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職場で気疲れしてしまうあなたは「繊細さん」かも? HSP専門カウンセラーの武田友紀さんに聴く「上司と部下が適切な距離を取る方法」

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今、「繊細な人」に注目が集まっている。2019年夏の金曜ドラマ『凪のお暇』では、繊細な主人公である凪(黒木華)の生き方が、日ごろ生きづらさを抱えている視聴者に勇気を与えた。一昔前なら「鈍感力が大切だ」「スルースキルを身に付けろ」と言われることも多かったようだが、最近は相手の繊細さを認め、生かす考え方も見受けられるようになっている。


その一方で、独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の調査に「病気を直接の原因とする退職率は、メンタル不調が最も高いと考えられる」という結果がある。私たちが働く「職場」というところは、メンタルの不調を抱えやすい環境であるということなのだろう。


そこで今回は、これまで600人以上、イベントを含めると1000人を超える相談に乗ってきたカウンセラーの武田友紀さんに話を聴いた。武田さんは「とても敏感な人」のことを親しみを込めて「繊細さん」と呼び、繊細さを生かして働く方法を教えている。自らも「繊細さん」の1人である武田さんだから分かる「繊細さんならではの職場の人間関係の悩み」と、悩みの根本的な解決方法について解説してもらった。

5人に1人は「繊細さん」 苦手な上司との付き合いにまず必要な考え方は「距離を取ること」


――武田さんが敏感な人に対して呼ぶ「繊細さん」という呼び名について、まず説明をお願いします。


武田さん(以下、敬称略)「繊細さん」とは、生まれつき繊細で、まわりの人が気づかない小さなことにも気づく人たちのことです。1996年にアメリカの心理学者のエレイン・アーロン博士が「生まれつき繊細な人HSP(Highly Sensitive Person)」たちがいると発表しました。HSPは日本では「敏感すぎる人」「とても敏感な人」と訳されていますが、私はこの繊細な気質をいいものとしてとらえ、「繊細さん」と呼んでいます。最近は「生まれつき繊細な人たちがいる」という認識が広まってきていますね。アーロン博士の調査によると、繊細さんは5人に1人いるそうです。


―― 「繊細さん」は想像以上に多いんですね。


武田:そうですね。私も「繊細さん」の1人です。「繊細さん」には、共通して、次の4つの性質があると言われています。


1つ目の特徴は、「深く処理する(深く考える)」という性質です。「繊細さん」は、他の人が考えないようなことも、一瞬でぱっと考えます。表面的なことよりも本質的なことを考える傾向にあります。


2つ目は、「過剰に刺激を受けやすい」です。大きな音や光、暑さや寒さ、痛みなどに敏感だったり、楽しいイベントでも刺激を受けすぎて疲れたりします。まわりの環境から刺激を受けやすいだけでなく、自分の気持ちや体調もよく感じ取っています。


3つ目が「感情反応が強く、共感力が強い」という性質で、「あの人は今怒っている」など、周りの人の意思や気持ちを感じ取りやすいです。


4つ目は「ささいな刺激を察知する」というものです。相手の声のトーンや視線の変化をに気づいたりと、他の人が気づかない小さなことにもよく気づきます。


―― これらの性質を持つ「繊細さん」は増えているのでしょうか?


武田:「繊細さん」の数自体が増えているというよりも、自分が繊細さんだと気づく人が増えた、ということだと思います。これまで繊細ゆえにしんどさを感じていても、「細かいことを気にする自分が悪いんだ」「もっとタフでいなきゃ」と、自分の繊細さをよくないものだと思っていた人が多いんですよね。


でも、「繊細さん」の概念が広がってきて、「こんなにいろいろ気づくのは、自分のせいじゃないんだ」「繊細な人が他にもいるんだ。自分だけじゃないんだ」と気づけるようになっているのが今の状況だと考えています。


―― 武田さんには、どんな内容の相談が多いのでしょうか?


武田:仕事の悩みをいただくことが多いですね。プライベートでは自分でつきあう相手を選ぶことができますが、仕事だとどうしても色々な人と関わらなきゃいけないですから。上司の方とうまくいかなくて悩んでいるケースも多いです。


―― 上司は特に選べない存在ですよね。


武田:そうなんです。「繊細さん」は共感力が高いので、上司との付き合い方がビジネスライクではないケースが多いんです。苦手な上司や高圧的な上司に対しても「自分の仕事を応援してもらいたい、分かってもらいたい」と、自分から何度も近づいてしまう。そして近づくたびに傷ついて、「もうだめだ」と疲れてしまう…というケースがあります。


―― 上司とはどんな関係を築けば良いのでしょうか?


武田:まずは上司に期待していることを整理するといいいですよ。上司にしてほしいことは、「分かり合うこと」よりも、「決裁のハンコをもらうこと」や「プロジェクトを承認してもらうこと」です。


相談者さんに「無理に相手を好きになろう、分かり合おうとしなくて良いんですよ。苦手なら苦手でいいんだから、もう少し相手と距離を置きましょう」と伝えると、ホッとされる方が多いですね。無理に分かり合おうとし過ぎずに、心理的な距離を置けるようになると、だいぶ楽になるんですよ。

「仕事に対する満足度」が、職場の人間関係に対する考え方にも作用する


―― 「繊細さん」は「上司と心理的な距離を置くと楽になる」というお話でしたが、原因には何があるのでしょうか。


武田:実は、職場の人間関係で悩むとき、その根っこには、「やりたい仕事ではない」という思いが隠れていることがあります。もちろん全てがそういうわけではありませんが、本当に多いです。


―― やりたい仕事ができているか否かが、人間関係に影響するのでしょうか?


武田:熱心になれない仕事をしていると、人間関係がうまくいかないときに、耐えられなくなるんです。職場の人間関係に悩んでいる方に「今の仕事は好きですか?」と聞くと、「実はやりたい仕事とは違う」という回答がよく返ってきます。一方で、「上司とは合わないけれど、やりたい仕事ができている」という場合は、上司との関係を試行錯誤して改善していく気力が残っています。


―― 立ち止まって考えさせられますね。


武田:職場の人間関係に悩む方の中には、「本当は転職したい」という方もいれば、疲れ果てていて休みたいという方もいらっしゃいます。小さい頃からずっとまわりの人ために頑張ってきて、自分の気持ちを置いてきぼりにしていると、もう心身ともに疲れ果ててしまっている。疲れているときは「有給休暇とれませんか」といいますし、涙が止まらなくなるとか、体が動かなくなるとか、このまま働いていたらまずいという場合は「休職したほうがいいのではないでしょうか」と話すこともあります。


がんばり続けて疲れ切っている人は、「人生の夏休み」が必要なんです。元気な方の場合は、仕事を続けながら「休みの日に好きなことをたくさんして、自分がやりたいことを見つける期間を作りましょう」とお話することもありますね。次に何をするかが、おぼろげにでも見えていることが大切です。


――自分がしたい仕事を考えておかないと、転職活動をしても焦ってしまいますよね。


武田:「これまでの仕事とはちがう仕事をしたい」となんとなく思っていても、転職活動を始めると、エージェントから今までのキャリアを生かした求人を紹介されることが多いです。どういう仕事をしたいかが自分でもよくわからない状態だと、「やっぱり自分にはこの仕事しかないのかな」と流されてしまう。


だから会社を辞めてすぐに転職するんじゃなくて、「3カ月だけ自分探しをしよう」と提案することもあります。休んだり遊んだりする時間をとることで元の職場の影響を抜くことができて、「自分は何をしたいんだっけ?」という本音を思い出すことができます。

人の感情の起伏の原因は知り得ぬもの 推測は外れると知ることで気持ちは楽になる


――「本音でしたい仕事を見つける」ことは少し時間がかかるものでもありそうです。その時間を作るためにも、明日からできる上司との適切な距離のとり方はありますか?


武田:私のもとに多く寄せられる相談の1つが、「上司が不機嫌でいつも気を使ってしまいます」というものなんですね。人は負い目があると、そのせいだと思いやすいんです。たとえば普段「私は仕事が遅い」と思っていると、上司がイライラしているときに「私の仕事が遅いからイライラしているのかな」と、思ってしまう。


繊細さんはまわりの人の感情を感じ取りやすいので、上司がイライラしているな、怒っているな、というところまではわかります。でも、わかるのは相手の感情までです。「上司がイライラしているのは自分のせいかも」というのはあくまで頭で考えた「推測」なんですよね。だから「推測は案外外れる」と分かることが重要です。


――人の感情の起伏の原因までは、分からないことが多いですよね。


武田:仲が良い人やパートナーで、「自分の推測がどこまで当たるか」を試してみると良いですよ。上司に「怒っているように見えますけど、私のせいですか?」と聞くのは難しいですから、パートナーがむっとしているように見えたら、「何かあった?私何かしちゃったかな?」と聞いてみる。予想していた内容とは違う原因が返ってくることも、案外多いんですよ。


パートナーに聞くのもドキドキするのであれば、「今何を考えているの?」と聞くだけでも良いです。自分の予想は意外と当たらないんですよね。「他人の本当の気持ちはわからないものだ」と分かれば、随分と生きやすくなりますよ。


――日頃の少しの習慣で、距離を置く方法は身に付けられるんですね。


武田:「相手との間に1本のペンを置くことで、心理的な距離をコントロールする」というもっと簡単な方法もあります。自分と相手の間に1つ物があるだけで、心理的な距離を変えられるんですよ。ペンそのものに意味があるというよりは、「相手との距離感は自分で調整できる」と気づく効果があります。もし「ちょっと近づきすぎている」と思う相手がいたら、自分と相手の間に何か物を置いてみてください。

自分の本音は、頭よりも身体が教えてくれる 身体からのサインに素直になることも必要


―― 上司と適切な距離が取れるようになったら、自分の本音を探す余裕も生まれそうですが、実際どのようにしたら自分の本音を見つけられるのでしょうか?


武田:「〜しなきゃ」なのか「〜したい」なのかで見分けることができます。何かをする時に、「〜しなきゃ」と思っている時は、本音ではやりたくないのですね。反対に、「〜したい」という言葉を使っているのであれば、それは本音でやりたいと思っている可能性が高いですね。


――自分の言葉遣いから本音を探れるんですね。


武田:はい。でも、言葉と行動がちぐはぐなときもありますよね。「資格の勉強をしたいけど、なかなか手が伸びない」のように。そんな時は、身体の感覚を大切にすると良いです。「〇〇したいと思ったときに、どこか窮屈さを感じたり暗い気持ちになる」というのなら、本当はやりたくないのですね。言葉よりも体の感覚のほうが、本音を示しています。


―― 身体感覚も本音を教えてくれるのですね。


武田:自分の本音を知るには、「幼い頃の自分をイメージして、その子と会話する」という方法もあります。これは自分の本音と直接会話できる方法です。自分のお腹にぐーっと意識を集中して、2歳くらいの幼い頃の自分を思い浮かべてみてください。その幼い自分に、例えば「今の仕事を続けたい?」と聞くと「嫌だ」あるいは「いいよ」といった本音がストレートに返ってきます。


―― 大人になると、素直な自分と話す機会はあまり多くないですよね。


武田:そうなんですよね。元気に生きるには、自分の本音を確認して、本音大切にすることが大切なんです。「何に心を惹かれるか」という自分の行動で、本音を把握することもできますよ。例えば、本屋さんに行ったとき、カフェの本や風景の写真集など、ゆったりした内容の本に惹かれるのであれば、「今自分はゆっくりしたいんだな」ということが分かります。


――身体はちゃんとサインを出しているんですね。


武田:身体が出すサインを邪魔しているのは「いつもの」という思考なんですよ。本当はゆっくりしたいのに、「いつもの習慣でコーヒーを飲んですぐに出勤する」といった行動をしてしまいがちですよね。日頃からちょっと立ち止まって、「いつもコーヒーを飲むけど、自分は今、本当はこの時間をどう過ごしたいんだっけ?」と振り返ってみると、だんだんと本音が見えてきます。

「非・繊細さん」な上司も、「繊細さん」と良い関係を築くことができる


――ここまで「繊細さん」の視点からのお話をお聞きしました。最後に、「非・繊細さん」な上司が「繊細さん」の部下を持った場合にできることを教えていただけますか?


武田:上司の方にお願いしたいのは、「自分がやりたい仕事をして、幸せに働くこと」です。イライラしている上司という存在は、「繊細さん」にとって一番ストレスを感じるものだからです。


―― 「私のせいで怒っているのかな」と考えてしまうからですね。


武田:繊細さん側も対処していくことはできますが、それでもやはり、不機嫌な人がいるのは嫌なものですから。それと、上司の方は「繊細さん」が「〇〇してほしい」と話したら、受け止めてあげてください。上司に対して、例えば「集中したいから会議室で仕事をしたい」と話した「繊細さん」な部下がいたとします。「繊細さん」が上司に頼む時は一大決心で伝えているので、何か方法がないか一緒に考えてもらえるとうれしいのではないでしょうか。


――「繊細さん」からのサインを見逃さないことが大切なんですね。


武田:誰にも相談できなくなったとき、部下は潰れてしまうんです。「仕事が大変な中でぎりぎりでやっていたけれど、ついに上司まで忙しくなって、相談できる相手がいなくなってしまい、もうダメでした」という方がいますね。「会社を辞める時に、最後にしっかり上司と話ができて良かった」とおっしゃる方もいます。上司と部下が話をする時間は、とても大切なんですよね。


――どんな話をすると良いのでしょうか。何か会話のポイントはありますか?


武田:「気持ち」をテーマに話を聞いてあげてほしいですね。業務上の困った点などは「報連相をする」という習慣がありますが、「仕事が多くて慌ててしまう」といった気持ちの部分は、話題にされないことが多いんですよ。特に「繊細さん」は、まわりの人に配慮しますし、人一倍上司や職場のニーズに応えようとしています。真面目ですし、会社にとって「いい社員」なんです。まわりからみて何も問題がないようにみえても、本人は苦しいと思っていることもあるし、がんばりすぎて限界を突破してしまうこともあるんです。


――忙しくなると特に部下からは相談しづらいので、上司からの声掛けがあると安心できそうです。


武田:忙しい職場だと、人手が少なくて回らない時に、どうしても誰かの能力でカバーしようとしますよね。上司には「人手が足りないんだからがんばれ」じゃなくて、「人手が足りないんだから、完璧に回らなくて当たり前だよ」と言ってあげてほしいですね。


人が潰れてしまうのは、「自分のせいだ」と自分を責めて精神的にまいってしまう時なんです。だから、「おかしいのはこの状況であって、あなたの能力の問題ではない」ということを、ちょっとつらそうに見える部下に伝えてあげると、部下の気持ちも少しはラクになるんじゃないでしょうか。


――ブレーキをかけるような関わりが職場には求められていますね


武田:「繊細さん」と「非繊細さん」の両方が楽しく仕事ができる職場になると良いですよね。「繊細さん」は刺激を受けやすいので、どうしても疲れやすくはあるんですよ。でも、やりたい仕事をやると、むしろ元気になります。やりたい仕事をやったときの疲れ方って、消耗する疲れじゃなくて、心地よい疲れなんです。スポーツが好きな人が汗を流すと心地よい疲れを感じるのと同じですね。だから、「自分が仕事を通して、何をしたいのか」を見つめ直すことで、自分の繊細な性質を良い方向に生かせるようになるのではないでしょうか。本当にしたい仕事を見つけて、人間関係も根本から解決できるように私は応援しています。


取材・文:佐野創太

 

取材協力:武田友紀

 

繊細の森 代表
HSP専門カウンセラー。自身もHSPである。九州大学卒。大手メーカーで研究開発に従事後、カウンセラーとして独立。HSP気質を大切にしたカウンセリングと適職診断が評判を呼び、日本全国から700名以上のHSPが相談に訪れる。HSPの人間関係や仕事のノウハウをまとめた著書『「繊細さん」の本』(飛鳥新社)が反響を呼び、ラジオやテレビ等に出演。HSPに関する執筆の他、講演会やトークイベントなども行う。

Twitter:@sensainomori
HP:https://sensaisan.jp

「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる  「繊細さん」の本

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  • 作者:武田友紀
  • 出版社/メーカー: 飛鳥新社
  • 発売日: 2018/07/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 

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