇親会の様子

* * *

今後の展望として、リーマンサットではメンバーを1,000人程度まで増やしたいと考えているそうです。市民や地方自治体などで衛星を作る動きが広がっているため、メンバーが増えたら全国各地で同様に人工衛星を打ち上げることも視野に入れたいといいます。資金については「広報部」で、クラウドファンディングサービスなどを利用したりメディアを運営したりと、さまざまな方面で取り組みを行っているとのこと。

「普通の人が集まって宇宙開発しよう」を合い言葉に活動するリーマンサットは、エンジニアにとって「サードプレイスを作る」「新しい技術にチャレンジする」という観点で、これまでとは違う角度から自分の技術を捉え直すきっかけになり得るのかもしれません。

懇親会でビールとピザを囲んでの一コマ
懇親会でビールとピザを囲んでの一コマ

 

執筆者プロフィール

飯田 桃江(いいだ ももえ)

飯田桃江

ライター/エディター。働き方やキャリア、女性の生き方、テクノロジーにまつわる取材・執筆を行う。インターネット歴は20年ほど。

 

 

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