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「反面教師を仕事にしたい」悪の秘密結社・笹井浩生さんが抱く、世界征服よりも大事な野望

「反面教師を仕事にしたい」悪の秘密結社・笹井浩生さんが抱く、世界征服よりも大事な野望

「自分の仕事が好き」。心からそう言い切れる人は、どれくらいいるのだろうか?
単に賃金を得るための手段ではなく、人生を賭するライフワークとして仕事に打ち込む。結果、一般的な幸せやレールから外れることになっても、おかまいなしに没頭し続ける。そんな、少しはみ出した「クレイジーワーカー」の仕事、人生に迫る連載企画。今回お話を伺ったのは、「悪の秘密結社」創業者の笹井浩生さんだ。

悪の秘密結社は「怪人」に特化した総合イベント会社。全国のヒーローショーに怪人を送り込み、ステージを沸かせる悪役のプロフェッショナルである。2016年の設立から着実に知名度と売り上げを伸ばし、「上場して世界征服」という野望に向けて突き進んでいる。

ヒーローショーオタクだったという笹井さんは、なぜ悪の道へと足を踏み入れたのか? その歩みや、ショーを支える裏方としての哲学を伺った。

怪人は「ヒーローファースト」でなければいけない

今回は広報担当のシャベリーマンとしてテレビ会議でのインタビューに応じてくれた(中身は笹井さん)

── 悪の秘密結社は「会社」ということでいいんですよね?

笹井浩生さん(以下、笹井):はい。株式会社です。社員は僕を除いて6名、それとは別に怪人(アクター)が40名ほど在籍しています。

── どんな業務を行う会社なのでしょうか?

笹井:取材では「全国のヒーローショーに悪役の怪人を派遣する会社」というご紹介をしていただくことが多いです。ただ、実際には、企業と契約してヒーローショーを企画し、逆にヒーローをキャスティングするというビジネススキームになっています。
他にも、企業から依頼を請けて「ヒーローの立ち上げ」なども行っています。大賀薬局さんの「薬剤戦師オーガマン」などがそうですね。デビュー後2時間で累計6万リツイートされました。

── 御社のウェブサイトを拝見したのですが、悪の秘密結社らしからぬ、素晴らしく筋の通った行動指針がつづられていました。

笹井:会社を立ち上げるときに、「怪人とはどうあるべきか」を考え、行動指針としてまとめました。以下内容になります。

  1. ヒーローのヒーローであれ
  2. 怪人だから不可能はない
  3. 退路を絶て
  4. お約束を守れ
  5. 世界征服である

ヒーローショーは勧善懲悪の世界ですから、怪人は「ヒーローファースト」でなければいけません。ショーの最中ではヒーローが名乗る瞬間は手を出さず、しゃがみます。本当に怖く強い怪人は謙虚で約束を守ります。ヒーローがミスをした時、そう見えないようにサポートをするのも僕らの役割ですね。

── 真面目だ……(悪なのに)。笹井さんご自身が怪人としてショーに出演されることもあるそうですが、舞台上で意識されていることはありますか?

笹井:子どもは集中力が途切れやすいので、メリハリは意識しています。セリフに抑揚をつけるのはもちろん、時には床を思いっきりぶん殴ってみたりもする。さっきまで面白おかしかった怪人が急にマジモードになるから、子どもにとっては怖いでしょうね。
でも、怪人は好かれようとしてはいけないんです。それはヒーローの役割。僕らはあくまで反面教師として、「(正しいことをしないと)僕らみたいになっちゃうよ」と伝える側であることが大事だと考えています。

アクションが下手で夢破れるも、ヒーローショーへの憧れを捨てきれず……

── 改めて、笹井さんが「悪の秘密結社」を結成するに至った経緯を教えてください。やはり子どもの頃から特撮などの「ヒーローもの」が好きだったのでしょうか?

笹井:子どもの頃はそこまで熱狂しておらず、本格的にハマったのは中学3年生の頃ですね。当時テレビ放映していた、ヒーロー番組の少年が、僕と同い年の設定だったんです。境遇も似ていたことから興味を持ち、好きになりました。そこからフィギュアを集め出したりして、一気にオタクになった。
その後、高校2年生の時に福岡から大阪の学校に転校したのですが、その時に求人誌でたまたまヒーローショーのアルバイトを見つけて、この世界に入りました。きっかけになった求人誌は、今も大切にとってありますよ。

── スーツアクターとして、大きなショーにも出演されていたとか。ヒーローの仕事は、楽しくて仕方なかったんじゃないですか?

笹井:それが、最初はそうでもなくて。決して条件はよくなかったし、アクションが得意ではない僕は怒られてばかり。しんどくて、1年くらいで辞めようと思っていました。
でも、年末に大きなヒーローショーの舞台に立った時に、2000人くらいの子どもたちから歓声を浴びたんです。私は怪人役だったんですけど、めちゃくちゃ感動しました。マスクの下で号泣ですよ。それ以来、テレビヒーローではなく、生のヒーローショーにハマってしまったんです。

── しかし、その後は時計店に就職されています。スーツアクターやヒーローショーを作る道に進もうとは思わなかったのですか?

笹井:そうですね。やはり最大の問題は、僕にアクションのセンスがなかったこと。当時はショーの度に共演者からのダメ出しを聞きに行き、レポートをとるなど真面目に励んでいました。ある日、とある先輩に「狼と羊だったら、お前は羊。どう考えても狼にはなれないよ」と言われ、その言葉が心にグサっと突き刺さりました。そこからアクションのない、お芝居重視の舞台に転向したりもしましたが、金銭面の厳しさもあって、仕事としてずっとやっていくのは難しいのかな、とも思い始めたんです。
おまけに、受験勉強そっちのけでヒーローショーにのめり込んだので、家を追い出されてしまった。大阪から福岡に戻らないといけなくなり、アルバイトを辞めました。高校卒業後は地元の時計店や広告代理店など、ヒーローショーとは全く関係のない仕事をしていましたね。

── 広告代理店では、かなり出世をしたそうですが。

笹井:そうですね。最初は電話営業だったんですが、しゃべることは得意だったので、成績は良かったんです。24歳で課長に、25歳で営業次長になりました。当時は部下が80人くらいいたのかな。仕事は順調でした。でも、ずっと心に引っかかるものがありました。ヒーローショーをやっていた時の感動が忘れられなかったんです。

笹井:時計店ではダンボールで被り物を作って「ウォッチマン」とか言って子ども相手に接客したり、代理店でも結婚式の余興でヒーローショーのまね事をやったりしてね。やはり、どこか心の隅で思っていたんでしょうね。またヒーローショーをやりたいって。

── それで、再びヒーローショーの世界へ飛び込もうと。

笹井:はい。「俺はヒーローショーが好きだ~」とか、もうやらないくせにぶつぶつ言っているのが嫌だったんです。50歳や60歳になっても、そんなことやっていたらダサイなぁと。ある日、お風呂に入っている時にふと、自分の気持ちを整理してみたところ「ヒーローショーをやらないなんて、本当の自分じゃない」というところまで行きついてしまった。翌日には、会社に辞表を出しました。26歳の時ですね。

お金がなくても、自分を安く売ってはいけない

── そして、2016年に悪の秘密結社を結成されます。なぜ、悪役に特化したのでしょうか?

笹井:ヒーローショーをやる会社を設立するにあたって、何を売りにするのか考えました。当時は全国各地にご当地ヒーローがいて、業界はレッドオーシャン。何か突き抜けたものがないと厳しいだろうと。
まず、僕はアクションができないので、「スーパーアクション」みたいな売り方は難しい。そこで、全国のヒーローたちをマトリックスで分類し、レッドオーシャンの中の「少しでもブルーオーシャンに近いところ」を探したんです。すると、ヒーロー団体はたくさんあるけれど、怪人の組織は誰もやってない。ここだと思いました。
そして、もう1つの軸が「高級路線」です。怪人の造形をしっかり作り込んで、「高級な怪人と戦える」ことを売りにしようと。やはり、売れているヒーローや怪人は全部かっこいいんですよ。

── 悪の秘密結社が最初に作ったキャラクター「ヤバイ仮面」も、相当なクオリティです。

笹井:会社を登記したのが2016年の3月で、ヤバイ仮面のキャラクターが出来上がったのが9月。その間の半年間は、何もしませんでした。いくらキャッシュがなくなっても、営業は一切しなかった。というのも、キャラクターも持っていないバリューの薄い段階で営業してしまったら、安く見られてしまう。最初に安い単価で設定してしまうと、後に適正価格に上げる事も難しくなってしまいますから。
幸い、「悪の秘密結社」という名前の珍しさで、取材はそれなりに受けていたんです。じわじわとジャブを打って知名度を上げながら我慢の時期を過ごし、ヤバイ仮面ができた段階で一気に動きました。さまざまな場所へ営業に行き「めちゃくちゃカッコいい怪人ができましたよ。ここに是非スポンサーロゴを入れていただけないでしょうか!?」って。

── ものすごく戦略的ですね。そうしたブランディングセンスや営業力は、前職などで培われたものですか?

笹井:時計店での経験が大きいかもしれませんね。時計って、ブランドごとに広告の表現がまるで違うんですよ。「衝撃に強い」「200メートル防水」など、とにかく性能を売りにするものがある一方で、ハイブランドの広告は情緒的な写真とキャッチコピーで訴えてくる。ブランディングを意識するようになったのは、そこからだと思います。その後、書籍なども読みあさり、キャラクターコンテンツの動かし方、価値の決め方、ブランディングの方法を少しずつ身に付けていった感じです。

── ちなみに、ヤバイ仮面のTwitterも笹井さんが運用しているのでしょうか? こちらも巧みというか、バズらせ方を知っている感じがします。

笹井:ここだけの話……そうですね。でも、バズるツイートって宝くじと同じで、これだ!というものが必ず当たるものでもなく練りに練った渾身のツイートが伸びず、フラッシュアイデアで出したものがバズったりもしますから。

笹井:ただ、フォロワーやファンを増やすには、バズらせるよりもタイムライン管理の方が大事だと思います。悪の秘密結社に興味を持ってくれた人がヤバイ仮面のタイムラインを見た時に、全部ハイテンションのツイートだったら疲れちゃうんですよ。ですから、“捨てツイート”も適度に混ぜつつ、全体的に面白いタイムラインになるように管理しています。あとは、1回スクロールするごとに画像や動画が必ず出てくるなど、見る人を飽きさせないことは意識していますね。

仕事としての怪人の価値を上げていきたい

── ご当地ヒーローブームは落ち着いた感があります。今後、ローカルヒーローやヒーローショーが生き残るためには何が必要でしょうか?

笹井:これはあくまで個人的な意見であり、2020年1月時点での見解ですが、ご当地ヒーローは「夢」や「希望」を与えるのではなく、「物」を提供することも一つの手かなと思います。夢や希望は全国ネットで毎週1回、必ず25分放送されるテレビヒーローなら、心に影響を与えられると思います。でも、一期一会のヒーローショーは、圧倒的に尺が足りない。
例えば、「オーガマン」を作った時も「おくすり手帳を子どもたちが楽しく使用できる物にしましょう」と企画させていただきました。それって、ヒーローが存在する大義名分になるんですよね。子どもに夢や希望を与える時間がなくても、活用の仕方次第でヒーローがいる意味が出てくると思います。

── 笹井さんは悪の秘密結社でありながら、ヒーローへの愛が溢れていますね。そして、好きなことを仕事にしている喜びや充実感が伝わってきます。

笹井:そうですね。やはり、高校時代に一度、夢が破れていることが大きいと思います。夢が破れて、それでもやりたいと思った時に覚悟が決まった。うちの社員も、僕と同じようにいったん夢を諦めかけた人や、ヒーローショーを本職にしていきたいけど、なかなか芽が出なかった人が多いんです。そういう人を積極的に採用しています。

── では最後に、悪の秘密結社の目標、いや野望を教えてください。

笹井:僕が始めたこの会社を、絶対に成功させたいですよね。我々の野望は、上場して世界征服をすることですから。あとは、従業員の満足度を上げたい。金銭面もそうですし、精神的な部分も満たしてあげたいんです。僕ら怪人って、最後は絶対に負けるじゃないですか。プロレスだったらヒールが勝つこともあるけど、ヒーローショーで悪役の勝利はあり得ない。となると、やはり従業員の子どもや家族に誇れることは難しいと思うんです。
ですから、僕はこれからヒーローショーでの勝ち負けを超えた、仕事としての怪人の価値を導き出していかないといけない。「反面教師」というものを1つの仕事として世間に認めてもらい、悪の秘密結社で働くことに誇りを持てるようにしたいですね。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 編集:はてな編集部 撮影:南方篤

取材協力:笹井浩生

1989.9.2生まれ。長崎県南島原市出身。大阪府立四条畷高校卒。年収800~900万円(プロフを埋めろと言われてネットで自分のことを調べたらそう書いてありました。並行世界の私はその年収らしいです。)

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