はたラボ

徹底的なリサーチとチームワークで最高のプロフィール写真を撮影 被写体の未来を切り開く写真家・山口直也さん

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就職、転職、お見合い。人生におけるさまざまなステージを「写真」で後押しするスタジオがある。写真家・山口直也氏が率いる「スタジオ☆ディーバ」だ。

「ディーバに行けば間違いない」。そう口コミで広まり、キャビンアテンダントやアナウンサーの応募写真、政治家の選挙ポスターに至るまで、撮影してほしいという人が殺到。広範囲で最高水準のプロフィール写真を手掛けるスタジオとして、確固たる地位を築いてきた。その背景には、長年の地道な研究によって練り上げられた独自のメソッドがあるという。

山口氏はいかに自らの仕事スタイルを確立し、人気スタジオを作り上げていったのか? その努力は、クリエイティブな職種ならずとも大いに参考になるはずだ。

お客さんを面接まで送り届けるのが僕の使命


── まず、山口さんが考える「印象のいい写真」とは、どんなものでしょうか?


山口さん(以下、敬称略):一口に「好印象」と言ってもいろいろですが、就職試験やお見合い用の写真、政治家の選挙ポスターといった誰かにアピールするための写真であれば、大事にすべきなのはそれを「受け取る側の印象」です。


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山口:例えば政治家の選挙ポスター撮影で、以前にこんなことがありました。その方はカメラの前で笑うのが苦手だというので、現場にお孫さんを連れてこられたんです。もう、終始ニコニコです。優しそうで、ある意味いい写真にはなりますが、選挙ポスターとして考えると決して好印象とは言えません。「現役を退いたおじいさん」に見えてしまって、政治家として何かをやってくれそうな期待感がないんですね。


── 自分らしさと受け取る側が期待するイメージ、それが必ずしも一致するとは限りません。誰かにアピールするための写真は、後者に寄せていく必要があるわけですね。


山口:はい。スタジオ☆ディーバには、就職や転職活動用の写真を撮りに来られる方も大勢いますが、とにかく自信を持って、明るく、仕事ができそうなイメージで撮影します。


もちろん、中には自分に自信がなく、控えめで、そういう写真はキャラに合わないという人もいるわけです。こんな写真は「私らしくない」と。ただ、「これはルポルタージュじゃない。自分を売り込んでいくためのコマーシャルだと思ってやってください」とお願いしています。それは、就活も選挙も、それからお見合いだって同じですよね。


── 就職もお見合いも、必ず写真を含む書類での第一関門がある。まずはそこを通過しないと何も始まりませんよね。


山口:そうです。やっぱり現実はつらいし、決して美しいものばかりではない。だけど、コマーシャルは夢を見させるものだから。ありのままを撮ったって駄目なんです。まずは写真を受け取る側に、「この人と明るい未来を作りたい」と思ってもらえるかどうか。面接なり食事会なり、その本番の舞台までお客さんを送り届けることが僕の使命だから。


どんな人でもいい写真が撮れると、皆さん前向きになる。最初はうかない顔をしていた人でも「これで頑張れそうです」って感謝してくれるんですよ。


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会社ごとに撮り方を変える、徹底的な業界研究


── 「スタジオ☆ディーバ」では、客室乗務員やアナウンサー試験用の写真など、幅広い業界の撮影を手がけられています。業界ごとに書類選考に通りやすい写真の傾向は変わるのでしょうか?


山口:業界、職種によっても違いますし、例えばアナウンサーの応募用写真であればテレビ局ごとに傾向が異なります。報道に力を入れたい局なのか、タレントっぽいアナウンサーを求めている局なのか。それから地方によってもさまざまで、北と南で求めるイメージ像は変わってくる。ですから、局ごとにメイクもライティング(照明の当て方)も、撮り方も変えるんです。


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── では、複数社を受ける場合は、複数のパターンの写真が必要になると。


山口:そうですね。かつてのキャビンアテンダントも同様で、昔は国内の航空会社ごとに重視するポイントが全く違いました。ある会社の場合は、保安要員としての資質を大事にしているため、感情のコントロールができなくてはならない。面接で泣いたりしたら、一発アウトだと聞いたことがあります。


一方、他の会社では共感性があって、話をよく聞ける人が望ましいという時代があったんです。


それから国内と外資、外資はどの宗教圏かによっても大きく変わってきますね。例えばUAEの航空会社だと、ただの笑顔じゃなくて、上下の歯をよく見せて「ラクダのように」笑うのがいいとされていました。あとは、ある程度太っていないといけない。痩せていると砂漠の環境に耐えられませんから。だから体にタオルを巻いて、わざと太く見えるように撮ったりね。


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口コミで仕事が殺到。いつしか「アナウンサーの登竜門」に


── 山口さんはいつ頃からカメラマンを志したのでしょうか?


山口:子どもの頃から写真が好きだったという伏線はありましたが、仕事として携わるようになったのは高校3年生の頃です。知人がカメラマンをしていたスタジオに、アルバイトとして入りました。初めて自分の写真が使われたのは、大丸のポスター用にタレントさんを撮影した一枚でしたね。


── プロを抑え、高校生アルバイトの写真が採用されたと。すごい才能ですね。


山口:いや、それはたまたまなんですよ。あくまでアシスタントとしてテストで撮った写真が、運良く採用されただけ。テストだからタレントさんもリラックスしているじゃないですか。それで、いろいろとお話をさせてもらいながら撮影した時の表情が、結果的に一番良かったということでね。


ただ、そんな経験もあって、自分は人が好きだし、魅力的な表情をとらえるのが得意なのかなと思うようになったんです。


── それで、人物の写真をやっていこうと。


山口:はい。その頃はまだ自分のスタジオがなかったので、芸能プロダクションを回って営業活動をしていくうちに、雑誌を中心にお仕事をいただけるようになりました。当時はポストおニャン子クラブとして、モモコクラブ*1などのアイドルグループがいろいろ出てきて、カメラマンの需要もたくさんあったんですよ。


ただ、一方で周囲の先輩たちは仕事がどんどんなくなっていくんです。雑誌って現場の編集者が若返っていくので、ベテランのカメラマンはだんだんと使いづらくなるんですよね。経験豊富で仕事もできるんだけど、依頼が来なくなる。だから、そうなる前に雑誌を離れました。


── 雑誌を離れて、次は何を?


山口:従兄の風景写真家について、世界を回りました。撮っては次の場所へと、各地を転々として。花の咲くベストタイミングを掴むために農業を学んだり、天気図の読み方を覚えたり、勉強しなきゃいけないことがたくさんあった。とにかく楽しかったですね。


ただ、このままこの道でやっていこうと思った直後にバブルが崩壊して、風景写真の需要が一気になくなってしまったんです。ギャラも10分の1以下に減りました。そこで、まずは国内で経済的な基盤を作ろうと考え、1994年にスタジオ☆ディーバを立ち上げたんです。


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── スタジオ設立後、すぐに仕事は来ましたか?


山口:そうですね。ただ、最初はタレントのパブリシティーフォトの仕事が多くて、現在のように幅広く手掛けていたわけではありません。当時からの一つひとつの仕事がつながり続けて、その繰り返しで今に至っている。振り返ってみると、全てのことに連続性があったように思いますね。


── 連続性、ですか。


山口:例えば、設立当初に撮影していた中学生くらいのモデルの女の子たちが成長して、今度はアナウンサーや客室乗務員の試験を受けるからと写真を撮りに来るわけです。他の写真館とは違う、タレントの宣材写真のような目を引く写真が必要だからと、僕のことを思い出してくれたんですね。


当時はそんなニーズがあるなんて考えもしませんでしたけど、そのうち評判になって、アナウンサー志望のお客さんが殺到するようになったんです。あそこに行けば、そういう写真を撮ってくれるぞと。


何年か前にどこかのテレビ番組が調べてくれたんですけど、全国のアナウンサー150人のうち、80人くらいがスタジオ☆ディーバで応募用の写真を撮っていたみたいです。


── それはすごい……。まさにアナウンサーの登竜門ですね。


山口:同じように、エアライン志望の人たちもどんどんと合格して、キャビンアテンダントになっていくんです。それで、何年かするとその子たちが食事会などで知り合った若い政治家に「君たち、どこで写真撮っているの?」と聞かれ、今度は若い市議の方々が国政や市長、県知事に立候補する際にうちを訪ねてくる。そういう連続性ですね。全部、つながっているんです。


── なるほど。ただ、そうやってつながっていったのも、結果を残し続けたからこそですよね。


山口:そうですね。特に政治家の方は最初、相手方の不信感がすごかったですよ(笑)。とりあえず来てみたものの、こんな若い兄ちゃんに撮れんのかい? って。値段も安くしていましたからね、余計に心配だったみたいで。某有名写真家の弟子が50万円くらいとっていたのに対して、僕はその10分の1以下でしたから。


── そこからどうやって信頼を得ていったんでしょうか?


山口:それはもう、「いい写真を撮ること」。これに尽きます。先ほど企業にリサーチしたと言いましたが、政治家の場合は秘書さんにいろいろと聞いてね。地盤はどうか、有権者の層は? 対抗馬は? それらを踏まえつつ写真を撮り分けていたら、やっぱり評判になっていきました。今、政治の第一線で活躍されている方もずいぶん来てくれましたよ。


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最高のチームワークが、最高の一枚につながる


── スタジオ☆ディーバではヘアメイクを正社員として雇用されていますよね。一般的には外部のフリーランスの方を使うので、専属というのは珍しいと思うのですが。


山口:確かに珍しいですね。少なくとも、設立当時はスタジオに専属のヘアメイクがいるのはうちだけでした。ただ、ヘアメイクってものすごく重要なんですよ。技術はもちろんですが、カメラマンとツーカーの仲になっていないと、いい仕事はできない。というのも若い頃、代理店やスポンサーが連れてくるヘアメイクにずいぶんと苦労させられましたからね(笑)。


── だから、ヘアメイクも自分のところで養成してしまおうと考えたわけですね。


山口:そうです。もう長く一緒に仕事をしているから、カメラマンとヘアメイクの関係性も良好だし、撮影現場の雰囲気も和やかですよ。普通は派閥ができたりしますが、うちの場合は採用のときにスタッフ全員の同意がないと入れないことにしていますからね。最初から協力して仕事ができそうな人を集めているから、そもそも人間関係の軋轢(あつれき)が生まれにくいんです。


そうしたチームワークの良さは、実際の写真の出来にも反映されます。このシステムを、私たちは「ディーバメソッド」と呼んでいます。


── 具体的に、どんなメソッドなんでしょうか?


山口:受付のコンシェルジュからヘアメイク、カメラマンまで全員で協力し合い、お客さまのベストの一枚を追求するシステムです。


まずは電話で予約を受けた時からカウンセリングは始まっていて、何のための写真なのか、挑戦したいテイストやご希望などをお聞きします。その後、最も長い時間お客さまと相対するヘアメイクが、自分の顔のどんなところが気になるのか、将来の夢は何かなど、さらに細かいコミュニケーションを重ねる。そして、それを全てカメラマンに伝えるんです。


これは、スタッフ同士が互いに信頼していなければできないことで、他の現場ではなかなか難しいと思いますね。単純なことかもしれませんが、このシステムを作り上げるのに十数年かかりました。ですから、あらゆる分野の撮影で最高水準のサービスをうたっているのは伊達じゃないつもり。それだけの自信があるんです。


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── 確固たる地位を築いたスタジオ☆ディーバですが、今後、山口さん自身が叶えたい目標はありますか?


山口:この何十年かは経済的な基盤作りに費やしてきました。ですから、今後は自分自身の作品にも力を入れていきたいです。


実は以前から、写真を通じて世界に日本の文化を発信する活動をしています。海外の大使館が協力してくれて、ベルリンやボローニャで個展も開催しました。東日本大震災で日本から外国人がどんどんいなくなってしまった時に、もう一度日本へ目を向けてもらいたいと思って始めたものですが、また、近いうちに再開したいです。


あとは、また海外を旅しながら、のんびり風景写真を撮って回るのもいいかもしれませんね。


取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:松倉広治 編集:はてな編集部

取材協力:山口直也

 

有限会社ディーバ・ユニゾン代表取締役社長。早稲田大学大学院法学研究科博士課程前期終了。高校時代のスタジオアシスタントを経て、フリーのライターおよびカメラマンとして雑誌を中心に活動。1994年、スタジオ☆ディーバを設立。幼少より、両親の影響で絵画やバイオリンをたしなみ、大学時代にはシティフィルハーモニーに参加。
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*1:アイドル誌『Momoco』内の美少女紹介企画で取り上げられ、TBS系列で86年から1年間放送されたテレビ番組「モモコクラブ」に出演したアイドルの総称