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仕事がうまくいかず、周囲に怒りをぶつけてしまうことはないだろうか? 発散した本人はスッキリするかもしれないが、周りの人々はただただ迷惑なだけである。さまざまな感情をもつのは人間だからしょうがないとしても、怒りを露わにしたところで仕事が順調に進むわけではない。
こみ上げる怒りをどうすればいいのだろうか。ここで注目したいのが、1970年代に提唱された怒りをコントロールする心理トレーニング「アンガーマネジメント」だ。日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さんに、怒りの感情をコントロールし、結果的に仕事を好転させる方法を伺ってみた。
安藤さんによると、近年アンガーマネジメントが注目を浴びるようになった社会的背景には、主に3つの理由があるという。
1)価値観の多様化
「かつては大多数が信じる一つの価値観がありましたが、今は価値観が多様化しています。一方で、その状態を受け入れられない人が増えてきてきました。自分と違う価値観に腹を立てる人がいるのです。たとえば、『上司の誘いには付き合うべき』と言われると、『べきってなんだよ!』とムカっとするという人もいるのではないでしょうか」
2)テクノロジーやシステムの進化
「最新テクノロジーやシステムに慣れすぎて、怒りやすくなるケースも挙げられます。たとえば、Wi-Fiが繋がらないだけでも舌打ちしたり、電車が2分遅れただけでイライラしたり。世の中が便利になりすぎたことで、我慢の耐性が低下しているのではないでしょうか」
3)『褒める文化』に対する反動
「昨今、『褒めて伸ばす』みたいなフレーズがあちこちで使われていました。実際、褒めることを人事評価システムに組み入れている企業もあるぐらいです。しかしその反動で、『叱ることも必要だよね』という考えも出てきました。褒める・叱ることのバランスを見直すことも大切ですね」
アンガーマネジメントを意識すること、つまり怒りの感情をうまくコントロールすることに、どんなメリットがあるのだろうか。
「一言でいうと、『生産性の向上』です。人は怒りの感情に支配されると、仕事が手につかなくなります。また、我々の調査では、『上司に怒られたあと、部下のあなたは業務に支障をきたすか』という質問に対して、40.6%の人が『仕事のモチベーションが低下した』と答えています。つまり、怒った人も怒られた人もパフォーマンスが下がってしまうわけです」
ビジネスにおいて、コントロールされていない「怒り」は百害あって一利なし、ということか。実際のところ、アンガーマネジメントを必要としているのは、どういう立場の人なのだろう?
「最近では『うまく叱れない』『怒れない』という上司からの相談が増えていますね。あるいは、過去に他人から言われた嫌なことを思い出して、ずっと怒りの感情に支配されてしまうような人。そういった課題を解決するためにも、アンガーマネジメントの習得を強くおすすめします。正しい𠮟り方を知ること、怒られる耐性を身につけることで、仕事の生産性は確実にアップするはずです」
一口に怒りといっても、さまざまなタイプがある。実際には、さらに細かく分類できるそうだが、今回は主に2タイプにおける怒りのコントロール方法を教えてもらった。
A)すぐにカッとなるタイプ
諸説あるが、怒りが沸き起こった最初の6秒間が最も感情的になるそうだ。その6秒間を冷静になるために『怒りの温度計』の使い方を習得しておきたい。
「人が怒りをコントロールできない理由は、それが目に見えないからなんです。怒っている人は、“自分の怒り度数”がわかりません。そこで、怒りの温度計を使います。6秒間に『10点満点中、今の自分の怒り度数は3点』など、心の中で点数をつけるんです。自分の尺度で構いません。当然、主観的なメモリですから最初のうちはブレますが、めげずに習慣化しましょう」
これを意識的に続けると、温度計のように怒りの度数が見えてくる。練習すれば必ず上達するため、自分を客観視して怒りをコントロールできるようになれるという。
B)思い出し怒りをするタイプ
「怒りの感情を溜め込んで、それが続いてしまうタイプは、なにごともずっと考えてしまいがち。それは心身のバランスが取れていない状態です。改善するための具体的な訓練方法は、1日に5分~10分ほど、『利き手と逆の手を使ってみる』ことです」
食事や歯磨き、入浴など、人は無意識に何かを行うとき、心の中に余計なことを考えるスペースが生まれてしまう。そこで、利き手と逆の手を使い、自分の動きだけに集中すると、気持ちを落ち着かせることができるそうだ。
とはいえ、理屈ではわかっていても、瞬間沸騰湯沸かし器のように頭に血が上るケースもあるため、怒りの感情をコントロールするのはそう容易いことではない。本格的かつ持続的にアンガーマネジメントを習得したいなら、特に意識すべきことは何だろうか。
「怒りの感情のコントロールは『技術である』という意識を持つことですね。具体的な方法としては「『私はアンガーマネジメントに取り組んでいる』と、周囲に宣言してみましょう。あらかじめ公言しておけば、あなたが怒った瞬間に『できてないじゃん』と周囲にツッコまれますから(笑)。また、怒りの行為は決して相手をへこませたり、自分自身の感情的なストレスを発散したりするためのものではありません。少し落ち着いて、怒りは『相手にリクエストを出すことである』という意識を持ってみるのもよいでしょう。怒りを上手にコントールすることで、リクエスト上手につながっていくといいですね」
(山岸裕一+ノオト)
取材協力:安藤俊介
日本アンガーマネジメント協会
1971年群馬県生まれ。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事。アンガーマネジメントコンサルタント。2003年に渡米し、アンガーマネジメントを学び日本に導入。「怒り」をテーマとする指導や教育に関し、企業や学校などで講演・研修を行っている。主な著書に『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『叱り方の教科書』(総合科学出版)。
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