はたラボ

オタクの感情を赤裸々に描く漫画家・蟹めんまさんから学ぶ、人を理解するための「観察眼」の鍛え方

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「人の良いところを見つけて理解すれば、どんな人ともうまくやれる」とコミュニケーションが上手な人は言う。しかし、頭では分かっていても良いところの見つけ方が分からないから、私たちは日々人間関係に悩んでいるのではないだろうか。


一体どうすれば人の良い部分に目を向けられるようになるのか、人のことを理解できるようになるのだろうか。今回は、「観察眼」に優れている漫画家 蟹めんまさんに話を聞いた。
ヴィジュアル系バンドの追っかけをする人たちを題材にした漫画 『バンギャル*1ちゃんの日常』は、シリーズ累計10万部を超えるヒットを記録。その後はV系以外のジャンルのおっかけ族や、害虫を題材にした漫画を描いたりと、幅広いジャンルのイラストを手掛けている。


そこで描かれるキャラクターは、喜怒哀楽全ての感情を爆発させながらもどこか愛嬌があって憎めないものばかりだ。一体、蟹めんまさんは描く対象をどのように「観察」しているのだろうか。観察眼を生かした漫画家の仕事をし始めた経緯と、観察力を鍛える方法を教えてもらった。

不動産広告営業時代に始まった「漫画家キャリア」


―― 蟹めんまさんは、漫画家になる前に社会人経験があるんですよね?


蟹めんまさん(以下、敬称略):大学を出て、最初に就職した会社では新築マンションの広告を作っていました。皆さんのご家庭のポストに入れられているあのチラシです。普通のチラシはすぐ捨てられちゃうけど、漫画なら読んでもらいやすいんじゃないか?ということで、住宅ローンの説明やモデルルーム訪問レポ漫画を載せたチラシを作っていました。


ちょっと変わっていたのは、営業部所属だったのに制作っぽいこともやっていたことです。電話営業や飛び込み営業で都内のマンションデベロッパーさんに漫画チラシの制作を売りに行きつつ、受注した漫画のネームも作っていました。


―― 会社勤めの頃から、「仕事としての漫画作り」をされていたんですね。


蟹めんま:「ネームまでは無料で作るから、気に入ったら発注してください。」という営業もしていましたね。年間100本くらいネームを書いていたかな。ネームを描くか飛び込み営業をしているかみたいな社会人1~2年目でした。一応、芸大を出ていたので漫画は好きだったんですけど、当時は漫画家になるとは1ミリも思っていなかったです。


ただ、この頃ちょうどリーマン・ショックが来てしまって、私のいた部署が縮小になったんです。それで転職し、次はインターネットの広告会社に行きました。それは友達のいた会社に転がり込ませてもらったので、ちゃんとした転職活動はしていないんですよね。


―― 知り合いのいる会社に入るのは、転職の方法のひとつですよね。内部事情も聞けますし、入社後のギャップも少ないですから。


蟹めんま:そうですね。そこではWebの広告記事の制作をしていました。その会社では文章も絵も書いていましたけど、漫画は描いていませんでした。SEOライティングで「検索エンジンの何番目に表示させよう」みたいなのをがんばっていましたね。私の会社員生活はこの会社で終わりです。

会社員時代の経験と「ヴィジュアル系への愛」で切り開いたプロ漫画家への道


―― 蟹めんまさんが今のスタイルで漫画を描くようになったきっかけは何ですか?


蟹めんま:きっかけはブログですね。会社を辞めて、「イラストレーターができればいいな」とぼんやり考えていたんです。私は幼少期からヴィジュアル系バンドのファンなのですが、当時は「バンギャル」と検索すると、上位に表示される記事がゴシップっぽいものばかりで、「なんだこれは」と憤りまして(笑)。ここで、2社目で学んだSEOが生きるんですけど、その知識を使って、1ページ目にあるゴシップ記事を蹴散らしたいと思って漫画を描いてブログに載せていました。私は経験したことしか描けないタイプなので、経験談がほとんどですね。


―― そういったタイプの方は、「自分の半径5メートルを描く」ことが多いですよね。ファンをしていると、バンドについての漫画を描きたくはなりませんか?


蟹めんま:本当は演者側の漫画も描きたいんですけど、バンドをやったことがないのでリアルに描けないんです。取材すれば描けるかも、とは思うんですけど……演者側の漫画を単行本1冊分描けるほど取材してしまったら、その後はもうファンを題材にするような漫画は描けないし描いちゃダメだと思ってしまって。


―― 純粋な「ファン」ではいられなくなってしまいますからね。


蟹めんま:そうなんですよ。私自身が今でもヴィジュアル系バンドのファンなので、ファンの立場を捨てることはできないんですよ。両立はできないと思っています。それにたとえ描けたとしても、バンドとも交流があって、関係者としてライブに行っているような人が、バンギャルの立場で漫画を描いていても、私なら読みたくないと思ってしまうんですよね。

周りの人を観察してキャラクター付けをする際は、「ウケを狙わない」


―― 蟹めんまさんの漫画には、いろいろなタイプのキャラクターが出てきますよね。どうやって描き分けをしているのでしょうか?


蟹めんま:ファンにもいろいろタイプがあるんです。ライブにはあまり行かないで家でCDを聴いて楽しむ人、とにかくナマにこだわってライブにたくさん行く人、ファッションや創作でバンドへの愛を表現する人……。学生か社会人かによってもいろいろ違います。自分の周りにもいろいろなタイプの人がいるので、その人たちの実際の発言とかを元にしていたりします。


蟹めんまさんが描く、さまざまなタイプのヴィジュアル系バンドのファン(『バンギャルちゃんの日常①』より一部抜粋)

―― その話を聞いて、あるマーケターの言葉を思い出しました。「街にいる時はイヤホンをするな。人の声を聞いて、ニーズを言葉にしろ」というものです。生の声を聞くのも観察方法の一つになりますね。


蟹めんま:そう言われてみると、気をつけていることがありました。キャラクターを分類するのは結構デリケートなんですよ。人様を「〇〇な人は、△△である!」とくくることになるので、悪く言えば「レッテル貼り」とも言えるんです。だから、極力ウケは狙わないようにはしています。


―― 茶化したりいじったりしないということでしょうか?


蟹めんま:そこの塩梅は自分でもめちゃくちゃ難しいなと思うんですけど、「イタいものを見て笑う」みたいな風には描かないようにしています。ネットでバズりたいという欲は
有り余っているのでウケたいんですけど、「こういう人ってイタいよね~」みたいなあるある漫画は、楽しめる人もいるかもしれないけどモヤっとする人もいそうな気がして。

「実は自分の未来の姿かも」と想像すれば、誰かを上げたり下げたりはできない


―― 蟹めんまさんは、ご自身の漫画で傷つく人が出ないように配慮されているんですね。


蟹めんま:あと、分類するにあたってもう一つ気をつけていることがあるんです。私自身、一つのタイプのみで一生を終えることはできないとも思っていて……これ、意味通じますか?


―― ……どういうことでしょう?


蟹めんま:例えば、私を例にすると、小中高生の時はほとんどライブには行かず、自宅でCDを聴くだけでしたけど、大学生の頃はライブハウスによく行くようになっていました。まだやったことはないですが、今後47都道府県を追っかけて回る可能性だってありますよね。そうやって、「いつか自分もそのタイプになるかもしれない」と想像すると、どのタイプが悪く描かれていても良い気持ちはしないから、「分類」はするけど、笑いを取るために悪く描くのはやめようと思うんです。実際に優劣はないですから。


―― 今は都内に住んでいるけれど、何年後かには地方にいる可能性もある。そう思うと、例えば地方の人の苦労を笑うようなネタは描けませんよね。


蟹めんま:そうなんです。今はバンバン遠征してライブに通う人も、家庭の事情でライブに来られなくなる可能性はありますよね。今描いているタイプは、どれもが「過去の自分」、もしくは「未来の自分」かもしれないんです。


―― ビジネスでも似たようなことは言えますね。例えば、転職活動の時に「人事の気持ちになって、自分だったらどんな人に会社に来てほしいかを考えるといいよ」とアドバイスしたり……相手の気持ちになることで共通点を見つけやすくなったりもします。


蟹めんま:自分と他人の共通点を見つけられると、相手の気持ちが少しずつ分かるようになりますよね。私の場合、それができるのは、バンギャルに限っちゃいますけど(笑)。観察眼を鍛えるのに必要なのは、「想像力」を持つことかもしれないですね。

その人を取り巻く「背景」も理解することで、「愛着」が生まれる


―― 蟹めんまさんのキャラクターは、怒っていてもなんだか応援したくなる愛嬌がある気がします。


蟹めんま:それは、私自身がバンギャル活動の中で喜怒哀楽の「喜」と「楽」だけでなく、「怒」と「哀」もたくさん経験しているからだと思うんです。ちなみに、私が描いた怒っているキャラクターの中で一番気に入っているのは、『バンギャルちゃんの日常』2巻の「あがる*2バンギャルちゃん」に出てくる「通っているバンドが出待ち禁止になって怒ってるファン」ですね。バンドの規模が変わってきて、ファンサービスも減ったりして、「そんなにうちら(ファン)に会いたくないの?」って怒っているファンの様子を描いたんです。現場ではあるあるなんですが。


あがるバンギャルちゃん』より一部抜粋

―― これはただの怒りではないですよね。いろいろ複雑な感情が混ざって「怒り」になっているような気がします。


蟹めんま:そうなんです。変わってしまったことへの怒りやら、もう気軽にメンバーに喋りかけられなくなった寂しさやら、バンドが売れたことを素直に祝福してあげられない自己嫌悪やら……全部が混ざった「怒り」の感情なんです。


これが表現できるのは、このキャラクターが「私自身」でもあるからだと思います。正直なところ、私自身がこういう怒りや嫉妬の塊なんですよ(笑)。それを極力表に出さないようにすることが、大変で大変で仕方ないんです。


小中学校の時は、奈良に住んでいたこともあって、都会に住んでいてよくライブに行ける人、門限がない人に嫉妬していました。高校、大学に進学してマイナーバンドに通ってからは、メンバーと仲良く話せる人を羨んだり、いちファンからスタッフになって業界入りした人を羨んだり……きっと人に対する「嫉妬」って、一番処理が難しい感情なんですよね。ちなみに大人になればこういう感情はおさまるのかと思っていましたが、そんなことは無かったです(笑)。「今は落ち着きました」って言いたいですけどね。


―― 「嫉妬」というと一見どろどろした感情ですが、それを描いてもキャラクターにかわいらしさが残るのはなぜなんでしょう?


蟹めんま:漫画の中で、「嫉妬の理由は『愛情』である」という背景も描くようにしているからかもしれませんね。単に性格が悪くて妬んでるんじゃなくて、バンドに対する愛情がひっくり返ってカッカしているんですけど、その気持ちを認めた上で、読者さんに対して「この気持ちを分かってもらえないでしょうか?」という気持ちで描いているんです(笑)。


―― 嫉妬しているところだけを見せられると引いてしまうかもしれませんが、そこに至った背景も含めて見せられると同調できたり、「このキャラクター好きだな」って愛着が生まれたりしますね。


蟹めんま:背景が分かると、「その人」の気持ちを考えられますよね。怒っているキャラクターを描く時も「この気持ちをどうかわかってくれよ~」と思いながら、その人を取り巻く背景も含めて描くようにしています。

人と打ち解けるための「観察眼」 ―― 身に着けているものや持ち物から「その人」を読み取る


―― 蟹めんまさんは、『バンギャルちゃんの挑戦』の中でも描いているように、ヴィジュアル系バンド以外にもプロレスなど、さまざまなジャンルのファンをしていますよね。その中で、仕事に生かせたことはありますか?


蟹めんま:人と打ち解ける上で、共通の話題を持ちやすいというのはありますよね。漫画家の仕事ではないですが、たまに日雇いの仕事をした時に、バンドのTシャツを着て新日本プロレスのパーカーを羽織って行くと、誰かしらが手伝ってくれるんですよ。「新日じゃん!」って反応してくれて距離が縮まるんです(笑)。


何が好きか分かると、その人がどんな生活をしてきたか少し想像できるじゃないですか。新日本プロレスのパーカーを着ていると、「プロレス好きなの?1月4日は?」って初対面でも話が弾むんですよ。その日は大きなイベントがあるので。そこから打ち解けられますよね。


―― 身に着けているものからその人の人となりを想像することも大事ですね。


蟹めんま:身につけているものにその人の好きなものや趣味が出ますし、もしかしたらどんな生活をしているかも分かったりしますからね。それを見つけるのも「観察眼」だと思います。


取材・文:佐野創太

 

取材協力:蟹めんま

 

奈良県出身。漫画家。大阪芸術大学デザイン学科卒。カレー屋店員、不動産広告営業、ウェブ編集、スーパー銭湯スタッフなどの職を迷走したのち、漫画家になる。自身のヴィジュアル系バンドの追っかけ体験を綴った、「バンギャルちゃんの日常」シリーズは累計10万部を突破する。

登場人物のキャラクターの親しみ引き立てる作風はジャンルの垣根を超えて支持されている。近年は生物図鑑やサウナといったジャンルも親しみやすく伝えている。

Twitter:@kanimen
blog:蟹めんまのバンギャル漫画

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■代表作 『バンギャルちゃんの日常』
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*1:バンギャル:「バンドギャル」の略称であり、ヴィジュアル系バンドのファンの総称。主に女性のファンを指す。

*2:あがる:バンドのファンを辞めること