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ビジネスパーソンが分析力を身につける鍵は「天気」と「コンビニ」?――東洋経済新報社・編集委員田宮寛之さんが説く「世間の流れの読み方」

ビジネスパーソンが分析力を身につける鍵は「天気」と「コンビニ」?――東洋経済新報社・編集委員田宮寛之さんが説く「世間の流れの読み方」

日常生活を送りながらも、世の中の流れを自然に読み取る力は身につかないものか。それが、仕事もプライベートも多忙なビジネスパーソンの本音である。そこで今回は、日々の暮らしの中で「分析力」を身につける方法を、株式会社東洋経済新報社・編集局編集委員の田宮寛之さんに聞いた。

 

週刊東洋経済や東洋経済オンラインに記事を執筆する旁ら、『四季報』の解説本『「四季報」で勝つ就活』や、隠れた優良企業を見極める『新しいニッポンの業界地図 みんなが知らない超優良企業』などの本の執筆もしている田宮さん。どのように情報収集をしているのか伺ってみたところ、意外と身近なところからヒントを見つけていることが判明した。そのヒントの得方とは一体……?
 

 

「消費者目線」から「ビジネスパーソン目線」へ。目線を切り替えることで広がる世界とは?


―― 単刀直入にお聞きします。働きながら企業や社会を分析する力を養うには、何から始めれば良いのでしょうか。

 

田宮さん(以下、敬称略):やっぱり「興味を持つこと」ですよね。具体的には、「ビジネスパーソンの目線で興味を持つ」ということなんです。私は報道をする立場なので、正確にいえばビジネスパーソンではないですけれど、その目線で見ることを意識しています。例えば「どういった会社が儲かっているか」や、「自分だったらどんなビジネスをするか」といったような視点ですね。消費者の目線ではないんです。「自分が仕掛けていく目線」ですよね。

 

―― 二つの目線にはどんな違いがあるのでしょうか?

 

田宮:例えば、「天気」を題材にしてみますね。最近はゲリラ豪雨など天候不順が続いていますよね。そういった状況は誰でも情報として知っているはずです。その時に「雨は嫌だな」とだけ思ってしまうのが、消費者目線なんです。ビジネスパーソンの目線だと、「天気が悪いということは、『天気を予想したい』というニーズが発生する」と考え始めるんです。ということは、天気予報のビジネスが考えられるようになりますよね。

 

―― 不満を持った「その先」を考えるんですね。

 

田宮:そうですね。不便や不満は全てビジネスにつながりますから。ちなみに、「天気予報」をビジネスにしている株式会社ウェザーニューズという会社があります。あの会社は天気を観測して、その情報をテレビ局に売っていたりします。それを基にテレビ局は天気予報を作るんです。また、会社で抱えている気象予報士をテレビ局に派遣して、天気の解説をさせたりもしていますね。
 

「関連付け」で分析力は飛躍的にアップする


―― 消費者目線でいると、テレビの天気予報の情報を誰が売っているかなんて考えたことがありませんでした。

 

田宮:なかなか気付きにくいですよね。ちなみに、ビジネスパーソンの目線で興味を持ったら、今度は誰もが知っている大きなイベントとの関連付けをしていくと良いです。例えば、2019年はラグビーワールドカップがあって、その次の2020年には東京オリンピック・パラリンピックがありますよね。そうすると、私たちは天気に関心をより強く持つようになるんです。だから、「天気予報の会社や天気予報そのものは注目されるようになる」と考えることができますよね。

 

―― そういえば私もサッカーをしていたので、よく天気を気にしていました。

 

田宮:そうそう、消費者目線であれば普段から無意識のうちに関連付けをしているはずなんですよね。特別新しい情報を仕入れなくても、「観察」と「関連付け」で企業や社会を見ることはできるんです。そしてさらに広げていくこともできます。当然ですが、天気を予報するには専用の機器を使っていますよね。さすがに目では判断できません(笑)。

 

―― 未来のことは、目では判断できないですよね。

 

田宮:天気を予測するための温度や湿度を測る器具があるんですよね。天気予報の需要が増えてくれば、当然この器具を作っている会社の需要も伸びてくると考えることができます。もっと言えば、天候不順が続いたらけがや病気をする人も増えますから、救急車も増やす必要がありますよね。そこで、救急車を専門で作っている会社があるんです。救急車のエンジンなどはトヨタ自動車株式会社が作っているのですが、救急車仕様の車を作る会社がトヨタのグループ会社にあるんですよ*1。人への影響だけでなく、天候不順によって災害が起き、橋が落ちたり傷ついたりしたら造り替える必要も出てきます。そうしたら建設会社が動きますよね。

 

―― そうやってどんどん繋げていくんですね。

 

田宮:ビジネスは一社だけではできないですからね。建設会社は新卒の学生にとって「就職したい会社」として上位に入ることは少ないんですが、こういったビジネスパーソン目線で見ると見方が変わりますよね。建設ビジネスに成長の芽があることや、社会から求められていることが分かると、就職先として有望だと考えられるかもしれません。

 

先ほどの例をさらに派生させると、橋を造るにはブルドーザーやショベルカーなどの建設機械を作る会社も当然必要になってきます。建設部品にあたる素材も注目されるかもしれません。例えばセメントとか……消費者目線で見たらセメントにはなかなか注目しないかもしれませんが、セメントがなかったら堤防はできないんですよ。こうやって関連付けて発展させていくのが、ビジネスパーソンの目線です。

 

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一つの事象を多様な面から観察する


―― 「一つの会社だけで経済が成り立っているわけではない」という前提を基に考えていくんですね。

 

田宮:ビジネスパーソンの考え方として、「物事の反対を考える」という手法があります。例えば、「天候不順」というとゲリラ豪雨など雨が増えることのイメージが強いですが、反対に乾燥するということもありますよね。すると、火災の可能性が高くなると考えられます。火事は消す必要があるので、消防車がなくてはならない。ちなみに、消防車を作っている株式会社モリタホールディングスという会社があるんです。この会社は、実は日本国内トップシェア企業で、日本の消防車の2台に1台はここの消防車だと言われています。こうして「天気」というキーワード一つからでも、ビジネスパーソンの目線で見て、関連付けて、その反対まで考えると、どの会社が今後伸びてくるのか、注目されるのかが分析できるんです。

 

―― 消費者向けに展開されているサービスは、法人向けにも展開されていたりするのでしょうか?

 

田宮:そうですね。例えば天気予報は対企業向けビジネスとして、海運会社向けのものが既にあるんですよ。海運会社は船で物を運んでいるので、海の天候がとても重要ですよね。そこでウェザーニューズ社は、海運会社の運航スケジュールを立てるサービスも展開しているんです。このサービスが開始される以前、海運会社は自分たちでスケジュールを立てていたのですが、今やウェザーニューズ社に委託するようになったんですよ。天気予報は実は法人向けビジネスがメインなんです。
 

コンビニに行くだけで見えてくる「社会の実態」


―― 田宮さんは昔からこういったビジネスの目線をお持ちだったのでしょうか?

 

田宮:記者になってからですね。もともと商売人タイプでもないです。でも、「記事を書く」という目的があるので身につけました。例えば「コンビニ」を取り上げようと思った時に、消費者目線だと「物を買う・売る」の世界ですが、レジにいる外国人の店員の方に目を向ければ「人材ビジネス」というテーマになり得ます。「コンビニ」と「人材ビジネス」は一見すると結びつかないように見えるかもしれませんが、変化を意識すれば結び付く可能性がありますよね。

 

―― 「変化」を意識して物事を見ていく必要があるんですね。

 

田宮:そうなんです。日々の仕事を淡々とこなす中では、変化を意識しないかもしれませんが、そこからさらに「売上を上げよう」とか「新しい展開を作ろう」とするなら、変化からチャンスを掴む必要があるんです。世の中の変化を読み取る題材としては、コンビニが良いですね。誰でも行くでしょうし。例えば、コンビニ弁当も「これはおいしそう」と考えるだけではなく、そこから学ぶことができるんです。

 

コンビニの弁当容器ってすごいんですよ。あの容器も昔は温めるとちょっと溶けてしまったり、電子レンジから取り出す時に熱くて持ちにくかったりしたのですが、最近は改善されてきているんです。溶けないし、やけどせずに電子レンジから取り出せるようになっているんですよ。食品トレー容器業界のナンバーワンは、株式会社エフピコという広島と東京・新宿をダブル本社に展開している会社で、市場シェアの3割ほどを占めています。コンビニのちょっとした変化からも技術の向上や、それを担っている企業を発見することができるんですよ。

 

ちなみに、最近のコンビニやスーパーではすき焼き弁当なども売られていて、しかも生肉の状態のまま店頭に並んでいます。これまでは一旦加熱調理して、冷やされてから店頭に並んでいたのですが、それだとどうしても鮮度が落ちてしまうんです。それが今や生肉や生野菜の状態で容器に入った商品を買うことができる。新鮮な状態のものを家に帰って温めるだけでおいしく食べられるんですよ。これは、一人暮らし世帯の増加や高齢者の増加といった社会の変化とも連動しています。コンビニやスーパーの商品一つ取ってみても、「便利になったな」だけで終わらせるのではなく、「これは誰が買うんだろう」と考えることで、社会の変化の兆しを見つけられるかもしれません。

 

―― 常にトレンドを反映した商品が並ぶコンビニの店頭にあるということは、必ずどこかにニーズがあるということですよね。

 

田宮:そうです。消費者の目線からビジネスパーソンの目線に切り替えることができれば、忙しくとも企業や社会を見る目は鍛えることができますね。天気やコンビニという、誰でも毎日見ているものから始められますから。

 

取材・文:佐野創太

 

 

 

取材協力:田宮寛之

 

1963年、東京都生まれ。1987年、明治大学経営学部卒業、ラジオたんぱ(現・ラジオNIKKEI)入社。東証記者クラブで金融マーケット取材を担当、米国ウィスコンシン州での高校教員を経て1993年、東洋経済新報社入社。多岐にわたる業界取材を担当し、「週刊東洋経済」「会社四季報」「就職四季報」の執筆も手掛けた。
2007年、株式雑誌『オール投資』編集長。2009年、就職・採用・人事情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げる。「週刊東洋経済 就活臨時増刊号」編集長も務め、2014年からは「就職四季報プラスワン」編集長も兼務。現在は編集局編集委員。
主な著書に『就職したけりゃ「四季報」のココを読みなさい!』(徳間書店)、『親子で勝つ就活』(東洋経済新報社)などのほか、ベストセラーとなった『みんなが知らない超優良企業』『無名でもすごい超優良企業』(講談社+α新書)がある。

2020年以降の業界地図 東京五輪後でもぐんぐん伸びるニッポン企業 (講談社+α新書)

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新しいニッポンの業界地図 みんなが知らない超優良企業 (講談社+α新書)

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