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ノートや伝言メモ、あて名書きなど、日常生活でさりげなく文字をきれいに書ける人にあこがれる。なぜなら、わたしの普段の文字はこんな感じだから。
ギリギリ読めなくはないはずだが、もしそのあたりにこのノートが捨てられていても「私がこの字を書きました」とは、名乗り出たくないレベルだ。大人っぽく、きれいな文字を書けるコツはあるのだろうか。
きれいな文字をさらっと書く秘訣を探るべく、『誰でも一瞬で字がうまくなる 大人のペン字練習帳』(アスコム)の著者・萩原季実子さんをお招きし、文字の書き方を直伝していただいた。はたして本当に一瞬で字が上手くなれるのだろうか。
萩原さんにさっそく文章を書いていただいた。まるで、教科書に載っているお手本だ。
そんな美文字の持ち主の萩原さんは、かつて広告代理店の営業職として働いていた。しかし、なかなか成績が上がらず苦戦の日々。そんなある日、企画書に手書きのメッセージを添えてFAXしたところ仕事に繋がり、それ以降は「手書き」が萩原さん独自の営業ツールとなっていく。さらに、副業としてペン字を教え始めると、これが想像以上に多忙となり、独立して書道・ペン字・筆ペンの教室をひらくまでに至った。
そもそも、字が下手な人はなぜ下手なのだろう? その原因のひとつは「文字をすべて四角く書くこと」だと萩原さんは説明する。
「手書きの文字、ましてやお手本を見ることって、大人になると少なくなりますよね。いまはパソコンとスマホの時代。そのため、みなさん無意識にデジタル文字を頭に覚えていて、それをお手本にして書こうとするため、文字をきれいに書けないんです」
確かに、デジタルでは、字もひらがなもカタカナもすべて同じ大きさで表示され、そこに大小や緩急はない。大人っぽくこなれた字を書くためには、まずは手書きのお手本を「見る」ことが重要なのだ。
「最近は『 #手書き 』とタグをつけて、手書きで書いたものをインスタグラムにアップするのが流行っています。漠然と『きれいな文字を書きたい』と思うのではなく『この人みたいな文字を書きたい』と、明確な目標を持っておくといいでしょう」
大人の世界で手書きを求められるといえば、やはり冠婚葬祭などフォーマルな場面においてだろう。いくら仕事ができても、そういった機会で字を上手に書けないのはいただけない。いざというときに「きれいに書けるんだ」と、自信をつけておくのが大切だ。そこで萩原さんに、きれいな文字を書くポイントを伝授いただいた。
1)ペンの入れ方に注意
「漢字、ひらがな、カタカナ、数字、アルファベット、クセのある文字を書く方は、それらすべてを同じように書くことが多いですね。書き始めから終わりまで、単調に線を書いてしまいがちです。そこで、まず漢字とカタカナは、文字の書きはじめに斜め45度の打ち込みを入れてみましょう」
たしかに、書道で最初に筆を置くようにぐっと打ち込みを入れると、一気に大人っぽい印象になる。一方、ひらがなや数字、アルファベットの場合は打ち込みを入れると、逆に子供っぽい印象を持たれやすくなる。
「特に数字とアルファベットは、書きはじめと書き終わりを、しっかりと止めるのがポイント。数字をシュッと書き終わってしまうと、数字の『7』なのかカタカナの『ク』なのか、わからなくなります」
2)漢字のコツは「一・二・三」「スキマを開ける」「四角は逆台形に」
「漢字を書くときに意識したいのはまずは横線。横線のほとんどは漢数字の『一』『二』『三』が含まれているため、それを意識すれば、バランスがとれた文字を書けるようになります」
一:弓なりに反る
二:一画目を上、二角目は弓なりに反る
三:一画目を上、二角目をまっすぐ、三角目を弓なりに反る
3)ひらがなのコツは、流れを意識
ひらがなは漢字と比べて画数が少なく、さらに難易度が上がる気がするが……。どうすれば、ひらがなを大人っぽく、上手に書けるのだろうか。
「ひらがなは、つながりを意識して書きましょう。たとえば『お』という字。まずは一筆書きで書いてみてください。続いていつも通り、離して書いてみましょう。常にそのようにつながりを意識すれば、バランスをとるのが難しいひらがなも、上手に書けるようになります」
いくつかコツを教えていただいたところで、実際に挑戦してみよう。
比較しやすいよう、まずはコツをお伺いする前に、人に渡すことを想定して私が書いた文字。
こちらが萩原さんに書いていただいたお手本。デスクにこんなきれいなふせんが届けられたら、すぐに折り返し電話をかけたくなるだろう。そして思わずふせんを保管してしまいそうだ。
ここでさらに、荻原さんに教わった道具に関する知識もまとめておきたい。私が最初に使ったペンは油性のボールペン。しかし、ふせんや封筒などに文字を書く際には、ゲルインクのボールペンにした方がいい。油性のボールペンは一定にインクが出ず、かすれてしまうことが多いからだ。また、打ち込みの筆圧をぐっと入れやすくするため、ソフト下敷きを使うかやわらかい紙の上で書くようにしよう。
ということで、道具をお借りし、お手本を見ながらさきほど教わったポイントを頭に入れて書いていく。ゆっくり丁寧に書こうとすると、自然と手が震えてきた……。
「文字を書くのも、実は筋トレと一緒です。いま手が震えるなら、文字を書くために必要な筋肉がないということ。正しい持ち方、正しい書き方になれていないと、最初は仕方ないんですよ」と荻原さん。小学生の書道の時間に戻った気持ちで、しっかりと丁寧に文字を書いていくと……。
なんとか書いた字がこちら。……いかがだろう。頑張って書いた感じは伝わるだろうか。
「すごい! 上手になりましたね」と、褒めてくれる萩原さん。お手本があるかないかによって、やはり文字は大きく変わるものなのだ。
ここからさらに上手に書くためには、どうしたらいいのだろうか。もっと速く、きれいに書けるようになりたいんです!
「速くきれいに書ける人は、遅くきれいに書ける人。つまり、まずはゆっくり、一日一文字からでも書くことです」と萩原さん。まずは、ゆっくりきれいに書けるようになれば、その積み重ねによって型が身につき、スピードアップしても正しい形を残したまま書けるというわけか。仕事と同じよう、横着せずにじっくりと技を身に付けるのが、一番の近道と言えそうだ。
(取材・文:松尾奈々絵/ノオト)
取材協力:萩原季実子さん
書道・ペン字・筆ペンの教室「my MOJI(まいもじ) 」を運営。会社員として8年間営業職として勤めたのち、2014年書道教室をスタート。昨年秋に出版した『誰でも一瞬で字がうまくなる 大人のペン字練習帳』(アスコム)は5万部を突破。
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