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このくしゃみ、花粉症と思ったら「生物アレルゲン」が原因だった!? 専門家に聞いた、オフィスや家での対策法

このくしゃみ、花粉症と思ったら「生物アレルゲン」が原因だった!? 専門家に聞いた、オフィスや家での対策法

「花粉症の時期じゃないのに、くしゃみが止まらない」「オフィスに行くと、鼻水が出る」こんな悩みを抱えている方もいるのではないだろうか。それは、もしかしたら「生物アレルゲン」が原因かもしれない。

花粉症ほど認知はされていないが、目に見えないところで人々の暮らしに、じわじわと影響を与えている生物アレルゲン。「見えないもの」だからこそ知識をつけ、発症を未然に防いだり、症状を最小限に抑えたりといった対策が必要だ。今回は、株式会社エフシージー総合研究所
取締役 暮らしの科学部長 IPM研究室室長の川上裕司博士に、「生物アレルゲン」の正体や、生物アレルギー発症の原因・予防法などを伺った。原因不明の目のかゆみや鼻づまり、くしゃみなどに悩む人はぜひご一読いただきたい。

家にも会社にもいる「生物アレルゲン」の正体とは

―― 草木や食物に対するアレルギー症状はイメージがつくのですが、「生物アレルゲン」という言葉は初めて聞きました。「生物」と聞くと、動物アレルギーなどが浮かんでくるのですが、それとは全く違ったものということですよね?

川上博士(以下、敬称略):花粉や食べ物のアレルギー症状への認識は一般にも広まってきましたが、「生物アレルギー」については、まだこれからの段階のように思います。その中でも、「ハウスダスト」は皆さんも聞いたことがあるかもしれませんね。実は、ハウスダストの中にはさまざまな昆虫、ダニ、クモなどの死骸片やふんなどが含まれています。また、室内環境に生息したり、周囲の屋外環境から侵入したりする昆虫類の生体などを総称して「生物アレルゲン」と言うのです。

基本的に、アレルギーは「過剰免疫」を指します。例えば、おそばを食べてアレルギーになる人もいれば、何も反応が起きない人もたくさんいます。スギなどの花粉も同じです。アレルゲンというのは、一言でいうと「抗体と反応してアレルギーを引き起こす物質(抗原)」を指します。普通の人には何でもない物質でも、アレルギーを持つ人にとっては過剰反応してしまう。そういったものです。でも、その認識はまだ一般の……特に若くてアレルギーが出やすい世代の人には、伝わっていないですね。

―― 「生物アレルゲン」そのものや、それに対する対策は、あまり認知されていないように思います。

川上:生物アレルゲンの発生源は、大きく分けて「アウトドア」と「インドア」の2つがあります。まずは、アウトドアの発生源を解説しましょう。

例えば、家の庭先で丁度顔に当たる高さの空中に群飛する、小さなハエと思しき昆虫を見ることがありますね。この昆虫はユスリカといいますが、これは医学的に良く知られた生物アレルゲンです。スギ花粉が終わる頃に、「もう大丈夫だ」と思っても、ユスリカのような微小昆虫でアレルギー症状を起こしてしまう人もいるのです。ユスリカは、都市河川や用水路に湧いてきます。対策をしても、発生を完全に防ぐことは不可能です。これらのアレルゲンは、もちろん吸い込むと危険なのですが、それだけではありません。

―― 目に見えるので、吸い込むことは注意できますよね。

川上:ユスリカをはじめとする走光性のある昆虫類は、夜間、灯火をめざして家の外側のガラスやサッシに飛んでくるのです。これがアレルゲンになるんです。なぜかと言いますと、飛んできた昆虫類がそのまま死骸になって、サッシの溝などに貯留します。すると今度は、太陽の光が死骸に当たり、乾燥して細かくなってきます。家でも一部の職場でも、窓を開けて換気をすることがありますよね。そうすると室内に細かくなった生物アレルゲンが入り込んでしまうのです。

―― 換気は、割とどこでも日常的にしていますよね。

川上:私たちの生活の側には、常に生物アレルゲンがいるんです。だから、まず大事なことは、外にいる生物アレルゲンが室内に入ってくる構図を知ることです。対策としてできるのは、掃除の際にサッシに溜まっている小さな昆虫類の死骸やホコリまできちんと除去することですね。

外から入ってきた生物アレルゲンが溜まってしまう、現代の日本の住宅構造

―― ちなみに、生物アレルゲンのインドアでの発生源もお伺いできますか?

川上:インドアの生物アレルゲンは、「ダニ」「カビ」「ハウスダスト」ですね。皆さんも聞いたことがある言葉のはず。しかしながら、皆さんの認識が甘いのが、先ほどお話したアウトドアで発生した昆虫類の死骸が室内に入ってきて、埃の中に溜まっていくというパターンです。

―― アウトドアで発生したものがインドアに入ってきて、積もり積もってしまうのですね。

川上:この原因は、「現在の住宅の構造」にあります。今の日本の住宅は、昔ながらの夏型の住宅から、冬型の住宅に変わりつつあるんですね。つまり、風通しよりも気密性が高く、空気が入れ替わりづらくなっているのです。昔はクーラーのない時代ですから、縁の下を高くして、夏に風通しを良くしようとしていました。この作りの場合は風が入ってきますし、きちんと抜けていくので換気ができていたんですけどね。

―― 密閉性が上がった分、空気の循環がしにくくなっているんですね。

川上:室内の空気と外気が入れ替わることが少ない状況です。また、物が多く掃除がしづらい住宅の場合、部屋の隅などにハウスダストがずっと貯留したままになります。ここも認識すべき事項です。一部の職場でもご自宅でも、どこに気を付ければいいのか考えてみてください。ハウスダストの場合、どこが盲点だと思いますか?

―― 本棚でしょうか?

川上:その通りです。特に本が好きな人は、床下から天井まである大きな本棚を置いていることもありますよね。そうすると、何年も手が届かず、ハウスダスト貯留する本も出てきます。そういった本の中身を見ると、茶色い斑点があることがありますよね。あれはカビが原因で生じたフォクシングと呼ばれるものです。

―― ただの染みだと思っていました。

川上:「カビ」も、アレルゲンの一つとして大きな問題になっています。お風呂場や湿気が強い場所のカビ対策の認知はされてきていますが、実は乾燥に強いカビもいるのです。これも室内でアレルギーを発症させる原因です。本棚に耐乾性のアスペルギルス属のカビが発生すると、今度は二次的にチャタテムシという体長1.5~1.8mmの微小昆虫がカビを餌として繁殖します。これは、よくダニと間違えられます。

――カビからさらなる生物アレルゲンが発生するのですね。

川上:ハウスダストが溜まると、そこにカビの胞子ができる。そうするとチャタテムシが発生する。こういった構造なんですよね。

オフィス内は、特に「空調」に要注意

川上:会社でも、過去の資料を紙で保管していたりしますよね。何年もそのままにしている場合は注意が必要です。歴史の長い会社だと空調が老朽化していて、そこにハウスダストが溜まっていることが懸念されます。

空調の吹き出し口をよく見ると、黒くなっている部分が見えることがあります。これは一概には言えないのですが、私の今までの経験だと、梅雨や夏の時期にカビが大発生しているケースがありました。それは、冷房の使用による「結露の発生」が原因なんです。冷房は冷たい空気を送って部屋の中を冷やしますが、外は暑いわけです。すると、どうしても結露してしまいます。夏にビールを注いだグラスの周りに水滴が付くのと同じことが、エアコン内にも起きています。

――これからの時期、梅雨から夏にかけては特に注意が必要ですね。

川上:オフィスの空調にアレルゲンが発生しているかどうかを確かめる、簡単な目安があります。休み明けに出勤した際に、エアコンの近くにいる社員が何人か咳き込んだり、ちょっと涙目になったりしていないか見てみると良いです。総務の方などは特に注意しておくと良いでしょう。

川上さんが提唱するのは「秋掃除」。中年以降のアレルギー発症にも要注意

――「生物アレルゲン」によるアレルギー症状への対策法や予防法はあるのでしょうか?

川上:私は、「秋掃除」を啓発する必要があると考えています。秋に大掃除をするイメージです。既に5年前から新聞・雑誌・テレビで啓発しています。

――大掃除というと年末にやるものと考えがちですが、秋にするんですね。

川上:「ダニ」「カビ」「ハウスダスト」の発生は、春から夏にかけてピークになります。そして、ダニのふんなどが増えるのは、9月末なんです。なので、溜まってきた生物アレルゲンを一斉に除去するには、10月や11月の連休を有効活用することをおすすめしています。今の時代は、年末の大掃除すらしない家も増えています。そうして春まで室内に生物アレルゲンを持ち越してしまうと、スギ花粉の時期が来て、花粉と生物アレルゲンが積み重なって、喘息などの健康影響を及ぼします。

――花粉のシーズンまで、室内の生物アレルゲンを持ち越してはいけないということですね。

川上:さまざまな生物アレルゲンは、実は年間を通して私たちのすぐそばにいるんです。これも大事なポイントですね。さらに今問題になっているのは、30代以降、中年の方のアレルギーは治りにくいということです。ダニやカビをきっかけに、他のアレルギー症状を起こしてしまう人がいます。室内の生物アレルゲンによって、子どもが小児喘息になる恐れがあることは、よく啓発されてきましたが、中年以降のアレルギーの危険性はまだまだ認知されていません。症状がずっと続くと、仕事や生活に差し支えますよね。

―― 働き盛りの時に万全の状態でいられないのは、ダメージが大きいですね。

川上:アレルギー体質は、自分の子供に遺伝することもあると言われています。子供や孫の代まで引きずる恐れもある。だから、健康情報や医療情報は自分がまずしっかりと見極め、アレルギー検査を行った後、ハウスダストを十分除去するといった対策をする必要があるのです。もう自分の世代の問題には留まらないですからね。

アレルギー症状は人それぞれ。適切な対策法と情報収集を行い、健康的に働こう

―― 川上さんもアレルギー検査をされていますか?

川上:もちろんです。私も検査をしてみたところ、スギのアレルギーはありましたが、ヒノキはなんともありませんでした。ここがポイントですね。アレルギーは、個人差が大きいものです。日中は仕事をしているお忙しい方も、ぜひ一度検査に行くことをおすすめします。

―― 「これをやれば、絶対アレルギーから解放される!」といった万能な方法はないんですね。

川上:その通りです。人それぞれですから。ダニ・カビ・ハウスダストに対してものすごく反応が出る人もいれば、ダニだけに極めて強いアレルギー反応を起こす人もいます。ですから、アレルギーを持っている方、特に30代以降の方は、自分がどんなアレルゲンに反応するのか、血液検査で判定してもらうことが重要です。専門機関で検査すると、だいたい10項目で自分が何にアレルギー反応を示すかが分かるようになっています。それが分かると、自分のアレルギーに適した専門家がいる病院に行けるようになって、治療方法を一緒に考えてくれます。働き盛りの今だからこそ、自分をきちんと知ることが大切です。

―― 忙しいことを理由に、つい検査や病院から離れてしまいがちですものね。自分も一度検査をしてみようと思えました。

川上:あと、家や職場でできる対策法としては、定期的に空気の入れ替えを行い、掃除機でハウスダストを吸い取っていただきたいです。サイクロン式の掃除機がアレルゲンの除去にはおすすめです。紙パック式のものはどうしても、排気口からアレルゲンを含む微粒子が出てしまうんですよ。サイクロン式の掃除機だと、微粒子が外に出ません。

自分が何にアレルギー反応を示すかを検査すること、アレルゲンは吸い取った上で処理すること。そして、正しい健康情報と医療情報を見極める目を養うこと。具体的に言いますと、「その情報は学会誌に載っているか」が重要ですね。学会誌に掲載するには、きちんとした研究データや第三者の検証をクリアしないといけないため、信ぴょう性を判断する重要な基準となります。この3つを意識してもらうことで、アレルギーに負けず、健康的に働くことができるのではないかと思います。

取材・文:佐野創太

取材協力:川上裕司

(株)エフシージー総合研究所 取締役 暮らしの科学部 部長
IPM研究室 室長/博士(農学)
(独)国立病院機構相模原病院臨床研究センター 客員研究員
東京家政大学環境教育学科・大学院人間生活学総合研究科 非常勤講師
法政大学国際文化学部 非常勤講師/横浜美術大学美術学部 非常勤講師

抗菌、防カビ、防虫関連商品の検査や製品異物混入検査、生活に関わる害虫や微生物の研究を長年続けている。また、大学や国公立の研究機関との共同研究として、マイコトキシンやアレルゲンに関する研究を続け、学会発表を毎年行っている。美術館のIPMによる調査・検査・アドバイスは、20数年前に実施したグループの箱根彫刻の森美術館での調査を機に開始し、外部の美術館からの依頼を受けて行っている。 また、新聞、雑誌への生活科学情報の執筆、科学番組の制作協力やコメンテーターとしても活躍中。

会社HP:https://www.fcg-r.co.jp/
プロフィールHP:https://www.fcg-r.co.jp/ipm/service/staff.html/

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