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「ほとんどの昆虫はおいしいと、みんなに知ってほしい」昆虫料理研究家・内山昭一さん|クレイジーワーカーの世界

「ほとんどの昆虫はおいしいと、みんなに知ってほしい」昆虫料理研究家・内山昭一さん|クレイジーワーカーの世界

「自分の仕事が好き」。心からそう言いきれる人は、どれくらいいるのだろうか? あるいは、どれくらいの人が「夢中になれる趣味」を持っているのだろうか?
賃金や名声のためではなく、人生を賭するライフワークとして仕事や趣味に打ち込む。結果、一般的な幸せやレールから外れることになっても、おかまいなしに没頭し続ける。そんな、少しはみだした「クレイジーワーカー」の仕事、人生に迫る連載企画。今回お話を伺ったのは、昆虫料理研究家の内山昭一さんだ。

ある日、トノサマバッタのおいしさを知ったことで昆虫食に開眼し、これまで100種類以上の虫料理をおいしくいただいてきた内山さん。昆虫料理の「レシピ本」をはじめ、関連の著作は多数。15年以上にわたり昆虫料理のイベントを開催し続けるなど、その活動は趣味の域を大きく超えている。食材としての昆虫に魅せられた、内山さんの生きざまに迫る。

※昆虫の写真が出てくるので、苦手な人はお気を付けください

ゴキブリは白身魚の味がする?

── 本日はご自宅での取材にご協力いただき、ありがとうございます。この部屋は内山さんの書斎ということですが、どこもかしこも昆虫だらけですね。

内山さん(以下、敬称略):家族からはこの部屋だけにとどめておいてほしいと言われますね(笑)。ただ、冬は寒くておとなしいゴキブリちゃんも、春から夏にかけて活発に動くのでたまに脱走します。このマダガスカルゴキブリはケースを垂直によじ登るので、ちゃんと蓋をしておかないと。

── 私たちがイメージするゴキブリとは、少し見た目が異なりますね。

内山:一般家庭に出現するクロゴキブリやチャバネゴキブリとは少し違いますね。動きはゆっくりで、羽根がないので飛びません。そんなに気持ち悪くないでしょう? ゴキブリって日本では嫌われていますけど、欧米では大きなゴキブリをペットとして飼っている人も多い。それに、昔は日本でもゴキブリは『黄金虫』と呼ばれ、縁起がいいものとされていました。野口雨情の童謡にもあるでしょ。「コガネムシは金持ちだ」って。あの歌のコガネムシは、ゴキブリのことなんです。そんないい面もあるので、毛嫌いせずに少しは見直してほしい。食べてもおいしいゴキブリもいますからね。

── ちなみに、このマダガスカルゴキブリも食用ですか……?

内山:そうですね。ただ、常食というよりは昆虫料理のイベント用ですね。イベントの試作用に料理したものを食べたり、余ったものを食べたりはします。

── ……。どんな味がするんでしょうか?

内山:淡泊な白身魚という感じですかね、なんとなく、エビやカニの味もします。とてもおいしいですよ。

── そっちにスズメバチもいますが、これも食べるんですか?

内山:これは大スズメバチの女王です。食用ではなく、ペットとして飼育しています。餌は昆虫ゼリーですね。危険じゃないかって? 女王は卵を産むことに特化しているので、働き蜂に比べて攻撃性がありません。こちらからいじめない限り、襲ってくることはない。

── 刺されたことはないと。

内山:完璧に刺されたことはないですね。チクっとは何度かあります。痛かったですね。

── あるんだ……。

「昆虫っておいしかったんだ」トノサマバッタの味に感激

── のっけから圧倒されてしまいましたが……、改めて、内山さんが昆虫料理に開眼したきっかけを教えていただけますか?

内山:僕が生まれた長野には、古くから昆虫食の文化が根付いていたため、もともと偏見や抵抗はありませんでした。野菜や肉と同じ『普通の食材』という感覚でしたね。とはいえ、日常的に食卓に並んでいたわけではなく、初めて食べたのは5歳か6歳の頃。蚕のさなぎでした。祖父が好きだったんですよ。「すごく栄養があるから、みんな食べろ」と。ただ、そのときはあまりおいしいとは感じなかった。蚕のさなぎは、よほど新鮮でないとにおいがけっこうきつくて、クセがあるんです。

蚕の繭を冷凍保存

── 子どもの頃から昆虫料理が大好きだったというわけではないんですね。となると、いつハマったんでしょうか?

内山:20年くらい前、多摩動物公園でやっていた「世界の食べられる昆虫」という企画展を友人たちと見に行きました。そこで話を聞き、世界では今も約20億人が日常的に昆虫を食べていることを知ったんです。それも、「仕方なく」ではなくて、旬の時期を待ったり、おいしく料理したり、喜んで食べられていると。それで、がぜん興味が湧きました。

早速、一緒に行った3人の仲間と昆虫を食べてみようという話になりました。近くの川でトノサマバッタを捕り、その場で揚げて食べたら……これが、ものすごくおいしかった。そこからのめり込んでいきましたね。

── それ以降、いろんな虫を捕まえて食べるように?

内山:ほかにもおいしい虫はいないか、あちこちで探し回るようになりました。ちょうどその頃にインターネットが普及し始めたので、ホームページを作って昆虫食の情報を載せていたら、徐々に仲間も増えてきた。そのうち、阿佐ヶ谷の「よるのひるね」という喫茶店で昆虫料理のイベントを定期的に開催するようになり、20代30代の若者がたくさん来てくれました。すると、昆虫関連のイベントの講師として招かれることも増えて……そうやって広がっていった感じですね。地方に行ったときは現地の昆虫を探して食べて。気づけば、食べた昆虫が100種類を超えていました。

── 100種類以上ですか! なかには危険な虫や得体のしれない虫もいると思いますが、とりあえず食べてみるんですか?

内山:そうですね、毒がないかどうかは調べますが。新しく見つけた虫はとりあえず食べるようにしています。素材の味が分かるよう、だいたいシンプルに茹でるだけですね。

── ちなみに、おいしい虫とまずい虫の割合は?

内山:それが、まずい虫ってほとんどいないんですよ。本当に食えたもんじゃないと思ったのは、カブトムシくらい。ほかはエビやカニ風味が多く、基本的に淡白なので比較的どんな味付けにも合う。個性的な味の虫は、その特徴に合わせて料理をしたりもします。

── 昆虫料理研究家としては、「料理」としてのおいしさも追求したいと。

内山:従来の日本の昆虫食って、全て佃煮なんですよね。イナゴにしろ、蜂の子にしろ、かいこにしろ、水分をできるだけ飛ばし、甘辛く煮て日持ちさせる保存食ばかりです。それはそれでいいんですが、虫本来の味は消えてしまいますよね。佃煮ばっかりだと飽きるし。そこで、さまざまな味付けの昆虫料理を研究し、イベントで発表するようになりました。

── 昆虫料理のイベントは15年以上続き、100回を超えているそうですね。そこまで続けられるモチベーションは何ですか?

内山:イベントに来てくれる人って好奇心が旺盛だし、実際に面白いことをやっているケースが多い。そういう人とお話できるのが楽しいんですよね。違う世代の人とつながるコミュニケーションツールとしても、昆虫料理が役立っている。毎回新たな出会いがあるから続いているんだと思います。

── ちなみに、昆虫料理によってご家族とのコミュニケーションに支障が出ることはありませんか? ご家族に反対されたりは?

内山:反対はされていませんね。妻も長野出身で昆虫食になじみがありましたし、料理好きなので逆にいろいろとアドバイスしてくれます。昆虫料理の試作も普通にキッチンで、いつも家族が使っている鍋でやりますし、文句は言われない。昆虫料理研究家としては、ありがたい環境でしたね。

一番おいしい昆虫は、高級珍味の「カミキリムシ」

── では改めて、これまで食べたなかで「特においしかった昆虫」を教えてください。

内山:まずはミールワーム。世界中で養殖されています。脂肪分が多く、旨みたっぷりです。そのまま衣を付けて、唐揚げにすると食べやすいですね。あとは、茹でてから頭を切ってぎゅっと押すと、固い殻から中身が出てくる。それをつみれにしたり、寿司ネタにしたりしてもおいしいですよ。

それから、スズメバチの子。これは、ごはんに合います。蜂の子はアミノ酸のバランスがすごく良くて、食味センサーで計測するとウナギに近い味と言われている。ちなみに、オオスズメバチは「前蛹(ぜんよう)」という、幼虫がさなぎになる直前がおいしいです。幼虫の時にお腹に溜めていた糞を綺麗にするので臭みもないし、やわらかで甘みがあって、フグの白子のようです。鮮度のいい前蛹を熱湯でしゃぶしゃぶして、酢醤油やわさび醤油で食べるのがオススメです。

個人的なナンバーワンは、カミキリムシの幼虫です。マグロのトロの脂の味がして、本当においしい。入手も困難なので、高級珍味と言えますね。直火でこんがり照り焼きにすると、皮はパリパリ、中はクリーミーになります。特に、脂がのる冬場が最高ですよ。

他にも、カメムシはパクチー、タガメはラフランスの香りがするなど、一般的な食材に風味が似ている虫はけっこうありますね。セミの幼虫はナッツの味がして、揚げても煮ても、薫製にしてもおいしいです。捕獲のハードルも低いので、オススメですよ。

── 正直、昆虫は個人的にあまり得意ではありませんが、内山さんのお話を聞いているとおいしそうに思えてきます。全体的に、成虫より幼虫の方がオススメなんでしょうか?

内山:幼虫は脂肪が多く、成虫に近づくにつれたんぱく質が増えます。幼虫の方が味がいい場合が多いですが、例えばセミは成虫も赤身肉のような旨みがあって、違ったおいしさがありますよ。昆虫って、卵、幼虫、さなぎ、成虫と、同じ虫でも4種類の楽しみ方があるんです。これは、他の家畜にはない魅力ですよね。

昆虫食は怖くない! ゲテモノ扱いされる風潮を変えたい

── 昆虫食というと、テレビ番組の「罰ゲーム」に使用されるなど、「ゲテモノ」という印象もありました。しかし近年では、栄養源としての昆虫食が注目され、世界の食糧危機を救う救世主のように語られることも増えてきましたね。

内山:そうですね。2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が「栄養源としての昆虫類の活用」を推奨するレポートを発表し、それから昆虫食に対する世間の見方が変わってきたように感じます。発表の翌日には、NHKが私のところへ取材に来ましたからね。それだけ、マスコミ受けする食材だったんでしょう。それまではゲテモノ扱いを受けてきた虫が、実は牛よりも栄養価として効率がよく、環境にもいい。これからの地球を救うといった論調で、各局がセンセーショナルに取り上げていましたから。

── 内山さんはそれ以前から、そうした「昆虫食の可能性」を感じていらっしゃいましたか?

内山:さすがに地球を救うとまでは考えていませんでしたが、サバイバル食としては非常に優秀だと思っていました。特に日本は大地震や津波、火山噴火など多くの災害リスクを抱えていますから、非常時の貴重なたんぱく源として昆虫にもっと注目が集まればいいなと。日ごろから食べ慣れていれば「何もないから仕方なく」ではなく、おいしく楽しく、なおかつ栄養価も高い、ポジティブな食べ物として口にすることができます。

── 昆虫食のイメージを変えたいと思いますか?

内山:そうですね。昆虫食が見直されているといっても、やはり偏見の目は残っているし、アフリカなどでは貧困から昆虫を食べざるを得ず、そのことにコンプレックスを抱く人もいます。そういうイメージは変わっていくといいなと思います。まあ、見た目が気持ち悪かったりもするのでハードルは高いでしょうが、まず一回だけでも食べてみてほしいですね。そこでおいしいと感じられたら、いざというときに抵抗なく口にできると思うので。

── 内山さんご自身も、最初に食べたトノサマバッタの味に感動して、昆虫食にハマったわけですもんね。

内山:そう。だから最初においしい昆虫を食べてほしいと思います。まずかったら、その一回で終わってしまいますからね。そういう意味で、カブトムシから入るのはオススメしません(笑)。

── 最後に、昆虫料理研究家としての今後の目標をお聞かせください。

内山:今は本業を別に持っていますが、ゆくゆくは昆虫料理の研究をメインに活動していけたらいいなと思います。最近は昆虫食のスタートアップも注目され始めていますし、私も彼らから相談を受ける機会が増えました。ありがたいことにたくさんの本を執筆させていただいており、好きな昆虫食を仕事にして、それだけで生きていけるかもしれない。その予感はありますね。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 編集:はてな編集部 撮影:松倉広治

取材協力:内山昭一

1950年、長野県生まれ。昆虫料理研究家、昆虫料理研究会代表。NPO法人食用昆虫科学研究会理事。著書に『昆虫は美味い!』『楽しい昆虫料理』『昆虫食入門』『昆虫を食べてわかったこと』、『人生が変わる!特選 昆虫料理50』(共著)、『食べられる虫ハンドブック』(監修)など。

昆虫食を楽しもう! | 内山昭一が主宰する昆虫料理研究会 | 昆虫食イベント情報

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