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プレゼンは緊張しても噛んでも失敗ではない~スピーチコンサルタント・矢野香さんが伝授する「プレゼン上手になるための思考法」(前編)~

プレゼンは緊張しても噛んでも失敗ではない~スピーチコンサルタント・矢野香さんが伝授する「プレゼン上手になるための思考法」(前編)~

ビジネスシーンでは、営業やコンペ、企画会議や上司の前でのプレゼンといった人前で話す機会が多々ある。しかし、プレゼン自体に苦手意識を抱えている人は多い。大半は失敗を恐れる感情から来るものだろうが、そもそもプレゼンは、一度失敗したらもうリカバリーすることができないものなのだろうか。

 

今回は、「プレゼンのリカバリー方法」をスピーチコンサルタントである矢野香さんに聞いた。矢野さんは経営者や政治家、上場企業幹部といったエグゼクティブに正統派のスピーチを教え、再現性のあるノウハウを説いた著書も複数発表している。しかし、矢野さんは「そもそもの話から説明しても良いですか?」とプレゼンの原理原則から話し始めた。
そこで、まず前編では「プレゼンの原理原則」を、そして後編 では、明日から使える「プレゼンのノウハウやリカバリー方法」をお伝えする。まずは「プレゼンの失敗とは何か」を考えるところから始め、意識の変革を行おう。
 

 

まずは「失敗の定義」から。あなたが思う「失敗」は失敗ではない


―― ビジネスの現場では、プレゼンの機会が多くあります。商談やコンペ、上司との評価面談もそのひとつと言えるでしょう。多くの機会があっても失敗してしまう原因は何なのでしょうか?

 

矢野さん(以下、敬称略):プレゼンの失敗の原因を追求する前に、まずすべきことがあります。それは「失敗とは何か」という、自分の中での失敗の定義を確認することです。例えば、「話さなければいけないことを忘れてしまって、頭が真っ白になった」ことは失敗なのか?「途中で噛んでしまった」ことは失敗なのか?まずは、この「失敗を定義する」ところから始めましょう。

 

―― あらゆるプレゼンにおける「失敗の定義」はあるのでしょうか?

 

矢野:心理学の立場から言うとプレゼンテーションの失敗は「目的を達成しないこと」です。そもそも「ヒト」という生き物(人間)は、目的がないと「話す」というコミュニケーションをしません。「相手に理解してほしいことがある」という目的や、子どもであれば「お腹が空いたから何か食べたい」といった、伝える欲求がない限りは喋りません。つまり、目的を達成できていれば、頭が真っ白になったとしても、噛んでしまったとしても、それは失敗ではないんじゃないですか?というところからお伝えしたいのです。

 

―― 今まで失敗だと考えていたものは、実は失敗ではない可能性があるんですね。

 

矢野:そうです。つまり、「なぜ自分が話すのか」という目的が達せられなかった時に、初めて失敗になるということです。
分かりやすい例を挙げましょう。例えば、営業の方がお客さんに契約を決めてもらう目的で商談のプレゼンをするとき。「契約してもらえなかった」というのは、これは失敗です。
しかし、もしどんなに噛もうが、どんなに内容を忘れようが、「契約してもらう」という目的さえ達成されていれば、そのプレゼンは失敗ではないんですよ。
 

「好感獲得」「情報提供」「説得」 どこまでがプレゼンの目的なのかを考えよう


―― プレゼンにおいて、考えるべきは「何が目的なのか」、「何が失敗なのか」なんですね。

 

矢野:そうです。しかし、ビジネスの現場では「上司にプレゼンするように言われたから」「いつも自分がプレゼンの担当だから」など、プレゼンすること自体が目的になっているケースが見られます。本来、プレゼンは「次の行動を起こさせること」が目的です。

 

―― 上司からの指示でプレゼンをしている人たちが、プレゼンの目的を考える方法を教えてください。

 

矢野:プレゼンの目的は、心理学の観点から考えると、3つに分けることができます。「好感獲得」、「情報提供」、「説得」の3つです。

 

1つ目の「好感獲得」についてはほとんどの場合、全てのプレゼンの目的になり得ます。好感を得た方がビジネスは進みやすいですからね。そのため、「好感獲得」をベースにして、好感を得ることだけで良いのか、「情報提供」や「説得」も必要なのかを考えることが、「プレゼンの目的の考え方の原則」となります。

 

―― 「情報提供」が目的になるケースとは、具体的にどういったものなのでしょうか?

 

矢野:新商品のリリースやプロジェクトの報告などですね。そのプレゼンの中で「このプロジェクトはこのままだと予算が足りませんから、予算を増やしてください」や「チームメンバーを増やしてください」と伝える必要があると、3つ目の「説得」もプレゼンの目的になってきます。目的は、このように深化していきます。

 

―― 「説得」までを目的に含める必要があるのに、含められていない。だから失敗するというケースが多いように感じました。

 

矢野:そうなんです。「情報提供」までで終わってしまい、「説得」の要素を入れずにプレゼンをしてしまうことが失敗の原因であることはよくあります。だから「企画が通らない」と悩む方が多いのです。繰り返しますが、プレゼンすること自体は、目的ではありません。「好感獲得」「情報提供」「説得」のどこまでが今回のプレゼンの目的なのか。これを理解し、あらかじめ設定しておくことが重要なのです。
 

些細な点が気になるのは、「自己中プレゼン」に陥っているから

―― プレゼンの失敗の定義や目的については理解できましたが、そもそも人はなぜプレゼンについて「緊張してはダメなのではないか」といった些細な点にとらわれてしまうのでしょうか?

 

矢野:それは「自己中プレゼン」に陥っているからなんですよ。多くの人が「恥をかきたくない」や「みんな私を見ているんじゃないか」と考えてしまいがちだからです。

 

―― プレゼンする側は、ついついスキル面を気にしてしまいますが、聞き手は中身に着目しているのですね。

 

矢野:なぜ細かい箇所のスキルに目がいってしまうのかというと、これも目的を定めていないことに原因があります。「このプレゼンで新企画の承認がもらえるよう、相手を説得するんだ」という目的がはっきりしていたら、多少セリフを間違えようが、緊張しようが、なりふり構わず必死に話をします。その情熱に相手は説得されます。
だから、自分の立ち振る舞いが気になってしまったり、「緊張して忘れたらどうしよう」と考えてしまっていたり、そう思っていると分かった時は「目的が定まっているか」を見直すタイミングなのです。

 

―― 仮につたない話し方になったとしても「その純朴さから伝わってくるものがある」と人の心が動くことはありますよね。「自己中プレゼン」に陥らないための具体的なポイントはありますか?

 

矢野:それもやはり「目的は何か」に立ち返ることが最も重要です。「なぜ自分が伝えたいのか」を自分の中で腹落ちさせるのです。毎回のプレゼンで「説得」まで必要になるとは限りません。「情報提供」だけが目的のケースももちろんあります。そこまで考えることができると、「本当に自分がプレゼンターとして最適か」も考えられるようになります。

 

――「仲間に頼っても良い」ということでしょうか?

 

矢野:そうです。「情報提供」だけが目的であれば、プレゼンが上手な後輩に任せるといった意思決定もできるでしょう。そして、自分はチームリーダーとしてプレゼンの最後に一言添える役割に徹するという方法もあります。こういった「プレゼンの分業」も効果的に使ってほしいですね。
 

プレゼンの原理原則を理解すると、一歩先のイメージ活用まで見えてくる


――プレゼンの原理原則が理解できると、自分の役割を臨機応変に考えられる気がします。

 

矢野:プレゼンスキルは、コツのひとつに過ぎません。「話す」という行動は、そもそも人間の行動のひとつです。その人なりの話し方の良さが必ずあります。目的が分からなかったり定めていなかったりするから、「どこかにもっと素晴らしいプレゼンスキルがあるんじゃないか」と探し求めてしまうようになるのです。プレゼンの「青い鳥症候群」ですね。それよりも大事なことは目的を明確にすることです。スキルは後からついてきます。

 

――「スキルを身につければ、明日のプレゼンから上手くできるようになる」と考えてしまっていました。

 

矢野:プレゼン方法もたくさん提唱されていますから、もちろんそれを身につけることはプレゼンの面白さです。人によっては、教室に通ったりコンサルタントをつけたりしますね。ここからは運動神経と一緒で、反復練習とフィードバックが重要になります。

 

ちなみに、日本人は実直で素朴でいるほうが、プレゼンの目的を達成させられることが多いんですよ。

 

――流暢に話さなくても良いのでしょうか?

 

矢野:欧米人のノリが良くてユーモア溢れるプレゼンは、確かに惹き込まれます。しかし、プレゼンで話したことを「本当に実行するのか」という点で見ると、信頼性が伝わらないケースもあります。
国際的に見ても日本人は「寡黙だけどコツコツと実直に結果を出す」という良いイメージがあります。だから、そういったプラスのイメージもうまく活用すると目的が達成されやすくなります。

 

――職人的なイメージを持たれている可能性がありますよね。そう考えると、自分では「拙い話し方でプレゼンは苦手」と思っていても、聞き手からは「真面目に話す人だ」と評価してもらえている可能性もありますね。

 

矢野:そうなんです!プレゼンの目的が3つのうちのどこまでなのかをきちんと定めると、こういったイメージの活用方法も考えることができるようになります。

 

取材・文:佐野創太

 

 

取材協力:矢野 香

 

スピーチコンサルタント・博士(総合社会文化)
信頼と成功を得る「正統派スピーチ」指導の第一人者

NHKキャスター17年の実績。主にニュース報道番組を担当し番組視聴率20%を超えた記録を持つ。在局中から、心理学を根幹とした「他者からの評価を高めるスピーチトレーニング法開発」を研究、退局後に博士号取得。国立大学准教授として研究を続けながら、政治家、経営者、エグゼクティブ、さらにビジネスや日常においてスピーチを必要とする幅広い層への実践的なコンサルティングを続けている。伝えるべき内容の「言語」指導と、話し方・表情・動作などの「非言語表現」両方のトータルな指導に定評がある。多くのクライアントの成功を達成し、講演・研修依頼が相次いでいる。

 

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