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フリーアナウンサー本多真弓さん直伝 ビジネスの場で使える「アドリブ力」の正体と鍛え方

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「顧客から突然来たクレームに慌ててしまった」「会議で上司に意見を求められたが、即座に答えられなかった」「転職活動の面接で、予期せぬ質問に上手く答えられない」
――年齢、職種問わず、そんな経験がある人はいるのではないだろうか。「臨機応変な対応力」は、さまざまな職種で求められるビジネススキルでありながらも、なかなか思うように身に付けることができず、課題感を持つ人も多い。今回は、そんな臨機応変に対応する「アドリブ力」が必要とされる職業、アナウンサーの方に話を伺った。


インタビューに答えてくれたのは、フリーアナウンサーの本多真弓さん。アナウンサーと言えばどんな状況でも冷静に対処するイメージがあるが、本多さん自身はかつて「人前で泣いてしまう学生」だったと話す。「アドリブスキル0(ゼロ)」とも言える状態から、どのようにして「アドリブ力」を身に付けたのか。「アドリブ力」を鍛える方法を、自身の経験談やアナウンサー講師としての視点も交えながら教えてくれた。

「面接で泣いてしまう」状態から始まったキャリア


―― 本日はよろしくお願いします。今日は「アナウンサーのアドリブ力」についてお伺いできればと思っています。


本多さん(以下、敬称略):実は、私もアドリブはあまり得意ではないんですよ。NHKの新人時代、「本多はアドリブさせたら危険だ」と判断されたのか、「自分の判断で話さないように」と言われていたくらいですし(笑)。


―― アナウンサーの方は、臨機応変に話すのが元から上手なんだと思っていました。


本多:就職活動の面接で泣いちゃう人ってたまにいると思うんですけど、私はまさにそのタイプでした。


―― それは意外ですね。学生時代は引っ込み思案な性格だったのでしょうか?


本多:それがまた、面倒な性格だったんです。読者モデルに応募したりダンスサークルで人前で踊ったりもしていたんですけど、自分のことを人に話すのが苦手だったんですよね。「話せた!」と思ったら、そのことに感極まって泣いちゃったりして(笑)。「その性格だとアナウンサーになれないぞ」って周りの人に言われて、実際に試験にも受からなかったんですね。それで、最初はシステムエンジニアとして就職したんです。


―― システムエンジニアとして就職して、それでもやはりアナウンサーに転身したのは何かきっかけがあったのでしょうか?


本多:システムエンジニアはパソコンに向かって仕事をしているイメージですけど、仕事においては人と人とのコミュニケーションも必要ですよね。新卒で入社した会社では、コミュニケーション能力を上げる目的でスピーチ大会が開かれていて、そこでいちばん良い点数がもらえたんですよ。でも、私はアナウンサーをずっと目指していたし、アナウンサースクールにも通っていました。地方局含めて20局以上面接を受けていましたから、「あれだけ頑張っていたんだし、優勝するのは当たり前じゃん」と、切なくなっちゃったんです。


―― 「アナウンサーになりたい」という思いに、もう一度火がついたんですね。


本多:そうなんです!私は「自分に嘘をつきたくない」と思ったんです。仕事は起きている時間のほとんどを占めるじゃないですか。だから、やっぱり自分が本当にしたいことを仕事にしたかったんですよね。

ラッシャー板前さんとのやりとりで気付いた、「アドリブ力」に必要な「土台」


―― アナウンサーになる前に、「アドリブ力」を鍛えたりはしていたのでしょうか?


本多:していないですね。そもそも、人前で話すのが苦手な状態からアナウンサーになったので、最初、アドリブ力は全くなかったです。それでも、振り返ると確かに「とっさに何か話していたな」とは思うんですよ。そこで、私なりに「アドリブ力」について考えたのですが、アドリブする力の大本にあるのは「表現の引き出しの多さ」だと思いました。あとは、その引き出しから「的確に選び出す力」。アドリブだからと言って、何でも話せば良いというわけではないですよね。


―― 自分の頭の中に知識のストックがないと、何も出せないですよね。


本多:そうなんです。「ストックしておくことが大切だ」と思った出来事があったんですよ。テレビ朝日系列の「朝だ!生です旅サラダ」という番組がありまして……神田正輝さんなどが出演している番組ですね。その番組に、ラッシャー板前さんが地方局のアナウンサーとタッグを組んで地域の魅力を紹介するという中継コーナーがあって、秋田の放送局にいた当時、私が出演したことがあったんです。コーナー担当のラッシャー板前さんは 毎回の食レポも、自分の言葉で自然にお話されているのが伝わってくるんですよ。だから、「ラッシャー(板前)さんは、どうやって食レポを勉強しているんですか?」って聞いてみたんです。そうしたら、「移動中に見る『トランヴェール』は参考になるよ」って教えてくださって……。『トランヴェール』は新幹線の車内サービス誌なのですが、食べ物など地域の特産品が紹介されているページがあって、例えばおいしいお肉の紹介を「このお肉が柔らかい」だけでなく、「口に入れた瞬間に繊維がほどけるような」といったように、おいしさがより詳細に伝わる表現で書かれているんです。


―― ラッシャー板前さんは、積極的にストックを増やす勉強をしていたと。


本多:そうですね。「アドリブ力」と言うと、ゼロから生み出すようなイメージもあるかもしれないですけどそうではなくて、「あるものの中からチョイスする力」とも言えるのだと思います。だからまずは、蓄積が必要です。


―― 本多さんはその話を聞いて、「表現の引き出し」を増やすために何か行動を起こしましたか?


本多:私もラッシャー板前さんの真似をして、『トランヴェール』の食べ物が載っているページはどんな風に書かれているかチェックするようになりました(笑)。食レポの前には雑誌を読んだり、インターネットで人が書いたものを見たりして、学んだことをノートに書き出したりもしていましたね。お天気を伝えるにしてもいろいろな番組を見て、季節を伝える表現をどのように話しているか参考にしていました。意識してみると、いろいろな言い方があることが分かるんです。

緊急対応時も自分の言葉で話すため、場のつなぎ方も「表現の引き出し」へ


―― アドリブの対応に慣れていないから、面接やプレゼンが苦手というビジネスパーソンもいます。アナウンサーの方は臨機応変な対応方法をどのように訓練されているのでしょうか?


本多:アナウンサーは、生放送中に緊急速報が入るなど不測の事態が起きると、話す内容が変わることもあります。なので、緊急速報が入ってきたときのことを想定して、日頃から話す練習をしているんです。不測の事態に備えているからこそ、いざという時に慌てないで話すことができます。


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―― 緊急速報の対応も、常日頃から「表現の引き出し」に入れてあるということですね。


本多:アナウンサーは準備していると思います。緊急速報は……例えば、地震が起きた際にはまず、視聴者の皆さんに状況を伝えて注意喚起します。それから地震の情報が明らかになれば、情報が書かれた紙が届くなり画面に表示されたりするので、それを正確にお伝えするんですね。それだけでなく、例えば映像で港の様子が映されたら、その様子を言葉で描写して、注意を促したり、時には場をつなぐ役割も担わないといけないんです。これも、日々練習しています。


最初は、「こちらは○○市の港の様子です」としか言えないんですよ。でも、他のアナウンサーがどう話していたかを自分の中にストックしておけば、「あの時のあの表現が使えるかも」と思い出して、自分も同じように話せますよね。


例えば、「港に停泊している船舶が見えますが、灯りはまだついているようです」とか、「煙が画面の右奥に見えますが、これは工場の煙であって火災ではありません」とかですね。「火災はこういう言葉で伝えているのか」「灯りがついているかどうかで、停電しているか分かるんだな」といった描写を、一つ一つ学んでいます。自分の言葉で伝えられるようになるために、訓練しているということですね。

「表現の引き出し」から、とっさの一言を引き出すセンスの磨き方とは


―― 「表現の引き出し」は中身を増やしておけば、すぐに適切なものを引き出せるようになるのでしょうか?


本多:日頃から蓄積をしておいて、現場で実際に引き出してみる作業は必要ですね。


―― 引き出し方のセンスは、日常的に磨くことができるのでしょうか?


本多:それは私も知りたいですね(笑)。一言で「センス」といっても、たくさんの能力が必要でしょうし。でも、先輩からもらったアドバイスが一つあるんです。番組のMC をしていた時に、先輩に「本多さんは、『そうですね』が多すぎるよ」と言われたんですよ。


―― 相槌だけになっているということでしょうか?


本多:そうなんです。出演者の方が話を振ってくれた時に、「そうですね」と相槌を打つしかできないことが多くて……すると先輩に、「『そうですか?』にしてみるのはどう?」と言われたんです。「確かに切り返す力はなかったな」とはっとしたことを覚えています。「場に流されない力」というのでしょうか。今振り返って考えてみると、「自分の意見を持っている」ということなんだと思います。就職活動や転職活動の面接でも、何を聞かれても怖くない状態の時ってありますよね。それは自分が「何がしたくて、どうしてこの会社を受けているのか」ということが明確になっているから……つまり、自分の考えがきちんとあるので、何を聞かれてもアドリブができる状態です。ちょっと抽象度が高い表現ですが、「自分の意見や考えを持つこと」が、とっさの時でも場に合った言葉を選べるセンスの中身かもしれないですね。


―― 自分の意見や考えを持つというのも、日常的に鍛えたい力ですね。


本多:その力を鍛えるとしたら、何か話があった時に、常に「そうですか?」って自分に問いかけてみるのも一つの手段ですよね。「NOと言う勇気」とも言い換えられるかもしれません。「私の意見とは違うな」と思わないと、「そうですか?」という言葉は出てこないですから。

平常心は「呼吸」と「目線」で取り戻す。「アドリブ力」は、内面と外見両方から鍛えるもの


―― 日頃から訓練をしておけば、慌てずにどんな時でも対応できるものですか?


本多:私たちも、とっさの時に慌ててしまうことはどうしてもあります。その時に平常心を取り戻すには、「呼吸」が大事ですね。私も慌てると早口になってしまうことを、新人の頃によく注意されていたんです。だから、普段から発声練習や腹式呼吸の練習をするようにしていました。そうすると練習通りに本番もできるようになるんですよね。普段やれていることが本番でもできるんです。逆に言うと、本番だけ120%出せることはないんです。「本番に強い」と言われている人は実際のところ、練習で本番の何倍もできているんだと思います。


―― 練習の時にできないことが、本番で急にできることはないですよね。


本多:そうなんですよ。落ち着いて話していると感じてもらうには、呼吸の他に「目線の使い方」も大きく影響しています。私は学生の頃から、「考える時に上を見ると落ち着きがなさそうに見えるからやめた方がいいよ」と言われていたんですよ。頭ではその言葉を理解していても、具体的にどういうことかは分かっていなかったんです。


―― 自分の目線がどうなっているかは、なかなか気付けないですよね。どうすれば目線を修正できるのでしょうか?


本多:これは、テレビのオンエアを見ることで鍛えられましたね。テレビは、画面に映る自分の姿を客観的に見ることができるんですよ。私も「ナルシストか」と思われるくらい、自分の放送を見ていました。放送を見返すと、目線が上に行ってしまっているのが分かるんです。「うわ、本当だ……」と落ち込みますけど(笑)。何回も見返すと、考えている時は上を絶対に見ないで少し伏し目がちにしたり、目線を下に向けたりすると冷静に見えるということが分かりました。ちょっとしたテクニックですけどね。


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―― 上を見るのと、下を見るのでは随分と印象が変わりますね。


本多:目線一つで印象は大きく変わりますね。身体も動かさない方が冷静に見えます。私はもう、上半身は固めてしまいますね。それだけでどっしりと自信があるように見えます。形から入っていくのは、自分を変える方法の一つです。これも自分をビデオに撮ったりして客観的に見るのが、一番効果的ですね。


―― 自分一人だと、なかなか気付くのも難しいですよね。


本多:そうなんです。私はアナウンサーの講師の仕事もしていますが、生徒に目線や身体の動きをアドバイスしても、あまりピンときていない方もいるんです。でも、実際にビデオに撮ってみると「こんなに首が動いているんですね」「こんなにやる気がなさそうに見えるんですか」と驚き、すぐに直すようになるんです。自分をビデオに撮って客観的に見ることで、急な対応時にも落ち着いて見える仕草は身に付けられますよ。


アドリブ力は、「ストックを増やし、それを引き出すセンスを内面から鍛える努力」と、「目線や立ち振る舞いなど、外見を鍛える努力」の二つから成り立っているのかもしれないですね。


取材・文:佐野創太

 

取材協力:本多真弓

 

東京都出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。新卒でシステムエンジニアとして従事し、その後、学生時代からの夢であったアナウンサーに転身。NHK福島放送局キャスター、秋田朝日放送アナウンサー、テレビ神奈川ニュースアナウンサーを担当する。現在はナレーションの仕事を中心に、テレビ朝日アスク講師としても活動する。1児のママとして育児と仕事を両立する一面も持つ。

Instagram:@mayumi_h_i
Twitter:@mayumihonda9
Blog:本多真弓オフィシャルブログ

 


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