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仕事で経験やスキルを磨くためには、ある程度の我慢や苦労は避けられないのかもしれない。しかし、仕事に全くと言っていいほど面白さや楽しさ、やりがいを感じられない場合は、少し立ち止まって考える時間を設けるのがよいだろう。
今回は世界最高峰の羊革「エチオピアシープスキン」を使った、ラグジュアリーなレザーブランド・andu
ametを立ち上げた代表の鮫島弘子さんにインタビューを行った。鮫島さんは大学卒業後、国内メーカーにデザイナーとして勤務。その後会社を辞めて、青年海外協力隊の一員としてエチオピアへ。現地で最高品質のエチオピアシープスキンが安く買い叩かれ、そのまま輸出されていることを知り、エチオピア国内で最終加工品を作り、技術と資本をこの国に残すことはできないかと会社を立ち上げたという。
「使う人も作る人も、手にするすべての人を笑顔に」というコンセプトで事業を行っているが、鮫島さんご自身も笑顔が素敵で、生き生きと働いているのが伝わってくる方だ。エチオピアで活躍する鮫島さんに、心を豊かにしながら働くコツや、幸せになるための働き方をお伺いした。
初めて入った会社を辞めて青年海外協力隊員としてエチオピアに行った時と、外資系企業を辞めて起業した時では、年齢や経験も違うし、やりたいことの明確さも違うのですが、どちらについても不安やためらいはなかったですね。もちろん不安はゼロではなかったのですが、「やりたい」という気持ちの方がすごく強かったので。私は本当にやりたいことなら、実現できないことはないと思っています。
みなさんが言う不安やリスクって、おそらく「うまくいかないときに、取り返しがつかなくなるんじゃないか」ですよね。だけど、もしうまくいかなかったら、別の仕事をしたり、もう一回挑戦したりすればいいだけのこと。私が青年海外協力隊に参加したときや起業したときも、もちろんうまくいかなくなる可能性は考えました。でも「ダメだったら新しいことをやればいいかな」くらいに考えていました。
それよりも私は、人生という限られた時間のなかで、やりたくないことを続けることの方がよっぽどリスクだと思います。人生のなかで仕事をしている時間の割合って大きいですよね。人生の大きな割合を占めるからこそ、仕事が楽しくないことは大きなリスク。やりたいことが明確にある場合は、もちろんリスクがあったとしても進むべきですし、やりたいことがまだ見つかっていない場合でも、失敗を恐れずに何かしらの行動を起こした方が人生のリスクヘッジになるのではないでしょうか。
「失敗を恐れないね」とよく人から言われますが、「失敗を恐れていない」というよりも「失敗なんか絶対するものだから、失敗しちゃいけないことなんてない」という風に考えています。「こうあるべき」「こうじゃなきゃいけない」っていう意識は人より薄いのかもしれません。
「人は他人に迷惑をかける生き物。自分の迷惑を受け入れてもらう代わりに他人の迷惑も許して受け入れる」という、エチオピアの人たちの価値観に触れた影響は大きいでしょうね。日本の社会って、「人に迷惑をかけちゃいけない」「こうじゃなきゃいけない」という意識が異様に強いですから。でもそれって自分の首も絞めているし、他人の首も絞めている。誰も幸せにならない考え方ではないでしょうか。だって、どんなにがんばっても、人は生まれた瞬間から死ぬまで、誰にも迷惑をかけずに生きていくことなんて絶対にできないんですよ。それを受け入れて、他人の迷惑も笑顔で許してあげる。これはエチオピアの人たちが教えてくれた、幸せに生きるための大切なヒントだと思います。
これまで残業の多い職場で働くことが多かったですが、それ自体を辛いと感じたことはあまりありません。それよりも自分の信念や理念、美学と合わないことをすることがストレスでした。起業したいまは、自分の信じることを仕事にできるようになったので、その点では幸せですね。
仕事において疑問や疑念が浮かんだとき、要領よく前に進める人と、そこで立ち止まってしまう要領の悪い人間がいるとしたら、私は後者なんです。考えすぎてがんじがらめになってしまい、前に進めない自分がずっと嫌でした。「こんなところで足止めを食っていないで、仕事と割り切って、結果を出すことに集中できたら、どんなに人生は楽なんだろう」って。
それができなかったからこそ、いまの仕事にたどり着いたのだと思いますが、その葛藤に苛まれていた会社員時代は、自分の面倒くさく要領の悪い性格がすごく嫌いだったし、辛かったです。結果的にいまは自分に合った働き方ができて、楽しく働けていますが、そうなりたかったからというよりも、自然とそうなってしまったという感じかもしれません。
私もいきなり起業をしたわけではなくて、実はプロボノ【※】という専門知識や技能を生かしてNPOやスタートアップに参加する社会人ボランティアを、本業と並行して数年行っていました。というのも、想定していたビジネスモデルが自分で実現できるかどうか、それを実現することがどれだけ大変で、どれだけ世の中にとって価値のある仕事なのかがわからなかったからです。
【※】「プロボノ」とは、ラテン語の“pro bono publico”(公共善のために)の略で、社会人が仕事を通じて培った知識やスキル、経験を活用して社会貢献するボランティア活動全般を指す言葉です。米国や英国の弁護士が始めた無料の法律相談が発端となって、他分野へ波及。近年は、企業が社員のプロボノ活動を組織的に後押しする動きも見られ、資金力や組織力に乏しいNPO(民間非営利団体)に、自社の人材を提供するといった形で実践の場が広がっています。[日本の人事部より引用]
中でも一番いまの仕事に役立っていると思うのは、途上国で作られた素材を使ったジュエリーブランドの立ち上げの手伝いをした経験ですね。プロボノの良い点はお金を払ってでも得たいスキルを得られることにあると思っていて、その時はデザインやブランディング、マーケティングなどさまざまな事業領域に携わらせてもらいました。ビジネススキルだけでなく、人とのネットワークも築くことができるので、人脈を得るためにお金を払ってネットワーキングパーティーに参加するよりもいいかもしれません。起業を考えている人だけでなく、未経験から異業種や異職種への転職を考えている人にもオススメです。
自分に求めるハードルも他人に求めるハードルも高くなると、結果として自分の首も他人の首も絞めてしまいますよね。でも、状況が変わるのをただ待っていても、一生幸せになれないと思います。放っておいたらどんどん仕事はしづらく、お金は得にくく、幸せも感じにくくなるかもしれない。だから、どこかのタイミングで思い切って、自分のマインドをセットしないといけないと思うんですよ。
確かにひとつのきっかけではありました。ただ必ずしも、海外へ行ったり、転職や独立したりする必要はないと思うんです。人はなぜ生きるかと言うと、働くためではなく、幸せになるためですよね。日本の社会にいると「幸せ」は「仕事」の二の次という考えに陥りがちですが、働いて仕事をするのは幸せになるためであって、この順番を間違えてはいけないと思います。いい学校に進学するため、いい会社に就職するためと、いつも「いま」を疎かにしてしまいがちですが、いま幸せであることが、本当は何よりも大切なこと。幸せは自分が作るものであって、「いまの自分が幸せになるために、自分は何ができるのか」という意識が大切だと思います。
「いま幸せか」「やりたいことをやれているか」「自分はどうなりたいのか」「そうなるためには、いま、何をすればいいのか」。自分を見つめ直して、できるアクションから始めてみてはいかがでしょうか。
私にとって仕事とは、自分が自分であると感じさせてくれるもの、そして生きているこの瞬間が幸せであると実感させてくれるものですね。仕事をしてきた瞬間の積み重ねがいまの自分の幸せに繋がっています。でもそれは、やっぱり私が20代〜30代前半くらいまですごく悩んだからで、悩まなかったらこの言葉は出てこなかったかもしれないですね。
仕事においてうれしいことって本当に一瞬で、大変なことの方がずっと多いんです。けれど、少しずつ大変も含めて楽しめるようになってきて。自分にしかできないことができたときとか、苦労したけれども何か期待以上のものができたときとか、苦労が本当に報われたときの達成感、そういう積み重ねがいまの幸せに繋がっています。
(文・取材:中森りほ 編集:松尾奈々絵/ノオト 撮影:藤原葉子)
取材協力:鮫島弘子さん
東京出身。国内メーカーでデザイナーとして働くなかで、安価な製品を短いサイクルで大量生産するものづくりのトレンドに疑問を感じるようになり、2002年にボランティアとしてアフリカへ渡る。エチオピアでファッションショーを企画開催、ガーナでフェアトレードプロジェクト立ち上げるなど、ファッションやデザインに関するプロジェクトに複数携わる。帰国後、外資系ラグジュアリーブランドのマーケティング担当を経て、2012年、株式会社andu ametを設立。世界最高峰の羊革エチオピアシープスキンを贅沢に使用したラグジュアリーなレザー製品の製造・販売を開始。2015年、日系企業としては3社目となる現地法人をエチオピアに設立。現在は、日本とエチオピアを往復する日々。
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