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「Gからはじまるブランドと全部コラボしよう」 東宝「ゴジラ戦略会議」の知られざる試行錯誤

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「誰もが知るヒット商品やサービス。それを仕掛ける、あるいは舞台裏を支える人々の仕事にフォーカスした連載企画。今回取り上げるのは、1954年に第1作が公開されて以降、時代を超えて愛される怪獣映画「ゴジラ」だ。

近年も、2014年公開のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』、2016年の『シン・ゴジラ』、2017年・2018年のアニメ映画三部作、2019年の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』と、毎年のように新作が登場し、もれなくヒットを飛ばしている。

とりわけ、『シン・ゴジラ』以降はその盛り上がりに火がつき、キラーコンテンツ化。こうしたブームを支えているのが、東宝の精鋭社員で組織されたゴジラ戦略会議、通称「ゴジコン」(The Godzilla Strategic Conference)である。2014年の立ち上げ以来、看板コンテンツの伝統を守りつつも新規ファンを開拓し続けている。

今回は、そんなゴジコンの中でも特にゴジラ愛の深い2人、2000年代のゴジラ映画で助監督を務めた清水俊文さん、東宝の“二代目ゴジラはかせ”こと海野航平さんにインタビュー。ゴジラへの思いやこだわり、さらには大好きなものを仕事にする喜びを語っていただいた。

20代の若手が「ゴジコン」に入るには……


── まず、海野さん、清水さんのご経歴、ゴジラとの関わり方を教えてください。


“二代目ゴジラはかせ”こと海野航平さん
“二代目ゴジラはかせ”こと海野航平さん


海野:東宝への入社は2012年です。最初の2年間は経理でしたが、2014年にテレビ局などに映画の放送権を販売する部署へ異動し、そこからゴジラの仕事に携わるようになりました。ゴジコンへは2016年4月から所属しています。『シン・ゴジラ』の少し前からゴジラにどっぷり関わりはじめた感じですね。


清水:私は1993年に入社しました。子どもの頃からゴジラが大好きで、映画の制作スタッフとして現場で働きたかったんです。ところが、最初は人事部でしたね。当時は「現場に行けないなら会社を辞める」なんて駄々をこねつつも真面目に働き、入社4年目に念願かなって撮影所に行くことができました。


ゴジラ映画で助監督を務めた経歴もお持ちの清水俊文さん
ゴジラ映画で助監督を務めた経歴もお持ちの清水俊文さん


以降は、2004年の『ゴジラ FINAL WARS』まで、ずっとゴジラシリーズの助監督をやらせてもらいました。大好きなゴジラのスーツを役者に着せて、チャックを閉めていましたよ。今は東宝のグループ会社で映画の仕上げ作業を担当する「東京現像所」に異動し、古いゴジラ映画などの4Kデジタルリマスター版を制作しています。ゴジコンへの参加は2018年の6月からですね。


── 清水さんは、20代の頃から20年以上にわたって、大好きなゴジラの仕事に関わっていらっしゃるんですね。


清水:そうですね。撮影現場を離れた今でも、ゴジラの新作映画には何かしらの形で関わっています。レジェンダリー・ゴジラ(2014年公開のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』)の時は、NHKのゴジラドキュメンタリーのディレクターをやって、ギャレス・エドワーズ監督や芹沢猪四郎博士役を演じた渡辺謙さんにインタビューしました。2016年の『シン・ゴジラ』では、合成作業をやらせてもらいましたね。毎回、何とか食い込んでいます(笑)。


── 情熱がすごい。清水さんは1作目のゴジラや『キングコング対ゴジラ』のデジタルリマスター版も手がけられたそうですが、そのオリジナルフィルムを自ら発掘されたとお聞きしました。


清水:ゴジラの1作目って、ネガが何種類もあるんですよ。可燃性のフィルムを不燃性のものに置き換える時にコピーを重ね、そのうちの一つをテレビ放送などに使っていたんです。ただ、私がここへ来た時に他のネガも見てみると、それよりも画質の良いオリジナルに近いものがあることが分かった。だったら、なるべくいい映像で出そうと発掘・研究するようになりました。


『キングコング対ゴジラ』(1962年公開)のデジタルリマスター版を作る時も、オリジナルネガからカットされた部分を何とか探し当てて「完全版」を作ったんです。仕事というより、もはやマニアの探究の域ですけどね。


── 海野さんは入社後しばらく経理部門にいらっしゃったとのことですが、やはりゴジラの仕事をやりたかったんでしょうか?


海野:そうですね、私も入社前からゴジラが大好きだったのですが、2012年の入社当初は仕事として関われるとは思っていませんでした。というのも、ゴジラの新作映画は2004年から10年間作られておらず、会社はもうゴジラを諦めているんじゃないかと感じていたからです。


しかし、入社後しばらくしてハリウッド版の話が持ち上がり、自分も経理として契約周りの情報をそれとなく知る機会がありました。その頃から、本当に復活するのかな? という期待感とともに、もっと深くゴジラの仕事をやりたいと思うようになっていきましたね。


── ゴジコンが発足した時も、入りたいと直訴したとか。


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海野:2014年にゴジコンができた時から、ずっと入りたいと思っていました。メンバーだった上司に直訴したら、何か理由がないと難しいと。当時のゴジコンには、会社の中でも部長クラスなど各部署のトップが集まっていて、20代が入る余地がなかったんですね。


そこで、まず「実績」を作ろうと考えました。当時はVRがはやりはじめた頃だったので、ソニーの方と一緒に『シン・ゴジラ』のCG映像を流用したVRコンテンツを作ったんです。映画とPlayStation VRのプロモーションを兼ねた、2分くらいのコンテンツですね。


── その実績が認められ、ゴジコン入りがかなったと。


海野:そうです。同時に「ゴジラに詳しい人」として、会社からイベントなどへ派遣されるようにもなりました。2016年の紅白歌合戦で『シン・ゴジラ』コラボをやった時には、大杉漣さん演じる首相の補佐官役として出演もしたんですよ。


── 最近は「二代目ゴジラはかせ」の肩書でメディアに出演されていますよね。


海野:2017年に『シン・ゴジラ』を地上波初放送する際に、テレビ朝日さんに事前番組をたくさん組んでいただいたんです。その中で、ゴジラファンの佐野史郎さん、映画評論家の有村昆さんと私が対談することになり、何か肩書があった方がいいだろうということで「二代目ゴジラはかせ」を襲名しました。東宝には30年来の「初代ゴジラはかせ」がいて、その後を継がせていただいた形ですね。今は二代目として、YouTubeの「Godzilla Channel」でも動画を配信しています。


他にも、ゴジラ検定(2019年3月に第1回実施)の問題を清水と作りました。普通なら最初から特撮ライターさんを雇うと思うのですが、完全手弁当で。年末年始に、最終日は5時間かけて最終調整しました。途中で二人ともインフルエンザにもかかって大変でした……(笑)。


あとは、AmazonプライムやHuluに配信する過去のゴジラ作品をセレクトしています。入社当初は夢のまた夢だと思っていたゴジラの仕事に、気付けば深く関われて幸せです。

ゴジコンは、「巨災対」のようなチーム


── 清水さん、海野さんが所属する「ゴジコン」という組織は、どんな経緯で発足したのでしょうか?


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清水:先ほど言った通り、ゴジラは2004年から10年も眠り続けていました。しかし、ゴジラは偉大なコンテンツであり、もっと広げていかなければいけない。そう考え、会社としてゴジラを盛り上げていくために立ち上げたのがはじまりですね。


海野:ただ、最初はかなり手探りで、当時の議事録には「ゴジラの頭文字である『G』からはじまるブランド一つひとつに呼びかけコラボを仕掛ける」といった、突拍子もないアイデアもありました。いかに広めればいいか、頭を悩ませていたようです。


ですから、初期のゴジコンでは現状の“交通整理”に時間をかけたようです。そして、会議発足から2年後に『シン・ゴジラ』がヒットし、機運が最高潮になったところでメンバーを刷新しています。私と清水のような元々のゴジラファンだけでなく、あまりゴジラに詳しくない人、若手、ベテラン、小さな子どものいるお母さんにも入ってもらいました。


── ゴジラに詳しくなくてもいいんですね。


清水:私たち元々のゴジラファンとは違う属性を持っている、他の分野に精通しているメンバーからは思いもよらない発想が出てきます。それこそ、『シン・ゴジラ』の巨災対*1みたいなチームです。


東宝はこれまで部署横断の組織はあまりありませんでした。しかし、自分の部署では実現できないけれど、他の部署でなら実現できる人、良いアイデアを持った人はたくさんいます。ゴジコンでは年齢や立場に関係なくアイデアを提案できるので、会議はいつも盛り上がりますね。


── では、ゴジコンでは具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?


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海野:ゴジラにおける最大のイベントは映画の公開です。2016年以降は『シン・ゴジラ』、アニメの劇場版、ハリウッド版と新作が毎年公開されていますが、その大きな山の隙間を埋め、盛り上がりを持続させるための施策を仕掛けるのがゴジコンの主な役割ですね。


とはいえ、会議の中で話題には上がっても、実現していない企画もたくさんあります(笑)。ファン目線で“手綱を握る”のも私たちの役割です。


人に仕事を聞かれたら、「ゴジラのマネージャー」という言い方をしていますね。

CGになっても「ゴジラらしさ」が失われないワケ


── 2019年11月でゴジラは生誕65周年を迎えます。ゴジラの造形は作品ごとに異なりますし、映像技術も進化しています。その中で、当初から変わらない「作品の軸」のようなものはありますか?


清水:2014年のハリウッド版以降、ゴジラはCGで描かれるようになりました。しかし、私を含め昔ながらのゴジラファンには「ゴジラは、スーツに入った役者が演技をするもの」という固定観念を持つ人も少なくありません。ですから、いかにCGでも、まるで人間離れした派手な動きになってしまうと拒絶反応が出ると思うんです。


その点、今のゴジラではCGであっても、スーツを着た人間の動きをしっかり再現している。技術は進化しても、昔のファンをがっかりさせないよう伝統的なゴジラの動きを受け継いでいるんです。だから、私は最近のゴジラも大好きです。


── 清水さんは自身が初期作品のデジタルリマスター版を手掛ける際にも、当時の特撮に使用されていたピアノ線を、あえて消さなかったそうですね。


清水:今の技術でピアノ線を消すことは、たやすいのですが、それをやってしまうと糸で吊ってゴジラを動かしていた当時の技術を否定することになるんじゃないかと思ったんです。先人たちが作ったものはそのまま保存すべきで、私たちの手で変えてはいけない。たとえピアノ線1本でも、消すとゴジラの歴史が変わってしまうのではないかと。


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海野:私も清水に同感です。技術というのはあくまで手段であり、目的ではないと思います。ですから、スーツかCGかは重要ではなく、ゴジラというキャラクターの軸や伝えたい精神性さえ守っていれば、表現方法は何でもいい。そういう意味では、ゴジラという作品の魅力は昔も今も不変だし、今後もそうであってほしいと思います。


一番怖いのは「ゴジラはお金になるから、とりあえず映画を作っておこう」と、ビジネス的な要素だけが先行してしまうこと。そうではなく、ゴジラでこういう映像を見せたい、こういう展開がしたいという、作り手としての信念を持ち続けることが大事なのではないでしょうか。


── 清水さんは古いゴジラをご自身で「保管」されていると聞いたのですが?


清水:そうですね(笑)。『ゴジラ FINAL WARS』以降、東宝はゴジラにビジネス的な意味を見出さなくなっていたのですが、ある日撮影所で、数体のゴジラに「廃棄」というシールが貼られているのを見つけました。撮影所の人に「こんな大事なもの捨てちゃダメです!」と言ったら「お前が持っておけ」ということになりまして……。家には置けないので、「とある場所」に置いています。


ちなみに、1作目の絵コンテも私が保管しているのですが、来日した『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』のマイケル・ドハティ監督に「これは聖書だよ、博物館を作って保管しておいた方がいい」と言われました。

経理の仕事で培った"人脈”


── 2020年には『ゴジラVSキングコング』の公開も控え、ゴジラ熱はさらに高まっていきそうです。今後、ゴジコンとしてはどんな取り組みを考えていますか?


海野:ゴジコン発足当初に比べ、ゴジラの認知は広がってきています。今後は、そこから「興味を持ってもらう」ところまで持っていきたいですね。また、2020年の東京五輪にどうゴジラを絡めていくかということも、個人的には大きなテーマです。


そして、未来に向けて、子どもたちにゴジラを好きになってもらいたい。昨年は「ちびゴジラ」というキャラクターを作り、絵本を出版したり、イベントに登場させたりしました。


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清水:イベントにちびゴジラの着ぐるみが登場すると、子どもたちが抱きつきにくるんですよ。ゴジラは10年の空白がある分、子ども世代にリーチできていなかったのですが、最近は確実に裾野が広がっているなと感じます。


海野:あとは社内の人たちに向けても、ゴジラの魅力を改めて発信していきたいですね。自社コンテンツって、どうしても一歩引いて見てしまうところがあると思うんです。ですから「東宝のゴジラってすごいんだ」と社員みんなが誇らしく感じられるように、内部からどんどん盛り上げていきたい。


── 社内のゴジラ熱を高めるために、何か仕掛けていることはありますか?


海野:例えば去年、社内の全会議室にゴジラに出てくる怪獣の名前をつけたんですよ。「ゴジラ会議室」とか「モスラ会議室」とか。室内にはそれそれの怪獣のポスターやフィギュアも飾っています。そうすると、社外のお客様をお迎えした時に、とても喜んでくださるんですよね。その様子を見て、社員も改めてゴジラというコンテンツの力を再確認できる。実際、この半年くらいで社内のいろんな部署からゴジラの話題を聞くようになったと感じます。


ゴジラ会議室
ゴジラ会議室


不動産など、映画に関係のない部署からも「うちのビルでゴジラとコラボできないか」といった話を持ちかけられることがあります。


私が経理部出身だから、なのかもしれません。経理という仕事は地味なように見えて、他部署と会話する機会が大変多いのです。そういうつながりは今後も大切にしていきたいですね。


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東宝社員の保険証にはゴジラがあしらわれている(プライバシー保護のため画像を一部加工しています)


── 今後、清水さんや海野さんのような、ゴジラへの情熱を持った社員の方がどんどん増えていきそうですね。


海野:そうですね。そうやって後輩がゴジラは面白い、かっこいいと思ってくれてこそ、「新作を作り続けていこう!」という意志が受け継がれていくんじゃないでしょうか。


この盛り上がりを絶やさず、次へ次へとつなげていかないといけない。今、幸せなタイミングでゴジラに関わらせてもらっている私たちだからこそ、それをやる使命があると考えています。


取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 編集:はてな編集部 撮影:小野奈那子


取材協力:東宝株式会社(清水俊文さん、海野航平さん)

清水俊文:1993年東宝入社。現在はグループ会社の東京現像所に勤務。『ゴジラ2000MILLENIUM』(1999)、『ゴジラ×メカギラス G消滅作戦』(2000)などで助監督を務める。ゴジコンには2018年に参加。

海野航平:2012年東宝入社。経理財務部、映画営業部を経て、2018年からデジタル・コンテンツ営業室に所属。ゴジコンには2016年に参加。

映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』公開中
公式サイト:https://godzilla-movie.jp/

*1:劇中に登場するゴジラ凍結のためのプロジェクトチーム。正式名称は「巨大不明生物特設災害対策本部」。