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ティール組織は「作るもの」ではなく、「なるもの」である~ダイヤモンドメディア株式会社創業者 武井浩三さんが考える組織論~

ティール組織は「作るもの」ではなく、「なるもの」である~ダイヤモンドメディア株式会社創業者 武井浩三さんが考える組織論~

「ホラクラシー」「ティール組織」といった言葉をご存知だろうか。「ホラクラシー」とは、役職や階級のないフラットな組織形態のことを、「ティール組織」とは、社長などの経営陣や、マネジメント層の上司がマイクロマネジメメントをしなくても社員一人ひとりが自ら変化をし続け、成長し続ける組織のことを言う。近年、これらを話題にした書籍も刊行され、日本でも話題になっている理想の企業・組織の在り方と言えるだろう。
日本で、この組織モデルを実践している企業がある。その企業とは、不動産向けITサービスを提供する、ダイヤモンドメディア株式会社
。創業者の武井浩三さんは、「給料は相場で決める」、「会社の代表は選挙で決める」といった制度を進め、注目を浴びた。また、ティール組織の運営方法を体系化した著書『社長も投票で決める会社をやってみた。』『管理なしで組織を育てる』などで、積極的にノウハウも伝授している。
そんな武井さんが、2019年9月2日にダイヤモンドメディアの代表を退く発表した。ティール組織を牽引し、実現してきたトップがその組織から退く決断をした理由とは?ティール組織が向かうべき道、企業がティール組織を推進する上で気をつけるべき点についても聞いた。

ティール組織に欠かせない「人の流動性」。高め続けるために下した決断は、自らの代表退任だった

――武井さんは先日、9月末をもってダイヤモンドメディアの代表を退任すると発表されました。

武井さん(以下、敬称略):創業者が会社を去ることは一見すると驚かれるかもしれませんが、私にとっては必然であり、進むしかないと思ったんです。でも、それによる「痛み」はありました。

―― どんな「痛み」でしょうか?

武井:自らの「アイデンティティの問題」です。会社が私のアイデンティティとなりすぎていたんですよ。つまり、「武井浩三=ダイヤモンドメディア株式会社」という関係をはがす「痛み」がありました。

―― 「自分=会社」と思えるほど、思い入れが強かったんですね。

武井:2007年に創業して12年間、ダイヤモンドメディアのことだけを考えてきましたからね。この経験の中で、ティール組織について論理的に理解したからこそ、この退任が組織に良い影響を与えることも分かっています。それに私自身、座禅など精神的な鍛錬を5年ほど続けてきました。それもあって、退任による自身の「痛み」に向き合うことができました。

―― 先ほど、代表の退任がティール組織には良い影響を与えるとおっしゃいましたが、なぜでしょうか?

武井:ティール組織を推進していくためには、組織の土台として「人の流動性」「情報の透明性」「壁の開放性」が必要です。それぞれの項目については、この後、お話しします。ダイヤモンドメディアでは、この3つの要素の中でも特に「人の流動性」、つまり役職や権限を固定化させないことですね。これを高めることを追求した結果、「創業者の退任」を決断しました。

――「人の流動性」を高めるために、自らが退任するという決断をしたんですね。

武井:そうです。ちなみに、組織がサステイナブル(持続可能)な方向に向かった結果として、ティール組織は生まれます。これは重要なポイントです。ティール組織には、「全体性」「自主経営」「進化する目的」という3つの特徴があると言われています。しかし、これは「結果」として出てきたものなんですよ。最初からこの3つを作ろうとしても、たどり着けるものではありません。ここが取り違えられてしまった結果、「制度さえ導入すれば、ティール組織は実現できる」という誤解が、この数年で広まってしまったように危惧しています。

―― ティール組織は、結果論として生まれるもの。だとすると、「ティール組織を作ろう」と目標設定をすることは、間違っているのでしょうか?

武井:「間違い」とまでは言えません。「ティール組織を作ろう」と目標設定をし、目指すこと自体は良いかと思いますが、制度を導入するのと同じ捉え方で「我が社はティール組織を導入します」とすると、挫折につながってしまいます。 ティール組織は、先ほどもお伝えしたように「結果として生まれてくるもの」です。ですから、「ティール組織を作る」ではなく、「ティール組織になる」が正確な表現なのです。

―― ティール組織は「作ろう」と意気込むものではなく、自然に生まれるものなのですね。

武井:ティール組織は自然と「なる」ものですが、特徴である「全体性」「自主経営」「進化する目的」を生み出すために必要な要因は3つあります。それが先ほどお伝えした、社員に共有される「情報の透明性」、役職やポジションといった「人の流動性」、部署と部署、人と人の間の「壁の開放性」です。これらは、ティール組織が生まれる上で密接に関係しています。

ティール組織のスタート地点に立つには、まずは「情報の透明性」から。ただし、進め方に注意は必要

―― これからティール組織になろうとする組織は、先ほど挙げた「情報の透明性」「人の流動性」「壁の開放性」の3つのうち、どれから取り組んでいくと良いでしょうか?

武井:私の見解だと、企業として一番取り組みやすく効果が大きいのは「情報の透明性」です。上司と部下の上下関係が完全に固定化されている企業を例に、考えてみてください。この状態をいきなり「上下関係をなくしましょう」とするのは困難ですが、給料をオープンにすることで、ティール組織に一歩近づくことができます。なぜなら、上司は、部下の給与の査定を「好き嫌い」という個人の恣意的な感情でコントロールできなくなるからです。社内全体で評価基準をオープンにし、統一することで、全社のバランスと離れた意思決定はできなくなります。情報が透明化されると、それにそぐわない結果には、説明責任が生まれるんですよ。

「情報の透明性」を高めると、説明責任が果たされやすくなる組織力学が自然と発生するんです。ただ、「給料のオープン化」は社内のハレーション(反発)も大きくなりがちなので、徐々に進めていくことをおすすめします。まずは売上、利益、業務にかかっている費用を社員が把握できているかどうか、点検するところからスタートしましょう。これらは会社を経営する上では当たり前の要素ですが、それすらブラックボックスになっている企業もまだまだ存在しています。

――「給料のオープン化」は、ティール組織になる過程では欠かせないのでしょうか?

武井:「給料のオープン化」は、ティール組織になる上では必要不可欠です。「オープン化した方がベター」ということではなくて、「オープンであることはマスト」。つまり、必須要件なんですよ。なぜなら、給料をオープンにすることは「人の流動性」を上げることにつながり、そして「壁の開放性」、権力をなくすことにもつながるからです。

―― 権力をなくすことも、ティール組織においてはキーワードなのでしょうか?

武井:「権力」とはそもそも、私の定義だと「お金」と「権限」と「情報」のことを言います。役職と給料、業務範囲を紐付けすぎると発言力が高まりすぎて「人の流動性」が減ってしまいます。組織の中に権力者が生まれてしまうことがある例を考えると分かりやすいでしょう。ですから、重要な取り組みと言えますね。

―― しかし、会社には「権力」が必要な場面もあるのでは?例えば、指揮命令系統がきちんとしていないと新入社員は戸惑ってしまうのではないでしょうか。

武井:それは「権力」ではなく、ヒエラルキー(階層構造)の問題ですね。実は、ヒエラルキーには「支配型ヒエラルキー」と「実現型ヒエラルキー」の二種類があります。前者は、自分の利益を大きくするために「あえて支配関係を作るもの」であり、「人の流動性」を高めた結果、なくなっていくものです。一方で後者は、組織運営においてある物事を実現するために必要な「役割分担」を意味します。「組織」である以上、仕事には時間軸といった文脈での上流と下流は生まれるものですし、社員の間には能力の差も当然あります。すると、必然的にそこにヒエラルキーは生まれますが、それは「実現性ヒエラルキー」です。「権力」と誤解しないように気をつける必要がありますね。

「壁の開放性」は垣根を取り除くこと、「情報の透明性」は2つのガバナンスを意識し、運用することが重要

―― 「情報の透明性」についてはよくわかりました。「人の流動性」も言葉からイメージしやすいかと思いますが、「壁の開放性」はどのような取り組みで実現できるものなのでしょうか?

武井:「壁の開放性」は、仕事における物理的な壁や部署間の壁、個人と個人の壁をなくしていくことを指すのですが、少し補足が必要かもしれません。「壁の開放性を高める」ということは、「中間領域を作る」ということと同義です。中間領域を作り、選択肢を増やすことが、組織の開放性を高めるのです。

―― 何と何の間に中間領域を作るのでしょうか?

武井:企業だと「部門と部門」の間、市場から捉えると「会社と会社」です。つまり、垣根を取り除くということですね。例えば、企業の「中と外」、社内の「上と下」がはっきり分かれすぎていると、人や情報の移動がなくなって「閉鎖系」と呼ばれる状態になります。この状態になると、いわば関係が淀むんですよ。どんなに綺麗な川の水でも、流れがないと淀みますよね。組織にも、同じ現象が起きるのです。

学校でいじめが起こるメカニズムも、これと同じです。閉ざされた空間に人間を押し込めると、その中で力関係が固定化されて、「いじめる人」と「いじめられる人」が出てきてしまいます。でも、こういった事象は空間的にもデジタル的にも、オペレーティブなところでも工夫ができるんですよ。「完全に解決」とまではいきませんが、小学校でも「ドアのない教室」が最近出てきていますよね。ドアが開放されているだけで、「苦しくなったら出れば良い」という選択肢が生まれます。これも、「開放性を高める」と言えます。

――「開放性」は、出口や逃げ口を作ることで生まれるのですね。

武井:話が少し戻りますが、「情報の透明性」について、「管理しない」という言葉が独り歩きして誤解が生じてしまうことがよくあります。情報を透明にすることは、放置するわけでも、無秩序を作り出すことでもありません。「ガバナンス(統治)の視点」が必要なのです。

――自律を促す「ティール」の考え方と「ガバナンス」は、一見すると相反する考えのようにも見えますが……。

武井:私は、ガバナンスを「管理統制型ガバナンス*1」と「自律分散型ガバナンス*2」 の2つに分けて考えています。重要なことは、ティール組織を早急に目指すばかりに、「管理統制型ガバナンス」を急に手放してしまうことです。「情報の透明性」を高める中で「自律分散型ガバナンス」が効いてきて、それによって徐々に「管理統制型ガバナンス」の比重を下げられるようになるのがあるべき姿です。

――自身の組織の現状が「管理統制型ガバナンス」「自律分散型ガバナンス」のどちらで成り立っているのか、どちらのボリュームが大きいのか意識的に考える必要があるんですね。

武井:そうですね。社員がSNSなどの発言で炎上するモラルハザードがなぜ起きるのかも、ガバナンスの視点から考えられます。原因は、「個人の利益と企業全体の利益が一致していない状態」だからです。

この状態は、「何をしたって自分の給料は変わらないんだから、何を発信しても構わない」という態度を生みます。社員と企業の利益が分離している状態で放置する、つまり「管理統制型ガバナンス」を安易に手放すことで起きてしまうのです。

「プロセスに主体として関与する」と、社員と企業の利益は一致する

――個人の利益と企業の利益は、両立できるものなのでしょうか?

武井:なんらかのプロセスに、「主体」として関与できる状態を作り出すことで可能です。当事者研究の中では、「当事者意識は当事者しか持てない」と考えられています。「当事者であること」はどういう状態を指すかというと、「プロセスに『主体』として関与すること」なのです。一方で、主体が「関与しない」と決めたら、それが認められる状態である必要もあると考えられます。

――「プロセスに主体として関与すること」を実現するには、どのような施策を行うと良いのでしょうか?

武井:先ほどもお話した「給料のオープン化」、そして「財務情報の透明化」です。自分と企業のお財布を近しくするのです。こうすると、例えば経費でお金を使う際に、自分と企業の利益を両立して考える価値観が養われます。会社と社員の利害を一致させるのです。

――逆に「プロセスに主体として関与すること」を阻害してしまう制度も現状あるのでしょうか?

武井:社内の決裁を取るために、稟議を挟むことは、当事者意識を奪います。つまり、社員から自分のお金を使っている感覚が失われてしまうのです。あるいは、「上が良いって言っているんだから、会社のお金は好きに使って良いんだ」という考え方を生む可能性もありますね。

――ティール組織は、性善説かと思えば性悪説のようにも思えて、人によって捉え方も変わってくるように思います。

武井:最近は、「生弱説」という言葉も生まれています。「人は環境に影響を受けやすいという意味で弱い存在である」という考え方です。人は抜け道を探る生き物だし、楽ができるなら楽をしてしまいます。それは、怠惰ではなく、当たり前のことなんです。

ティール組織は、「人は弱い存在である」という前提の中で、どうしたら人間のエネルギーが高まって健全な方向に向かえるかを考えることで実現するのです。そして、それはある程度はデザインできるものだと私は考えています。デザインをするためには、「情報の透明性」が特に求められます。実際に、ダイヤモンドメディアでも、「給料のオープン化」の影響が最も大きかったですよ。「情報の透明性」を高めると、プロセスに「主体」として関与する社員が増え始めます。そうすると社員と会社の利益が少しずつ重なり始め、「気がつけばティール組織になっていた」という、理想の状態が形として現れるはずです。

取材・文:佐野創太

取材協力:武井浩三

ダイヤモンドメディア株式会社 創業者
組織クリエイター

国土交通省 公的遊休不動産活用プロジェクト アドバイザー
(公財)日本賃貸住宅管理協会 IT・シェアリングシェアリング推進事業社協議会 幹事
(一社)不動産テック協会 代表理事
(一社)自然経営研究会 代表理事
(一社)レジリエンスジャパン推進協議会 住宅地盤情報普及促進ワーキンググループ 委員
ホワイト企業大賞 企画委員会 実行委員
世田谷地域コミュニティ せたコン 設立メンバー
チーム用賀 / 用賀Blue Hands 設立メンバー
官民協働フォーラム MICHIKARA 実行委員
地域主権型道州制国民協議会 六本木支部長
社員シェアリングサービス「トナシバ」発起人

自然経営 ダイヤモンドメディアが開拓した次世代ティール組織
管理なしで組織を育てる
社長も投票で決める会社をやってみた。

*1:上場企業に対する一般的なコーポレート・ガバナンスコードを指す。責任の所在を明らかにする目的で定められており、株主やステークホルダーへの説明責任を果たすために存在している。一方で「形式的な要件を満たせば実質は伴わなくても良い」という危険性を内包するものでもある。
*2:企業の財務状況や説明責任を果たすプロセスを開示することで「不正そのものが発生しにくい」統治を指し、企業による自浄作用を促す。株主やステークホルダーへの説明責任が自然と果たされることを目指しており、形式要件は必ずしも重視しない。

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