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塚田農場がアルバイト研修にVRを導入 その狙いやコストは?

塚田農場がアルバイト研修にVRを導入 その狙いやコストは?

居酒屋チェーン「塚田農場」では、アルバイト研修にVR(virtual reality:仮想現実)を導入した。同社によると、アルバイト研修用にVRを製作したのは国内初ではないかという。

 

研修といえば、ビデオ研修のようにスタッフ全員に同じ映像を見せるのが一般的だろう。わざわざ研修内容をVRにするメリットはあるのだろうか? 相当なコストがかかるのでは? VR研修を導入するに至った経緯について、「塚田農場」を運営するエー・ピーカンパニーを訪問。実際にVR体験をさせてもらい、そのメリットを探ってきた。

 

アルバイトスタッフが生産過程を「リアル」に感じることができる

 

取材に応対してくれたのは、実際に現地でVR用動画の撮影にも立ち会ったという、広報担当の彦坂真依子さん。まずは、VR導入の背景について質問してみた。

 

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VR導入の経緯を語る広報担当の彦坂真依子さん

 

「塚田農場は、宮崎県などにある直営または契約養鶏場から地鶏を直接仕入れることで、リーズナブルで高品質な鶏肉を提供しています。弊社では研修を重視し、社員は基本的に全員産地へ実地研修に行ける制度を設けています。また、社員だけではなく社内コンペで優勝した店舗のアルバイトスタッフも優勝商品として生産現場を体験してもらっています。そこで課題だったのが、全員が現地へ行くのはコスト面で非現実的ということでした」

 

一部のメンバーだけでなくすべてのアルバイトスタッフに、どうやって食材が店舗に届けられているのかを体験してもらいたい、そんな思いが今回のVR研修を始めたきっかけだ。

 

「店舗でお客さまの一番近くにいるのは、接客や調理をするアルバイトスタッフのみなさんです。ですから、料理を提供するうえで食材のことを十分に理解している必要があります。店舗にパックされた状態で届く肉がどのように加工されたのか、VRによってリアルに近い形で仮想体験してもらえればと思いました」

 

VRで現地の様子を疑似体験すれば、他人事ではなく自分事に近づけることができるだろう。2Dの動画に比べてVRのほうが感情移入でき、気づきが得られやすいのでは? という仮説があったという。

 

「弊社の地鶏がおいしい理由の一つが“放血”と呼んでいる過程です。ヒナから成長した地鶏が、丁寧な手作業によって高い品質を保つ血抜きを経て、食べ物になる瞬間までをVRで見届けてもらいます。決してこの過程のリアルさを直接お客さまに伝えるのが目的ではなく、料理のご提供時に、『おいしいタイミング・状態で食べて欲しい』という生産者や私たちの願いを込めてもらえることを期待しています」

 

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 ヘッドセットの向きを変えてみる筆者

 

はたしてどんな映像を体験できるのだろうか。今回の取材で、筆者もVR研修を体験させてもらうことになった。実際の研修では、すべてがVRというわけではなく、座学と2D映像も組み合わせになるそうだ。10分以上見ていると酔う方も出てきてしまうという配慮から、VR研修は5~8分ほどの内容を計3本としている。

 

●1本目「聖域編:日南雛センター」

 

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養鶏場のなかでヒナが孵化する瞬間をVR体験できる。養鶏場は地鶏が卵から誕生する施設で、厳重に管理され、人が立ち入れないような人里離れた場所にある。2時間半の間に、約7000羽分のワクチンを次々と打っていく様子も。

 

●2本目「養鶏編:阿萬農場」

 

養鶏場でヒナが育つ段階を間近で観察。鶏舎の中にいる感覚をVR体験できる。

 

●3本目「処理加工編:日南処理センター」

 

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地鶏を食材へ加工する様子をVRで体験。放血(血抜き)し、肉に臭みが残らない新鮮な加工肉の状態にするために必要な工程だが、処理のシーンは衝撃的。普段なかなか見ることができない、食材に変わる瞬間を見ることで、毎日養鶏場で仕事をしている人への理解にもつながるという。

 

VR研修の気になるコスト面は?

 

研修ビデオをわざわざVRにすることに当初は懐疑的だった筆者だが、2Dとは違い、頭の向きを向けることで自分が能動的に見ている感覚になるメリットを感じた。自分の動きと視界が連動するので、思わず見たい方を向きたくなる。業務用ゲームVRほどのクオリティには及ばないが、映像に包まれているような没入感だ。

 

養鶏場の方も、最初は「VRってなに?」と訝し気だったそうだが、撮影の意図を説明すると「ここはヒナが集まっている場所だから、この位置から撮るといいよ」など、積極的に協力してもらったという。しかしこれだけ手間をかけていると、やはり気になるのはその導入コスト。総額でどれくらいかかっているのだろうか。

 

「撮影のロケ費用やVRのヘッドセット代など、トータルで約数百万円の制作費です。ヘッドセットの価格は1万円以内で、レンズだけのものを使用しています。映像はYouTube上の会員専用チャンネルから見ることができ、ヘッドセットにスマホを装着して再生するだけでVRを体験できます」

 

実際に店舗でどれくらい効果を得られたのか、効果測定はこれから行っていくそうだ。現時点での課題はあるのだろうか。

 

「YouTubeで動画を再生するので、電波状況やアップデート、各々が持っている機種のバージョンやOSに依存してしまい、再現性のハードルが高いことが課題ですね。また、内容によっては気分が悪くなってしまう方もいます。無理に続けて見させることはしませんが、そうすると研修体験に偏りが出てしまうのも課題です」

 

現在は東京本社のセミナールームで研修を行っているが、いずれはVRのゴーグルを各店に設置する予定。全国の約200店舗を7エリアに分けて、各中心店舗に複数台常設を目指しているのだとか。

 

現場の温度や匂いまでは感じられないとはいえ、VRを使うことで多くのスタッフが同じような疑似体験ができ、共通感覚を持つことができる。アルバイトスタッフ全員の現地への旅費代などを考えても、VR研修はかなりのコストカットにつながっているようだ。VRが研修やオフィスで今後さらに普及するのも遠い未来ではないのかもしれない。

 

(文・取材:山岸裕一 編集:ノオト)

 

 

取材協力:エー・ピーカンパニー

2001年10月設立。みやざき地頭鶏専門居酒屋「塚田農場」をはじめ、「四十八漁場」「芝浦食肉」など、国内に約200店舗をはじめアジアを中心に海外にも展開。“食のあるべき姿を追求する”をミッションに、地鶏の生産、加工、販売を一気通貫した「6次産業」モデルを実現。

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