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部下を潰す「クラッシャー上司」から身を守るには? 精神科産業医の松崎一葉さんに聞く傾向と対策

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パワハラや長時間労働が問題視され始め、「働き方改革」が進行中だ。しかし、その流れを止めるような上司がいる。

 

自分は業績を上げて出世街道まっしぐら。しかし、部下を酷使しすぎてどんどん潰すため、通った後にはぺんぺん草も生えず、若手社員が死屍累々……。このような人物を「クラッシャー上司」と名付けたのは、精神科産業医の牛島定信さんと教え子である松崎一葉さん。

 

松崎さんは今年1月『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』(PHP新書)を上梓した。本書を通じて、松崎さんはどんな警鐘を鳴らしているのか。クラッシャー上司の傾向と対策を詳しく教えてもらった。

 

クラッシャー上司とは何か

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松崎さんは現在、組織内におけるメンタルヘルス改善の業務に携わっている。その経験によって、クラッシャー上司と認定できる人物たちにさまざまな共通項を発見したという。

 

「企業内でうつ病などの精神的な病を診断するときは、原因が本人に起因するのか、職場環境に問題があるのかを確認します。働きすぎで心を病む社員の問題を究明しているとき、環境要因として挙がった共通項の多くが『すごくデキるのに厳しすぎる上司』の存在でした。後日その上司と面談してみたところ、心を病んだ部下のことを『あいつのメンタルが弱いだけだ』と言い放つのです」

 

やっかいなのは、クラッシャー上司は単なるパワハラ・モラハラ上司ではないことだと語る。

 

「クラッシャー上司がパワハラだけの上司と違うのは、良い業績を残している点です。部下にも自分と同じ完璧さを求め、精神的に追い込んでしまうのです。彼ら彼女らは部下の仕事内容をよく見ているものの、自分本位で相手の気持ちを読もうとしない。それがクラッシャー上司の典型像ですね」

 

もちろん、仕事熱心なのは悪いことではない。しかし、部下を時には奴隷のように扱い、失敗するととことん叱責し続け、結果的に部下を潰してしまうのだ。クラッシャー上司は自分の行いや振る舞いを独善的に考えてしまう傾向にある。

 

「彼らは『自分は会社にとって正しいことをやっている』と口を揃えて言います。こちらが問題を指摘しても、自らを『クラッシャー上司』だとは認めません。パワハラやコンプライアンスへの抵触ではないかと話しても『こいつは厳しくしないと伸びないんですよ』『コンプライアンスの基準どおりにやっていたら現場なんて回せない。業績のためなら少々グレーでもしょうがない』と悪びれないのです」

 

もはや、クラッシャーを生む企業構造では現代社会に通用しない

 

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このようにクラッシャー上司がいなくならないのは、それを容認する企業文化があってこそだと松崎さんは指摘する。社員が働きやすい企業体制に改善しようとすると「メンタルヘルスやワークライフバランスは会社のためにならない」と追い返す企業もあったそうだ。

 

「会社では利益が優先され、クラッシャー上司は処罰や指導の対象にならないこともあります。滅私奉公が正しいという価値観が、日本の企業社会にはまだ根強く残っている。クラッシャー上司がいなくならないのは、旧態依然とした価値観に染まっている幹部が上層部に多いからでしょう。クラッシャー上司は個人のモンスターの問題ではなく、組織マネジメントの問題なのです」

 

これまでの日本企業は終身雇用が守られ、右肩上がりの経済成長も続いてきた。そのためクラッシャー上司が見過ごされてきたのかもしれない。しかし、産業構造の激しい変化によってイノベーションが求められる昨今、クラッシャー上司の存在が許されなくなった。これは時代の当然の流れだと松崎さんは指摘する。

 

「日本企業ならではの雇用スタイルも、クラッシャー上司を生む土壌になっています。欧米の雇用は『ジョブ型』。業務内容に対して人を雇い、職務範囲も労働時間も明確に決まっています。一方、日本の大企業の雇用は『メンバーシップ型』で、まず雇用してから仕事を与えます。すると『雇っていただいている』という意識が生まれやすくなる。仕事をして給料をもらっているにもかかわらず、研修を受けている意識が強くなってしまうのです」

 

それぞれの雇用形態には一長一短あるだろう。しかし、メンバーシップ型は職務範囲が曖昧で、サービス残業など労働時間の管理も曖昧になり、上司の命令を断りにくい状況が生まれやすい。一方、ジョブ型の場合、「それは私の仕事じゃない」と明確に職務の線引きができるのだ。

 

メンバーシップ型の終身雇用が綻びつつある中、クラッシャー上司が活躍する職場は減少しつつあるだろう。しかし、昨今の過労死や労働問題の続発を考えると、日本型の同調圧力はそこかしこに潜んでいるのかもしれない。

 

内なる「クラッシャー上司」をあぶり出すのは教養の力

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とはいえ、日本社会からクラッシャー上司がいますぐ消え去るわけではない。もし身の回りにクラッシャー上司がいた場合、どう対処すればよいのだろうか。

 

「まずは、自分のワークモチベーションをきっちり意識することが大切です。会社の中で出世して承認欲求を満たしたいのか。ワークライフバランスを重んじて家族と豊かな時間を過ごしたいのかなど、自分が大切にしたいことが何なのかを考えましょう」

 

それを踏まえて、その会社にとどまって自分はどういう能力を身に付けたいのか。会社にいる意味をしっかり意識できていれば、クラッシャー上司に押しつぶされることはなく、「能力が身についたら転職をしよう」といった発想に切り替えられるはずだ。

 

「知らず知らずのうちに、自分自身がクラッシャー上司になってしまう可能性もあるでしょう。そうならないためにも、ビジネス一辺倒ではなく音楽や美術、文芸などを含むリベラルアーツ(自由に生きるための学問)に触れることが大切です。ビジネスにはロジックが必要ですが、世の中はそれだけではありません。ロジックだけでは測りきれないものを楽しめる教養があれば、承認欲求を満たすために仕事をするような人にはならないでしょう」

 

松崎さんが指摘するのは、クラッシャー上司の根底に過剰な承認欲求があるということだ。「賞賛されたい」「承認されたい」という欲求が強すぎるため、仕事にすべてを注ぎ込んでしまうようだ。

 

「クラッシャー上司が部下を叱咤激励して短期的には業績が上がっても、そんな人が活躍するようでは、社員を使い捨てる会社だといっているようなもの。これからの時代は、そんな悪しき社内構造の改革が不可欠なのです」

 

(佐々木正孝+ノオト)

 

 

松崎一葉(まつざき いちよう)

 

筑波大学大学院 医学医療系 産業精神医学・宇宙航空精神医学教授。医学博士・精神科医。産業精神科医として官公庁、上場企業から中小企業まで、数多くの組織で精神科産業医としてメンタルヘルス不全の治療・予防システムに取り組んできた。JAXA客員研究員として、宇宙飛行士の資質と長期閉鎖空間でのサポートについても研究している。著書に『クラッシャー上司』(PHP新書)、『会社で心を病むということ』(新潮文庫)、『もし部下がうつになったら』(ディスカヴァー携書)など。 

 

 

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