はたラボ

モノのデザインから、サービスや体験のデザインへ IoTが変える未来の働き方

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「スマホの次はIoTが世界を変える!」とはよく耳にするが、それによって私たちの働き方にどう影響するのだろうか。話が漠然としていて、いまいちピンとこないという人もいるだろう。

 

そこで、事業経営やマーケティング課題の解決をするコンサルティング会社ディライトデザイン代表の朝岡崇史さんを直撃。朝岡さんは著書『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』(ファーストプレス)で、「IoTによる破壊的イノベーションは全ての業種・業界で例外なく起きる」「IoTによって全ての企業は新しいタイプのサービス業になる」と断じている。今後、私たちをとりまく仕事環境はどのように変化していくのだろうか。予測される近未来の話をお伺いしてきた。

 

IoTで全ての企業はサービス業化する

 

――IoTという言葉を最近よく耳にしますが、ビジネスパーソンの立場から注目しておくべきポイントはどういうところにあるのでしょうか?

 

IoTはご存じのように、全てのモノがインターネットにつながる世界のことです。ビジネスパーソンとして重要視しなければいけないのは、今後サービスの質、つまりお客さまの体験が評価されるようになる世界で、IoTをどう活用するかということです。

 

現在、さまざまな商品やサービスは成熟化・同質化しつつあります。そのため、継続して長く使ってもらえる商品やサービスを開発する必要があり、どこまでお客さまの気持ちをつかんで良質な体験をしてもらうことができるかが、勝負の分かれ目になってきます。その手段として注目されているのがIoTというわけです。IoTを活用して、お客さまの行動や趣味嗜好を解析し、ディライトな(喜ばれる)体験を産むようなサービスを提供していかないと、この先ほとんどの企業は生き残れないでしょう。

 

――IoTによって行動データがどんどん蓄積されれば、ニーズを分析するような仕事がこれからどんどん生まれてくる、ということでしょうか。

 

そうですね。今まで、商品開発やマーケティングはマス向けでした。それが人体や家電、自動車、オフィスなどがインターネットを経由してAIにつながるようになれば、データ解析によってお客さまの近未来の体験の予測や改善提案のサービスが可能になります。必然的に、全てのモノやサービスがオーダーメイドになっていくため、全ての企業がサービス業化していくのではないかと私は考えています。マス向けの商品は今後、ますます差別化が困難になり、価格競争に入ってしまいます。したがって、モノだけを売りきるのではなく、豊かな体験ができる商品設計が求められるのではないでしょうか。ただのモノではなくサービスの入り口としての認識が重要になってきます。

 

――個人の行動データの解析から、どんなサービスを提案するかが重要である、と。具体的にはどのような事業が生まれているのでしょうか。

 

今後、モノ(ハード)とサービス(ソフト)はどんどん一体化し、サービス業化していきます。たとえば、スポーツ用品メーカーのUNDER ARMOUR(アンダーアーマー)の事例を紹介しましょう。現在、この企業の売り上げは世界第3位で、右肩上がりに伸びていますが、利益はここ数年横ばいです。これでわかるのは、モノを売って利益を上げ続けるのは限界があるということ。そこで彼らは、「Data is the new oil――20世紀は石油が産業を変えたように、21世紀はデータが世界を変える」と考え、新しい事業に乗り出しました。

 

具体的に何をしているのかというと、フィットネスとウェルネスを提供する提案型のサービスです。専用のセンシング・デバイスを介してお客さまの心拍数や血圧などの生体データ、睡眠の質、食事の内容など、生活に関わるデータを集めます。それらのデータをAIに蓄積し、外部データ(ビックデータ)と統合・解析することによって、個人が1日快適な気分で過ごすために必要な栄養素や運動量、睡眠時間などをスマホのアプリを通して提案する。こうして商売を「モノの売り切りモデル」から「会員型のサービスモデル」へとなりわいを転換する一方で、お客さまの成果ベースで稼ぐフィットネスの総合提案業で、収益を拡大しようという動きを見せています。

 

すでに、産業間の垣根が崩れるという現象は起こっています。話題になっている自動運転サービス業がその典型です。ハードウェアはもう重要ではなくなってきていて、もうモノ単体を売ることは限界にきている。これが、全ての企業がサービス業化する主な理由であり、個人のお客さま体験にフォーカスせざるを得ない理由です。

 

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――IoT化が進んだ結果、ビジネスの現場ではどのような恩恵にあずかれますか?

 

まず、単純作業がなくなります。そして、機械が動く方が確実なもの、あるいは重労働でコストや成長性のネックになっているようなものも、どんどんAIやIoTに代替されていくでしょう。

 

一例を挙げると、損保ジャパン日本興亜では「SMILING ROAD(スマイリングロード)」という運転事故防止のサービスを提供しています。専用のドライブレコーダーを取り付けて、慎重か危険か、加速減速の状況など、インターネットを経由して運転の仕方などのドライブデータを集めて、運転者に安全運転をアドバイスするシステムです。優良ドライバーであり続ければ、保険料が下がっていく。こういうスキームを応用していけば、近い将来、タスク管理・健康管理や改善提案といった部分でも活用していけるのではないでしょうか。

 

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損保ジャパン日本興亜 「SMILING ROAD(スマイリングロード)」

 

――全企業がサービス業へと移行していく際に、IoTを導入する現場において最大の障壁は何ですか?

 

企業文化や組織運営でしょうね。伝統のある大企業は、社員の考え方や行動様式も保守的になり、組織もサイロ化(縦割りによる孤立化)しがち。特に企業文化そのものを「企業主語」から「お客さま主語」へ、チャレンジングでスピード重視の方向へと大きく刷新する必要があると思います。たとえば、複合企業GE(ゼネラル・エレクトリック社)のJ・イメルト氏(2017年8月に退任)は就任後、それまでの主事業だった金融や、メディア事業と決別し、産業機器の製造業を基盤にした“インダストリアルインターネット”と呼ばれる、IoTを駆使した新たなタイプのサービス業から利益を出すモデルを生み出しました。

 

これはどういうものか。ざっと説明すると、自社で製造した航空機のエンジンに無数のセンサーを組み込み、納入後、エンジンの稼働状況のデータ解析から、異常の兆候を感知して故障が発生する前にメインテナンスを行います。故障のリスクが減れば航空会社の運用効率が上がり、GEとしても利益貢献ができるだけではなく、航空機を利用するBtoCのお客さまのブランド体験価値も高くキープすることが可能になります。

 

イメルト氏は事業に“インダストリアルインターネット”を推進するにあたり、FastWorks(ファストワークス)と呼ばれるスタートアップ企業の考え方や行動様式を全社的に採用したと証言しています。こうして、社員30万人の巨大企業をサービス業化するためには、米国西海岸のIT企業をお手本にして企業文化を変革する必要があることをトップ自身が理解しなければなりません。

 

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IoT社会において、ビジネスパーソンが求められるスキルは

 

――今後IoT化が進んでいく中で、個人が身につけておいた方がいいスキルはありますか?

 

今までの企業では、人を教育することが重要な要素でした。しかし、定型的な共通メニューをこなすようなことは、全てAIがやってくれます。すると、上司や先輩の役割は変わっていきますよね。どういう能力が必要になるかというと、ファシリテート(促進)する力、つまり部下のキャリア形成をコンサルティングできる力です。

 

19世紀の産業革命では、機械化によって自分たちの職が奪われることを恐れたイギリスの棉織物の手工業労働者たちが、機械を手当たり次第破壊した「ラッダイト運動」の動きがありました。果たして結果はどうだったか。産業革命によって生産効率が飛躍的に向上し、大量生産が可能になった結果、急拡大した企業の営業利益により賃金が上昇し、労働者に還元されて中産階級が生まれたのです。また、大量に生み出された商品を差別化するために、プロダクトデザイン業という商売ができたのもその頃からです。

 

今後のIoTの世界も全く同じとはいいませんが、近いことが起こるのではないでしょうか。私はIoT化が進み、多くの企業がサービス業に転換した社会では、お客さま体験のデザイン(エクスペリエンス・デザイン)が重要になると考えています。どの企業も似たようなアルゴリズムでAIやIoTを導入していくと、皮肉なことに同じサービスやモノが大量に複製される時代がやってくる。しかし、コンピューターがお客さまの過去の行動データの解析をベースにしてできるカスタマイズやオプティマイズはたかが知れています。

 

そこで、より人々の期待や想像を超えた豊かな体験を提供するには、人間のクリエイティビティやイマジネーションを使い、喜ばれる体験につながるサービスを創造していく必要があります。それこそが、人間にしかできない領域なのです。モノのデザインから、サービスや体験のデザインへとシフトしていくことで、新しい商売や産業が生まれてくるのではないでしょうか。

 

――そういった大きな流れの中で、個人はどういった考え方を持つべきなのでしょうか

 

「リーン・スタートアップ」と「オーケストレーション」の2つの考え方が重要です。順番に説明してみましょう

 

1. リーン・スタートアップ 

アイデアが浮かんだら、まず事業コンセプトをまとめ、いち早くトライをすることです。挑戦して、失敗成功が重要ではなく、失敗から何を学び、どう素早く改善していくか。今までは、ヒトモノカネの配分が企業経営の要でしたが、学習するスピードや生身のお客さまが何を求めているかを学ぶこと、よりいいサービスを迅速に作り続けることがこれからは重要になります。

 

2. オーケストレーション

ドラッカーがかつて指摘したように、組織は上意下達の軍隊型からオーケストラ型に変わる必要があります。指揮者のもとでチームを構成する各人が全体最適の考え方に立ち、プロとしての力を最大限発揮すること。営業やマーケティングに直接携わる人はもちろんですが、AIやIoTで単純な定型作業はなくなっていきますから、企業の管理部門で働いている人たちもサービスのフロントへ出て行くことになります。したがって部署や階層の垣根を超え、全ての企業の社員がお客さまの豊かな体験につながるサービスを創出するために、オーケストラのように力を合わせることが求められるようになるはずです。

 

――IoTが進むと、オフィスワーカーの働き方は、どのように変わりますか?

 

マスマーケットの時代は、企業の方が立場は強かったですよね。お金も販売チャネルもありますから。企業主導で大量に売り切るビジネスモデルが成立していました。ところが今後は、個人の気持ちの変化に寄り添い、その人の体験が豊かになる方向に、マーケティングプロセス全般を見直す必要が出てきます。企業主語を捨てて、お客さま主語にならざるを得なくなるはずです。

 

また、IoTやAI導入などのデジタル化やマーケット変化のスピードが、経営層の判断のスピードよりも上回り、多くの企業で事業の成長戦略を明確に描けていないのが現状です。最近は、お客さまに近い立場でサービスをする若手社員の方が、経営トップよりも事業改革のヒントやアイデアを的確につかんでいるケースが多いのではないでしょうか。こういった変化をトップは認識し、年功序列ではなく、いいセンスを持った若い人材を経営層に登用するべきでしょう。

 

若い人たちは独創的で多様な意見を世の中に発信し続けてください。インターネットの時代、発信するための選択肢は豊富にあります。それはこれからの個の時代に必要なことなのですから。

 

(山岸裕一+ノオト)

 

 

取材協力:朝岡崇史

株式会社ディライトデザイン代表取締役

 

エクスペリエンス・デザインを専門とするコンサルタント。株式会社電通でコンサルティング室長を経て、2017年1月に株式会社ディライトデザインを起業。公益社団法人日本マーケティング協会マーケティングマスターコース・マイスター(2011年〜現在)、北京伝媒大学客員教授(2013年)などを歴任。近著に『エクスペリエンス・ドリブン・マーケティング』(ファーストプレス・2014年)、『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』(ファーストプレス・2016年)がある。

 

 

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