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模型・プラモデルメーカーであるタミヤと、ソフトウェア開発などを行うナチュラルスタイルは、2018年4月から「本物のロボティクス学習をすべての子ども達に。」というテーマを掲げ、タミヤロボットスクールを運営しています。タミヤロボットスクールは、フランチャイズ形式で全国展開を行っていることが特徴で、当企画を開始してからたった6カ月(2018年10月時点)で74教室まで増加。非常に早いペースで広がっています。
そんなスクールを運営するタミヤとナチュラルスタイルの担当者の方に、タミヤロボットスクールの特徴や魅力についてお聞きしました。
——タミヤさんは昔から工作キットなどをたくさん出していましたが、自ら継続的なスクール運営に乗り出すのは、今回が初めてかと思います。タミヤさんとナチュラルスタイルさんは、なぜ一緒にロボットスクールを始められたのでしょうか。そのきっかけを教えてください。
石崎 弊社の主な製品カテゴリとして、プラモデルとラジコンとミニ四駆があります。その中に「楽しい工作シリーズ」という、長く続いている工作教材があります。そこに新しい可能性があるんじゃないかということで、社内でいろいろ検討して生まれたのが、去年発売した「カムプログラムロボット」です。
タミヤロボットスクールで使われている「カムプログラムロボット」。市販のカムプログラムロボットにはマイコンボードは搭載されていないが、これには日本生まれのこどもパソコン「IchigoJam」が搭載されている
石崎 これは、タミヤが昔からやっている機械工作と、これから注目されるであろうプログラミングや論理的思考といった部分を取り入れたロボットです。これを企画しているタイミングで、ナチュラルスタイルさんと別件のお仕事をさせていただき、いろいろな話をしました。
私たちも、昔から工作教室をやっており、ナチュラルスタイルさんも小学生向けにプログラミングの啓蒙活動を全国で展開されていました。しかし、どちらもその日限りのイベントなので、もう少し継続的に子どもたちの成長を見ることができる場を作れたらいいなという共通の思いがありました。
既に、ナチュラルスタイルさんは、IchigoJam (以前の紹介記事はこちら)を使ったプログラミング教育を手がけられていました。ですが、それはロボットを使うものではなかったため、一緒にロボットスクールをやれないかということで、話を進めたんです。
——そうすると、最初にこのカムプログラムロボットの開発を始めたときには、ロボットスクールをやる予定はなかったのでしょうか?
石崎 はい、ありませんでした。
株式会社タミヤ 営業部 営業課主任 石崎隆行氏
——今のお話から、カムプログラムロボットは、IchigoJamに合わせて設計されたわけではないと察しました。しかし、ロボットはIchigoJamの基板がちょうど入る大きさですね。
石崎 このカムプログラムロボットの開発コンセプトは、まずは「カム(cam)*1」という部品を使ったロボットで機械式プログラミングをやるということでした。しかし、それで終わらず発展させるという形で、IchigoJamやRaspberry Piなどのマイコンボードを搭載することも最初から考慮に入れていました。
——ナチュラルスタイルさんの事業内容、プログラミングスクールを始めることになった経緯を教えてください。
安中 ナチュラルスタイルは、ソフトウェアの制作会社です。福井県でタミヤさんのアプリなどを制作・運営しています。社員全てがエンジニアです。
世界に比べて、日本の子どもたちが触れられるプログラミング環境が圧倒的に少ないということで、ナチュラルスタイルの代表が、子どもたちにプログラミングを教える「PCN(プログラミングクラブネットワーク)」というサークル活動を始めました。ナチュラルスタイルでは、プログラミング教育事業も新たな柱として展開していこうとしています。そこでまず取り組んだのが、IchigoJamを使ったプログラミング教育の公式カリキュラムの制作でした。それをベースに、プログラミング教育関係の事業展開を進めており、その中で、タミヤロボットスクールの企画が生まれました。
もちろん自分たちのみでは教室を開けないので、フランチャイズ展開で全国に向け一気に広めようと思いました。子どもたちにプログラミング環境の場が広がれば、結果としてPCNの目的も達成できるだろうと考えました。
——両者の思いがうまく合致して、ロボットスクールを始めることになったわけですね。
石崎 そうですね。タイミングも含めて。
——フランチャイズの立ち上げの際に苦労した点は何でしょうか?
安中 スクールに用いるロボットはタミヤさんならではの安心感がありますし、カリキュラムはPCNから培っているものがありましたが、フランチャイズ本部を運営するのは、弊社として初めての経験だったので、スタート時は本当に学ぶべきことがたくさんありました。
スクールの講師となる方々が、このスクールへの思いや、お子さんの学習に対する思いなどを非常に強く持っていらっしゃるので、一緒に進めていけることがありがたいと思っています。おかげさまで運営に関するさまざまな改善ができました。これから加盟してくださる方々には、運営本部としてしっかりとしたご準備ができるかなと思います。
——皆さん、やる気や熱意にあふれていたのですね。
安中 はい。フランチャイズへの加盟を希望される方は、非常に高い熱意をお持ちです。最近も、加盟をご検討されている方向けに説明会を実施していて、その際には正直に「運営には手間がかかります」とお伝えしていますが、スクールは増え続けている状況です。
石崎 BASICプログラムにもカムプログラムロボットの工作にも非常に手間がかかります。それでもやりたいという熱意のある方ばかりです。
株式会社ナチュラルスタイル タミヤロボットスクール 代表 安中剛氏
——カムプログラムロボットのデザインについてお聞きしたいと思います。クローラーで動いたり、腕や目があったりすることで、子どもたちが親しみやすいデザインになっていると感じます。そういった設計に関してどのように考えておられますか?
石崎 タミヤは以前からMaker Faireに出展しています。Maker Faireには技術的にかなり高度な展示もありますので、そういった場に弊社のローテクな製品を出すのはどうかなと懸念していたんです。しかし、参加者の方に「ギアボックスやクローラーなど昔から使っていました」と、褒めていただきました。昔から工作やラジコンなどを扱っていることもあり、そういったパーツの安定性や製作者の信頼感に強みがあることが分かったので、筐体(ボディ)の部分は、しっかり作りました。
デザインに関しては、子どもがすぐに「ロボット」と分かるものであること、それでいて、単なる装飾ではなく、ちゃんと機能的な理由を持っていることなどの狙いを全て盛り込みました。例えば、ロボットの目の穴は直径5ミリのLEDのサイズに合わせていますので、よく工作などに用いられる砲弾型LEDをそのまま入れられます。手にはネジ穴が空いていて、手の先をユニバーサルアームで伸ばしたり、小さいサーボモーターを付けたりもできます。
——マイコンボードとしてIchigoJamを採用した理由は何でしょうか?
安中 極端な話、IchigoJamでもRaspberry Piでも良かったかもしれません。タミヤロボットスクールが始まる頃は、我々がちょうどIchigoJamの公式カリキュラムを作ったところだったんですよ。500ページくらいのカリキュラムで、子どもが初めてプログラミングに触れるときに体験してほしい要素を体系化していました。
石崎 メーカーであるタミヤとしてIchigoJamを採用したというわけではなくて、ナチュラルスタイルさんが、IchigoJamに対して一番フットワークが軽かったため採用に至りました。
白い基板がタミヤロボットスクール用にカスタマイズされた「IchigoJam」。青い基板がモーターを制御するための拡張基板「MapleSyrup」。この2枚の基板がカムプログラムロボットに搭載されている。
——すでにIchigoJamにおけるノウハウをお持ちだったわけですね。
石崎 はい。それが一番の理由ですね。それから、このロボットスクールの強みは、キーボードやモニターも全部ケースに入れて持って帰れることなんです。お子さんがこのキャリーケースを持っていれば、どこでもプログラミングができます。教室に通っている時だけプログラミングをするのではなくて、教室で教わったことを家に持ち帰っても同じようにできます。
——この持ち運び用のケースがタミヤさんっぽいですよね。ミニ四駆にも通じる、子どもの憧れですね。
石崎 このケースにキーボードを入れて、ミニ四駆のようにプログラミングをやる時代がきたらいいなと考えていました。ナチュラルスタイルさんも企画当初から同じ考えで、ミニ四駆の最初のツール「レーサーズボックス」と同じ形で作ってもらっているんですよ。
安中 ロボットスクールについてミーティングをしたタイミングで、たまたまタミヤさんの会議室にそのレーサーズボックスが道具入れとして置いてあったんです。もしかして入るんじゃないの? と、カムプログラムロボットやIchigoJam、モニターを詰めてみたら、本当に測ったようにぴったりと入ったんです。
——子どもが自分で持ち運びできることで、どこでも復習やプログラムの改良ができますね。
石崎 子どもの学習にどの言語が適しているなどの話よりは、子どもがプログラミングを学ぶ方向性として「子どもがキットを全て持ち運びできる」「インターネットにつながらないので、子どもが一人で使っても安心」ということが大切なのではないかと思っています。教室でも別途パソコンを用意する必要はありませんし、親のパソコンを借りる必要もありません。全部がお子さんの所有するものになるということは大切です。所有の意識によって自立心を満たすんです。
このケースにカムプログラムロボット本体と小型液晶モニター、丸められるキーボードの全てを収納して持ち運べる
——先ほど、基となったカリキュラムが500ページあったという話がありました。スクールのカリキュラムに込めた意図や、カリキュラムを作るときに心がけたことを教えてください。
安中 これはタミヤロボットスクールの狙いでもありますが、プログラミングの体験は「勉強」ではありません。このスクールでは「プログラミングでゲームが作れるようになる」「プログラマーになれる」ということをうたっていないんです。
最初にお話しした通り、PCNは、子どもがプログラミングに触れる環境を作りたいという思いから始まりました。カリキュラムの体系は8つのユニットに分かれていて、子どもがどこから入っても大丈夫なようにできています。順番通りでなく、どのタイミングで触れてもプログラミングを楽しく思ってもらえる形にしてあり、かつ、必要なものを8つに体系化しているので、全てに触れればプログラミングで体験してほしいことが一通りできるようになっているんです。もちろん、面白いと感じられる要素も用意しています。
——スクールは1回あたり何分ですか?
安中 1回は90分で、1つのユニットを2回に分けています。月2回なので、1ユニットを1カ月かけてやる形ですね。基礎クラスが全24回、1年で終わるカリキュラムになっています。その後、応用クラスを同様に全24回用意しています。
スクールでは最初に、子どもが自分でドライバーなどを使ってロボットを組み立てるんです。それが3回分、時間で換算すると4時間半ですね。また、8つのユニット以外に課題や自由創作も設定しています。
——テキストを見てみると「座標」などが出てきますが、小学校で座標はまだ習わないですよね。
安中 そうですね。座標などの言葉はテキストなどできちんと説明しています。
——将来、中学校で数学を習うときにも役立ちますね。
安中 座標や変数などの言葉は、「コンピューターにお願いする」などの子どもっぽい言い回しにするのではなく、わざとそのまま使うと決めました。
——最初から正しい用語を使っているわけですね。
安中 そうですね。「子どもだまし」にはしないようにしました。
石崎 自分がもし子どもだったら……と考えると、そういった大人っぽい言葉が言えちゃうのが背伸びできている感じでちょっとうれしいと思うんですよね。ですので、そういう言葉はむしろ積極的に使っています。
安中 また、テキストにもあえてルビを振っていないんです。
——そうですね。小学校低学年では読めない漢字もあるなと拝見していました。
安中 これも議論したんですが、分からない漢字があれば、スクールで先生に聞いてほしいと思ったんです。その方が興味を持ちますし。
——小学生向けの場合、全部にルビを振っているテキストも多いと思います。
安中 それでは素通りしちゃうんじゃないかなと考えました。ロボットの組み立てやプログラミングなど、全て自分でやることで身に付くし、気が付く。そういった細かな部分も教育につながります。
——なるほど、よくできていますね。
安中 毎回、授業の最後にロボットゲームが組み込まれていて、ミッションをクリアするとゲームができるので、一生懸命やってくれます。そうすると、だんだん自分でやっていることが、前に習ったこととつながっていると気付くんです。子どものモチベーションを考えて、そういう要素を積極的に入れていますね。
——こうしたカリキュラムは、常にアップデートされ続けているんでしょうか?
安中 はい、アップデートしています。
石崎 正式なスタートは2018年4月ですが、その1年前から先行して、横浜にあるタミヤのお店で半年間展開していました。そのノウハウも生かされています。
キーボードでプログラムを入力するのは難しいんじゃないかと心配される親御さんもいらっしゃいます。でも、お子さんは、キーボードを与えられて喜んで滅茶苦茶に叩いていても、何もできないんだ、ということにだんだん気付くんです。「ちゃんと打たないと何も始まらない」ことに気付くと、しっかり確認しながら打つようになってくるのも面白いところですね。
——タミヤロボットスクールに通っているお子さんやその親御さんの反響はいかがでしょうか?
安中 驚いたエピソードがあります。学習塾の通常のクラスに通われていた子が、タミヤロボットスクールに入会された。するとその後、塾の方の成績が上がったんです。学習塾の先生の見立てでは、その子が先生とのコミュニケーションが取れるようになったことで変わったんじゃないかと。
——なるほど。それまでは先生からの一方通行だったわけですね。
安中 ロボットスクールでは、先生に尋ねたり、自分の気持ちを伝えたりすることが多いので、先生とコミュニケーションを取るようになったことで、授業で学ぶ姿勢が変わったのかもしれません。それは我々の目指すところでもありますので、とても良かったなと思っています。
——ほかのロボット教室と比べたときの、タミヤロボットスクールのアドバンテージは何でしょうか?
安中 プログラミングのカリキュラムで言えば、一番大きい部分はテキストベースのプログラミングということですね。もちろんビジュアルプログラミングでできる素晴らしいこともたくさんあると思います。
例えば体験会の参加者に、プログラミングをやったことがあるかどうか聞くと、5~10%くらいの方が「ある」と回答しますが、内訳はビジュアルプログラミングが多いんですね。しかし、タミヤロボットスクールを体験してもらうと、親御さんから「テキストプログラミングっていいですね。子どもには難しいと思っていました」というご意見をよくいただくんです。ずっとIchigoJamを使ってプログラミング教室を運営してきて、やっていてよかったなと感じる変化です。
——ブラウザベースで動くビジュアルプログラミング環境の場合は、ネット回線が遅いと重くなる問題などはありますね。
安中 IchigoJamが生まれたのも、日本の子どもの多くが自分だけのパソコンを持っていないし、もし家にパソコンがあっても自由に使えるわけではないというところからでした。スクールとしては、この教材セットと電源さえあればどこでもプログラミングができるということは、大きな強みになっています。
また、何より最初に「このロボットをドライバーとニッパーを使って組み立てる」のが特色ですね。プログラミング教室なのに工作をさせられるという(笑)。
石崎 しかし、自分で組み立てるので、ロボットの仕組みが分かるようになりますし、壊れても自分で直そうという気が起きます。少なくとも1年目は自分で組み立てたロボットがパートナーになるので、愛着が湧きますね。シールを貼ったり、色を塗ったりして、人と違うロボットになっていくというのも、他のロボット教室とはちょっと違いますね。
——スクールに通う子どもたちの親御さんはどのような方が多いですか?
石崎 職業までは分かりませんが、感触で言うと、お父さんの前のめり感は強いですね。タミヤの運営なので、ミニ四駆やラジコンなどで触れてこられた方が親近感を抱いてくださるのだと思っています。
——技術職じゃなくても、プログラミングなどの理解がある方、ものづくりが好きだという人が多いのですね。
石崎 はい、多いようです。スクール初期の頃はタミヤのラジコン大会の端っこで、ロボットスクールの体験会をやっていました。そうすると、レースの合間の時間に子どもが体験会のロボットを気に入っちゃうんです。そのたびにお父さんが、「次の予選が始まるぞ」と呼び出しに来るんですが、「今度こういう教室を始めるんです」と説明すると、お父さんが「これBASICじゃないですか!」なんてだんだん前のめりになっていって(笑)。お話を聞いてみたら、そのお父さんは産業用ロボットの開発者の方でした。その後「BASICは全てのプログラミングに通じる」と、奥さんに一生懸命説明されていて、そのご家族は後ほど入会してくださいました。
——将来ロボットやプログラミングをやりたいと思っているお子さんは多いのでしょうか?
石崎 そうですね。それこそ親御さんの影響もあるかもしれませんが、災害用のロボットを作りたい、自動運転車を作りたいなど具体的です。いろいろなメディアで最先端のものをよく知っている感じはします。
——今後、子どもにプログラミングを学ばせてみたいと考える方へ一言お願いします。
石崎 そうですね。是非体験会に参加していただきたいです。先生たちのモチベーションの高さとか、技術も含めて、見ていただければ分かると思います。
安中 全国各地のどの教室にも、個性的な先生がいらっしゃるので、保護者の方も楽しいと思いますし、お子さんはさらに楽しんでプログラミングができると思います。
——ありがとうございました。
石井 英男(いしい・ひでお)
*1:運動の方向を変える機械要素
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