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「居心地が悪かった地元」が、伸び伸び活躍できる場所に。東京と茨城の二拠点で働くデザイナー 鈴木潤さんに聞いた、「地方で自分を生かす方法」 - はたラボ ~パソナキャリアの働くコト研究所~

「居心地が悪かった地元」が、伸び伸び活躍できる場所に。東京と茨城の二拠点で働くデザイナー 鈴木潤さんに聞いた、「地方で自分を生かす方法」 - はたラボ ~パソナキャリアの働くコト研究所~

「東京に住みながらも、地元に貢献したい」。そういった思いを持つ人が増えている。実際に「ふるさと納税」や「ふるさと兼業」など、地元貢献や地元の社会問題を解決することを目的としたさまざまな取り組みも行われている近年。そんな中、「プチ社会問題の解決」というコンセプトを掲げ、身近にある問題をデザインの力で解決しようとする人物がいる。企業のコーポレートツールやIRツールの作成を行うインクデザイン合同会社の創業者 鈴木潤さんだ。

 

東京と地元・茨城県日立市の二拠点で仕事をする鈴木さん。デザインの仕事は東京だけでも成立しそうだが、一体どういった思いで地元にも働く場を設けているのだろうか。「居心地の悪い地元」と再び関係を持つようになったきっかけや、鈴木さん自身が取り組んでいる「プチ社会問題の解決」についての思い、「出戻り」「新参者」として地方で活動する際の考え方まで話を聞いた。
 

 

「居心地の悪い地元」に戻るきっかけは、ふとした「縁」から


―― 鈴木さんはもともと「地元に貢献したい」という思いが強い方だったのでしょうか?

 

鈴木さん(以下、敬称略):10代の時は地元を出たくて仕方がなくて、東京への憧れが強かったですね。インターネットも発達していなかった時代なので、東京と地元の情報の格差も今とは比べ物にならないくらい大きなものでした。

 

―― 「地元を出たい」と考え、実際に東京に出た鈴木さんが、地元・茨城県日立市にも働く拠点を置くようになったきっかけは何だったのでしょうか?

 

鈴木:きっかけは何気ないことでした。茨城県が企業の誘致をしているという情報をSNSのシェアで見かけたんです。よく見たら、生まれた場所のすぐ近くでクリエイティブ企業の誘致をしていたので、縁を感じて問い合わせをしました。

 

―― 地元で働きたいと思っていたのですか?

 

鈴木:そういうわけではないですね。インスピレーション的な感じでしょうか。東京で働いて、地方に目を向けていなくて盲点だったので、「気になった」のかもしれないですね。

 

―― そこからは順調に進みましたか?

 

鈴木:問い合わせをしてから実際に場所を借りるまでは、一年間くらいかかりました。なので、その間に地元の人たちとのネットワークを広げていました。いきなり地元に戻っても何もないと思ったんですよね。18歳で地元を出てしまっていたので、大人の友達は誰もいませんでした。誰を頼ったら良いかも分からない状態からのスタートだったんです。少しずつ人脈が広がっていったので、「いける」と確信を得ることもできました。

 

―― どうやってネットワークを広げていったのでしょうか。若くして地元を離れてしまうと、糸口を探すのも大変ですよね?

 

鈴木:まさに、ネットワークの広げ方すらも最初は分かりませんでした。茨城県の企業誘致担当の方が良い人を紹介してくれたんですよね。そこからつなげてくれた人がさらに次の人につなげてくれて、イベントがあったら呼んでくれて……と一歩一歩進んでいきました。最初はアウェイ感がすごかったですね、やはり。

 

―― 地元なので共通言語もありそうですが、そうでもないんですね。

 

鈴木:考えすぎかもしれませんが、「なんだろうこの人」という空気をひしひしと感じました(笑)。でもそういった空気は、回数や時間を重ねれば解消できるんです。最初は、「東京での仕事を地元でやれたらいいな」くらいの気持ちでした。でも、仕事をするだけだと東京と地元の往復だけでつまらない。なので、地元の人たちと交流できるイベントを開きました。「地域活性」と言うのは大げさで、単にみんなと楽しみたかったんです。テーマはクリエイティブを軸に、「写真をみんなで学ぼう」などライトなテーマで開催していますね。

 

そこにはいろいろな人が来るんですよ。県議会議員も来れば、学生も来ます。東京だとなかなかこういった機会はないですよね。デザイナー同士で会う機会はあっても、デザイナーが経営者の人に会える機会はなかなかありません。たまに「何をしている人なのかな?」という人も来るので、良い面と悪い面が表裏一体ではありますが(笑)。

 

―― ライトなテーマだと、比較的職業も関係なく、広く関係をつないでいくことができそうですね。

 

鈴木:地方にいる人は、「何かしたい」というモヤモヤ感、フラストレーションを抱えていることも多いんです。そして、それを発散したがっています。その反動で、イベントバブルになっている面もあるんですよね。ここでも、自主的に開催されているものを含めると、地域活性のイベントが週末に3~4個重なる時もあります。やればやったで分散してしまう、そんな課題も見えてきましたね。
 

自分の性格や考え方、身近なところから見つけた「プチ社会問題の解決」という課題


―― 鈴木さんは、インクデザイン合同会社で「より良い社会をデザインする」というミッションを掲げてお仕事をされています。「プチ社会問題を解決する」という思いから展開されているサービスがあるとのことですが、この思いはどこから出てきたのでしょうか?

 

鈴木:「プチ社会問題の解決」は、僕のいろいろ気になっちゃう性格から生まれたものです。例えば、絶対に同じ柄にならない印刷技術を駆使して作った「世界に1枚しかない名刺」。これは名刺交換の時に「オリジナルなものを渡したい」というのが建前なのですが、本音を言えば、僕が持っている「交流会への苦手意識」が元になっています。交流会で名刺を渡した瞬間って、会話が止まるじゃないですか。あの間が辛くて辛くて。それでこの名刺を作ったんです。

鈴木さんが創業したインクデザイン合同会社が作成する、「世界に1枚しかない名刺

鈴木:「プチ社会問題」という言い方をしてはいますが、こういった悩みって自分が思っているということは、誰かも思っていると考えています。問いを立てて、仮説を立てて、それをクリエイティブで解決するのは面白い。ですが、あまり大きな課題だと立ち向かえないので、小さいところからやっているんです。

 

―― 「地元に貢献」という文脈での「プチ社会問題の解決」は、何かされていますか?

 

鈴木:今まさに、地元企業の魅力を発信する採用サイトを作ろうとしていて、取材を始めたところです。僕の地元の大きな課題は「人口流出」。日立市でも過疎化が始まっていて、人口の流出の多さが全国で5番目なんですよ(2017年時点)。こういった状況で大事なのは、地域で経済圏を築くことなんです。でも、今は若者が出ていってしまい、回らなくなってしまっています。

 

―― 若者が興味を持つ仕事は、東京などの都市圏に集中しがちですしね。

 

鈴木:僕もそうでしたから分かります。東京が魅力的に見えるんですよね。でも、地元の経営者の知り合いが増えてきて分かったことがあります。それは、地元企業の魅力や熱意は、東京にある企業と変わらないということなんです。となると問題は、「魅力が伝わっていないこと」になります。

 

地元の若者は、「地元で就職するには、公務員か銀行に行くしかない」と思い込んでしまっているんですよ。「企業の見える化」をクリエイティブの力で実現したいです。もったいないんですよね、企業も求職者も。「地元に残りたい」と思っていながらも、我慢して東京で働いている人もいます。本来ならもっと選択肢があるはずなんですよ。経営者の熱い思いを伝えて、地方の会社の良さを伝えていきたいですね。
 

地方には、「違う自分になる機会」が転がっている


―― 鈴木さんは「デザインする力」があるのが強みですよね。

 

鈴木:「目に見える力」でもありますしね。それにどこでも使えるスキルでもあります。とは言え、僕も独学なんです。今でも正解はわかりません。

 

―― そもそも、なぜデザイナーを志したのでしょうか?

 

鈴木:僕も例に漏れず、モヤモヤと何をしたら良いのか分からない「地方の学生」だったんですよ。そんな時にMacと出会って、「これは世の中変わるぞ」と思って、これでできる仕事は……と考えた結果がデザインでした。でも最初に入った会社は印刷会社だったので、役所の報告文書などを作っていましたね。

 

「デザイン」という意味では足掛かりがなかったので、最初はすぐに転職をしようと思っていました。それで、外の空気を吸おうと思ってスクールや講座に通ったんです。ただ、いわゆる「イケてる」業界の人や、その人の下で仕事をしている人に会っても、かっこ良くないと感じてしまったんですよね。今はそんなことはないかもしれませんが、業界人「っぽい」雰囲気を醸し出していて。自分はそうなりたいわけではないと思ったので、今いる環境でやれることをやってみることにしました。

 

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―― 鈴木さんは、まず動き始める派なんですね。

 

鈴木:あまり考えて立ち止まることはしないかもしれないですね。先にちょっとやってみることが多いです。やってみたら意外とできたりするじゃないですか。もちろん逆もありますけどね。「これはできない」とわかって、いい意味で早めに諦めることができる可能性もあります。地元に戻るのだって、最初は壁がありましたが、2~3回行けばそんな壁はないことも分かりましたし。

 

―― ちなみに、「地元」で求められるのはどのようなスキルがある人材なのでしょう?

 

鈴木:地方は発信能力が低く、課題感を持っているので、「発信できる人」は求められる傾向にありますね。ライターは発信するためのコンテンツ作りの要なので、重宝されます。あとは、「土台を覆してくれる人」も求められています。新しい考え方を持ってきてくれる人ですね。地方は、東京でベンチ入りしていた人が4番バッターになれるチャンスがあるんですよ。僕だって、東京だけで働いていたら埋もれていたと思いますが、日立市にも拠点があるからこういったインタビューを受ける機会をもらうことができた。地方には「違う自分になる機会」が転がっています。
 

地方は理想郷ではない。課題をチャンスと見て、面白がることができるかどうかも重要


―― 鈴木さんのように、二拠点で働く「働き方」はまだ世の中的には新しいとされているかと思いますが、これからの働き方について、何か感じていることはありますか?

 

鈴木:僕は、もう平成も終わりましたし、次の時代の働き方が出てくると思っているんですよね。それは「いろいろなコミュニティーに属すること」だと思うんです。今後は間違いなく、所属している「会社」の価値よりも、「個人」の価値が問われてくるはずなんですよ。何かしら自分一人……もしくは誰かとプロジェクトを作ることができて、それがその都度柔軟に変わっていくのが、新しい時代の働き方になると思っています。

 

「副業」という言葉も、そのうち古くなると思うんですよね。何が「主」で何が「副」なのか、そういった考えってなくなるべきだと考えています。全部、「業」でいいんですよ。みんな一つの会社に留まるだけじゃなく、他の価値観も持つべきです。都会は会社も大きいですから、社内の人間同士でチームを組めば解決するんですよね。地方だとそれができないから、社外の人と組むしかないんです。そういった意味では、地方の方が「個人」としては属しやすい面もありますね。

 

―― 「東京」を知っているからこそ、地方の課題点を見つけやすい面もありますよね。

 

鈴木:そうですね。ただ、東京と地方の差はやはり大きいので、地方に幻滅することもあるとは思います。地方は理想郷ではありません。幻滅する部分に対して課題意識を持てるかが重要です。

 

―― 課題があるから駄目ではなく、課題があるからこそ自分が貢献できるポイントがあるということですもんね。

 

鈴木:そうなんです。それを「チャンス」と見ることができるかどうかは、大きいですよね。弱みと強みは、表裏一体ですから。「自分が気になることは、自分の手で解決できるのでは?」と問いを立てることが大事で、地方ではその問いに気付きやすいです。「東京の視点」を持ったままいた方がむしろいいですよ。

 

とはいえ、地方は「逃げ場」ではありません。「二拠点」「移住」といった言葉は確かにパワーワードで、イベントを開いてもたくさんの人が来ます。みんな興味はあるんですよね。その中には「東京で疲れたから地方でのんびりしたい」という人もいます。気持ちはわかるんですけど、それは幻想でしかないですね。そういった気持ちだと3日で飽きます。「海を見ながら仕事がしたい」と憧れるかもしれませんが、すぐに見飽きますね。気分転換にはなりますが、それだけだと心の満たされ方としては足りないんです。地元のコミュニティーに飛び込んで、人と触れ合って、必要とされているなと感じることで満たされるものがあるんですよ。最初からそうでなくても良いとは思いますが、その面白さに気付けると良いですね。

 

―― 「地方に癒やされる」「地方から何かをもらう」という発想は違う、ということですね。

 

鈴木:そうですね。やっていくうちに満たされる、そんな瞬間が絶対にあるんです。あ、あとはおしゃれ感も地方にはないですよ。地方のスローライフって、「おしゃれ」と思っている人もいると思いますが、それはないです(笑)。高齢者が増えていますし。でも、地方に人が集まれば日本が元気になる、そうすることで大きな社会問題にも立ち向かえるようになるかもしれないですよね。距離の壁は今なら越えやすいです。技術も増えていますしね。そうすれば働き方だって変えることができます。リモートワークをしたり、週休3日制を取ったり、そうやって、人が地方にいながら働けるようになれば、育児や介護の問題も解決の方向に向かうかもしれないですよね。小さな行動かもしれませんが、ちょっと動くだけでもモヤモヤが晴れることは確かです。

 

取材・文:佐野創太

 

 

 

取材協力:鈴木潤

グラフィックデザインとApple Macintoshに出会い衝撃を受け、無事にまっとうな道へ。印刷会社のデザイナーとして、上場企業を中心としたコーポレートツールや IRツールのデザイン、ディレクションに15年間携わる。コーポレートツールのプロフェッショナルとして、「日本のカイシャをおもしろくしていきたい!」との想いから、2013年、「会社をデザインする会社」、インクデザイン合同会社を創業。上場企業からベンチャーまで、紙からWebまで、ビジネスに必要なデザインをワンストップで提供する。

HP:インクデザイン合同会社
Facebook:鈴木 潤
Twitter:@Juns_incdesign
note:junxx

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