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おもしろ部署探訪~日本漢字能力検定協会 普及部~日本語の学びを支える協会の使命

おもしろ部署探訪~日本漢字能力検定協会 普及部~日本語の学びを支える協会の使命

世の中にはさまざまな仕事がある。一見すると同じ部署名でも、企業の数だけ手掛ける仕事内容は多様なうえに、企業や社会における役割も異なる。この連載では、そんな世の中に存在する企業の『部署』にフォーカスし、それぞれの部署の役割や仕事内容、ポリシーなどに迫る。

今回は、公益財団法人 日本漢字能力検定協会を訪問。1975年のスタート以来、毎年200万人以上の志願者数を記録するほどの人気を誇る「日本漢字能力検定」(以下、「漢検」)。数年前から新たに 「文章読解・作成能力検定」(以下、「文章検」)も始め、話題になっているようだが、一体どのように運営されているか実態を知る人は少ないのでは。今回は、普及部の山田さん、小林さんからお話を伺い、ビジネス視点から仕事をひもといていく。

漢字を身につけると語彙が増え、考える手段も増えていく


── 改めまして、日本漢字能力検定協会のビジネスモデルから教えていただけますでしょうか。

 

山田さん(以下、敬称略):一番イメージしやすいのが、個人で申し込む検定試験ではないでしょうか。個人の方がご自身で申し込んで公開会場で試験を受けるというものですが、これは志願者全体の1割程度です。残りの9割は学校や企業などの団体で取りまとめて申し込み、団体内を準会場として実施されています。小中高はもちろん、大学や専門学校まで広く実施されており、企業で実施されるケースも増えています。

 

── 漢字と縁がなさそうな専門学校でも、実施されているのですか?意外な気がします……。

 

山田:そうですね。例えば、声優やアナウンサーであれば、仕事の中で漢字が読めないと困ってしまいますし、美容師やホテルのコンシェルジュであれば、お礼やお詫びの手紙など手書きのメッセージを添える機会も多くあります。就職試験対策としてだけでなく、実際に社会に出て役立つ教養や常識のひとつとしても、漢字が学ばれています。

 

── なるほど。愚問かもしれませんが、自分でコツコツ勉強するのではなく、なぜ検定が必要なのでしょうか?

 

山田:私自身、当協会に転職してきた身なのですが、「日本人にとっての日本語」に見事にフィットしたコンテンツだと思いました。

 

漢字は、母国語である私たちにとってもそう容易く習得できるものではありません。大人でも知らない・書けない漢字は沢山ありますよね。「漢検」は級が12段階に分かれていて、子どもから大人まですべての人が目標を設定することができます。漢字を使いこなす力はすべての人に必要な力だということ、それらをスムーズに習得するために段階設定があり、「合格」という客観的評価があることで成長を実感できます。日本語のボキャブラリーの豊富さと、日本人の勤勉性を捉えたコンテンツだと思います。

 

テレビではクイズ番組が今も昔も人気ですし、「漢検」がその中でよく取り上げられていることも、広く皆さんから愛されているコンテンツであることの表れだと思います。

公益財団法人 日本漢字能力検定協会 普及部 東京普及企画課 課長 山田 乃理子さん

公益財団法人 日本漢字能力検定協会 普及部 東京普及企画課 課長 山田 乃理子さん

── とはいえ、スマホやパソコンで入力すれば予測変換が表示され、漢字が書けなくてもなんとかなる時代になりつつありますが……。

 

山田:確かに、今の大人たちの中には技術の進歩によって漢字を忘れてしまっている人もいるでしょうし、それで日常生活に不便さを感じている人はそれほどいないかもしれません。

 

では、今後漢字が不要になっていくのか?というと、そうではないはずです。一度身につけた漢字を「忘れた」なら、パソコンやスマートフォンが補助してくれれば良いと思います。でも、ある程度以上のレベルで表現やコミュニケーションをしようとすると、漢字を「理解している」ことが絶対に必要です。漢字の理解が進むと、言葉の数やバリエーションが増えていきます。言葉の引き出しが増えることは、考える手段が増えることであり、物事を深く考えるための礎になります。特に、子どもたちにとっては考える力を身につける第一歩といえますから、漢字を「忘れた」大人の感覚で、子どもたちが漢字を「理解する」ことを軽視してしまうのは、とても危険なことだと思っています。
 

半数以上が異業種からの転職組というオープンな社風が生みだすチカラ


── ちなみに、普及部というのは、どのような役割を担っているのでしょう。

 

山田:一般企業でいうところの営業部門にあたります。漢検をはじめとする協会のコンテンツを広く普及させていくのがミッションです。当課では、「文章検」の普及に力を入れています。ということで、担当の小林にバトンタッチしてご説明しますね。

 

小林さん(以下、敬称略):小林です。PR会社から転職してきて3カ月経過したばかりのホヤホヤですが、上司(山田さん)からは「5年くらいいるのでは?というくらい馴染んでいる」といわれています(笑)。

公益財団法人 日本漢字能力検定協会 普及部 東京普及企画課 小林 祐一さん

公益財団法人 日本漢字能力検定協会 普及部 東京普及企画課 小林 祐一さん

小林:「文章検」は、日本語力を高めるために今から5年前に立ち上がった検定試験です。これまで、私は文章の読み方書き方について体系的に学ぶ機会があったかと言われると、そこまでなかったような気がします。学校で作文を書いたときも、「序論、本論、結論があって…」といった構成に関する指導は受けたものの、どう思考し、表現していくのかといった書く過程について具体的に教わらなかったように記憶しています。

 

「文章検」は文章工学をベースに、目的の把握と情報収集、中身を考え構成し書き出す、そして推敲して文章を完成させるという一連のプロセスを大切にしています。そのプロセスで必要とされる語彙文法などの基礎力、文章やデータを正確に読み解く読解力、相手に適切に伝わる文章作成力の3つの視点で文章力を数値化します。もちろん、テスト以外に教材やe-learning、研修などの学習コンテンツも用意しています。

テキスト

── 学校だけでなく、企業からのニーズも高まっているというのが意外ですね。どんなお悩みが寄せられているのでしょうか?

 

小林:最近の若手社員は、SNSなど短文によるコミュニケーションを得意としていて、業務日報や報告書を作成する際に、論理的で相手が読みやすい文章を組み立てられないというお話をよく伺います。

 

働き方改革による業務効率化やリモートワークの推進により、対面コミュニケーションの時間が減少していくと、なおさらメールによる報告・相談が重要になっていきます。ですが、きちんと要点をまとめないと、肝心なことが伝わらない可能性があります。IT技術の進化によって便利なコミュニケーションツールが増えても、それらを活用するためにはより文章力がより重要になるということです。

セミナー風景

山田:決して現代人の文章レベルが低いわけではなく、時代とともに業務が複雑化しているせいで、文章で説明することが難しくなってきているんです。また、社外取締役制度の採用や異業種間での協業も増えていますから、「行間を読む」ことを相手に期待できない。わかりやすく簡潔に説明することが、これまで以上に重要な時代なのです。こういった企業ニーズの高まりに応えられるよう、新たな学習サービスの開発にも鋭意取り組んでいます。

 

── お二人ともこちらの公益財団法人に転職されてきたとのことですが、お二人が所属する部署はどのような雰囲気なのですか?

 

小林:私たちの部署は全員で9人。そのうち6人がプロパー社員で、残り3人が転職組です。

 

山田:法人全体でみると、半数以上が転職組です。公益財団法人という言葉からイメージする「お堅いムード」とは全然違いますね。20代~30代が多い、活発に変化している組織です。だから小林もすぐに馴染んだのでしょうね(笑)。

 

── 外の世界を経験してきた人の力は、どのように活きていると感じますか?

 

山田:客観的に商品やサービスを見ることができるのが強みかなと思います。業界も、製造、人材サービス、PRなどさまざまな業界から集まってきているので、アイデアベースでも多様な切り口で相談や議論ができます。

── サービスを利用する人の目線に立てるということですね。

 

山田:そうですね。いろんな人が集まっていますが、共通点は明確です。みんな日本の言葉や文化を大事にしていて、それを他の人たちにも大事にしてほしいと思っている。「日本LOVE」な人たちが集まっているなと思います。

 

小林:そうですね。私は広報の出身なので、「世の中にどう認められていくか」というところにやりがいを感じますし、一方、プロパーで長く漢検協会に携わってきたメンバーは、「学校の教育にいかに関われるか」を考えていて、そこにやりがいを感じている人も多いです。

 

山田:私は人材業界出身なせいもあってか、「教育」を子どもたちに限定せず、人間として一生成長していく意味で「人材育成」だと捉えています。さまざまな観点で情熱を傾けるメンバーが寄り集まって、お互いに認め合いながら補完しあえる、そんなチームになっていると思いますね。

 

── 最後にお二人の今後の目標をお聞かせください。

 

小林:これまではPRの世界で、たくさんの人たちの生活を便利にしたり、豊かにしたりする製品を知ってもらう活動をしてきましたが、「本当に知ってもらうべきものは何か?」と考えたときに、日頃から使っている日本語に着目しました。そして、「文章検」の重要性に気づき、広めていく仕事をしたいと考えたんです。ですから、中高生に限定することなく、年齢問わず「文章検」を知っていただき、日本語の能力を高めようとする方々の支えとなりたいですね。

 

山田:言葉はカメラでいうところの画素数によく例えられます。画素数が少なければ画像が粗くぼんやりするのと同様、言葉も持っている数が少ないと、物事を伝えたり受け取ったりする力がぼんやりして、その結果分かり合えなくなってしまう。美しいものを見たり、おいしいものを食べたりしたときに、みんなが同じ感じ方ではなくその人らしい感じ方があるはず。それをその人らしく表現してほしい。人間として幸せに生きるためには、こういった感受性や相手に伝える喜びが必要だと思います。その力を高めることで、日本の文化はこれからもいろんな形へ豊かに変化していくのではないでしょうか。

 

この、奥深くて素敵な日本語を大切にしてほしいと思いますし、それを学ぶお手伝いをするのが私たちの使命だと考えています。私たちのこの志に共感してくれる人は、ぜひ仲間になっていただきたいですね。

 

取材・文:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) 撮影:岡部敏明

 

取材協力:公益財団法人 日本漢字能力検定協会

 

日本漢字能力検定
https://www.kanken.or.jp/


 

文章読解・作成能力検定
https://www.kanken.or.jp/bunshouken/

 

 

 

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