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マッキンゼー出身・経営改革や人材育成に取り組む赤羽雄二さんが語る、「パワハラと言われない部下の指導法」

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「『パワハラ』と言われないように気をつけないと」。部下を持つビジネスパーソンであれば、誰しも肝に銘じていることだろう。しかし、上司は成果を上げるため、時には部下に厳しい指導をする必要もある。果たして、「厳しい指導」と「パワハラ」の境目は何なのだろうか。指導をしながらもパワハラと思われず、部下が成果を上げられるように育て、導いていく方法は果たしてあるのか。


今回は、マッキンゼー・アンド・カンパニー出身で、「日本発の世界的ベンチャー」を生み出し育てることを使命とするブレークスルーパートナーズ株式会社を創業し、企業の経営支援や人材育成の分野で活躍する赤羽雄二さんにお話を伺った。多くの企業の経営改革を手掛ける中で赤羽さんが見つけた、パワハラ上司と思われないための行動と部下のパフォーマンスを最大限に上げ、成果を出す指導法とは……?

パワハラの正体は「不信」にある。必要なのは、「アクティブリスニング」と「ポジティブフィードバック」


―― 上司と部下のパワハラ問題について、「指導」と「ハラスメント」の境目が難しいという意見もあります。一体、どうすればパワハラを防ぐことができるのでしょうか?


赤羽さん(以下、敬称略):まず、パワハラだと部下から思われないためには、信頼関係の構築が必要です。ビジネスの現場では上司も真剣ですから、指示出しや指導をする際に言葉が多少きつくなってしまうこともありますよね。でも、信頼関係があれば、部下に「その言い方はパワハラだ」と思われる可能性は少なくなります。


―― 信頼関係を築くためにすべき行動はありますか?


赤羽:「アクティブリスニング」と「ポジティブフィードバック」です。アクティブリスニングは、ただ単に部下の話に耳を傾けるのではなく、「質問をしながら聞くこと」です。上司は指導だと思って、ついつい自分から話をしてしまうんです。それだと部下は話しづらくなります。


―― ポジティブフィードバックのコツについてもお聞かせください。


赤羽:ポジティブフィードバックは、少しでも部下の良いところがあればそれを認めて、部下に「言葉にして伝える」というものです。ちょっとした良いことでも、褒めたり感謝したりします。部下が失敗したり直すべき点があったりした場合でも叱らず、「これはダメだったけど、こう改善すれば次回はうまくいくよ」という指導をします。明らかに部下がおかしいこと……例えば仕事をサボった時には、「それはダメだよ」と指摘はします。でも、「君は本当はもっとできると思っているし、自分の部下でありながら失敗をさせてしまった。大変申し訳ない」と伝えるべきなのです。部下は上司が罵倒する対象では決してありません。ポジティブフィードバックは、1日20回以上をお勧めしています。何も難しいことではありません。上司が本来の目的をよく考え、自分の間違ったエゴをどこまで捨てるかだけです。


―― 「叱る」という行為と「ポジティブフィードバック」は、どう違うのでしょうか?


赤羽:まず、「怒る」と「叱る」です。怒ることは感情的であって、叱るのは「冷静な指導だ」と言う人もいますが、これは詭弁です。部下の立場からすると、「怒られたから嫌だ」「叱られたから嬉しい」ということはないですよね。失敗に対して、普通は「申し訳ない、しまった」と思っているところに、言わずもがなのことを言われている気になるので、どちらも効果的な指導ではありません。本来は、先ほどのように「自分の部下でいる時に失敗体験をさせてしまって申し訳ない」と伝えるべきなのです。そんなことを言っている上司は1000人に1人もいませんけど、明らかにそれが筋ですよね。


―― アクティブリスニングとポジティブフィードバックをしてくれる上司の元についた部下は、能力を発揮できそうですね。


赤羽:そうですね。私はクライアントの経営改革支援でも、この2つを常に100%実施するよう強調し、促しています。普段から自分の話を聞いてくれる上司のことを部下は信頼するし、一緒に仕事をしたいと思ってくれます。パワハラの出発点は上司に対する「不信」なんですよね。信頼がある人間関係の中ではパワハラは発生しづらいと思います。

パワハラをしてしまう上司の実態は?


―― 「パワハラをする上司には絶対にならない」と思っていても、自分自身がそうなってしまう可能性はあるのでしょうか?


赤羽:パワハラをする上司は、自分に自信がないのだろうと思います。結果の出し方も部下の指導の仕方も、分かっていないことがほとんど。最初は丁寧に仕事を依頼していたかもしれません。ですが、部下からしたら理解しづらい指示で、上司からしたら指示をしているのに思うように動いてくれず、もどかしい……という状況が、多くの会社で発生してしまっています。さらには、「上司の方が部下よりも偉い」と考えている人が多いので、どうしても怒鳴ってしまう。こういった行動がパワハラにつながっていくのです。


―― 上司の指導力不足も、パワハラの原因の一つということですね。


赤羽:そうですね。また、その上司が悪いのではなく、前任の上司の指導が悪い可能性もあります。部下が「上司はろくでもないものだ」「上司は自分で仕事をせず、仕事を押し付けてくる存在」と思っている場合もありますね。基本的に、部下は上司に対してネガティブなイメージを持っているので、パワハラが起きやすい土壌が最初からあると理解していた方が問題の未然防止ができます。


―― パワハラの原因は、さまざまな要素が複雑に絡み合っているんですね。


赤羽:普段パワハラをしていない上司でも、成績のプレッシャーがかかってくると厳しくなりすぎてしまい、「指導の仕方がパワハラだ」と思われてしまうケースがあります。ここでも問題になるのは、信頼関係を作れているかどうかです。そのために求められているのが、最初に申し上げた「アクティブリスニング」と「ポジティブフィードバック」という結論になります。


―― 赤羽さんはどうやってその結論にたどり着いたのでしょうか?


赤羽:いろいろ考えました。「パワハラが横行しているのはなぜか」「家庭では良い人かもしれない。友達には良い人かもしれないのに、パワハラをしてしまうのはなぜか?」という理由を考えました。私は企業の経営改革にずっと取り組んでいますので、意識・行動改革プログラムの中でパワハラ上司に接することがあります。反対に、パワハラで痛めつけられた部下に接することもあります。上司と部下の関係を見ながら取り組むと、自然と見えてきます。

上司になった時のために、部下の頃から「メモに残す」


―― 赤羽さんのようにたくさんの会社の人を見極めることができない場合も、パワハラを未然に防いだり、改善したりといった行動はできるのでしょうか?


赤羽:できますよ。身近な事例を数十件見ていれば、何がパワハラになるのか気付けると思います。自分と上司の関係、同僚と上司の関係、自分と部下の関係、同僚と部下の関係、自分と友人の関係……というように人間関係を観察していくんです。そういった人間関係は、誰でも多数見ているはず。そうすると、自然と部下が何を求めているか、何を嫌がるのかはわかります。しかも、私たちは皆、部下だった時代を経験しています。その中で嫌な思いもしていたでしょう。でも、上司になった時になぜか部下の時の気持ちを忘れてしまって、ひどい上司になってしまうようです。


―― 誰もが最初は部下としてキャリアをスタートさせているのに、その頃の感覚を忘れてしまっていると……。


赤羽:「部下の頃の気持ちを忘れている」というのは残念ですよね。本来は忘れているはずがないんです。真剣に思い起こしてみれば、自分はどういう上司が嫌で、どういう上司の対応が嬉しかったか記憶に残っているはずです。まずは、良かった上司の対応をしてみればいいんです。


―― どうすれば、自分が部下だった頃の記憶を持ち続けられるのでしょうか?


赤羽:部下の頃からメモを取っておくというのは大事ですよね。『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』の中でも、「メモの重要性」を書きました。メモには嫌な気持ちも正直に、全てを書き出していくんです。感情の全てを書いておけば、何年か後に振り返ってもはっきりと思い出すことができるんです。そうすると、素晴らしかった上司の対応が分かってきますよね。私も、マッキンゼーに入った最初の頃からメモは取っていました。気になったこと、こうしようと思ったことを全部書きました。

ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング

ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング

「パワハラ対策」を超えて、成果を出すためには


赤羽:ビジネスにおいて、パワハラが起きないようにするだけでは、上司として十分な仕事をしているとは言い難いです。上司は、部下を成果が出る行動に導く必要があります。


そもそも、部下に仕事を指示する際、口頭で指示するのみだと効果的ではありません。1ページのタスクシートに、その仕事の「何が目的」で、「KPIは何」で、「どういうアプローチ」を取り、「いつまで」に「何をやるか」を書いてコミュニケーションをする。それを1人の部下に対して、3つや4つのタスクに分けて書くことによって、「言った」「言わない」という状況が発生しなくなります。


―― 指示の内容を、上司にとっても部下にとっても見える状態にするんですね。


赤羽:部下の立場に立ってみれば、この重要性がわかります。部下の方が上司よりも能力が高いことはあまりないので、言われたことの全てを理解できるわけでもなければ、適切にメモを取れるわけでもありません。部下がメモを取るとしても、上司は自分で書いて指示をすることが大切です。私のおすすめは、二週間の仕事であれば途中で10回くらい進捗を確認することです。2週間で10回ということは、ほとんど毎日一度は進捗確認をするという計算になります。「いちいち報告させるのは大変だ」と思うのではなくて、「今ここまで進んでいますよ」と報告を受け、必要な問題解決をすることで、逆に生産性は上がります。

人間的にも、ビジネスパーソンとしても尊敬される上司になる方法論


―― 上司が自身の振る舞い方として、心がけるべきことは他にありますか?


赤羽:上司は常に「成長意欲を強く持ち続けること」「成長し続けること」が必要です。成長意欲が強ければ、何歳になろうと何の経験をしていようと、自分を向上させようと思えます。「目線の高さ」という言い方もできますね。成長し続けていれば、部下にコーチングしても説得力があります。


―― 成長意欲を持ち続けるためには、何をすべきなのでしょうか?


赤羽:「PDCAを回し続けること」です。昨日のやり方がこのままでいいのか、去年のやり方を続けていいのか、と常に自問自答します。私は『速さは全てを解決する―『ゼロ秒思考』の仕事術』という本の中で、一見関係がなさそうに見える「スピードアップ」と「モチベーションアップ」に、実は関係性があることを説明しました。ひたすらスピードを上げる、スピードアップすることの結果として、モチベーションが上がっていくんです。簡単に言うと、仕事のスピードを上げれば上げるほど余裕もできるし、余裕ができれば成果も出ますので、もっと仕事が楽しくなります。

速さは全てを解決する---『ゼロ秒思考』の仕事術

速さは全てを解決する---『ゼロ秒思考』の仕事術


―― 行動しているからこそ、「成長したい」という意欲が湧いてくるということなんですね。


赤羽:そうです。成長している上司自体が、部下にとってみたら大変感動的な存在です。珍しいですしね。やがて、部下がそういった成長意欲の高い上司の行動を真似するようになります。


―― 部下が上司に求める条件は、近年変わってきているのでしょうか?


赤羽:変わっていないと思いますよ。なぜ変わっていると思いましたか?


―― 働き方改革や、共働き家庭が増えたことによる仕事と家事・育児の両立など、仕事に対する考え方も変わっているのではと思ったからです。


赤羽:表面的な変化はあるかもしれないですが、今も昔も上司に求められているものは、「人間として尊敬できるか」「仕事ができるか」の2つに集約されます。それは普遍的で変わりようがないのです。確かに、高度成長期は仕事をひたすらすることが良しとされていて、家庭を顧みず「ワーカホリックな状態にあることがかっこいい」という価値観が若干あったようにも見えますが、その頃も尊敬される上司は、人間的にもビジネスパーソンとしても魅力的な人物でした。「最近の新入社員は甘い」とか「近頃の若者はダメだ」というのは、何千年も前から言われていることですよね。古代のエジプトの記録にも、同じようなことが書かれているわけです。ただ言っているだけなんですよ。若い世代の人はどの時代にも常に「新人類」と言われていて、その人たちが時を経て、部長なり取締役をやっているわけですから。今も昔も上司は成長意欲を高く保ち続け、部下から見て人間としても尊敬でき、仕事もこなせる存在である必要があるんです。


赤羽さんがアドバイザーとして携わるBINARYSTAR株式会社が運営するシェアオフィス


取材・文:佐野創太

 

取材協力:赤羽雄二

 

ブレークスルーパートナーズ株式会社
マネージングディレクター

東京大学工学部卒業。小松製作所に入社し、ダンプトラックの設計・開発に携わる。1983年よりスタンフォード大学大学院に留学し、機械工学修士、修士上級過程を修了。1986年にマッキンゼーに入社。1990年には、マッキンゼーソウルオフィスをゼロから立ち上げる。2002年、ブレークスルーパートナーズ株式会社を共同創業。ベンチャー経営支援、中堅・大企業の経営改革、経営幹部育成、新事業創出に取り組んでいる。 著書に『ゼロ秒思考』『速さは全てを解決する』『ゼロ秒思考[行動編] 即断即決、即実行のためのトレーニング』『マンガでわかる!マッキンゼー式ロジカルシンキング』『世界基準の上司』『マンガでわかる! マッキンゼー式リーダー論』『変化できる人』『最少の時間で最大の成果を上げる 最速のリーダー』などがある。

Twitter:@YujiAkaba
LINE@:赤羽雄二【公式】
blog:ブレークスルーパートナーズ ブログ
サロン:赤羽雄二のプレミアムサロン

■著書『世界基準の上司』

世界基準の上司

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