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判断に迷ったらどう選ぶ? 北極冒険家・荻田泰永さんに聞いた不安な道の進み方

判断に迷ったらどう選ぶ? 北極冒険家・荻田泰永さんに聞いた不安な道の進み方

仕事には、決断力や判断力が必要だ。しかし、先行きが見えない昨今、漠然とした不安を抱くビジネスパーソンもいるだろう。

 

2000年に大学を中退し、それから毎年のように北極を冒険している荻田泰永さん。極寒の地で命懸けの冒険を続けていれば、生死を分けるような重要な判断を刻一刻と繰り返しているはず。大自然という不安定な環境の中で、どのように決断・判断をしているのかを聞いた。

 

決断力がないからこそ、人の企画に乗っかっただけ

 

――北極冒険を始めたきっかけは、冒険家・大場満郎さん主催の「北磁極700km徒歩冒険行」への参加だったそうですね。なぜ北極へ行こうと思ったのですか?

 

大学を3年で中退してやることもなくフラフラしていたときに、たまたまテレビで番組を見て、そのイベントを知りました。

 

――北極という地に惹かれたのでしょうか?

 

いえ、北極に対して特別強い興味があったわけではなく、有り余る全エネルギーを何かに集中させてみたかったんです。当時は「絶対に何かできる」と、根拠のない自信を胸に参加しました。自分には決断力がありませんから。

 

――決断力がない……ですか……? かなり大きな決断のように思えますが。

 

決断なんかしてないですよ。自分で決められなくて行動力がないからこそ、人の敷いたレールに乗っかっただけです。そのイベントでは、それまで生きてきた約20年間の狭い世界から一気に飛び出しました。出会うはずのなかった人に出会い、行くはずのない道を行き、触れたことのないことに触れて、ただただ、感動しましたね。

 

なので、帰国したときに「自分にものすごい変化が起きるのでは」と期待していたんですよ。でも、何も変わっていませんでした。抜け場のないエネルギーだけが残って、いつもの日常に戻っただけで。そのエネルギーを次に向けるため、「それならもう一度一人で北極へ行ってみよう」と思いました。それも決断ではなく、他の知らない土地はわからないし怖い、という消極的な理由から北極を目指しただけなんです。

 

――それから約20年間冒険を続けて、ホッキョクグマに遭遇したり、ブリザードに見舞われたりと、何度も危険な場面に遭遇されています。「決断したことがない」とはいえ、選択が必要な場面はたくさんあったのではないでしょうか。

 

そうですね。それでいうと、“判断”を迫られる局面はたくさんあります。初めてホッキョクグマに遭遇したときは、どうしていいかわからず怖かったです。しかし何度も出遭っていくと、クマの歩き方や表情がわかってくるので、そうすれば怖がる必要はもうありません。判断力は場数を踏むことで情報が増えてきますから。経験に勝るものはないと思います。

 

――なるほど。決断力と違って、判断力は培っていけるものなのですね。本を読んで得た知識などは役立ちましたか?

 

もちろんです。僕の場合、冒険家の探検記を読んだり、気温や雪質など自然科学の知識を得たりしましたから。判断力を養うのには、経験に加えて知識や知恵も大事です。

 

――そうした知識をもってしても、進むべき道の判断に迷うことはあると?

 

進路に迷うことはありません。自然は嘘をつきませんから。ただ、それでも判断には迷う場合がありますよ。そういうときのために、自分で判断基準を持っておくことが大切です。僕は次の順に決めています。

 

  1. 死なないこと。安全に戻れることが第一
  2. どう目的地にたどり着くか、方法が大事。せっかく来ているのに中途半端はもったいない
  3. 目的地にたどり着くこと

 

目的地にたどり着くことよりもそのプロセス、何をやるかよりどうやるかが重要ですから。難しいことをやらないとおもしろくないんですよ。

 

――仕事の進め方も荻田さんのように、判断基準を持って進めると、悩む時間がなくなっていいのかもしれませんね。荻田さんは世界で成し得た人がまだ2人しかいない単独無補給徒歩での北磁極到達へ挑んでいます。『目的地への到達』か『方法』、どちらを選ぶか判断に迷った場面はありますか?

 

うーん、そうですね……。あれは2014年、2回目の北極点を目指していた48日目のことです。止めるかどうか、今までで一番考えました。ブリザードに足止めを食らったことで食料が足りなくなってきたんですよね。目的地まで残り17日かかる計算で、毎日相当切り詰めれば到達可能なところにはいたんですけど、捻出はなかなか難しい状況でした。

 

リスクを覚悟で進むのか、退くか。でも、無理やり這うようにたまたまゴールするのは自分の意図しない方法なんです。なので、状況を読みきれなかったのは自分の能力不足と考えました。余裕の状態でゴールできないのは不満が残るので、それでは嬉しくないと。

 

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危険は確率論。自分の判断力がつくことで低減させていくことができる

 

――それで引き返す判断をしたんですね。しかしそういった過酷な環境の中で、不安になることはありませんか?

 

たとえば、ブリザードに遭遇するかどうかについて、その発生頻度自体は自分でコントロールできませんが、太陽光のあたり方やメカニズムを熟知していれば、足を踏み入れるべきかどうかの判断はできます。不安定な環境は変えられなくとも知識や知恵、経験を積んでいけば、リスクに遭遇する確率を下げて危険の量をコントロールできるようにはなりますから。

 

――なるほど。知識や知恵と経験から判断するのは、冒険家だけではなく、ビジネスパーソンにも共通する考え方ともいえますね。最後に、新しいことへ挑戦すべきか、選択の判断に迷っているビジネスパーソンにアドバイスをお願いできますか?

 

迷うくらいならやめた方がいいのではないでしょうか。確かに自分も北極に行く前は、迷っていました。でも、それは何をやればいいのかを迷っていたわけで、ある程度気になる道があるなら飛び込んだほうがいい。

 

もし、ある程度方向が決まっているのに迷っているなら、それは本当にやりたいことではないのかもしれません。それを確認する意味でも、やらざるを得ない状態に、もっと自分を追い込んでみてはいかがでしょう? 今動かないと明日死ぬというくらいまでになれば、もう迷っている暇はないはずですよ。そうなれば、僕のようにエネルギーは走り出しますから。

 

(文・取材:山岸裕一 編集:ノオト)

取材協力:荻田泰永

北極冒険家。2000年よりカナダ北極圏やグリーンランドを中心に主に徒歩による冒険を行う。2017年までの18年間に15回の北極行を経験し、北極圏9000km以上を冒険。北極冒険の最高難度である北極点無補給単独徒歩到達に2012年から挑戦。 著書に「北極男」講談社。国内では夏休みに小学生達と160kmをキャンプしながら踏破する「100milesAdventure」を主催。極地研究の科学者たちとも交流があり、共同研究も実施。北極にまつわる多方面で活動。

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