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プロ飲み師・高山洋平さんが明かす、リモート飲みの極意。肝はトークテーマとファシリテーション

プロ飲み師・高山洋平さんが明かす、リモート飲みの極意。肝はトークテーマとファシリテーション

新型コロナウィルスによる緊急事態宣言下、面と向かって集まれない状況のなかで広がった「リモート飲み」。今後も、気軽にできる新たな“飲み会”として受け入れられそうだ。

しかし、一方で「やってみたもののリアルな飲み会ほど盛り上がらない」という声も聞かれる。

広告などのクリエイティブを担う株式会社おくりバントの代表で、プロデューサー、営業としても活躍する高山洋平さんもその一人。外出自粛要請前、毎日のように酒場へ繰り出していた高山さんは、飲み屋に行けない鬱憤を晴らすかのごとくリモート飲みを敢行。ピーク時には週20件のペースで何かしらの飲み会に参加していたと言う。当初は勝手が分からなかったものの、猛烈に数をこなすことで知見を積み上げ、「リモート飲みを制する極意」にたどり着いたのだとか。

その極意を伺うとともに、飲み会以外にも使えるリモートにおけるコミュニケーション術、営業術について、リモート取材でたっぷり語っていただいた。

リモート飲みを知るべく、あらゆる会にひたすら参加

高山さん自作のリモート会議用オリジナル壁紙。他にも数パターンがあり、リモート会議、リモート飲みの雰囲気に合わせて使い分けている

高山さんは大手インターネット広告代理店の株式会社アドウェイズ上海支社で営業統括部長を務めていた頃から、類稀なる営業力を発揮。飲みの席でのコミュニケーションにも長け、「営業のプロ」「プロ飲み師」の肩書きを持っている。なお、自粛前はほぼ毎日飲み歩いていたという。
緊急事態宣言により、飲み屋へ行けなくなってからは積極的にリモート飲みを敢行。そこで、自粛明け以降の飲みニケーションや営業にもつながる、さまざまな知見を得たそうだ。

高山洋平さん(以下、高山):外出自粛要請が始まってから最初の2週間は、1日3件、いろいろな人とリモート飲みをしました。友達から仕事の人から、なんとなく知り合いの人が誘ってくれた飲み会とか、セミナーっぽいものとか、ほぼ全てのジャンルのリモート飲みを網羅しましたね。

── すさまじいペースですね。

高山:リモート飲み、リモート営業はこれからの営業マンにとって必須のツールになるだろうから、覚えなきゃと思って積極的に参加しました。ZOOMって最初は承認が必要なかったので、TwitterにURLを投稿して誰でも勝手に入ってこれるようにして。そしたら、海外のZOOM乗っ取り集団がきて荒らされたこともありました。

── そんな戦いが……。

高山:他にも、いろいろ試しましたよ。例えば、「レンタル立ち話おじさん」とか。リモートワークで誰かと話す機会がなくなっている人に向けて、ZOOMで俺と1on1の立ち話ができる無料サービスです。

2週間で100人くらいと話しました。要は、リモートとは何かを知りたかった。初期の頃にリモート飲みをたくさんしたことで、いろいろ分かりましたよ。リアル飲みとの違いとかね。

「プロ飲み師」に至るまで

── その知見は後ほど教えていただくとして、まずは高山さんが「プロ飲み師」の称号を冠するに至るまでの“飲み屋歴”をざっと振り返っていただけますか?

高山:はじまりは大学生の頃。20歳から毎晩飲み歩き、大学時代飲み屋でバイトもしていました。地元の“大人”たちが集まるようなお店です。群馬県太田市という土地は富士重工など工業地帯があり大人の遊び場が成熟した街で、酸いも甘いもある場所でした。そこで酒場での作法を学んだ。若いからかわいがられるんだけど、舐めたことを言ったらぶっとばされる。そういうのを学生時代から経験して覚えていきましたね。
社会人になってからはお客さん側に移行して、高いウイスキーを覚えました。当時、不動産営業の仕事に就き、歩合給が多く貰えていたので生意気な酒を飲んでました。「やっぱりフィニッシュ*1だよね」なんて粋がってね。正直、スノッブ*2時代もありましたよ。でも、ふと思ったんですよ。俺って、酒の味が好きで飲み屋に通ってたんだっけ?って。
要は、酒っていうのはアガるためのものであって、飲み屋の良さはやっぱり「人」なんですよ。良い店には良い人がいる。変な絡みをされないし、かといって放っておかれることもない。それから、そういう店を探すのが好きになった。

── 良い店に通っていると、良い飲み方が身につきそうですね。

高山:そうなんですよ。特に俺は若い時から酒の飲み方、遊び方をずっと研究してきたから、うまくなりますよね。で、それが意外と仕事につながるなと気づいたのは、アドウェイズに入社して上海に駐在していた30代前半の頃。 飲み屋で行儀が良かったので、行く店、行く店でたくさん友達ができたんですよ。で、バイブスの合う飲み屋に何度も通って、店の人の信頼を得ていった。そうするとね、お得意さんをその店に連れて行った時、店の人が俺のことを推してくれるわけですよ。「この人は信頼に値する人間ですよ」って。それも、「俺が言われたい言葉」でね。

── 店の人も高山さんのことをよく分かっているから、芯を食った援護射撃をしてくれると。

高山:その通りです。俺の場合は、「この人は本当にマジメでね」みたいな言い方で推されたくないわけですよ。それよりも、「あなた、こんなのと仕事するなんてモノ好きですね」って言ってほしい。俺と付き合うお得意さんなんて、実際モノ好きなんで、そう言われたほうが俺もお客さんもうれしいわけ。

── 逆に、お得意さんの前でマジメさをアピールされたい人もいますしね。

高山:そう。だから、「自分に合う店」が必要なの。自分とバイブスの合う店を見つける作業を、若いうちからたくさんやっておいたほうが良いですね。

── 上海から帰国後も、毎晩飲み屋へ?

高山:もちろん。上海から帰国して35歳でおくりバントという会社を創業した時から、年間360日飲んできました。主に中野や高円寺、阿佐ヶ谷でね。1日2〜3軒行くから、年間1000軒以上で飲みまくった。それって、なかなかだよね。これまでの20年の努力もあるし、もう「プロ」を名乗ってもいいでしょうと。体力の衰えから、去年は320日くらいに減っちゃったんですけどね。

── それでも十分すごいですから。「プロ飲み師」の名がダテじゃないことが分かりました。

リモート飲みにはグルーヴがない

── リアル飲み、リモート飲み、どちらにも精通する高山さんだからこそ分かった違いを教えていただけますか。

高山:まず、リモート飲みに一番ないものはアクシデント。酒をこぼす、隣の人が乱入してくる、そういうライブ感がない。飲み会って、要はグルーヴなんですよ。

── グルーヴ……。

高山:グルーヴです。リモートだと正面しか視界がないから、グルーヴを感じられない。リアル飲みみたいに周りの状況を察知して、「ソースいりますか?」とか「ちょっと七味とって」とかできないじゃないですか。みんな別々のものを食べているので、「あの人、エビの天ぷらだけ食べてるな。エビ好きなんだな」とか分からないじゃないですか?

── なるほど。確かにグルーヴ、すなわち、場の連帯感や空気感みたいなものはリモートでは感じにくいですね。だから、やや物足りなく感じてしまう……。

高山:あと、リモート飲みは終電を気にしなくて良いみたいなことを言いますけど、本来は終電って素敵なものですよ。帰るにしても残るにしても、終電があることで物語が生まれる。終電を逃すとタクシー代が1万円かかる……でも楽しいから3軒目行っちゃうんだよな、とか。そんな1万円、明らかにムダじゃん。でも、年をとってから「あの頃、よく1万円ムダにして飲んでましたよね〜」って、良い思い出になったりするの。それが醍醐味ですからね。

── リモート飲みでグルーヴを生み出す方法ってないんでしょうか?

高山:これはずっと考えていますけど、ぶっちゃけ現状は見つかっていませんね。まあ、気心の知れた友達となら、リモートでもゆったりと楽しいグルーヴは生まれますよ。問題は、友達の友達くらいの微妙な距離感の人が多いケースですよね。俺も、友達の紹介でよく知らない十数人のリモート飲みに参加したけど、あれはマジでつらかった。自己紹介がないまま、ほとんど喋らずそのまま終わった。俺も地獄だけど、他の人もつらかったと思いますよ。

── そういう、よく知らない相手とリモート飲みをする時のコツみたいなものがあれば、ぜひ知りたいです。これからは接待というか、仕事相手と親睦を深めるためにリモート飲みを活用する機会も増えてくると思うので。

高山:はい。まず、おさえるべきポイントは3つあります。

高山さん作成資料より

── しっかりとした事前準備が必要なんですね。

高山:リアルな飲み会だと話題が分散していて、トークテーマも複数あります。なので、その場を回すファシリテーターがいなくても成立します。

高山:また、良い飲み屋だと店主がファシリテーターになってくれるから、丸腰で良いんですよ。話をうまくつなぐのもそうだし、ウザ絡みをするお客さんがいたら「やめなさい」ってたしなめてくれる。でも、リモート飲みの場合は素人が店主をやっちゃってますよね。

── だからこそトークテーマを立て、テーマに明るい人をファシリテーターに据えると。確かに、飲み会に軸ができるし盛り上がりそうです。

高山:はい。それが分かってからは、ファシリテーターを立てて実施するようになった。さらに、テーマやメンバーに合わせ、独自にリモート飲みをいろいろな「型」と「系統」に分けたんですよ。

── 型、ですか。

高山:例えば、トークテーマが『キングダム』や『逃げ恥』で、それなりの知識があるメンバーが集まっていたら、誰が一番知識やあるあるを知っているか競う。これは「テーマ型」の「TVチャンピオン系」になります。あるいは『美味しんぼ』の話を、みんなで共感しながらおもしろおかしく語ると「アメトーーク!系」になる。
一方、圧倒的に詳しい人に『美味しんぼ』について講義してもらう「放送大学系」もあるし、美味しんぼをちょっと知っている有識者2、3人と、あまり知らないけど興味がある1人という構図だと「タモリ倶楽部系」になる。他にもたくさん型があって細分化していくと、かなりの数になりました。

テーマ型の例(高山さん作成資料より)

他にもフリースタイル型、演劇型などがあるそう(高山さん作成資料より)

無駄を楽しみ分析することで教養が増える

── 他に、リモート飲みをしていて気づいたことはありますか?

高山:やっぱり、みんな人恋しくなっているなって思いましたね。寂しいんですよ。リモート飲みって遠くにいる人ともできるのが良いところで、俺も上海の友達と久しぶりに飲んだけど、常に「会ったらもっと楽しいだろうね」って結論になる。効率的で便利なんだけど、今回のことでわざわざ会う無駄の大切さに気づいた人も多いんじゃないですか?

── 今回、いろいろなことがリモートで事足りると分かりました。一方で、リアルの良さを見直す声も少なからずありますね。

高山:そうそう。人によってね。どっちも良いものですから。つけ麺とラーメンみたいなものですよ。一見似てるようですが別物です。それぞれ良さがある。 イベントとかも、リモートならこれまで遠くに住んでいて行けなかった人も楽しめるわけですよ。でも一方で、べつにリモートで済む会議を、わざわざ東京から新幹線で大阪まで行って参加することに全く意味はないのか?
俺はそうは思わない。確かに時間の無駄ですよ。でもさ、ちょっと早めに東京駅に着いて「駅弁は何があるのかな?
いろいろおいしそうだけど、結局いつもシウマイ弁当買っちゃうよな」みたいなことを考える。それで人生が豊かになるわけです。
で、買った駅弁を「いつ食べるか問題」について考えるわけですよ。俺は新横浜を過ぎたあたりから食べ始めるのがオシャレかなと思うけど、周りのサラリーマンはどうかなと観察する。出発前から食べ始める人もいれば、12時ジャストの人もいてびっくりしたり。そういう無駄な時間が楽しいの。そして、楽しいだけで終わらせず、自分なりに分析することによって教養が増える。それを上司とかに飲み会で話したら、「こいつセンス良いな」って思われますよ。

リモートが営業の前哨戦になる

── 今回、一気にリモート文化が普及したことで、営業方法なども変わっていくと思われますか?

高山:俺は、これからはビデオ会議システムが「営業の前哨戦」になると思う。対面でのプレゼンの前に、リモートで一度ふるいにかけられる。ここを突破しないと本戦に進めなくなるんじゃないかな。これまでは人に会って営業するのが基本だったけど、両方できるようにならないといけないですよね。

── その前哨戦を突破するためのコツというか、誰にでも実践しやすい技みたいなものはありますか?

高山:例えば、商談が始まる前に、パソコンの前に立って待ってるとかね。営業で得意先を訪問した時、お客さんが会議室に来るまで立って待ってる人っているじゃないですか。あれをリモートでやると掴みにはなりますよね。リアルでやったら嫌がるお客さんもいるだろうけど、リモートならネタだと分かる。ああ、古い営業スタイルへのアンチテーゼなんだなと。

── そこまで深読みするかはさておき、間違いなく場は和みますね。

高山:あとは、「ZOOM飛び込み営業」っていうのを思いつきました。

── なんですかそれは?

高山:まず、得意先にメッセンジャーを送るんです。「いま、御社の近くに来ています」と。すると「外出自粛中だから会えないよ」と返ってくるので、すかさずZOOMミーティングのURLを投げるんです。で、先方に入ってもらって商談をする。

── すごい! 場合によっては有効かもしれない。実践しましたか?

高山:リモート会議はしました。けど、(成約は)決まりませんでした。

── でも、最初の「掴み」としては面白いですね。他に、リモート営業ならではの技はありますか?

高山:その前に、俺がアイスブレイクの技をいくつ持ってるか知ってますか?

── いいえ。いくつですか?

高山:533個です。川相*3の犠打の数と一緒なんですよ。うちの社名が「おくりバント」なんだけど、たまたま一致したんですね。
ただね、それがリモートになると5個くらいしか使えない。この技の詳細については、おいおい発表しようと思っているので、今は言えないんですけどね。

── 残念です。ただ、やはりリモート営業はハードルが高いんですね。

高山:ハードルが高いというか、リモートは経験豊富な営業マンも新卒の営業マンもスタートラインが一緒になっちゃう。リアルだったら現場の空気を掴むとか、そこにあるものをヒントにネタを広げるとか、経験による優位性があったけど、リモートだとみんなゼロベースですからね。

── アイスブレイクのネタを振ろうにも、対面に比べて情報が圧倒的に少ないから難しそうです。

高山:そうなると、これまでに蓄えてきた引き出しの中身、つまり教養が重要になる。例えば、『キングダム』でも『逃げ恥』でも『美味しんぼ』でも何でも良いんだけど、自分なりに研究してきたこととか頑張ってきたことは大きな武器になると思う。あとは、それこそ飲み会も含めて無駄なことをどんどんやって、教養を増やしていかなきゃいけないですよね。

アフターコロナでは、「飲み会」はどうなる?

── 新型コロナが収束してからも、リモート飲みは根付くと思いますか?

高山:根付くと思います。ただ、会える人には会って飲もうよってテンションになるんじゃないかな。リモートは遠くの人や、なかなか外に飲みに行けない子育て中の人との飲み会に有効な手段として根付くんじゃないかと。あるいは、わざわざ会わなくても良い人とかね。新型コロナによってWEBが「メイン」でリアルが「サブ」になったけど、徐々に元通りに逆転していくと思う。

── 外出自粛により、飲み屋ってあんなに楽しかったんだと気づいた人も多いようです。

高山:俺はちゃんと飲んできたから分かるんだけど、酒場って酒そのものが主目的じゃないんですよね。主は一緒にいる人で、酒はドライブをかけるためのもの。それがリモート飲みだと酒が主になっている気がする。みんな、やたら強いチューハイとか飲むでしょ。

── 確かに。酒が主になると、みんなで集まる必要もあまりない気がします。

高山:そう。酒が主だから、集まってもリアル飲みほど楽しくない。そりゃリモート飲みなら1000円くらいで安くできる。でも、無駄な3000円を払っても店の方が良いって、みんな気づいたんじゃないですか。繰り返しになるけど、これからは無駄が貴重なものとして受け止められていくようになるんじゃないかなと思います。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 編集:はてな編集部 撮影:南方篤

取材協力:高山洋平

クリエイティブカンパニー、おくりバント代表。新卒で不動産会社に入社し、その後、インターネット広告企業のアドウェイズに入社。同社の中国支社の営業統括本部長を務めるなど、大きな実績を持つ。2014年にアドウェイズの子会社として株式会社おくりバントを設立した。「プロ営業師」「プロ飲み師」を自認するコミュニケーションのスペシャリスト。

*1:いったん熟成させた樽から、他の樽へウイスキーを詰め替えて、さらに熟成させたウイスキー
*2:知識・教養をひけらかす見栄張りの気取り屋
*3:元プロ野球選手の川相昌弘さん。犠打の世界最多記録を持つ

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