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「自分の仕事が好き」。心からそう言いきれる人は、どれくらいいるのだろうか? 単に賃金を得るための手段ではなく、人生を賭するライフワークとして仕事に打ち込む。結果、一般的な幸せやレールから外れることになっても、おかまいなしに没頭し続ける。そんな、少しはみだした「クレイジーワーカー」の仕事、人生に迫る連載企画。今回お話を伺ったのは、現代美術作家の河地貢士さんだ。
スナック菓子のうまい棒に仏像を彫る「うまい仏」や、漫画雑誌を土の代わりに植物を栽培する「まんが農業」……。大胆な組み合わせとユーモラスな表現が河地さんの持ち味だ。現代アートというと難解なイメージもあるが、その作品は誰もがとっつきやすく、笑いを誘うものが多い。
本格的にアート活動を開始してから約10年。アーティストとして評価されたい、有名になりたいという欲求は、いつしかほとんどなくなった。今はただただ「面白いことがしたい」という河地さんの、創作にかける思いを伺った。
まずは、河地さんの作品たちをご覧いただきたい。
江戸時代の僧侶・円空が彫っていた「円空仏」をヒントに、うまい棒を彫刻した作品。写真は「百七体旨仏像(充分)」。煩悩の数まで1体足りない107体のうまい仏を積み上げたもので、最後の1体を完成させようとするも食欲に負けて食べてしまう、という物語が込められている。
ポテトチップス1袋の中で、最も大きいものを記録した作品。魚拓ならぬ「ポテ拓」。成型のポテトチップスではなく、じゃがいもをそのままカットしたものを使うのがこだわり。
漫画雑誌で野菜を栽培。水を含ませた苗床(漫画)の好きなページに、別の場所で発芽させた苗を挟んで育てている。漫画にはカイワレ大根が最も根付きやすいという。
テーブルの上で人肌(36℃)に温められたお金を触る展示。「人肌のイメージからほど遠い、お金から体温を感じる経験をしてもらいたくて」と河地さん。
── 河地さんの作品は奇抜なようで、クスッと笑える。そして、どこか親近感のあるものが多く感じました。創作において大事にしていること、軸にしているものはありますか?
河地:作品のコアな部分は「空洞」にしておきたいというか、何にでも置き換わるように未知な部分を残しておきたいというのはありますかね。それを何らかの物語性を加えて、ユーモアでコーティングする、そんな構造の作品が多いかもしれません。
── ユーモアを大事にされているのはなぜですか?
河地:やはりユーモアは見る人の興味を引いて、心をほぐします。また、そこから気持ちよく作品の世界へ入ってきてもらうためには物語性が必要だと思っています。ただ、作品をこう解釈してほしいとかはなくて、自由に見てほしい。現代美術には難解というイメージがあるかもしれませんが、僕の場合は見る人が解きたくなるような「面白い問い」を提示したいという感覚ですかね。
── アーティストとして活動される前は、会社員として働かれていたそうですね。
河地:名古屋の芸術大学を卒業後、東京のデザイン事務所に就職しました。3カ月で辞めましたがその後、別のデザイン事務所で3年ほどグラフィックデザイナーとして働きました。広告や書籍、CDなどのアートディレクション、デザイン、イラストなどの仕事ですね。
それはそれで楽しかったのですが、忙し過ぎて自分の作品が全く作れなかった。そこで、現代美術作家としての活動に注力するためフリーランスになりました。もともと高校生の頃からアーティストになりたいと思っていましたからね。
河地:それが2001年ごろ、28歳くらいの時です。しばらくしてデザインの受注仕事で手がいっぱいになり、またも創作活動に充てる時間がなくなりました。食べていくことが最優先だったので。
── そこから再びアート活動に軸足を移すようになったのは、どんなきっかけがあったのでしょうか?
河地:2008年に祖父が亡くなり、初めて身近な人の死をリアルに感じました。当たり前ですが、「人って死ぬんだ」と。同時に、いつか死んでしまうなら本当にやりたいことをやろうと思った。僕にとって本当にやりたいことは、アート作品を作ることでした。
その頃に作ったのが「うまい仏」です。祖父の死の際に触れた仏教的な行事は、日常の中に突如として非日常が入り込んでくるような感覚でした。これを作品として落とし込めないかと思ったんです。
── それで「うまい仏」……ですか。
河地:はい。「スナック菓子を食べる」というのは、極めて日常的な行為ですよね。そこで、スナック菓子に仏像(円空仏)を彫ることで、当時の体験を再現できるのではないかと。また、うまい棒は中身が空洞ですよね。これは仏教の教え「中虚*1」にも通じるところがあるのではないかと考えています。ただ、これはあくまでも僕の解釈であって、見る人がそれぞれに何かを感じてくれたらいいと思います。
── 現代美術というと職業として成立させるのが難しい、平たくいえば「食べていくのが難しい」イメージがあるのですが……。
河地:難しいですね。現代美術だけで食べていける人なんて、ほとんどいません。
── とはいえ作品を作り続けていくには、ある程度は仕事として収入を得ていく必要があると思います。河地さんはこの先もアーティスト活動を続けるために、何か取り組まれていることはありますか?
河地:一つは、アートとデザインの中間のプロダクトを作っていこうと考えています。例えば、「まんが農業」の栽培キットのようなものを売るとかですかね。あとは絵本を作ろうと思っていたり、いろいろと試行錯誤しているところではあります。
── 例えば、今なら個展以外にYouTubeなどで作品を発表する方法もありますよね。河地さんの作品はインターネットでバズりそうなものが多いと思うのですが、そうしたアプローチを考えたことはありますか?
河地:あまり興味がないですね。実は以前、アメリカのYouTuber事務所に誘われて2年くらい所属したことがあったんですよ。でも、1本も動画を作らなかった(笑)。自ら「面白いでしょ!」みたいなアピールをすることに抵抗があるんですよね。テレビやインターネットで誰かが面白おかしく取り上げてくれるのは全然いいというか、むしろありがたいんですけど……。そこは難しいところです。
── それこそ、「うまい仏」が話題になった2010年ごろはCNNなど海外のメディアでも取り上げられましたよね。そうやって脚光を浴びる、つまり「売れる」ということもアーティストとして生きていく道の一つではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
河地:その頃に自ら発信して積極的に仕掛けていれば、それこそ「売れた」のかもしれませんね。でも、何か嫌なんです。そこにもう一歩踏み出したくないというか……。僕はずっと「ニュートラル(な立場)」でいたいのかもしれません。
例えとして正しいかどうか分かりませんが、僕は足の速い子どもだったんですよ。でも、母が言うには運動会の徒競走で途中まで1位なのに、ゴール直前でスピードを緩めてしまうことがあったそうです。自分でゴールテープを切って、この競争を終わらせたくなかったんでしょうね。今でもそういうところはあるんじゃないかと思います。
── では、美術評論家の声などは気になりますか? 2010年ごろのインタビュー記事では「現代美術のシーンからも知られたい」といった思いも語られていました。
河地:そんなこと言ってましたか? ……たぶん、うまい仏で注目された頃に現代美術界隈からの批評が全くなかった、要するにハマらなかった。そのことに多少の落胆があったんでしょうね。テレビのバラエティ番組で紹介されたりしていたから軽い感じに見られたのかな? とか、当時は考えていたと思います。
でも、今となっては評価をされようがされまいが、どうでもいい。それより目立たないところでじわじわと作品を仕掛けていって、気付かれないうちに世間を侵食していきたいですね。
── 河地さんご自身のお考えや物の見方も、ここ数年で変化していると。
河地:少し広い視点で考えられるようになったんだと思います。現代美術ってすごく閉じた世界なんですけど、僕自身は一部のアート好きだけでなく世間全般に作品を見てもらいたい。そして、見た人の意識や考え方が、少しでも変わるきっかけになればいいなと。それが一番の目的ですし、僕が作品を作り続けるための希望でもあります。
── 斬新なアイデアの種となるインスピレーションを、どのように養っていますか?
河地:何も特別なことはしていません。ちょっと引っかかったことをiPhoneにメモするくらいですかね。
── よろしければ、そのメモを拝見させていただけますか?
河地:いろいろあるんですけど、例えば「江戸時代に、スズメを放して功徳を得る商売があった」とか書いてますね。路上でスズメが売られていて、お金を払うとカゴから放してやることができる。つまり、「捕えられたスズメを放す」という善行を積むことに対して代金をとる商売なんです。スズメは、その辺で捕まえてきたやつらしいんですけどね。面白くないですか? これは何かの作品に使えるなと思い、メモしました。
他には……「しずかちゃんのバイオリン」って書いてあるな。『ドラえもん』のしずかちゃんって、バイオリンがものすごく下手なんですよね。ジャイアンの歌ほど知られてないけど、同じくらいの破壊力がある。こういうのはユーモアにつながったりするので書き溜めるようにしています。
── メモから実際に作品につながったものはありますか?
河地:アニメ『サザエさん』で、磯野家の玄関に竹の絵が飾ってあるのをご存じですか? アニメーターさんによって微妙に絵柄が変わって、幹までしっかり描かれている時もあれば葉っぱだけの時もある。それに気付いた時に、面白いなと。それで、アニメの中で飾られているこうした絵を、自分で絵画作品にしてみました。サザエさんだけじゃなく、『機動戦士ガンダム』のアムロ宅にあるヘレン・フランケンサーラー*2風絵画、『鉄腕アトム』の寝室にあるクリフォード・スティル*3風絵画なども制作して個展をやったんです。
── 面白い! やっぱり発想力というか、そもそもの着眼点が人とは違う気がします。どうすれば河地さんのように、豊かな視点を持つことができるのでしょうか?
河地:何でも先入観を持たずに見たり、聞いたりするよう心がけてますかね。そうやって取り入れた情報を「現象」と「意味」などに分解して考えたりします。例えば「うまい棒」だと、「円筒状の物体」と「食べるもの」といった具合です。
あと、みなさんコスパとかお金のことばっかり考え過ぎじゃないですかね? 現代社会にこびりついているこの概念をちょっと引っぺがすだけで、自由に面白い発想ができると思います。
── お話を伺っていると、河地さんの作品作りはとても純粋な動機から来ていると感じます。有名になりたい、お金持ちになりたいではなく、ただ作りたいから作ると。
河地:そうですね。将来に大きな目標もないし、ただ面白いことがしたいだけですね。もう一度、就職してみるのもいいと思っています。以前、郵便局員になろうと考えたことがあるんですよ。完全に妄想ですが、田舎の郵便屋さんで、配達中なのに農作業を手伝わされたり、縁側でお茶を頂いたり、お土産に野菜もらうみたいな(笑)。あとは、「おまわりさん」をやりながら現代美術やるのも楽しそうですね。誰かいい就職先があったら教えてください。通勤は苦手だけど頑張ります。
── 河地さんは自分の人生そのものを面白がっているというか……それすらもアートの題材にしてしまいそうな勢いですね。
河地:人生に支障は出ますけどね。例えば今住んでいるこの家も、変な間取りに惹かれて契約しました。2LDKでキッチンも立派で庭も広くて言うことないんですけど、なぜかユニットバスなんですよ。どうでもいい玄関がやたら広いのに、大事な風呂とトイレが窮屈っていういびつな間取り。空間を全く効率的に使えていないところにグッときてしまって。
住み心地よりも、面白さを優先してしまう。それは家に限らず、恋愛とか何でもそうですね。合理的じゃない、未知なものに憧れを感じる。そこが僕の根っこというか、全ての衝動になっています。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 編集:はてな編集部 撮影:小野奈那子
取材協力:河地貢士
美術作家。岐阜県多治見市生まれ。名古屋芸術大学美術学部デザイン科造形実験コース卒業。インスタレーション、絵画、彫刻、写真、映像、ワークショップ等の様々な手法で、身近な物事から別の物語を紡ぎ出し、現代社会に対する寓意を込めた制作を実践。現在は東京を拠点に国内外で活動。個展、グループ展ほか、企業、地方自治体とのコラボレーションも行なう。代表作のうまい棒に仏像を彫る「うまい仏」や漫画雑誌を苗床に野菜を栽培する「まんが農業」などは世界中のメディアで広く紹介される。
河地貢士ホームページ:http://www.koshikawachi.com/
【展覧会情報】
「アート・ファーミング (Art FARMing)」
愛知県名古屋市の中心部に位置する、長者町(中区錦2丁目)で始まる、新しいアート農業プロジェクト。
会期:2019年7月27日(金)〜 10月14日(月)
メイン会場:名古屋市中区錦2丁目11-24 綿覚ビル
詳細はWEBサイトをご覧ください。
https://artfarming.jp/
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