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おもしろ部署探訪〜東急不動産 都市事業ユニット 事業戦略部 まちづくり共創グループ〜渋谷で「シェアオフィス事業」を切り開く

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世の中にはさまざまな仕事がある。一見すると同じ部署名でも、企業の数だけ手掛ける仕事内容は多様なうえに、企業や社会における役割も異なる。この連載では、そんな世の中に存在する企業の『部署』にフォーカスし、それぞれの部署の役割や仕事内容、ポリシーなどに迫る。

今回は、東急不動産 都市事業ユニット 事業戦略部 まちづくり共創グループを訪問。日本を代表する総合不動産会社がなぜ、ベンチャーキャピタルと共にスタートアップ向けのオフィス、コワーキングオフィス事業に進出したのか。その最前線で奮闘するグループのリーダーたちに話を聞いた。

「場づくりからまちづくりへ」広い視野の構想からスタートアップ向けオフィスを開設

――スタートアップ向けオフィス『GUILD(ギルド) 』が開設された経緯を教えてください。


伊藤さん(以下、敬称略):企業が成長しようとしているときに、これまで不動産会社がご提案できることはハコモノというハード提供でした。しかし、会社組織で見たときに「総務と大家」という関係性だけでは本当の意味で企業成長をお支えすることはできません。より深くお支えするためには経営層と当社がコミュニケーションを取り、企業のビジョンやミッションを共有頂き、私たちが実現したい未来に寄り添ったコンテンツ作りをすることが必要だと考えました。


私たちには「まずやってみる」というチャレンジ精神のもと、新しい不動産業のあり方を常に考え、行動する企業文化があります。実践する中で単にハコモノを社会に提供するだけでなく、コミュニティーに集まる人たちが求めていることを理解したうえで、ハード面とソフト面両方で実現していくことが重要だと考えています。場が出来たらコミュニティーが生まれるなんておこがましくて、コミュニティーがあるところに適切な場をご提案することで、初めて『場作り』が実現すると考えています。


そこで、まずはある程度机上で仮説を立てながらも「まずやってみる」精神のもとスタートアップ企業自身のニーズと、スタートアップと共創したい人の行動を、実践を通じてつかむため『Plug and Plya Shibuya powered by 東急不動産 』を2017年11月に開業し、同時に投資プログラムの開設や、イベントの提供などを開始し、現場から生の声を取得できるようなプロジェクトを始めました。こうした実践の場から得た生のニーズの延長線上に『GUILD』があり、ここからスタートアップ企業が成長するサイクル「スタートアップエコシステム *1」の一翼を担ってきたいと考えています。


東急不動産株式会社 都市事業ユニット 事業戦略部 まちづくり共創グループ グループリーダー 伊藤 秀俊さん

――そもそもシェアオフィス開設には、どのような狙いがあったのでしょうか。


伊藤:東急不動産には、「広域渋谷圏戦略 」という広い視野の構想があり、どのような街にしたいかという長期的なビジョンを掲げています。その構想で、スタートアップ企業は主要プレイヤーです。スタートアップが必要とする環境を考えたときに、企業の成長ステージに寄り添った場作りが必要と考えています。ハード面では創業時にコワーキングスペース、次は個室、さらに会社が大きくなってくると10〜20人ほどが入れるようなオフィスが必要に、ソフト面ではそれぞれのステージにあわせた人材に出会えるコミュニティーや仕掛け、資金調達手段、事業を実現するための実証実験フィールドや規制緩和等が必要になります。当社はそれらをミックスした街を実現したい、その多様性こそが渋谷らしさと考えています。


また私の個人的な考えですが、渋谷には大学も複数あるので、大学生で起業したての方々の住居とスタートアップの支援が両立するような仕掛けも面白いと思っております。起業を目指す方々はまず渋谷を目指す、そんなストーリーを作りたいと思っています。渋谷から他の地域に成長進出する会社があれば一つの成功例だと思いますし、海外に進出する会社があれば大成功です。そんな思いのなか、渋谷から新しいものが生まれる環境を作りたいと考えたときに、まずはスタートアップ共創事業付きのコワーキングスペースの提供に行き着きました。


ハード面は東急不動産で提供し、ソフト面はパートナーを迎えることにしました。より良いものを目指すためには、プロと手を組むことがベストだという考えからです。そこで最初に挙がったのが「Plug and Play 」でした。偶然にも日本進出を検討しているところに当社が出会うことが出来ました。私たちのミッションの一つに海外企業誘致もあったので、組むならこの人たちしかいない!と思い交渉を進めました。正にセレンディピティ*2 の初体験です。

生まれたばかりの事業の難しさを乗り越えて「人が人を呼ぶ場所」に


―― 最初は入居者集めに苦戦されたそうですね……。そこからどのような取り組みをされて今の成功に至るのでしょうか?


伊藤:今でこそ満席になる活気ある施設ですが、過去を振り返ると、東急不動産がスタートアップ向けオフィスを手がけることは突拍子もないことでした。「Plug and Play Japan」が、日本ではあまり知られていなかったこともあり、良さが伝わらなかったんだと思います。また「ビジネスエアポート 」という当社のコワークと異なり、『Plug and Play Sibuya powered by 東急不動産』は複数施設の相互利用ができない施設だったため利用者の方に認知いただくことに苦労しました。


一方で、何か特別なことをしてスタートアップを積極的に誘致したわけではなく、自然と今のスタイルになっていたと感じています。最初は「誰もいなくて静かだから良い」という方に利用していただいていて、だんだんと人が集まるにつれて騒がしくなってきたので、静かな空間を好まれる人は退去されるとか。その後「Plug and Play Japan」が本格的なプログラムを実施したことで、流れが変わったという印象があります。


もともと10社ほどしかいなかったパートナー企業が今では3倍30社まで増え、スタートアップ企業も最初は21社でしたが、次のプログラムでは50社まで増えて一気ににぎわいを見せるようになりました。さらに大企業とスタートアップの協業が生まれ実証実験に至るケースがいくつも立ち上がり、当社も流れに乗って複数の実証実験の実績ができ、それをメディアに取り上げてもらうことで情報が拡散され、さまざまな企業が集まってくるようになりました。今は、同じベクトルの人たちが集まっているので、スタートアップ企業にとって非常に良い環境だと思います。良き人がさらに良き人を呼ぶということを実践出来ている場所になっています。


―― 「Plug and Play 」の取り組みの傍らで、社内ではどのような取り組みをされましたか?


菅さん(以下、敬称略):あまり大きくない部署なので、なんでもやらせてもらえました。最初の頃は「Plug and Play」を中心に月に何度かイベントを開催することで、スタートアップコミュニティーの中で知り合いを増やすような取り組みをしました。


それと平行して、『GUILD』を立ち上げる時に相談させてもらっていた有力なベンチャーキャピタル経営者から、「スタートアップの出資先と一緒に入れるような空間を作れないか」と相談されたことが新たなきっかけになりました。


もとは美容室だった場所をリノベーションして『GUILD青山』をつくり、大本となるベンチャーキャピタルの入居スペースと、それ以外のファンド出資先のスタートアップが入居する、ファミリーのようなスペースをつくりました。ベンチャーキャピタルには「資金がないスタートアップが入居出来る場所をつくってあげたい」「事業の内容についてアドバイスできるような距離にいたい」といった思いがあります。そうした背景から、ベンチャーキャピタル2社が入居する3件目の『GUILD Dogenzaka 』ができました。


当社はリノベーションの経験が豊富にあるわけではないながらも、渋谷一帯を再開発している中で、将来的に開発のために取り壊しを予定しているが、今は稼働していないという物件がいくつかありました。もともとその地域はライブハウスや楽器を取り扱っている店が多く、その場所も音楽学校でした。担当部署から「何かベンチャーで利用できないか」と相談を受けて一般的なオフィスに改修することも考えましたが、ベンチャーキャピタルと組んで、スタートアップの人たちが成長していくストーリーを持った空間にしたいと考え、なんとか成し遂げることができました。


東急不動産株式会社 都市事業ユニット 事業戦略部 まちづくり共創グループ 係長 菅 菜美さん

―― 一般的なリノベーションとスタートアップ向けオフィスのリノベーションに違いはありますか?


:一般的なオフィスには家具が付いていません。コードが引けるように床が上がっていたり、タイルカーペットが敷いてあったり、壁は白いものが一般的なオフィスビルです。入居が決まってから内装工事や家具を入れて、退去時にはすべて撤去するというのが一般的です。


しかし『GUILD』は、ベンチャーキャピタルがスタートアップの人たちに入居してもらうために、コワーキング的な空間としてリノベーションをしています。例えばスクリーンやプロジェクターを設置し、イベントやセミナーなどすぐに開催できるようにしています。また、ランチやパーティーのときに少しお酒を入れてフランクなコミュニケーションが取れるメリットを狙って、水回りがない空間にカウンターなどを設置することも多いです。

スタートアップ向けオフィスは人から喜ばれる必然的な出会いの空間

―― どんな時にやりがいを感じますか?


:今回のようにリノベーションにより若い企業が集まる空間になったことで、56年前にビルが建設された時からいる理事長がとても喜んでくださいました。新陳代謝を促し、地域に広がる空間や人が集まる空間をつくれたことに喜びを感じています。


実際にオープニングパーティーに参加してみると、入居しているベンチャーキャピタルの出資先企業や関係者もたくさん集まっていて、それぞれの起業体験談を聞くことができました。それを聞いた参加者が共感して、また新たに事業が生まれると、私たちとしてもそれを支援したいという気持ちになります。ハード面だけでなくソフト面でも、場を通して関われるといったところが、今までの単純なリノベーションとは違うと感じています。


伊藤:確かに、ビルの理事長の顔を見られるというのは大きな魅力ですね。直属の上司の方針として「人から喜ばれる」、「ありがとうと言われる」仕事をしようと言われているのですが、まさに究極の形だと思います。


この仕事はすでに特定のお客様がいて、「どのようなものを作りたいのか」というところに寄り添い、私たちもプロとして責任を持って、それに見合うようなものをつくるという意思や覚悟が相まって今があると思っています。菅さんの体験談のようなことがほかにもたくさんあり、そこに寄り添いたいと思う人も多いので、そこからまた新しいものが生まれてくる。それがセレンディピティだと思います。


適当に人が集まって何かが生まれるというのは、ただの偶然でしかありませんが、志を同じくする人々が寄り添ったときには、必然的に新しいものが生まれると思っています。その寄り添う磁力を何に据えるのかが大事で、この事業においては「人」だと思います。


新しいことにチャレンジする部署に求められているのは部門間の「横串」


――社内での評判、期待されていることを教えてください。


伊藤:このチームはフラットな組織だと考えています。新しいものをつくるときは守備ではなく攻撃なので、攻撃のときには、メンバーそれぞれがリーダーのような動きをすることが必要です。フラットな組織はリーダーが自然に生まれるので、メンバー間のビジョン共有さえあれば各々の強みを生かしながら事業を推進できます。組織上のリーダーはビジョンを示し、推進はメンバーにまかせ、結果にのみ責任コミットする。これこそが真のリーダーであり多くのプレイヤーが入り混じる共創事業実現のキーマンです。


この発想はコレクティブ・インパクト *3という行政の社会課題を、企業や地元の人たちが、同じ目線・対等な関係で解決していくという取り組みに参加した中で確信しました。例えば、澤田渋谷副区長は「推進力を作るためには関係者それぞれがイーブンな関係であるべき」と常におっしゃっています。推進力と意思決定の場はシンプルで近い方がいいと思います。


東急不動産の都市事業ユニットには、商業やオフィスとさまざまな事業が並行する中で、どのようなことを期待されているかというと、「横串の刺し方」だと理解しています。私たちは、商業施設を作るメンバーと運営するメンバー、オフィスを作るメンバーと運営するメンバーそれぞれがプライドを持ち高いレベルを目指す会社です。反対にそれぞれの部門の考えなど壁が見えてしまうこともあります。しかしそこを横串で刺していかないと、市場の変化についていけなくなってしまうので、それを担う役割で誕生した部署でもあると認識しています。


これまでの活動でアイデアやコンテンツを生みだす素晴らしい人をすぐに紹介ができる環境が整いました。優秀な人をアサイン出来るので、都市事業ユニットの中で体現したいものがあったときに、声をかけてほしいというのが今の私たちの立場です。今後は声を掛けてもらうという受動的なスタンスではなく、私たちのほうから能動的に動き、そこでまた仲間を増やしていきたいと思っています。


――フラットな組織の難しさ、可能性をどのように感じていますか?


:自発的に業務をしているのでやりがいを感じています。ただし、バランスは重要だと思います。伊藤グループリーダーの下でフラットな組織ですが、当社は古くからある会社なのでさまざまな社内フローがあります。反対に、スタートアップの人たちは意思決定が早く、いろいろなアイデアをすぐに試したいという気持ちをいかにマネジメントしていくか、社内とのバランスを取りつつ進めていくバランス感覚を必要とされていると感じています。


伊藤:社内に対しての訴求はまだ不十分なので、チームとしてはそこが課題だと考えています。スタートアップ企業から見たときに、共創相手の意思決定の早さは、最も重要な要素だと思います。何に課題感を持っているのかを明確にすることと、それに加えて、相手のスピード感を上回る動きをすることが非常に重要だと思います。それが実践できて評価をいただけたらうれしいです。


:外との接点を持てる部署なので、そこで受けた刺激を社内に流入させることで、少しずつ意識が変わってきていると思います。


伊藤:社内にも意識が高い人がたくさんいます。そうした人がスタートアップ企業と交わることで、現場の士気がさらに上がります。その力が東急不動産の強みだと思っています。


―― 今後のビジョンを教えてください。


:昨今イノベーションが叫ばれていますが、本当のイノベーションはどこで起きているのかを常に考えています。不動産業という私たちの主力事業にありながら、小さなイノベーションでもよいので、この渋谷で起こしていきたいです。


伊藤:フラットな組織には良し悪しがありますが、実験的な部分も含めて、使える所は社内に浸透させるべきだし、そぐわない部署はトップマネジメントでけじめをつけることが大切だと思います。それぞれの適したマネジメント方法が会社に浸透したときに、スタートアップの人たちから「東急不動産と一緒にやりたい」と思ってもらえるだけではなく、「是非やりましょう」と一緒に行動を起こせるような組織になっていければ、将来に希望が持てると思います。


事業推進に際して出来ない理由を考えるのではなく、出来るストーリーを考えることが、このチームでは大切なことだと思っています。最大公約数ではなく最有効を選ぶ、しかも突出した最有効に人は惹かれると思います。このグループは、志があるメンバーがボトムアップで集まって始まったチーム。ビジョンの共有さえ出来ていれば、それぞれの個性に寄り添ったプロジェクトが生まれると信じています。


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取材・文:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) 撮影:岡部敏明

 


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*1:投資家や企業が積極的にスタートアップを支援し、育成、実績を繰り返すことで事業開業率を上昇させ、新しいビジネスモデルを創造するサイクルのこと。

*2:予測できない素敵な出会い

*3:立場の異なる組織が、組織の壁を越えてお互いの強みを出し合い社会的課題の解決を目指すアプローチ手法