はたラボ

「友達0人」「迷走」「お客さん0人」――しっかり落ち込めたときに、きっと素敵なバイブルと出会える(寄稿:ジョイマン高木晋哉)

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「はたラボ」をご覧の皆さま、はじめまして。高木晋哉です。


吉本興業のお笑いコンビ『ジョイマン』の、左右にステップを踏みながら「ありがとうオリゴ糖!」や「上半身ミシン!」や「普段着エリンギ!」などと韻を踏む方です。


なぜでしょう。僕の人生におけるバイブルを紹介してほしいと依頼を頂いたのですが、自分でもまず思い浮かんだ「なぜジョイマン高木なのか」というぼんやりした疑問に答えは出ないまま、パソコンに向かって目を閉じ、頭の中でわが半生を回想しながら時空旅行をしていると、何だか恥ずかしくなってきて、これはとんでもない依頼を受けてしまったのかもしれないと、今、思い始めています。


正直、誰かに胸を張ってお話しできるようなことは特に無いのですが、芸人に憧れを持った高校時代、ラップネタで世に出て、そして飽きられてからラップネタを続けるか否かの決断、お客さんが0人の暗黒時代……。どん底の時期にこそ、確かにバイブルがありました。振り返れば随分ガラクタの積み上がっている自分の半生を少しずつ片づけながら、こぼれてきたものを書いていくという大掃除感覚で、僕の人生のバイブルを紹介していくので、軽い気持ちで読んでいただけたらと思います。

オールナイトニッポンのナイナイ岡村さんが過剰な劣等感を消してくれた

高校時代、友達が0人でした。自意識過剰で、周りにどう思われているかを気にし過ぎて、上手に人と話せなかったせいだと思います。高校時代というのは誰しも多かれ少なかれカラフルな思い出があるものだと思いますが、僕の高校時代は無色透明でした。温度や湿度の概念は無く、無風でした。


そんな中で、唯一、温かみや湿り気をもって思い出せるのが、当時聴いていた『ナインティナインのオールナイトニッポン』という深夜ラジオです。岡村さんの、テレビでは見ることのできない赤裸々なトーク。自身のコンプレックスや病んだ部分を笑いに昇華して、小さな体でブルドーザーのように突き進んでいくパワー。そしてそれをしっかりお客さん目線と相方目線の絶妙なバランスで受け止める矢部さん。


テレビスターなのにとても身近に感じて、夜中に一人で聴いていると、当時、僕がそりゃあもう腹いっぱい感じていた、「なぜ自分だけ人並みになれないのだろう?」という過剰な劣等感や、孤独感や、苛立ちを、岡村さんが根こそぎごちゃまぜにしてトイレに流してくれているような、とってもすっきりした気分になれたのを覚えています。


面白さはもちろんなのですが、僕は岡村さんのその姿が、かっこいいと感じました。どんなにかっこ悪いエピソードでも笑いにすることで肯定できる。自分と違って何でも笑いにしていく岡村さんはとってもタフガイに見えましたし、こんな生き方ができたらなあと憧れました。


人間そのものを丸ごと肯定する“芸人”というのはとってもかっこいい職業、生き方なのだと強烈に植え付けられました。あんなふうに面白くはなれなくても、生き方はちょっぴりでもまねできたら良いなと思いました。


その後、僕は何の因果か芸人を職業にする道を選び、初めてテレビに出させてもらったのは、なんと『ぐるぐるナインティナイン』というナインティナインさんの冠番組。その後は念願の『オールナイトニッポン』にも呼んでいただいて、幸せなことに何度も共演はさせていただいていますが、いまだに僕の原点過ぎて、会えばただうっとりしてしまいます。


ナインティナインさんがいたから僕は芸人になりました。あの番組は僕のお笑い芸人としての根っこの部分です。今までも、もちろんこれからも。

岡村ちゃんの曲がラップネタをやり続ける決心をさせてくれた

ナイナイさんの番組に出させていただいたことがきっかけで、ジョイマンはたくさんのテレビ番組に呼んでいただけるようになりました。


2008年。世はショートネタブーム。2年ほどは夢のような時間を過ごしたものの、ネタしか出し物が無かった僕らは、ショートネタブームの終焉(しゅうえん)とともにだんだん仕事が減っていきました。


そこからは「飽きられたんだから変わらなきゃ」という思いに駆られ、新たな挑戦の日々が始まりました。


ラップから脱却しようと、ロックバンド“KISS”のような白塗りメイクをして挑んだ「デスメタルジョイマン」や、過去にタイムスリップした設定でちょんまげをして挑んだ「侍ジョイマン」、未来にタイムスリップした「メカジョイマン」、芸人としてよりまず人間として初心に帰ろうとオムツいっちょうで挑んだ「赤ちゃんジョイマン」、風船を何個も体にくくり付けた「風船ジョイマン」、逆立った金髪のヅラをかぶった「スーパージョイマン」などなど、今でも物置の奥には当時の数々の挑戦の履歴である小道具たちが段ボールの中で深く眠っています。今のところ起こす気はありません。


その頃(2010~2016年くらい)は、自意識過剰をまたこじらせて、世界全体が「ジョイマンは一発屋」とさげすんでいると決めつけてしまい、あまり人とも関わらないように過ごしていたような気がします。外に出るときも雑踏が嫌なので、ずっとイヤホンで音楽を聴いて紛らわせていました。


その時期に、僕は岡村靖幸さんの音楽を聴くようになりました。それまではあまり知らなくて、尾崎豊さんの曲をYouTubeで漁っているときに『太陽の破片』を岡村靖幸さんがカバーしている音源を見つけて、あの尾崎豊さんの曲の力に負けずにこんなに自分の曲のように歌える人がいるなんてと衝撃を受けて、そこからさかのぼって聴くようになったのが最初です。


それで岡村ちゃん(以降、ナイナイ岡村さんとも区別するため、ファンからの呼び名である“岡村ちゃん”と書かせていただきます)の歴史を知っていき、魅力にどっぷりはまっていくのですが、僕が好きなのは、一貫してラブを描き、歌詞に突き抜けたピュア感があるところ。ピュア感というと簡単過ぎる言い方になってしまいますが、何というか、取り囲む世界に対して正直で繊細ということです。若いデビュー当時でもそれを表現できるのは唯一無二の才能だと思いますが、それがデビューから30年以上たっても変わらずに保たれているんです。いったいどんな精神を持っていればそんなことが可能なのでしょうか。


2016年の1月に『幸福』という11年ぶりの待望のオリジナルアルバムが発表されて、その中に『ラブメッセージ』という曲が入っているのですが、50歳でも恋愛をこんなふうにみずみずしく描けることに衝撃を受け、震えました。ちょっぴり恐怖すら感じました。


岡村靖幸『幸福』


僕が知らないだけかもしれませんが、そんなアーティストは世界を見渡しても見たことがありませんでした。表現する方法もそうですが、表現するもの自体も年を取れば否が応にも変わっていくもの・変わってしまうものだと思っていましたし、それは自然で良いことだと思っていました。でも変わらなくてもこんなに新鮮に表現できるのかと。ぜひ聴いてみてください。正直、にわかには信じられません。岡村ちゃんには魔法がかかっています。


もちろん単純に若いからといって描ける代物でもなく、そして一緒の次元で考えてはいけないのかもしれませんが、僕も無理に変わろうとはせずにラップネタをやり続けようと決心させてくれた曲でした。変わらないことの、とてつもないすごみを教えてくれた人でした。


今では「ラップネタ以外の新ネタ? ありません!」と笑顔で胸を張って言えます。僕はまだ39歳。50歳になっても「ありがとうオリゴ糖!」と心から言えていたら、それは本当に幸せなことだと思うし、そのときはやっと自分に“だいすき”と言えるような気がするんです。

お客さん0人 悪い状況も行き着くところまで行くと理解を超えたことが起こる

もしかしたら気付いていない人もいるかもしれませんし、あまり自分からは人に言ってないのですが、実は、ジョイマンは2020年現在、あんまりテレビに出ていません。


一発屋と言われるようになって10年。芸歴17年。一発屋ではない時間より一発屋である時間の方が長くなってしまいました。


一発屋になってからは、いろいろなことがありました。サイン会をやったらお客さんが0人だったことがありました。1時間しっかり待って、お客さんが0人だったことがありました。ラジオの公開生放送にお客さんが0人だったこともありました。地域で開催される第1回目の花火大会の前座でネタをやらせていただける営業にお客さんが0人しか来なくて、そのせいなのか次の年、花火大会自体が廃止になっていたこともありました。


花火大会をつぶす一発屋なんて言語道断です。それでも人気のないことを何とか笑いにしていたら、先日『ゴッドタン』という番組のイベントがさいたまスーパーアリーナで催され、1万7000人の前で前説をやらせていただきました。ふんだんに下ネタを取り入れた前説だったのですが、お客さんが0人というのに慣れていた僕らにとって、それはそれは夢のような時間でした。


悪い状況が行き着くところまで行くと、たいてい理解を超えたことが起こります(個人差はあります)。それを僕に意識させてくれたのは『マグノリア』という映画でした。重要なネタバレがありますので、もしこれからちゃんと映画を観て、物語を楽しみたいという方は注意してください。


『マグノリア』


この映画は、さまざまな業を抱えていたり、死や生の転機を迎えてるたくさんの主人公のそれぞれのストーリーが偶然や運命のような力で絡み合い、色濃く描かれていくのですが、それぞれがにっちもさっちもいかなくなり、映画もラストに差し掛かる直前、空から雨のようにカエルが降ってくるんです。本物の生きたカエルの土砂降りの後に、朝を迎えて終わります。全く現実的ではない終わり方です。


でも、主人公たちが行き詰まった人生に何となく区切りをつけて、ふと立ち上がり、よろよろと自分の足や周りの人の助けを借りてまた前を向いて歩き始めるエンディングが、淡い希望もあって映画としても気持ち良いし、僕にとってはなぜかリアルに感じられてしまうんです。


フィクションだからと片付けるのは簡単ですが、人が生きていく上でどうしても切り離せない、お金や生活、社会的な責任や生まれや育ち、取り返しのつかない後悔、そういうものからふわりと一瞬でも解き放ってくれる、いわば魔法みたいなものが、この映画の中のカエルの土砂降りなのだと思います。


僕にとってこのカエルの土砂降りは“お笑い”です。ラップネタの「明けない夜はない 止まない雨、梅雨じゃない?」や「人生山あり谷あり 海にはハマグリ」などは、この映画の精神を僕なりに解釈してネタにしました。深刻になってしまうような状況の時こそ、思考をいつもと変えて笑顔になれたら……という思いで作ったネタです。ふとしたときに口ずさむと少しだけ心が軽くなります。ぜひこのラップを思い浮かべながら『マグノリア』を観てほしいと思います。

全ての転機は巡り合わせ 「一緒にやればいいじゃん」秦基博の一言

どうやら偶然というだけでは片付けられないような物事で、この世界は形づくられているようです。


僕は、この広い宇宙の中の、小さな惑星の、小さな島国で人間として生まれて、39年間という時間を生きてきて、僭越ながらこれまでに学んだ教訓を一つ述べさせていただけるとしたら「全ての転機は巡り合わせ」です。状況と状況との巡り合わせ。人と人との巡り合わせ。自分だけの力で全てを切り開いてきたなんて絶対に言えない。


今の職業である芸人に憧れを持つきっかけになった『ナインティナインのオールナイトニッポン』も、もしかしたら高校時代に友達が0人だった状況があったからこそ、どっぷりはまったのかもしれません。


岡村ちゃんの曲に出会っていなければ、もうラップネタを続けていられなかったかもしれません。もしかしたら芸人も続けられなかったかもしれません。それも巡り合わせです。


芸人になるのかもしれないと意識したのは成人式のときに久しぶりに中学の同級生と集まって夢の話をしていて、同級生だった今の相方が「お笑いやりたい」と急に話しだしたからですし、そして同じく一緒にいた友達が、大学に行っても授業を全く受けず、人と関わらず引きこもり状態になっていた僕に「高木もやりたいことないなら一緒にやればいいじゃん」と言ってくれたからです。


その一言を発してくれたのが、今ミュージシャンをやっていて『ひまわりの約束』で大ヒットした秦基博です。お笑い芸人にひそかに憧れていた僕に秦君がその言葉を言ってくれたのも巡り合わせ。


お笑い芸人になって初めてのテレビ出演がナインティナインさんの番組だったことも巡り合わせ。営業にお客さんが0人になった後に、「お客さんが0人の営業を観たい」というお客さんが集まりだしたのも巡り合わせ。


ただの偶然じゃない。そう考えるだけでも、人生が素敵な瞬間だらけのような気がしてきます。


自分のふがいない状況に、ふと光明を差してくれるバイブル。さらにそんなときに声を掛けてくれた人たちの言葉も大切なバイブルなのだと思います。


使い古された言葉かもしれませんが、確かに夜明け前が一番暗いのかもしれません。悪い状況に陥ったとき、その後には確かに不思議と良いことが待っているものです。


そして悪い状況にふてくされるのではなく、無理にかっこつけるのでもなく、しっかり落ち込めたときに、きっと素敵なバイブルと出会えます。そのバイブルは、いつかきっと思わぬところであなたの人生の後押しをしてくれるはずです。


ぜひ皆さまもバイブルをたくさん見つけてください。バイブルは多い方が楽しい。僕はふがいない状況が人より少し多いせいか、バイブルだらけで部屋の本棚が溢れそうですが。

著者:高木晋哉

吉本興業所属のお笑い芸人。神奈川県横浜市青葉区青葉台出身。早稲田大学教育学部国語国文学科、3年次退学。2003年4月、ジョイマン結成、8期生として東京NSCに入学。2013年、詩集『ななな』(晩聲社)を出版。Twitterではポエムを呟き、YouTubeではポエムを詠む。
Twitter:@joymanjoyman
YouTube:ジョイマンの高木晋哉のチャンネル


(編集:はてな編集部)

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