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企業が「タレントマネジメント」に注力し始めた理由とは?導入の目的や実現できること、運用事例も紹介!

企業が「タレントマネジメント」に注力し始めた理由とは?導入の目的や実現できること、運用事例も紹介!

企業の価値を高める上で必須とも言えるのが、人材力の強化です。「事業は人なり」とは“経営の神様”と呼ばれた松下幸之助の言葉ですが、企業経営を成功させるには、戦略実現に必要な人材を確保し、育て、維持していくことが欠かせません。

以前から企業は人材開発に取り組んできましたが、2000年代以降は「タレントマネジメント」と呼ばれる取り組みを強化する企業が増えてきました。タレントマネジメントを導入する経営陣や人事部門は何を目的にしているのでしょうか。そして、マネジメントされる側の従業員(ビジネスパーソン)は自身のキャリア実現のために、この取り組みをどう活かせば良いのでしょうか。導入企業の事例と合わせて、タレントマネジメントによる人材力強化の狙いや取り組み方を把握しておきましょう。

 

タレントマネジメントとは?言葉の意味と導入の背景

タレントマネジメントの概要

 

「タレントマネジメント」という言葉を聞いて、どのような取り組みを連想するでしょうか。たとえば、「将来の経営者候補を計画的に育成すること」や「優秀な従業員に対して特別な育成機会を提供すること」などが思いあたるかもしれません。つまり、「特別な人材に対する優遇措置的な取り組み」という位置付けです。

上記のような取り組みも実際にありますが、一方では異なる解釈も存在します。全米人材マネジメント協会(SHRM)や米国人材開発機構(ATD)といった人事関連の研究機関・団体による定義を要約すると、タレントマネジメントとは「組織ニーズに基づくスキル・適性を持つ人材を確保するための包括的な取り組み」となります。つまり、特別な人材だけを対象にしたものではなく、「企業で働くすべての従業員に関わるもの」という考え方です。近年注目されているタレントマネジメントの取り組みは、こちらのように広義の解釈として捉えるのが自然でしょう。

タレント(talent)は「能力」「人材」「素質」を意味する言葉で、タレントマネジメントを日本語に置き換えると「能力や人材の管理」といった表現になります。企業や事業の将来的な発展を考えるとき、そのあるべき未来を実現するためには「どんな組織能力が必要か」「その組織能力を確保するために、どのような施策(採用・育成・配置など)を行う必要があるか」といった人事戦略が必要です。

そして、適切な人事戦略を立てるためには、まず現在の組織と従業員の状態を可視化する作業が欠かせません。その情報をもとに、あるべき未来の実現に必要な戦力の差、いわば「理想と現実のギャップ」を明確にし、ギャップを埋めるための人材マネジメント施策を立案・実行する――。この一連の流れが、タレントマネジメントの基本的な考え方です。これに沿って組織開発や後継者育成、エンゲージメント強化などを図ることにより、企業の将来的な成長を実現していくわけです。

 

「タレントマネジメント」が生まれた背景

 

タレントマネジメントは欧米を中心に広まった考え方です。2000年代から日本企業でも取り入れられるようになり、今日では多くの企業において何らかの取り組みが実施されています。

日本においては、新卒として一括採用した従業員が会社主導のゼネラルローテーションで様々な仕事を行いながら経験を積み、その中から優秀な人材を選抜して計画的に育成する、という目的で取り組み始めた企業が多いと考えられています。しかし、欧米圏では少々事情が異なります。

欧米圏では以前より「ジョブ型」と呼ばれる雇用システムや専門性を軸とした労働市場が確立されており、従業員は自身の専門領域を軸としたキャリア形成を行うという考え方が当たり前です。しかしその環境下では、個々の領域における専門性の高い人材を確保・育成することはできても、ゼネラリスト的な要素が求められる経営人材を育てにくいという課題がありました。そうした観点から、優秀な経営人材を発掘・特定・維持するために、通常の人材マネジメントに加えて企業側が主導で行う一定のルール・プロセスが求められた――というのが、タレントマネジメントが生まれた背景にあると考えられます。

 

ジョブ型雇用とは 仕事内容や責任範囲を「ジョブ」として明確化し、スキル・能力・経験といったジョブを担う要件に適合する人材を配置していく雇用の考え方です。企業は人材の専門性を重視し、労働市場(社外)から必要な人材を確保したり、専門性を高めやすい方針・手段で社内の人材を育成したりします。  
メンバーシップ型雇用とは 日本企業で多く見られる、終身雇用や年功序列を前提とする雇用の考え方です。雇用契約において具体的な職務は定められておらず、新卒一括採用された従業員が企業側のニーズにあわせて定期的なジョブローテーションを繰り返し、複数の職種を経験します。また、長期雇用が前提となるため、業務に必要なスキルは企業内訓練や日々の業務経験などで時間をかけて育成するところに特徴があります。  

 

近年では、日本でもジョブ型雇用のトレンドが生まれつつあります。狭義のタレントマネジメントである「経営人材の育成」はこれまで同様に取り組まれていくと考えられますが、広義のタレントマネジメントも、キャリアの自律(個人が今後のキャリアについて自ら主体的に考え、行動すること)を支援する総合的な取り組みへとさらに変化していく可能性が高いでしょう。

 

注目されるきっかけとなった3つの「変化」

 

雇用のあり方として「ジョブ型雇用」のトレンドが生まれ、タレントマネジメントの取り組みが「すべての従業員に関わるもの」へと広がるきっかけとして、下記のような環境や状況の変化があります。産業や事業ステージによって影響の濃淡はありますが、終身雇用や年功序列と呼ばれる従来型の人事制度ではこれらの変化に適応することが難しく、各企業が成長や戦略の実現に必要な組織能力を迅速に確保できる仕組みへ転換し始めている事実は、ビジネスパーソンとして理解しておきたい点です。

 

労働市場の変化 少子高齢化に伴う労働人口の減少などによって人材確保が年々厳しくなり、「限りある人的資源をいかに活用するか」が重視されるようになっています。適切な育成や人材配置によって最適化を図り、同時に従業員の就業意欲や企業への愛着を高めることが求められています。  
経営戦略の変化 テクノロジーの進化に合わせてユーザー・顧客の行動が変わる中で、企業も商品・サービスやビジネスモデルそのものを変化させていかなければ、市場で選ばれにくくなってきました。人材の確保や適切な配置を通して、あらゆる問題に迅速に対応することが求められています。  
価値観の変化 「従業員は企業の歯車」「同じ会社で定年まで働く」といった考え方が薄れる一方、仕事へのやりがいや社会貢献意欲、多様な勤務形態などを重視する人材が増え、「働き方」の価値観が多様化しています。また、人材のグローバル化も価値観の多様化に拍車をかけています。  

タレントマネジメントシステムを使って実現できること

タレントマネジメントを効果的に実行する上で、テクノロジーの活用は必要不可欠です。現在の組織や従業員の情報を可視化するためのデータベース、タレントマネジメントの各種施策を効率的に実施するためのITシステム、モニタリングをするためのレポートなど、タレントマネジメントの実行を支援するためのツールが数多く存在しています。

タレントマネジメントシステムの代表的な機能には、以下のようなものがあります。

 

人材データベース管理 従業員の個人情報や、分散しやすい面談記録などの人事情報を整理・検索・閲覧できる機能です。  
目標管理 評価指標を設定し、結果・実績を管理する機能です。目標に対するアクションを、随時モニタリングできます。  
コンピテンシー管理 成果の創出につながる行動特性(コンピテンシー)を設定し、従業員の行動やスキルなどを分析する機能です。  
報酬管理 成果指標の達成度などに基づいて報酬の配分をシミュレーションしたり、賞与などの調整を行ったりする機能です。  
採用管理 採用プロセスの進捗や内定者数などをリアルタイムで把握したり、プロセス管理を一元化したりする機能です。  
スコアリング 各管理指標を分析し、スコアリング(数値化)する機能です。「先月との比較」や「業界内での比較」などが可能です。  

 

こうした機能を使うことで、多くの企業が抱える課題も解決しやすくなります。あなたの所属部署が抱えている課題も、タレントマネジメントシステムによって解決できるかもしれません。

 

タレントマネジメントシステムの導入事例

一言でタレントマネジメントと言っても、目的や使い方は企業によって様々です。続いては、大手企業におけるタレントマネジメントシステムの導入事例をご紹介します。

 

ケース1:大手製薬会社の場合

 

医療用眼科薬をはじめとする医薬品を国内外で展開する大手製薬会社では、「事業の急速なグローバル化」「事業買収に伴う拠点数の増加」「人事制度の刷新」という3点を背景に、タレントマネジメントシステムの導入に踏み切りました。

特徴的だったのは、必要な機能を一気に取り入れて変更するのではなく、段階的に導入したこと。グローバル統合できるものとそうでないものを分け、地域固有のニーズを反映する必要がある場合は各国の既存システムをそのまま使うなど、柔軟な運用を目指しました。こうした導入方針は「使う側」の理解を得やすく、人事部門にとっても従業員にとってもメリットがあったと言えます。

 

ケース2:大手電機メーカーの場合

 

グローバルに事業展開する大手電機メーカーでは、変革時期を経て事業成長へ舵を切るタイミングで、従業員のチャンレンジ精神を活性化させるためにタレントマネジメントシステムを導入しました。会社視点での人材配置・育成施策に加えて重きを置いたのは、個人のキャリア自律支援施策です。

従来から社内公募などの施策は実施されていた同社ですが、対象範囲を拡大し、「FA制度」や「プロジェクト型兼務制度」など、本人の意志をより反映できるような仕組みを全社的に展開。ポジション情報を公開してプロジェクトの社内公募を行うだけでなく、本人の経歴や今後のキャリア希望をシステムに登録し、他部門からオファーがあれば面談や異動ができるようにしたことで、従業員全体のキャリア自律を促した点が大きな特徴と言えます。

 

「マネジメントされる側」は、この取り組みをどう活かすべき?

ここまでは主に、企業の目線からタレントマネジメントについてご紹介してきました。では、企業で働くビジネスパーソンはこの取り組みをどのように考えるべきでしょうか。

まずは、先に触れたジョブ型雇用がトレンドになりつつあることを理解しておく必要があるでしょう。ジョブ型雇用の企業では、従業員は自身の専門性を高め、キャリアプランを踏まえてやりたい仕事に就くという「キャリア自律」の考え方が前提になります。高度なスキルを身に付けられれば、得意な業務を自身のミッションにすることができ、報酬アップが実現する可能性も高まります。

ジョブ型雇用と“従来型”のメンバーシップ型雇用では、企業と従業員の関係が大きく異なります。メンバーシップ型雇用では「雇用を保障する代わりに、個人が従事する業務を会社が決定する」という保護者と被保護者のような関係でしたが、ジョブ型雇用では「会社と個人が合意したジョブの遂行に対して適切な対価を支払う」という、互いに選び・選ばれる関係に変化するわけです。

このような変化に応じて、ビジネスパーソンとしても「会社で働くことの意味」を再確認すべきかもしれません。自身の専門性を高め、理想のキャリアを実現するための場ととらえ、企業が主導するタレントマネジメントの取り組みを積極的に活用していく――という意識を持つことが重要になるでしょう。

 

より自分らしく、より豊かなビジネスキャリアとは?を考える

 

今回ご紹介してきたように、専門性の高い人材を獲得・育成するために、タレントマネジメントに取り組む企業が増えてきました。「ジョブ型雇用へのシフト」というトレンドを踏まえて、個々のビジネスパーソンとしても「今の会社で働くことにどんな価値があるのか」「自分はこれからどのようなキャリアを築いていきたいのか」をこの機会にあらためて考えてみましょう。そうすれば、より自分らしく、より豊かなビジネスキャリアを歩むことができる可能性も高まるはずです。

文:C-NAPS編集部
協力:キャプラン株式会社

 

 

取材協力:磯部 浩也(いそべ ひろなり)

マーサージャパン株式会社の組織・人事変革コンサルティング部門プリンシパル。上智大学法学部国際関係法学科を卒業、会計系コンサルティング会社、大手IT企業コンサルティング部門を経てマーサージャパンに参画する。製造、製薬、運輸、金融、サービスなど各業界の大手企業に対して、グローバル要員・人件費計画策定、人材マネジメント・人事制度改定、グローバル人材管理・タレントマネジメント、人事部門改革などのコンサルティングに従事。

Web:https://www.mercer.co.jp/

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