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おもしろ部署探訪~乃村工藝社 プランニング統括部・デザイン部~神田明神文化交流館『EDOCCO』誕生秘話

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世の中にはさまざまな仕事がある。一見すると同じ部署名でも、企業の数だけ手掛ける仕事内容は多様なうえに、企業や社会における役割も異なる。この連載では、そんな世の中に存在する企業の『部署』にフォーカスし、それぞれの部署の役割や仕事内容、ポリシーなどに迫る。

今回は、乃村工藝社のプランニング統括部・デザイン部を訪問。東京スカイツリー®・東京ソラマチ®をはじめ、数多くの商業施設や博物館、イベントなどの空間プロデュースを実施してきた同社が、2018年12月、またしても革新的な施設を生み出し、話題になっている。

東京・神田明神内に誕生した『EDOCCO(エドッコ)』は、神社境内にオープンした文化交流施設。カフェ・物販エリアだけでなく、インバウンド向けの日本文化体験エリアや、さまざまな用途で利用できる多目的ホールまで用意されている。1300年近く歴史のある神田明神の敷地内に、どうして神社としての領域を超えた多機能な施設を造るに至ったのか。実現までの道のりをプロジェクトメンバーに伺った。

神社の原点に立ち返って生まれた「文化交流館」というアイデア


―― 『EDOCCO』についてお話を伺う前に、まず、乃村工藝社の業務範囲をご説明いただけますか?


坂爪さん(以下、敬称略):乃村工藝社全体でいうと、近年は「調査・企画・コンサルティングからスタートして、デザイン設計、制作・施工、ブランディング、運営管理も行う」というのが弊社のプロデュース領域になっています。今までは、「施設を創ったら完了」というケースが多かったのですが、私がプロデューサーとして入ると、トータルでプロデュースする業務となるケースが多いです。今回の『EDOCCO』もそうですが、企画・開発から、建築与件抽出、建築設計アドバイス、デザイン設計、商品開発、ノベルティ開発、開業式典、メディアPR、広告展開まで、トータルでプロデュースをさせていただきました。


―― 今回の『EDOCCO』も、最初から最後まで坂爪さんがプロデュースしたという形ですね。この案件が始まるきっかけは何だったのでしょう?


坂爪:私が以前に手がけた『鬼平江戸処*1というパーキングエリアをご覧になった神田明神の宮司さんからお声掛けをいただきました。まずいただいたのは、「境内に400人が集まることができる宴会場がほしい」というオーダー。日本三大祭の一つである神田祭が開催される際に、108つの町内会が集まるのですが、1つの町内会から3人来るとしても400人近い人が集まってしまう。「現在の明神会館ではカバーできないので、新しい場所を作りたい」というお話でした。


最初に提出した企画は、「商売繁昌の神様」である神田明神に、ビジネスマン向けのセミナーができるような空間を作ろうというものでした。ところが社外取締役会である氏子総代会の方々にプレゼンしたら却下されてしまった。「神田明神には、だいこく様、えびす様、まさかど様の3人の神様がいる。商売の神様であるえびす様だけに特化する企画は問題だ」とご指摘を受けました。


それから、氏子総代会の方々と交流を深めながらご意見を伺ったり、神社についての本をたくさん読んだり、他の神社に行ってみたりと、フィールドワークを重ねながら、企画を練り直しました。もう、全国の主な神社は80社くらい回りましたよ。


研究をすると、いろいろなことが見えてきます。歴史をひもとくと、元々は神社からお祭りが生まれ、人が集まり、さまざまな文化が生まれてきた。ならば、もう一度神社の原点に返り、人の集まる場所、文化を生み出す場所を作ろうと。半年ぐらいかかって、ようやく「文化交流館」というアイデアが出てきました。ちょうど東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会も間近に控えているので、「日本の文化を世界に発信しよう」というメッセージも絡め、多種多様なイベントもできる多目的ホールを中心にしようという話でまとまりました。

コンセプトは「伝統×革新」。平和な江戸時代に数々の文化が花開いたことをヒントに、今回は、江戸の総鎮守である神田明神から、伝統文化を守り、革新的な文化を生み、神道文化も世界に発信する施設を創ろう!ということで再スタートが切れました。


株式会社乃村工藝社 事業統括本部 プランニング統括部 チーフプランナー 坂爪 研一さん

空間だけでなく「リアル」をつなげ、体験価値を作っていく


―― 企画が固まった段階で、今度はデザインを担当する大西さんの出番となるわけですね。そもそも、一言で「デザイン」といっても、どこまでが業務範囲なのでしょうか。


大西さん(以下、敬称略):乃村工藝社の場合は少し特殊で、単純にインテリアの設計だけをしているのではなく、映像やグラフィック、サイネージなど、その空間に必要となる情報デザインの全てをカバーします。『EDOCCO』の場合、坂爪が策定したコンセプト「伝統×革新」というキーワードがあったので、それをデザイン化しようというところからバトンタッチされました。


当然のことながら、「神社らしくあるために」というのが重要なので、まずは神社らしい記号を集めようと考えました。それを空間に埋め込むと神社らしくなるのではないかと仮定したのですね。例えば、本殿と拝殿をつなぐ『権現造』であったり、結界を作る『朱色』であったり、『格天井』であったり……そういったコンテンツをどのように空間に埋め込んでいくかを考えていったのです。


実は神田明神は、千歳飴の発祥の地でもあるのですよ。「753」という数字にはすごくゆかりがあって、神田明神の電話番号も「753」、江戸時代に流行した非常に縁起がいい数字なんですね。ロゴマークの屋根の形も、波の数を7つと5つと3つにしています。江戸時代のクリエイターも、筆文字の中に縁起の良い数字を埋め込んでデザインしていたようで、それに倣いました。


―― デザイン一つひとつにも、きちんと意味があるのですね。


大西:私たちは「記憶」と「記事」という言葉を使って表現していますが、「記憶」して「記事」にしてもらって、そこから会話が生まれるような仕掛けを施したいと考えました。「あれって、こういうことなんですよ」となる話題を作って、広げる。私たちは、空間だけではなく、「モノとヒトとコト」というリアルな要素をつなげ、さらにそこにデジタルメディアを加えて体験価値を作っていく。そんなことをやっています。


株式会社乃村工藝社 クリエイティブ本部 デザイン3部 グループ1 グループリーダー 大西 亮さん

神田明神は先鋭的な神社。だからこそ生まれた『EDOCCO』という愛称


―― 小林さんは、このプロジェクトではどのような役割を担っていたのでしょうか?


小林さん(以下、敬称略):肩書的にはプランナーですが、坂爪がプロデューサーとして0から1にするところを一緒に進めながら、出たアイデアを実際に形にしていく役割を担ってきました。例えば、ネーミングを考えたり、ロゴマークやリーフレット、WEBのディレクションをしたり。一言でいえば、空間デザインとともにコンセプトを視覚化していくような仕事です。


まずは、「もう少しリラックスして、誰もが気軽に入れるような場所にしたい」という宮司さんの想いを、名称とロゴでしっかり伝えたいと考えました。そこから「(施設名の)愛称をつけて親近感を持ってもらおう」という発想が生まれました。


外国人の参拝者にも伝わるように「EDO Cultural COmplex」という英語名称を据え、その略語である『EDOCCO』を愛称として提案しようという共通認識は、最初からチームメンバーの中にありました。ですが、神社の皆さんにも納得していただくためにさまざまな方向性の案のメリットとデメリットを伝えながら進めました。ロゴマークもそうですね。チーム内で「こちらの方向性がいいよね」という案があったので、本命のメリットを伝えつつ代案のデメリットも伝え、最終的にまとめていきました。


株式会社乃村工藝社 事業統括本部 プランニング統括部 企画2部 第5ルーム プランナー 小林 慶太さん

―― プレゼンテーションって難しいですよね。こちら側の思いを伝えつつも、先方の思いをくみ取って進めていく肝はなんでしょうか?小林流の手法を教えてください。


小林:しっかりコミュニケーションを取って先方の許容範囲を把握し、そのギリギリの境界で新しいことを提案します。やっぱり神社のお仕事って緊張するじゃないですか。宮司や神職の方々とは普段お話しする機会がないですし。でも、初めて宮司さんと話してみると、予想外にとてもフランクに接していただけました。なので、「この方は意外になんでも受け入れてくれるのかな」って思えました。だから、心おきなく提案ができたと思います。だって、神社の施設の名前にアルファベットで愛称をつけるなど過去に前例はないし、全国の神社を見渡してもない。そういうこともすんなり受け入れてくれましたからね。


坂爪:神田明神は最も先鋭的な神社だと思います。宮司さんは79歳ですが、しっかり未来を見据えていて、経営者の感覚を持っていらっしゃる。他の神社に先駆けて、自分たちがチャレンジしていくことで新しい価値を示していきたいという思いがあったのでしょう。名称もロゴマークも、どれをとっても勇気がいるデザイン案で、実に思い切った選択をされているように感じました。


―― ちなみに和順さんは大西さんと同じデザイナーとのことですが、役割はどのようなものだったのでしょうか?


和順さん(以下、敬称略):大西が全体のディレクションをしていて、私は市松がモチーフになっている地下1階フロアを主に担当していました。


大西:地下1階は、デザインが最後までなかなか決まらずに苦労しました。


和順:実は、地下1階を運営する事業者が最後まで決まらなかったのです。神社だけではなく事業者からも要望を聞き、デザインを考えていたのですが、途中で事業者が変わったり、何度か方向性が変わったりしました。


株式会社乃村工藝社 クリエイティブ本部 デザイン5部 グループ2 デザイナー 和順 菜々子さん

大西:本当は木を組んで格子をつけたり、天井を組んで「お祭り」をイメージさせる空間を作る案もあったりしたのですが、全体のバランスやコストの制限があり、必然的にシンプルになっていきました。それでもデザインにはこだわりたいと思い、グラフィカルな平面表現をすることに。ローコストなデザインですが、演出として見栄えが面白いものが出来上がりました。

トータルで対応する乃村工藝社だから実現可能な仕事。関われたことを誇りに思う


―― 最後に、皆さんがこのプロジェクトを通してどういったものを得たのかをお話していただけますか?


小林:これまで企業の仕事を中心にやってきたので、神社のプロデュースは新しいチャレンジの場となりました。非常にイノベーティブな仕事に携われたので、そこは自分としては面白い経験だったなと思っています。


この仕事の醍醐味は、「リアルな場所を創る」というところ。Instagramで写真に撮って映えるポイントも、元をたどれば誰かが作っている「場所」です。リアルな空間がないと思い出は作れないので、そこにやりがいを感じています。デジタルの進化があっても変わらず、「場」の魅力を最大限に高める仕事は必要とされると思います。


和順:今、入社3年目ですが、入社1年目の本当に何もわからない時からずっと皆さんにいろいろ教えていただきながら、なんとかここまできたという感じですね。優しいメンバーに支えられ成長できたという実感をしています。


大西:私の経歴は割と珍しく、もともと文化施設を手掛けていて、その後、企業のショールームを担当するなど、いろいろな経験値を積んできていました。それで、「この仕事に向いているのではないか」とアサインされたのです。これまでの経験をトータルして生かすことができたし、今後はこういった複合的な提案がさらに求められる時代になるのではないかと思っています。


こういった規模の仕事は、小さいアトリエではできません。インテリアデザイン会社でも、この手の仕事に対応することは難しい。乃村工藝社という、プロデュースからデザインまでトータルで対応できる会社だから受注できるし、作ることができる。乃村工藝社という会社の魅力を体現するような仕事に携われたことを誇りに思っています。


坂爪:最後にもう一人、渡部というメンバーがいます。彼女は今年の6月から急遽ジョインしてもらい、ノベルティの作成や印刷物の追加発注などを担当してもらいました。最後に入って、ゴールに向かって全力疾走してくれたのが彼女です。本当に無茶振りをしまくって……(苦笑)。


渡部さん:本当に最後の最後、少しの間だけ皆さんに混ぜていただいたのですが、皆さんが本当に良い方で。転職してきたばかりでしたが、調査したこと・感じたことには全てに意味があることを実感できる毎日でした。最後の2週間は大変でしたが、まるで文化祭みたいに毎日ワクワクの連続。乃村工藝社で働けることを幸せに思いながら過ごしました。


株式会社乃村工藝社 事業統括本部 プランニング統括部 プランナー 渡部 淑子さん

坂爪:ここにいるメンバー以外にも、営業や制作を担当した者やデザイナーもいます。このチームで力を合わせたからこそ、素晴らしい結果が出せたのだと思っています。


―― プロジェクトリーダーとして、今回のプロジェクトはいかがでしたか?今後の乃村工藝社にとってどういう意味があったか、お聞かせください。


坂爪:この仕事を受注してから一通り神社の勉強をしました。皆さん、「神社仏閣」とひとまとめにしますがそれぞれに立ち位置が違い、一言で言うと仏教は渡来からの教えで、神社(神道)は日本古来のオリジナルの発想です。そう考えると、日本人が自然崇拝する感性や八百万の神様という発想、日本の良さというのをもう一度見つめ直す機会になったら良いなと。日本人が海外に出た時に、日本の良さを伝えきれない人がたくさんいる。それは寂しいですよね。『EDOCCO』は、日本の文化を海外に発信する場ではあるのですが、同時に日本人の文化養成の場にしたいという思いもあります。


今回の開業式典には、出雲大社、伊勢神宮、熱田神宮など全国80社の宮司様が集まってくださいました。皆さんがこの施設を見て驚いているわけですよ。「神社仏閣が20年後には半減すると思う*2」なんて話を聞くと、なんとかしたい。私たちができることで元気にして差し上げたい。今後も、そういった神社様と一緒に手を組んでやっていけたらと思っています。もちろん、仏閣も同様です。


大西:ちなみに、『EDOCCO』プロジェクトの最後の挨拶で坂爪は泣いていました。そこに今回のプロジェクトの意義の全てが表れていると思います。


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『神田明神文化交流館 EDOCCO』とは


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『EDOCCO』は、神田明神創建1300年記念事業として誕生した、「伝統×革新」で未来の神社をリードする文化・精神・価値の交流・発信拠点。1Fの神札授与所、物販・飲食スペース、2・3Fの多目的ホール、4Fの貴賓室、B1F の日本文化体験スペースの5フロアで構成され、各フロアには、金工作家・宮田亮平氏、画家・松井守男氏、着物デザイナー・斉藤上太郎氏のアート作品が配されています。
本館と御社殿、明神会館、神楽殿、境内が一体となり、日本の伝統文化を体験・発信することで、特別感や地域性を演出します。
https://edocco.kandamyoujin.or.jp/

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取材・文:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) 撮影:岡部敏明

 

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*1:東北自動車道(上り線) 羽生パーキングエリア 『鬼平江戸処』:「鬼平犯科帳」の世界観を中心に、建物から小物に至るまで「本物」にこだわった江戸の町並みを再現した施設

*2:Business Journal「搾取される貧困「お坊さん」が激増…お寺「不要化」で都市に出稼ぎで日雇い労働者化」内の一説