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プロボノに本業との相乗効果はあるのか~共働き未来大学ファウンダー 小山佐知子さんに聞く「新しい働き方」

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副業が本業に生む相乗効果に注目が集まっている。2020年春をめどに、ライオン株式会社の人事部が社員に副業を紹介する制度を始めることが話題になり、大手企業が副業を解禁するニュースも増え続けている。厚生労働省の「モデル就業規則 」では、2018年1月の改定で「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が盛り込まれた。官民ともに、副業解禁に動き出していると言えるだろう。


そこで改めて注目したいのが「プロボノ」という働き方だ。プロボノとは、専門性のあるスキルを無償で提供し、仕事では得られない経験を得る働き方である。金銭的報酬が介在する副業の場合は、会社によって制限や許可が必要な場合が多いが、副業を希望する目的が経験や人脈なのであれば、プロボノは取り組みやすい可能性がある。


今回は、プロボノの現状を知るために、実際にプロボノ人材と活動を行っている「共働き未来大学 」代表の小山佐知子さんに、「プロボノで活躍する人」について聞いた。「共働き未来大学」は『共に働く、を楽しもう』をスローガンに、家庭や企業組織における「共働き方=パートナーシップやアライアンス」を活性化させるために立ち上がったプロジェクトだ。現在は合計8名のプロボノ人材が活動しており、プロライターや広報、Webデザイン、人材コンサルなど、幅広い職種の人材が集う。


プロボノ実践者の体験談は個人で発信している人も多いが、プロボノ人材を活用する側の情報は、組織・団体によって状況が異なるためか、あまり出てこない。この記事では「会社が副業NGだけれど、新しい働き方を模索したい」「所属する会社では積めない経験をしたい」「新たな体験をすることで本業に生かしたい」と考えている方に向けて、プロボノの事例をご紹介する。

上司・部下の関係でも友達でもない プロボノ組織の不思議な関係


―― 副業NGの会社の人でも、無償でスキルや経験を積む働き方としてプロボノは1つの道になるのでしょうか?


小山さん(以下、敬称略):そうですね。実際に「共働き未来大学」プロジェクトは、一部の有償スタッフを除き、ほぼプロボノメンバーを中心に運営しています。今いるメンバーは9割が会社員で、皆さん本業で活躍しつつも、「会社の外で試してみたい」という想いを持って参画してくれています。メンバーのほとんどが未就学児のパパ・ママなので本業だけでなく育児も忙しい方が多いですが、それぞれにキャリアの幅を広げていますね。


―― プロボノ人材と活動を共にしようと思ったきっかけは、どこにあるのでしょうか?


小山:「共働き未来大学」プロジェクトは、社会問題にアプローチするソーシャルアクションとして立ち上がりました。スタートアップの今のフェーズでは、仲間集めが大事だと考えていまして、共通の問題意識があったり、方向性に共感してくれる仲間にたくさん出会いたいなと思っています。いきなり会社や非営利団体を立ち上げて「社員」を募集するやり方もあると思いますが、「共働き未来大学」自体まだ法人格を持っていないこともあり、まずはペルソナになるような人たちを気軽に巻き込みながら原型を作っていきたいと考えました。


―― 実際にプロボノ人材と活動してみて、どういった関係になっていますか?


小山:「共働き未来大学」のプロボノを一言でいうと、フラットな横の関係で互いにWin-Winな関係ですね。皆さん、スキルを生かし経験を積むためにジョインしているので、労使関係のような上下はありません。かといってサークルノリのような感じでもなく…和やかに仲良くしていますが、ビジネスを行うチームとして健全な厳しさもあります。


―― どういった時にプロボノならではの横の関係を感じますか?


小山:ファウンダーの私としては、せっかくご一緒することになった仲間だからこそ、出来る限りメンバー自身がやりたいことにトライしてもらえる場にしたいと思っています。金銭的な報酬ではなく、経験を得ることが目的だからこそ、そこは大切にしたいんです。現在、ある企業と協業中のプロジェクトがあるんですが、先日メンバーから「もっと全体のスピード感上げていきたいですよね。その方が私たちももっと活躍できますから」と言われました(笑)。


―― 代表である小山さんにも、はっきりと主張されるんですね。


小山:ありがたいですよね。私も一緒に成長していきたいので、いい刺激をもらっています。プロボノに応募して下さる方は、ご自身のキャリアや強み弱みを客観的に把握できている方が多く、その上でやりたいこともある程度明確な方が多いです。ですから、指示待ちでなく、スキルを生かして自ら提案しアクションを起こせるタイプの人が集まっています。

本業ではできない挑戦や失敗を通して、自分の本当に得意なことに気付ける


―― プロボノ人材から「プロボノの活動が本業に生きている」という話は聞きますか?


小山:はい。たとえば、広報担当のメンバーはよく「シナジー」という言葉を口にしています。彼女が勤務しているPR会社は副業NGなんですが、上司に「報酬を目的とした副業ではない」ということを伝え、許可をもらった上で参画してくれました。彼女はPRのプロですが、仕事上、ライティングスキルの必要性を感じていて、上司には「プロボノ副業でライティングのトレーニングをしてきます!」と具体的な話をしたようです。


―― 広報担当だと、自分で文章を書いて発信する機会もありそうですね。


小山:彼女いわく、クライアントから求められているのは、企画書のようなきれいな文章よりも、SNSでユーザーの心に響くような文章スキルだそうです。そこで、「共働き未来大学」のSNS運用を行いながら読者ファーストのライティングを試行錯誤し、学んできました。その経験から、本業にもいい影響が出ているようです。


―― 理解できる一方で、書く経験だけならプロボノじゃなくても良い気がしますが…?


小山:まさにこの話はメンバーとしたことがあります。実は、彼女の他にも「書くスキルを上げたい」と思っているメンバーが何人かいるんですが、皆さん口々に「ブログを書こう!と思ってはいるけど、なかなか続かないんですよ」と言っていました(苦笑)。ブログは、書き続けるモチベーションを保つのが難しいのと、記事のクオリティに対するフィードバックはもらえないので上達が見えにくいみたいですね。その点、プロボノはチームで動いているので、プロジェクト運営を通して切磋琢磨しながらスキルアップできるのがいいようです。


―― 反対に、「やってみたい!」と思ってトライしてみたけど、思っていたような結果が出なかったというケースはなかったんですか?


小山:もちろんありますよ。ちなみに、先ほどの広報の彼女も、ライティングスキルを上げたい!と思って記事の執筆にも打ち込んできましたが、一通りやってみると「ライティングは向いていないかも」と感じたそうです。実際に経験してみることで得手不得手がわかるのは良いですね。


―― それはプロボノだからこそできる挑戦と発見かもしれないですね。


小山:そうですね。たとえば「ライティングスキルを向上させたい」と考えて編集プロダクションに入社した後に、「やっぱり向いていなかった」とわかっても、環境を変えるは大変ですよね。プロボノ副業は転職という選択をとる前の「お試し」ができる場でもあるのかなと思います。トライアンドエラーをしつつも、スキルを活かしてチームに貢献してもらいたいというのは大前提ですが。

「仕事の固定観念」が覆される場所 それがプロボノ組織


―― プロボノ組織が本業の会社の働き方と全く違っていて、戸惑うということはないのでしょうか?


小山:本業との違いを感じることはあると思いますが、戸惑ったというのは聞かないですね。逆に、「働き方の固定観念が覆された!」という話はよく聞きます。私たちは利害関係ではないからこそ、信頼が大事だと思っていて『心理的安全性』の話をよくするんです。信頼関係があるからこそ、Slack(ビジネスチャットアプリ)で込み入った話題もオープンに展開できるのですが、メンバーが所属している会社が閉鎖的な組織だった場合は驚きが大きいみたいで、「こんなに情報をオープンにしても良いんだ」と驚く人もいました。


―― 心理的安全性がある組織だからこそ議論も深まりやすいのでしょうね。


小山:私たちはフルリモートで活動していますし、プロボノには本業があるからこそ、日々のコミュニケーションは特に工夫しています。Slackはリモートで働くチームにはとても心強いツールですが、ツールはあくまでもツール、手段でしかありません。コミュニケーションを通してチームとしての目標を明確に、ビジョンを具体的に言語化するようにしています。


―― Slackの他に活用しているツールはありますか?


小山:ビデオ会議システムのZoomもよく使いますね。海外にいる人と話す際のタイムラグもほぼないですし、対面と同じようにスムーズに話ができます。柔軟にいろいろなツールを取り入れているので、こうした部分も、人によっては新鮮に映るようです。


―― 企業組織の人材活用とは似て非なる感じがしますね。


小山:多くの企業では、社員を「雇用」し、人材を適切な部署に配置、育成し、定着を目指します。その点、このプロジェクトでは、人材の定着をゴールにはしていません。プロボノですから、メンバーそれぞれ目的意識があってジョインしています。つまり、いずれ「卒業」していくということをある程度前提にした上で運営しています。無償である以上、労働力の搾取になるのは絶対に避けたいですし、依存関係に陥っても健全ではありませんから。


―― 会社組織とは違う、新しい組織の形ですね。


小山:ドライに聞こえてしまうかもしれませんが、プロボノが中心となる組織は、新陳代謝を肯定的に捉え、促進していったほうがうまくいくのだと思います。ジョインするのも卒業していくのも、個人の自由。自律した個人が集まるチームは、短期間でスピード感をもって成長できますから、得た経験や知見を持ってそれぞれが次のステージで活躍してもらえたらと思います。もちろん、じっくり時間をかけてご一緒できることはうれしいですけどね(笑)。

Will、Can、Mustが共有できると、プロボノ活動はより実りあるものになる


――「共働き未来大学」が発足した当初と今で、プロボノ人材の活用や関わり方で変化したことはありますか?


小山:特に大きな変化はないのですが、ジョインしてから「具体的に何をするのか」を個別により明確にしてもらったほうが、活動量が上がると感じています。1年前からは、ジョインする際に、「したいこと(Will)」「できること(Can)」、「すべきこと(Must)」のシートを提出してもらうようにしました。


―― Will、Can、Mustの3点が共有されていると、仕事を進めやすそうです。


小山:そうですね。このシートを使うようになってから仕事がしやすくなりました。メンバーも、「会社では生かせていないCanを共働き未来大学で生かしたい」とより強く意識するようになったようです。


―― 具体的な事例はありますか?


小山:ファシリテーションスキルに長けているあるメンバーは、それを生かしたいと考えていました。なので、先日のイベントではコーディネーターをしてもらいました。ただ、これも私から役割を与えるというわけではなく、一緒に役割を見つけるというイメージです。


―― やはりプロボノ人材の主体性が大事なんですね。


小山:ソーシャルアクションに興味を持つ方はビジョンに共感して集まって来ますが、これまで運営してきた中で、「Will」だけだと続かないこともわかってきました。ビジョンへの強い共感があっても、「自分ごと」として行動に移せないと、幽霊部員になってしまうのです。メンバー自ら、「Can」を元に「Must」を見つけられないと、「私はどうしてここにいるんだっけ?」と疑問を感じ始めてしまいます。


―― 定期的に「自分がプロボノをする意味」を考える必要がありそうですね。報酬や命令といった強制力がないわけですから。


小山:そうですね。私たちのプロジェクトでは、半期に1度、必ず1on1ミーティングを実施しています。そこでもこのシートを見ながら、成果を可視化しています。「Will」に対して、まだここでやれることがありそうだな、と思ってもらえたら引き続き次のマイルストーンに向かってご一緒する感じです。

本業とプロボノは「活動量の濃淡をつけて」両立させる


―― どのような方がプロボノ参画に向いていると思いますか?


小山:自分のキャリアをある程度俯瞰して棚卸しできている方で、なりたい姿が描けている人でしょうか。フットワーク軽く動ける人ではればプロボノに限らず複業に向いているとも思います。私たちのチームでは、毎日Slackで情報交換や雑談、プロジェクトが行われているので、ツールを使ってアウトプットすることに抵抗感がない方であれば問題ないと思います。もちろん、ビジョンやアクションへの共感も必要です。


―― 本業との両立が難しいと感じる人も多いと思います。


小山:本業の繁忙期など人それぞれですから、一時的に活動に顔を出せない期間があるのは織り込み済みです。他にも、子どもの病気など、都合は人それぞれですから、活動量の濃淡をつけることはお任せしています。


―― 一口にプロボノ活動といっても、濃淡はさまざまなんですね。


小山:チームへの貢献の仕方はいろいろあると思うのですが、私たちの場合は、Slack上に読んで参考になった記事や興味のあるイベントを共有できるチャンネルを用意しているので、各プロジェクトに参加できなくても、こうした投稿でコミュニケーションを維持するというのでもいいと思います。会社でもそうだと思いますが、貢献意欲は大事ですからね。


―― 先ほど「Willやビジョンへの共感だけでは続かない」という話もありましたね。


小山:「誰かの役に立てているか」という視点は大切ですよね。得たいスキルや経験も大事ですが、周りが求めていないことをしていたら、独りよがりになってしまいますからね。


―― 会社組織で活躍する人材と、プロボノ組織で活躍する人材の違いについても聞いてきましたが、「貢献意欲がある」という点はどちらにも共通しているんですね。


小山:会社でもプロボノでも、一部の人だけが利益を得ている状態は長続きしません。得たい経験や提供できるスキルがあって、「誰かに貢献できそう」という意欲がある人は、プロボノ活動を通して本業との間に相乗効果を生み出し、可能性を広げられるはずです。


取材・文:佐野創太

 

取材協力:小山 佐知子

 

1981年札幌市生まれ。立命館大学 政策科学部卒業後、株式会社マイナビに就職。営業とメディア編集に従事。30歳の時に “不妊治療と仕事の両立” という壁にぶつかり、働き方やダイバーシティ経営に興味を持つ。同社退職後はフリーランスとして執筆業や研修業に従事。2014年第一子を出産後、リクルートメディアにジョイン。2016年独立起業し、翌年「共働き未来大学」をローンチ。

共働き未来大学
Twitter:https://twitter.com/nabsachiko

 

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