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自動車・交通業界に革新をもたらす「MaaS」とは?概念や日本国内の普及状況、MaaSレベル、注目アプリなど、全体像を解説!

自動車・交通業界に革新をもたらす「MaaS」とは?概念や日本国内の普及状況、MaaSレベル、注目アプリなど、全体像を解説!

近年、「MaaS」という言葉を見る機会が増えてきました。MaaSは「Mobility as a
Service」のことで、モビリティ(Mobility)は交通分野において「マイカーや公共交通機関などを使った移動性(移動すること)」を指す言葉として広く使われています。

MaaSが注目されるようになった背景には、モビリティ分野におけるAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった先端技術の導入により、新種のサービスが次々に生まれている現状があります。これらの技術の本格活用によって、量産型のガソリン自動車が登場した20世紀初頭と同じ、もしくはそれ以上の大きなインパクトが近い将来、社会全体にもたらされる可能性もあるのです。

今回は、そんな自動車・交通業界の枠を超えて注目されているMaaSの概念や、MaaSによって私たちの生活がどう変わるのかについて解説します。

「MaaS」の読み方は?押さえておきたい全体像

「MaaS」とは?

MaaSは「Mobility as a Service」の頭文字を取った言葉で、読み方は「マース」が一般的です。「サービスとしての移動手段」「移動手段のサービス化」などと訳されますが、正確には「情報通信技術を活用して電車・バスなどの公共交通機関、タクシー、レンタカー、飛行機といった移動手段をシームレス(連続的)につなげ、ひとつの大きなサービスとして統合すること」を指します。

MMaaSという概念が誕生したのは、北欧のフィンランドです。当時国営の道路事業会社に在籍していたサンポ・ヒエタネン(Sanpo Hietanen)氏の構想を受けて国が動き始め、2012年には「MaaS」という言葉を考案。2014年に、その概念が発表されました。さまざまな移動手段を統合してサービスの利便性を高めるMaaSの考え方は、世界的に大きな反響を呼ぶことになります。

Mそしてフィンランドの首都ヘルシンキでは、ヒエタネン氏の呼びかけにより設立されたスタートアップ企業「MaaS Global」社が手掛けたサービスアプリ「Whim」が運用を開始。Whimでは、市内の公共交通機関、カーシェアリング、サイクルシェアリング、レンタカー、タクシーなどの交通サービスが統合され、経路検索から予約や手配、決済まですべてこのアプリで完結できるようになりました。これによって各種モビリティの利便性が高まり、50%未満だった公共交通機関の利用率は74%まで増えたそうです。

MaaSがもたらすメリット

モビリティ分野におけるビックデータの収集・分析や情報の連携が進んでMaaSが実現することには、次のようなメリットがあると言われています。

地方における移動の効率化 人が多い時間帯にバスなどの便数を増やしたり、手軽にタクシーなどを手配できたりするようになれば、地方(過疎地域)のアクセスが改善されます。
交通渋滞の緩和 マイカーがなくても自由に、そして快適に移動できるようになれば、道路から自動車(マイカー)の数が減少して渋滞の緩和につながります。
環境負荷の低減 自動車の数が減れば、排出されていた大気汚染物質や温室効果ガスの抑制にもつながり、環境負荷が低減されます。
支払いの簡素化 移動手段の支払いをキャッシュレス決済により一元化することで、支払いが簡単になり手間がなくなります。小銭を持ち歩く必要もありません。

統合状況を見定める基準「MaaSレベル」とは

新しい概念であるMaaSには、サービスの統合状況に応じて5つのレベルが設定されています。

レベル0 統合なし それぞれの事業者が独立してモビリティに取り組んでいる状態です。各会社が独自に提供している経路検索サービスや予約・配車サービス、駐車場予約サービスなどが該当します。
レベル1 情報の統合 料金・所要時間・予約状況など、異なる交通手段における一定の情報が統合されている状態です。「バスとタクシー」など、複数の移動手段を組み合わせたルート検索などもここに含まれます。
レベル2 予約・決済の統合 目的地まで利用する複数の移動手段を一括で比較でき、予約や決済などをワンストップで行える状態です。クレジットカードや電子マネーによるキャッシュレス化が欠かせません。
レベル3 サービス提供の統合 事業者間の連携が進み、どの会社のどの移動手段を使っても同じ料金で目的地まで行ける定額乗り放題サービスが整備されている状態です。
レベル4 政策の統合 国や自治体が政策レベルで連携し、地方の移動、渋滞の緩和、環境負荷の低減といった問題の改善を図れている状態です。法改正も含め、国家プロジェクトとして取り組むレベルと言えます。

MaaSに取り組んでいるヘルシンキでは、デジタル化や規制緩和などを目的とする法律の制定・施行も進められています。

【監修コメント】森口さん:フィンランドが国として「MaaS」をバックアップした理由として、「環境対策」「産業振興」「移動改革」の3点が挙げられます。環境対策の発端になったのは「Greater Helsinki Vision 2050」という国際コンペで、この結果をもとに再開発が始まったことから公共交通改革が必須となりました。産業振興では、かつて同国のメーカー「ノキア」が世界一になった携帯電話産業に代わる新規産業を育成する観点から白羽の矢が立ったそうです。移動改革においては、本文で書いた新種のモビリティサービスと既存の公共交通のシームレスな一体化が必要とされました。フィンランドが当初からMaaSレベル3を達成し、現在レベル4の「政策の統合」さえ実現しつつある背景には、こういった状況があったのです。

モビリティ革命はそこまで来ている?日本におけるMaaSの取り組み

日本でもMaaSの取り組みは重視されており、2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、重点施策のひとつとして「次世代モビリティシステムの構築」が掲げられました。現状ではレベル1やレベル2以下の取り組みがほとんどと言えますが、官民の双方でMaaSの実現に向けた取り組みは少しずつ始められています。

以下では、日本におけるMaaSプロジェクトの事例をいくつかご紹介します。

スマートモビリティチャレンジ

経済産業省と国土交通省が2019年に立ち上げた、新たなモビリティサービスの社会実装を通じて移動課題の解決や地域活性化を図るプロジェクトが、「スマートモビリティチャレンジ」です。渋滞緩和や高齢者の移動手段確保を目的に複数の移動サービスをまとめて検索できるアプリを作る、AIを活用して柔軟かつ効率的な公共交通機関の運用を図る、といった取り組みが示されました。2020年度には52 の地域・事業が選定され、実証実験などの支援が行われています。

Universal MaaS

「Universal MaaS(ユニバーサル・マース)」は、ANA、京浜急行、横須賀市、横浜国立大学が共同で参画しているMaaSプロジェクトです。高齢者や障がい者、訪日外国人など、「何らかの理由で移動に不便さ・不自由さを感じている方が快適にストレスなく移動できること」を目的としたサービスの社会実装を目標に掲げています。具体的な取り組みには、車いす利用者のためのバリアフリー乗り継ぎルートナビアプリ制作などがあります。

Autono-MaaS

「Autono-MaaS(オートノマース)」は、自動車メーカーからモビリティカンパニーへの転換を打ち出したトヨタのMaaS事業です。Autono-MaaSは、「Autonomous Vehicle(自動運転車)」と「MaaS(マース)」を融合させた造語で、トヨタによる独自のモビリティサービスを意味しています。2018年には、ソフトバンクのIoTプラットフォームと連携するためにモネテクノロジーズという会社を共同で設立。決済機能を備えたルート検索アプリ「my route(マイルート)」は福岡市で提供を開始し、現在は横浜市や宮崎市でも展開しています。

【監修コメント】 森口さん:我が国では新しいモビリティサービスが登場すると、導入自体を目的とする動きが生まれます。MaaSも例外ではなく、「流行りそうだから」「ビジネスになりそうだから」という軽い気持ちで参入に乗り出す企業の事例が散見されました。その点を考えれば、国土交通省や経済産業省など国の機関が指針を出し、意欲的な取り組みに対して積極的に支援を行う姿勢は歓迎すべきものです。両省のプロジェクトが契機になり、過剰に思えた騒ぎが沈静化しつつあることも好ましい動きと言えます。

どんどん便利になる、移動の利便性を高めるMaaSアプリ

交通事業者を中心に、日本国内でも様々なMaaSアプリがリリースされています。特徴的なコンセプトや機能を持ったアプリをチェックしておきましょう。

WILLERS

高速バスで有名なWILLERはまず、2018年に北海道の道東地方で観光デジタルフリーパスを展開。そして翌年から、観光型 MaaSアプリ「WILLERS(ウィラーズ)」の提供を開始しました。日本では北海道道東地区とWILLERが運営している京都丹後鉄道沿線、京都府南山城村で展開しています。京都丹後鉄道や沿線のバス、遊覧船などでは、QRコードによる乗車・乗船を実現。観光船などのアクティビティ予約も可能です。海外では、シンガポールや台湾でサービスを実施しています。

Izuko

JR東日本と東急が中心となって2019年から実証実験を行っている「Izuko(イズコ)」は、世界に先駆けた「観光型MaaS」として海外からも注目を集めました。フェーズ1はアプリでしたが、観光客や地域住民がアプリをダウンロードするハードルの高さから、フェーズ2以降はウェブサイトでの提供に形を変えています。現在はフェーズ3を展開中で、地域内の公共交通乗り放題のデジタルフリーパス、多彩な観光商品、オンデマンド乗合交通などが利用できます。

Emot

小田急電鉄は2019年、経路探索エンジンを開発するヴァル研究所などとデータ基盤「MaaS Japan」を共同で開発すると発表。続いてこのMaaS Japanを活用したアプリ「EMot(エモット)」の実証実験を小田急沿線で始め、静岡県浜松市周辺では本格サービスに移行しています。ルート検索と予約・決済のみならず、飲食のサブスクリプションサービスやショッピング特典チケット、観光地でのデジタルフリーパスを用意。2020年11月にはアプリをアップデートしています。

MaaSによって「働き方」そのものが変わっていく可能性も

MaaSが推進されると、利用者は快適にストレスなく移動することができ、事業者は混雑や渋滞の緩和、運賃収入増加やコスト削減などによる経営の安定化などを実現することができるようになります。さらには物流サービスの効率化、観光業の発展支援、空き地・空き家など余剰空間の再活用など、社会問題の解決につながる可能性も高いでしょう。

また、MaaSによって通勤時の混雑がなくなったり、移動が大幅に効率化できたりすれば、業種や職種を問わず「働き方」そのものが変わっていくかもしれません。実際、海外出張をはじめスタッフの移動が多いマイクロソフト社のように、MaaSの導入によって働き方改革を推進するプロジェクトをスタートさせている企業もあります。

日本においてはまだまだ課題が多くありますが、日本の状況や国民性に合ったMaaSサービスが今後登場する可能性は高いと言えそうです。

【監修コメント】森口さん:日本では自動車が基幹産業ということもあり、MaaSはCASE(※)に代表される自動車改革とセットで語られることもありました。しかしフィンランドでは、都市再開発で懸念される交通問題の解消が導入目的のひとつであり、「公共交通機関の利用者を増やすためのツール」という位置付けです。それを考えれば近年、日本でも交通事業者によるMaaS普及の動きが目立つようになってきたのは好ましいと言えます。大切なのは「どの乗り物を使うか」ではなく、「人々の移動を快適にし、豊かな暮らしを実現すること」です。
※CASE:自動車の新技術や新サービスを示す4つの言葉の頭文字。CはConnected、AはAutonomous、SはShared、EはElectricを指す

文:C-NAPS編集部

取材協力:森口 将之(もりぐちまさゆき)

モビリティジャーナリスト。早稲田大学卒業後、出版社編集部勤務を経て1993年にフリーランスジャーナリストとして独立。国内外の交通事情・都市事情を精力的に取材し、2011年には交通計画・都市計画に関する研究・調査やコンサルティングを事業とする株式会社モビリシティを設立した。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、グッドデザイン賞審査委員などを務める。著書に『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。

Web:http://www.mobilicity.co.jp/
Twitter:@mobimori

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