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左:父・健一さん(55歳)食品メーカー管理職
右:娘・彩香さん(23歳)就活中の学生
「何をやりたいか」より「どうなりたいか」で仕事を選ぶ
父:今、就活で不安に思っていることはある?
娘:うん、一番は行きたい会社を絞り切れないことかな。いろいろな説明会に行く度にどこも良く見えてしまって、実は業界も絞り切れていない。正直、同じ会社で働き続けたいと絶対に思っているわけではないけど、どこを見て会社を選べばいいのかわからなくて……。
父:彩香が働く会社なんだから、彩香がやりたいことをやったらいいと思うけどな。
娘:それがわかんないんだって! 人事担当者は「風通しの良い会社です」とか「上下関係はありません」とか、良いことしか言わないからどこも良さそうな気がして、決めきれないよ。
父:まぁ、人事担当者なんて、良い人を採るために会社を良く言うのが仕事だからね(笑)。魚屋がとりあえず「活きの良いの、入ってるよ!」って言うのと同じで。
娘:じゃあ、どうやって入りたい会社を見つければいいの? どこかの会社に決めたって、例えば「上司が最悪」とか「やりたい仕事をさせてもらえない」なんてこともあり得るでしょ。そしたら何年かを棒に振っちゃう。
父:不安はわかるけど、そればっかりは入ってみないとわからないからねぇ。彩香がその会社に入って、転職するまでにどうなりたいかを考えてみると良いんじゃない?
娘:その会社に入って転職するまでにどうなりたいか?
父:うん。会社は組織である以上、人間関係にしても、業務内容にしても、個人の思い通りにはならないものなんだ。それでも「これだけは成し遂げたい」という目標があれば、ある程度は折れずに頑張れるはずだよ。
娘:「これだけは成し遂げたい」っていう目標……。確かに、「何をやりたいか」ばっかり考えていたから、「どうなりたいか」は考えていなかったな。私、いつかフリーのライターになりたいから、文章力や企画力を身につけたい。
父:彩香はライターになりたいのか! じゃあ、そのために「何をやりたいか」を考えて仕事を選ぶといいかもしれないね。
娘:ありがとう。じゃあ逆に、お父さんはどんな部下に入ってきてほしい?
父:積極性がある子と、あとは話題性のある子かなぁ。上司は部下とコミュニケーションをとりたいって思っているんだけど、とっかかりがなくて。ましてや、パワハラ、セクハラとうるさい時代だから、こっちから飲みに誘うことも少なくなっちゃった。それに、若い子はビール飲まないしねぇ。
娘:若い子だってビール飲むよ! そういう決めつけが良くないんじゃない?
父:お、そんなに息を弾ませて怒ったら、オランウータンみたいだぞ。
娘:……社会人になったら、お父さんみたいな上司がつまらないことを言っても笑ってあげなきゃいけないんだよね。大変だなぁ(笑)。
勤続33年! 父が同じ会社で働き続ける理由
娘:じゃあ、お父さんはどうして今の会社に入ったの?
父:実は「理系のスキルが活かせる」ことと、当時は北海道に住んでみたくて「北海道に支社ができる」ことだけで今の会社に入ったんだよね(笑)。
娘:そんな簡単な理由で決めちゃったの!? 就活はどうやってしていたの?
父:受けたのは今の会社だけ。インターネットで就活するような時代でもないから、大学の学生課で紹介してもらえる中で、気に入った会社を受けて、受かったからそのまま就活終了。
娘:私は20社くらいだけど、友だちにはもっとエントリーしてる子もいるみたいだよ。
父:うーん。何十社もエントリーしたって、入れるのは1社だしね。とは言っても、希望した会社に入れるとは限らないから広く浅くやらなきゃいけないし、就活はすごく大変になったと思う。でも、入った会社で長く続けるのも大変だけどね。
娘:お父さんは勤続何年だっけ?
父:33年だね。新卒で働き始めて、ずーっと同じ会社。
娘:33年! 同じ会社で33年も働き続けるなんて、考えられないな……。どうしてそんなに長いの?
父:お父さんは会社と人に恵まれたからラッキーだった。その時々で辛いことはあったのかもしれないけど、振り返れば全部良い思い出と言えるね。あとは家族、特にお母さんの存在が大きかった。
娘:お母さんのどんなところに助けられたの?
父:北海道に赴任したときに、毎週のように会社の人を家に招いていたんだけど、嫌な顔1つせず料理を作って、お客さんをもてなしてくれたんだ。あとは専業主婦としてずっと家にいてくれる安心感があったと思うけど、これは今の時代にはちょっと合わないかな。あとは、子どもたちの存在も大きいよ。
娘:私たちに支えられたってこと?(笑)
父:支えられたわけじゃないかもしれないんだけど、仕事で多少は嫌なことがあっても、「子どもたちがいるから自分が倒れるわけにはいかない」という意識で踏ん張れたのはあるよ。だから、支えられたっていうより、持ちつ持たれつかな。
娘:せっかくいい話なのに、見栄っ張りなんだから(笑)。
「仕事以外のやりたいこと」をするために、仕事をしたっていい
娘:あーあ、私にはどんな仕事が向いているんだろう。
父:正直、自分の娘が働くイメージがあんまり湧かないんだよね。嫁に出すイメージが湧かないのと同じで。でも、小さい頃からどんどん外に出ていく子だったから、中に閉じこもっているよりも、外向きの仕事のほうが良いのかもしれないなとは思うよ。
娘:確かにずっと社内業務ばかりやっているような仕事だと、煮詰まっちゃうかもしれない。ちなみに、お父さんは私にどこの会社に入ってほしいとか、ある?
父:彩香の仕事に、お父さんの希望なんて一切ないよ。心配もしてない。もちろん親としては安定した仕事をして幸せになってほしいのは正直なところだけど、本当にやりたいことを、後悔のないようにやってほしい。
娘:一周回って戻って来ちゃった(笑)。本当にやりたいこと……きちんと見極めなきゃなぁ……。
父:仕事以外の趣味でも良いんだよ。お父さんはやりたいことを浅く広く全部やったから後悔はないつもりだけど、60歳からではできないこともあるからね。仕事はもちろん大事だけど、仕事だけで人生を終えるのはもったいない。若いうちに、やりたいことを何でもやってほしい。そのために仕事をする、と考えたっていいんだ。
娘:お父さんは私に理解があるよね(笑)。大学受験で2浪することになっても、何も言わないで家に置いてくれたくらいだし。
父:子どもがやりたいことを応援するのが親だからね。
娘:今は想像がつかないけど、私も家庭を持ったらそんな風に意識が変わるのかな。
こうして娘から父へのOB訪問は終了した。社会人の父と向き合って話す機会はこれまでそうそうなかったため、彩香さんにとっても新鮮な体験となったようだ。
仕事を続けていると、「何でこの仕事を選んだのか」「そもそもどうして働いているのか」と自問自答してしまうこともあるだろう。人生における目標や、家族、趣味などその理由はさまざまだが、悩んだ時は身近な理解者と膝を突き合わせて語り合うのもよさそうだ。
(佐々木ののか+ノオト)
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