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プレゼンの失敗はリカバリーできる 上達するために毎日習慣化することとは~スピーチコンサルタント・矢野香さんが伝授する「プレゼン上手になるための思考法」(後編)

プレゼンの失敗はリカバリーできる 上達するために毎日習慣化することとは~スピーチコンサルタント・矢野香さんが伝授する「プレゼン上手になるための思考法」(後編)

プレゼンが苦手で悩むビジネスパーソンに向けて、苦手意識を克服する方法や上手なプレゼンのノウハウをスピーチコンサルタント・矢野香さんが伝授。前編 では、「プレゼンの原理原則」と「プレゼンの目的」を理解することの重要性を聞いた。

 

後編の記事では、今日から効果を出すことができる「プレゼンスキル」や「失敗した際のリカバリー方法」をご紹介。前編でプレゼンについての考え方を理解したうえでこの記事を読めば、より実践にも生かせるはずだ。大事なプレゼンを控える人、プレゼンが嫌いな人、プレゼンは得意だけどもっとスキルアップしたい人、それぞれの現状のスキルをよりレベルアップするためのヒントが満載なので是非、習得してほしい。
 

 

プレゼンの失敗を未然に防ぐには、聞き手の反応を見ることが重要


―― 前編では、具体的なスキルを学ぶ前に必要な「プレゼンの原理原則」について伺いました。後編では、具体的なノウハウをお伺いしたいのですが、プレゼンの「失敗パターン」などはあるのでしょうか?

 

矢野さん(以下、敬称略):まず避けたい失敗は「数字・固有名詞を間違えてしまうこと」ですね。例えば、データやお客様の名前などです。なぜ間違えてはいけないかというと、聞き手からの信頼を失うからです。プレゼンの目的には、「好感獲得」「情報提供」「説得」という3つがありますが、聞き手からの信頼を失った状態ではどの目的も達成できません。

 

―― 万が一間違えてしまった場合、リカバリーすることは可能なのでしょうか?

 

矢野:その場でリカバリーする方法と、後日リカバリーする方法があります。
放送の現場では、もしアナウンサーが伝えた原稿に数字・固有名詞のミスがあった場合、まずは番組内で謝罪と訂正することを目指します。例えば、お昼の12時から12時15分までのニュース番組で誰かの名前を間違えてしまったとします。その時に15分間の放送時間内に「先ほどのニュースの中でAとお伝えしましたが、正しくはBでした。お詫びして訂正いたします」と謝罪訂正することが「その場でのリカバリー」になります。

 

―― 放送時間内の訂正は、私も聞いたことがあります。

 

矢野:一方で、放送が終わった後、次の13時のニュース番組で「先ほど12時のニュースの中で…」と訂正するのが後日リカバリーです。この場合、既に間違いの影響が大きくなってしまっている可能性もあります。
プレゼンも同様です。まずリカバリーを考えるのであれば、プレゼンの時間内にその場で訂正することがベストです。そのためには、聞き手の顔を見て、何か反応がないかを意識することです。

 

―― 確かに、間違いや異変があれば、相手も怪訝そうな顔になったりしますよね。

 

矢野:ごまかさないことも大切です。プレゼンをしながら気になる点が見つかったら、「誰も気づいてないから良いか」と考えないことです。その場で「今一度確認させてください」「改めてご連絡させてください」と一言添えましょう。このように「間違いの可能性がある」ことを正直に伝えることで、聞き手も「誠実な人だな」と信頼してくれるはずです。
 

「失敗」から得られる「信用」もある 適切なリカバリー方法とは


――早めの対処が重要ということですね。

 

矢野:万が一、リカバリーが後日になってしまっても、隠さないことが最も重要です。そして、その場合には謝罪会見対策と同じルールが適用できます。それは「相手が想定していること以上の情報を公開する」ことです。

 

―― 間違いだけの謝罪、訂正だけではダメなのでしょうか?

 

矢野:間違いを伝えられている側の気持ちとしては、「他にも間違いがあるのではないか」と不安になってしまうものです。それは、相手との信頼関係の揺らぎにつながります。だから、相手が想定する以上の情報を伝えることで不安を払拭し、さらに信用してもらう必要があるのです。プラスαの情報を足して、お詫びすることをオススメします。

 

―― 「そこまでやってくれたのか」と思ってもらうんですね。

 

矢野:そうです。プレゼンのリカバリー方法を考える際も、プレゼンのそもそもの目的に立ち返る必要があります。そもそもは「企画を通したい」「この人とビジネスがしたい」などの目的があるはずです。仮に間違いがあったとしても、誠実さが伝わり、目的が達成できていれば良いのです。人間である以上、間違いもあります。「間違えてしまったことは仕方がない。もう一度誠実に対応しよう」と捉えると、前向きな行動を思いつくことができます。

 

―― 失敗してしまった時こそ、その対応方法で評価が分かれますよね。

 

矢野:以前、ある会社の謝罪対応が見事でした。事件発覚から最初の謝罪会見までの時間が早く、また、その会見の中で当面の営業自粛が発表されました。「相手が想定していること以上」の対応ですね。これにより、確かに一時的に業績は落ちました。しかし、世間はその会社の真摯な姿勢を見て、事件が起きる前よりも信頼を寄せるようになりました。結果、業績もV字回復することになったのです。

 

このように「隠さず伝える」「より詳しい情報を提供する」ことがプレゼンの失敗のリカバリーにつながり、信頼を回復させることすることができるでしょう。
 

「13文字タイトル」を準備すれば、プレゼンの失敗はなくなる


―― ちなみに、プレゼンの事前準備のコツはあるのでしょうか?

 

矢野:「13文字以内でタイトルをつける」という方法がおススメです。まずプレゼンの目的に即して、一番伝えたいことを13文字以内で作ります。そして、それをプレゼンの時間内で繰り返すのです。「失敗してしまった!」と思っても、この13文字のメッセージだけはきちんと伝えるようにすれば、相手に趣旨は伝わります。

 

―― 著書の『【NHK式+心理学】 一分で一生の信頼を勝ち取る法―NHK式7つのルール―』の中でも13文字タイトルについては触れていましたが、失敗した時にも使えるスキルであるとは気づきませんでした。

 

矢野:タイトルを考えることで、話が脱線するケースも防げますし、「失敗したらどうしよう」という緊張も解くことができるんです。例えば、この本の中ではスマホの例を使ってタイトルのコツをお伝えしました。商品の購入者を増やすために、新商品が出ることを伝えるプレゼンだとしたら、どんなタイトルになるでしょうか?

 

――「画期的な新商品の紹介」などでしょうか?

 

矢野:ここも目的に立ち返りましょう。この場合の目的は、「スマホを購入してもらう」ことですよね。この目的に即したタイトルは、例えば、「新商品で5%経費削減を実現」となります。「削減できるなら買いたい」という人が出てきます。
その数は「新商品が出たなら買いたい」という人よりは多いことが予想されます。つまり
「新商品の紹介」といったタイトルでは、プレゼンの目的の2つ目である「情報提供」までしか届いていません。「購入してもらう」ための3つ目の目的である「説得」まで到達するには、「経費削減」という買い手のメリットまでタイトルに含める必要があります。

 

――ここでも目的を見直すことが重要なんですね。

 

矢野:たとえ「詳しいスペックを忘れてしまった」と緊張で頭の中が真っ白になっても、「私が今日申し上げたいのは、『新商品で5%経費削減を実現』ということなんです。ちょっと今から原稿を読ませていただきます」と、タイトルを伝えた後に原稿をカンペとして取り出す、というリカバリー方法もあります。

 

――タイトルが緊張した際のよりどころになるんですね。

 

矢野:話す内容を忘れてしまったと思う度に、タイトルを繰り返してください。聞いている人にとっては、「大事なフレーズを、熱意を持って適宜伝えている丁寧な人」として伝わります。自分の中では「忘れるたびにタイトルを話している」だけなんですが、聞き手はそうは思わず好意的に受け取ってくれるお得な方法です。
 

仕事の「大義名分」に気づけば、緊張せず自然と話せるようになる

――「どうしても人前に立つと緊張して話せない」という人もいると思います。メンタル面に関して、何か日頃から改善できるノウハウはあるのでしょうか?

 

矢野:プレゼンの苦手意識を払拭するためには、「そもそも論」と「即興スキル論」の2つを理解し、実践することが効果的です。「そもそも論」とは「大義名分を掲げること」です。つまり、「なぜ私はこの仕事をしているのか」という部分を明らかにするのです。この大義名分に気づいている人は緊張しません。仮に緊張していても話すことをためらいません。

 

―― 「プレゼンの大義名分」については、著書の『たった一言で人を動かす 最高の話し方』にも書かれていましたね。

 

矢野:「大義名分」を持つことは、アイデンティティを持つことと同義です。つまり、自分はなぜ働いているか、仕事を通じて何を実現したいのかといった原点に立ち返るということです。大義名分が分かると、自然と自信が湧いてきます。そもそも人間には「話したい」という欲求が備わっています。これは、食欲などと同じくらい強いものです。この欲求を目覚めさせるものが、「大義名分」なのです。

 

反対に、「大義名分」がないと、どう話せば良いのかわからず、スキルの部分だけにとらわれてしまいます。いつまでも苦手意識を払拭できないのです。自分の話に自信も持てないですよね。

 

―― 大義名分がないと、どんなにノウハウを学んでも苦手意識は消せないということですね。

 

矢野:厳しい言い方になってしまうかもしれませんが、もし今の仕事の大義名分が言えないとしたら、転職を検討した方が良い。大義名分をどれだけ考えても出てこないとしたら、その仕事は恐らく自分には合っていないからです。

 

どんなにプレゼンが自分では苦手だと思っていても、「この商品を使わないと地球が滅びてしまう」くらいの強い意義を感じているのであれば、その人はプレゼン上手に違いありません。プレゼンの苦手意識を根本からなくしたい、本当の意味で上手になりたいと思ったら、「大義名分」を自分の中で腹落ちさせることは必要不可欠です。
 

プレゼンの苦手意識を払拭するには、アファメーションが有効 日々実践あるのみ


――仕事の大義名分に気づくことを「そもそも論」として、もう1つ重要なポイントとして挙げられた、プレゼンの苦手意識を少しでも抑えるための「即興スキル」とは、どういったものなのでしょうか?

 

矢野:アファメーションが有効です。日本語にすれば、肯定的な「宣言文」ですね。スポーツ選手がメンタルトレーニングの一貫として、上手くいっている場面をイメージしたり、アファメーションをとりいれたりしますね。

 

――アファメーションの仕方に、何かコツはありますか?

 

矢野:「聞き手が成功したプレゼンをしている自分を見て、何と言うか」をイメージします。例えば、社内の経営層に対してプレゼンをするとしましょう。プレゼン後に、経営陣が「あの人に今度のプロジェクトのリーダーを任せよう」と話している姿をイメージするなら、
「プレゼンの結果、次のプロジェクトリーダーとなった〇〇です」がアファメーションになります。

 

――自分で自分が得たい評価を言葉にするんですね。

 

矢野:そうです。さらに効果を高めるには、読み上げる文章と視覚をリンクさせることです。鏡を見ながら、「プレゼンの結果、次のプロジェクトリーダーとなった〇〇です」と自分に向かって話しましょう。

 

――これは「毎日〇回」など、習慣にした方が良いのでしょうか?

 

矢野:その方が効果が高くなります。何かをしながらのアファメーションでもOKです。毎朝、歯を磨きながら、髭をそりながら。お化粧をしながらなども良いですね。アファメーションは、特に女性にオススメです。なぜなら、女性は毎日お化粧をして、変身することに慣れているからです(笑)。すっぴんの姿から、お化粧をした別の自分に変わっていくことが、男性よりも日常的なんです。ですから、メイクをしながらアファメーションを行うと、より効果的ですよ。

 

――変身ということですね。男性もスーツに着替えながらアファメーションすると、意識が改善されていきそうです。

 

矢野:そうですね。どうしても即興スキルやノウハウの身につけ方が目立ちますが、今回2回に分けてお伝えしたようにプレゼンの原理原則を知り、きちんと理解すること。
プレゼンの目的を考え、日頃から「なぜ自分はこの仕事をしているのか?」という大義名分を言語化してみてください。そうすることで「話したい」という根源的な欲求が湧いてきます。その時、相手の心を動かすプレゼンができるようになっていますよ。そうして身に付けた力は一生もののビジネススキルです。

 

取材・文:佐野創太

 

 

取材協力:矢野 香

 

スピーチコンサルタント・博士(総合社会文化)
信頼と成功を得る「正統派スピーチ」指導の第一人者

NHKキャスター17年の実績。主にニュース報道番組を担当し番組視聴率20%を超えた記録を持つ。在局中から、心理学を根幹とした「他者からの評価を高めるスピーチトレーニング法開発」を研究、退局後に博士号取得。国立大学准教授として研究を続けながら、政治家、経営者、エグゼクティブ、さらにビジネスや日常においてスピーチを必要とする幅広い層への実践的なコンサルティングを続けている。伝えるべき内容の「言語」指導と、話し方・表情・動作などの「非言語表現」両方のトータルな指導に定評がある。多くのクライアントの成功を達成し、講演・研修依頼が相次いでいる。

 

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